ニセコグラベル2022 オータムライド ③ライド当日編 ~まだ発展途上ながら「グラベルライドならニセコ」と言われるイベントに育つと確信~

北海道には、生活に使われている「生きた」グラベルが沢山ある。「ニセコグラベル2022 オータムライド」は、そんな北海道の極上グラベルを走り尽くすイベント。
最長コースでは距離115km 獲得標高2200mに及び、しかもコースの半分がグラベル。このスケールは北海道でしかありえない。

全3回で書き始めたはずが全4回になってしまったライドレポート。第3回はいよいよニセコグラベル当日編。ライド後のあれこれは第4回(たぶん最終回)で書くことにしよう…

9/4(日)Day 3 過酷なグラベルライドに挑む

セコマ朝食

朝6時くらいに起床。各自、ガーミンウォッチでボディバッテリー(体力回復の指標)を確認する。

朝食には、前日に買っておいたセイコーマートのパスタを食べる。チキンたっぷりペペロンチーノ。うまい。
ライド前に最適なメニューだし、レンジで暖めるだけという手軽さも良い。北海道ならでは、という要素もある。

我ながら、最高のタイミングでセコマ飯をチョイスできたと思う。

出走の準備

会場についたら、車からバイクを下ろして手早く組み立てる。

ハンドルにもゼッケンを付けるのだが、どうにも収まりが悪い。そこで、切れ目を入れて自作アウトフロントマウントを貫通させた。
このゼッケンは各チェックポイントで通過確認に使われるのだが、余白も多いし、もっと小さい方が嬉しかった。

次に水や補給食の準備。ボトルは500mlを2本。うち1本は電解質ドリンクを入れておく。
夏とはいえ本州に比べて気温が低い北海道、しかもエイドがあるのでロングボトル1本でも走りきれただろうが、ボトルを削るほどスピードを追求しているわけでもないので、多めに持っておいて損はない。

ボトルを複数持つなら、最低1本には真水を入れておくと暑いときに頭から被ったり、転倒時に擦り傷を洗浄したりと、いろいろ便利に使える。

100kmオーバーの長丁場になるので、最後まで楽しく走るために補給食も必要だ。

  • エナジージェル×2本
  • POWBAR×2本
  • グミ×2袋
  • 蒲焼さん太郎×5枚
  • ココアシガレット×2箱

…遠足かよ!

グミはトレイルライドの時などによく持ち歩いている。噛むと精神力が回復する。硬めのやつが好き。

ネタ枠で選んだ蒲焼さん太郎が存外に良かった。お裾分けもしやすいし、塩気があるけど油っこくない味がライド後半の良い気分転換になった。

本日のミッション

レポートの第1回でも少し触れたが、不幸なことに翌日から海外出張が入ったゲンくんは、今日中に自宅に帰らねばならない。

そのため、本日我々に課せられたミッションは「みんなで楽しく走って怪我なく完走!」なんていう生ぬるいものではない

本日のミッション

  1. ニセコグラベル エクストラロングコースを完走(115km)
  2. ニセコから新千歳空港に移動(115km 約2時間)
  3. ゲンくんを羽田行きの飛行機に乗せる

全くの偶然だが、我々は今日自転車で115km走り、その後115kmドライブするということになる。

さらに、余裕があれば

  1. 追加ミッション:温泉で汗を流す

家庭平和のため、お土産を買う時間も確保しなければならないが、これについてはチェックインから搭乗までの間に済ませてもらおう。

最終防衛ラインは20時に新千歳空港出発ロビー。風呂を諦めても18時には会場を出ないと間に合わない。
いや、下道で100km以上の移動には不測の事態もありうるから、もっと余裕が必要だ。17時頃には会場を出発したい。

羽田行きの飛行機を逃す→翌日の飛行機に乗れない→怒られが発生 だ。なんとしても新千歳空港に送り届けねばならない。

ところで、エクストラロングコースは距離115km 獲得標高2200m、グラベル率49%となかなかのタフさだが、主催者によれば、8時スタート~16時までにフィニッシュ、という想定らしい。
…どう考えてもこのコースを8時間はキツくないか?
「みんなで楽しく走って怪我なく(時間内に)完走!」すら結構な高さのハードルに思える。

いやしかし、完璧なライドとグルメを両立した我々なら必ず成し遂げられるはずだ。
幸い、自転車は努力と根性で時間を縮めることができる移動手段だ。タイムリミットが迫ってきたら、メンバーがちぎれるギリギリのペースで前を牽き続けよう

あぁ、こういう時間制限チャレンジ、滾る。血が闘争を求める。

ニセコグラベル スタート

午前8時、ゆるい雰囲気の中、唐突にスタート。

スタート1分前でこんな感じ。

会場を出てすぐ右に曲がり、坂を下るのが正しいコースなのだが、先頭が左折してしまったため、それにつられて左に行ってしまう参加者たち。
Uターンで立ちゴケする人もいて、いきなりカオスだ。

最初は舗装路の下り。こういう、脚や技量に差のあるグループでの走行は危ない。落車に巻き込まれないように我々3名は前に上がり、先頭集団で走る。
登り返してからもスピードが速い。途中で見送ってペースを落とす。

そして、1本目のグラベルに踏み込む。

ファーストグラベル

序盤は下り基調。最高の天気の中、砂利を踏む音が響く。短い舗装路でグラベルを繋ぎ、2~3本走ったら尻別川沿いに降りてきた。

38cタイヤとリムブレーキで走るさきぷさん

舗装路もまた最高。視界が広い。

空!山!道!米!

「さっきのグラベルは最高だった」なんて話をしながら尻別川沿いを進む。

イベント協賛のPOWBARをアピール

スタートからの走行距離は20km。ほどなく、第1チェックポイントのせせらぎ公園に到着した。

メロン祭り

我々が到着したのがちょうど9時頃。おそらく、先頭から数えて10~20番手くらいだと思う。先頭グループはロクに休まず行ってしまったようだ。

エイドの目玉は、地元産の赤肉メロン。これを楽しみにここまで走ってきた!

羊蹄レッド

しかも、ひと切れずつかと思ったら、食べ放題という大盤振る舞い。熟したメロンの甘みが染み渡る。思わずおかわりしてしまった。

メロンを味わっていると、後続グループが次々とやってきた。山盛りのメロンを前にしてみんな盛り上がっている。

我々はそんなに疲労していないし、グラベルで前が詰まるのも嫌なのでさっさと出発した。

ここから次のグラベルまでは舗装路の上り。ここで地元北海道から参加した2人組に追いついた。
ペースも合うので、5名で喋りながら進む。さっきのメロン、本州だと高級品だが、この辺りでは1玉500円くらいで買えるらしい。羨ましい。

ご一緒することになった2人はどちらもキャノンデール乗り。ひとりはトップストーン、そしてもうひとりはグラベルバイクの先駆けともいえるスレート。こちらはなんとスリックタイヤ(グラベルキング無印)を履いている。
しかし、グリップの希薄さを感じさせないハイペースで駆け抜けていく。聞けばCJのエリート選手だそうで、納得。

スリックタイヤとは思えないペース

ライド中は、北海道トークに一同興味津々。市街地の民家の屋根が平らなのは、落雪の風圧で隣家の窓を割らないためだとか、玄関の前には暖房用の大きな灯油タンクが置いてあるとか。雪なんて滅多に積もらない地域の人間にとっては面白い話ばかり。

北海道のサイクリストが外を走れるのは夏場だけ。冬場はひたすらローラー台を回すしかないらしいが、私のZwiftワークアウト解説を参考にしていると言っていただけて嬉しかった。一部の人気ワークアウトを除いてアクセスが少ない記事ばかりなのだが、コツコツ書いていたのが報われた。

…そうこうするうちに、一行はエクストラロングコース限定の区間、普段は立ち入れない私有地グラベルへと進んでいった。
今まで走ってきた他のグラベルに比べると草が多く、走りが重い。

かと思ったら視界が開けて、何もない広大な空間が出現したりする。

下り区間は今回のライドで一番の楽しさだった。真っ直ぐな緑のトンネルをハイスピードですっ飛んでいく。

下りきって、舗装路に出ても真っ直ぐな道。ずっとこんな景色だ。

スタートから54kmほどで、目名川沿いに設置された第2チェックポイントに到着。水分補給をして、POWBARをかじる。ようやく全行程の半分といったところか。

キャノンデール二人組とはもう少し一緒に行くことにする。

「タイヤブートあります」

走り出すとすぐに道路を逸れて、グラベルに入る。ここは標高300m足らずの低山を貫くようなグラベル。
グラベルの上りは勾配に加えて路面抵抗も加わるため辛い。しかもトラクションが安定しないため、ラフに踏むと後輪が滑ってしまう。

登りきって、下り区間に入る。スピードに乗せて下っていると、背後から「パァン!」という破裂音。スレートの方のリヤタイヤがバーストした音だった。

どうやら、落石でサイドカットしたようで、カッターナイフで切りつけたような大きな裂け目ができていた。
これだけ大きく切れていると、チューブを入れても穴から飛び出してまたバーストしまいそうだ。

それを見たさきぷさん「タイヤブートありますよ」
グラベルライドの備えとして、常に3枚ほど携帯しているらしい。

その様子を見て「これで塞ぎましょう」と差し出そうとした蒲焼さん太郎をスッとフレームバッグに戻した。

修理中は、グミを食べて休憩。良いリフレッシュになった。

無事に復旧し、グラベルを下りきると次のチェックポイントまで1.5kmほど。10kmちょっとしか走っていないが、第3チェックポイントの道の駅らんこし・ふるさとの丘に到着した。

スタートから65km。良いペースで走ってきたが、気温が上がってきたこともあって各々の顔には疲れが見え始めている。
小休止で出発するキャノンデール二人組とはここでお別れし、我々は長めの休憩を取ることにした。

道の駅でアイスを買って、身体を内側から冷却する。ヒンヤリ気持ちいい。
また、農産物コーナーのプチトマトを思わず買った(確か130円)のだが、これがとてもおいしかった。3名でペロっと完食。

後で確認したらつむりさんも買って食べたようだ。

地獄の始まり

20分ほど休憩して出発。

この第3チェックポイントを挟んで、我々のメンタルに大きな変化があった。

もう十分走ったし、グラベルを堪能した。まだ50km以上あるなんて考えたくない…

そして、弱った心を完全に打ち砕く「グラベルの上り区間:獲得標高330m」

フロントシングル46T×11-42Tで重いギヤを踏まざるを得ず、脚を使っていたゲンくんが最初に力尽きた。

3名とも、心は既に死んでいる。景色は良いし、天気も良い、路面も良い。でも、もうあんまり楽しくない。

ただのキツい坂道

序盤とは逆に、スピードが乗る舗装路が現れると喜び、走りが重いグラベルが現れると不満を口にするようになった。

どこかでみた景色

しかも、この区間は35kmにわたってチェックポイントが無い。見過ごしたのではないか?と何度も不安になった

春のライドでは感動した景色

第4チェックポイントのサイクルオアシスに到着。地面に座り込み、水分と栄養を接種する。

最後は登り基調

ゴールまでの距離は残り16km。しかし、上り基調だ。ここから先は完全に行程消化モードに入ってしまい、あまり印象に残っていない。

チェックポイントを出てすぐにあった、この風景は良かった。今日気持ちよかった最後のグラベルかもしれない。

ニセコ駅前には大量のカボチャが転がっていた。

時折激坂が出現し、悲鳴が聞こえる。

最後は、ニセコアンヌプリ国際スキー場までの坂道を登る。
「これはトレーニングだ。この苦しみを乗り越えることでパフォーマンス向上というリターンが得られるんだ」そう言い聞かせてペダルを踏む。

そして、14時50分にゴール。コースタイム6時間50分。ようやく苦しみから解放された。

走行記録

Niseko Gravel 2022 Autumn Ride Extra-Long Course

  • 合計時間 6時間50分
  • 走行時間 5時間30分
  • 距離 115km
  • 獲得標高 2343m
  • 平均出力 172W
  • TSS 245
  • 消費エネルギー 3340kJ
表情が死んでいる

ニセコグラベル2022 オータムライド 完走した感想

さて、完走した感想を。

ロケーションについては文句の付け所がなかった。広大な景色、スムーズなグラベル、どれをとっても本州で経験することは難しい。そんな極上のコースだった。

グラベルロードを楽しむフィールドとして、これ以上のものは無いと思う。

その上で、エクストラロングコースは距離が長過ぎると感じた。
わざわざ長いコースを選んでおいて「長すぎる」とは何事か、となるのだが、ニセコグラベルは耐久レースではなくファンライドイベントだ。
おいしい料理も、食べきれない量を無理に食べたらつらい思い出に変わってしまう。第3チェックポイントを過ぎてからは、景色にも飽きてしまい、疲労も手伝って修行感が漂っていた。

オフロード比率が高いと、距離と獲得標高以上に疲労するので、全体的にもう少しボリュームを落としても満足できるライドになるはずだ。多分今回は、ロングコースを選ぶのが正解。(その場合、一番楽しかった私有地グラベルがカットされてしまうけど…)
コース設計やチェックポイント配置には制約も多いとは思うが、後半にハードな上りがあること、チェックポイント間が35kmもあった点も要改善だと思う。

まだ発展途上のニセコグラベル。他にもコースタイムの設定など、気になる点はいくつかあった。しかし「せっかく北海道まで来たのだから、グラベルをたくさん走らせてあげたい」という主催者の思いは伝わってきた
夜を徹してグラベル区間の草刈りをしたというエピソードにも、その思いの強さが伺える。

5月のスプリングライドで感じたことを、今回のオータムライドで確信した。ニセコグラベルはきっと「グラベルライドならニセコ」と言われるくらいのイベントに育つ

なので今回参加した人は「俺は黎明期のニセコグラベルを走ったんだ。まだ荒削りで、めちゃくちゃハードだった!」って自慢できる

私はきっと来年もまたニセコに行って(最長コースを)走ると思う。

余韻に浸る間もなく

無事にニセコグラベルを終えて綺麗にまとめた感じになったが、北海道の旅はもう少し続く。
取り急ぎ、ここから新千歳空港に移動するというハードなタスクが残っている。

次回、完結編。