ブロンプトンのラインナップ ~ハンドル形状や変速仕様の選び方~

イギリス生まれの折りたたみ自転車 ブロンプトン。都市生活者向けに開発され、自転車としての走行性能を確保しつつもコンパクトに折りたたむことが可能。狭い集合住宅内の保管や、公共交通機関への持ち込みが容易という特長を持つ。

ブロンプトン社が販売する製品は「ブロンプトン」1車種のみだが、ハンドル形状や変速の段数など、数種類から選択することが可能。
用途に合わせて最適な仕様を選べる一方で、購入時に悩むポイントにもなっている。

ここでは、各仕様の詳細とその選び方、および、現行の2021年モデル ラインナップについて解説する。

ブロンプトンのモデルについて

ブロンプトンの型番は

  1. ハンドル
  2. 変速
  3. 泥除け・リヤキャリア
  4. スーパーライトモデル

の組み合わせによって、以下のような命名規則で決定される。

主だった仕様と型番の命名規則

フレームが共通なので後から仕様変更も可能だが、思いの外費用がかかるため、ブロンプトンの用途や主なフィールドに応じて、最適な組み合わせを選択したい。

①ハンドル形状

ブロンプトンの性格を決定づけるハンドル形状は、現在はアップライトなMハンドルと、スポーティーなSハンドルの2種類から選択できる。

S or M

これにPハンドル(廃盤)と、高身長向けのHハンドル(オーダー限定)を加えて、ブロンプトンには全4種類のハンドルタイプが存在する。
なお、ステムの形状(高さ・リーチ)も各仕様それぞれ専用なので、単純にハンドルだけを交換しても同じポジションは得られない。

Mハンドル

ブロンプトンを象徴する「ひ」の字型のライザーバー。

アップライトなハンドルポジションが特徴。ハンドルがしなるため、振動吸収性も高い

2017年モデルから形状が変更になっており、ライズが低くなっている。その分ステム長が伸びたのでグリップの位置は変わっていないが、ハンドル剛性が向上し、振動吸収性と引き換えに、しなりに由来するハンドリングの不安定さが軽減されている。

Mハンドルは個人的には好きなスタイルだが、極端にアップライトな姿勢になるため前輪に荷重がかかりにくく、ハンドルがフラフラして走りづらい

旧Mハンドル スピードを出すには不向き

Sハンドル

スポーティーなストレートハンドル。スポーツサイクルに近いダイレクトなハンドリングが得られる。

ステムはMハンドルより高いが、リーチも遠い。
Mハンドルと比べてグリップ位置は低く遠くなり、適度な前傾姿勢が得られる。

低身長の人にとってはMハンドルは高すぎるので、こちらのほうが乗りやすい。
注意点として、ブレーキワイヤーが干渉するため使用できないフロントバッグ(Cバッグ・Tバッグなど)がある

Sハンドル

Pハンドル(廃盤)

独特の形状をしたマルチポジションハンドル。
長距離ツーリングを意識しており、上部を持つとアップライトなポジション、下部を持つと前傾姿勢の深い巡航ポジションが得られる。
ブロンプトンを発明したアンドリュー・リッチーのお気に入りらしいが、残念ながら2019年に生産終了となってしまった。

長距離ツーリング向けの独特の形状

実際に乗ってみると、ハンドル上部はポジションが高すぎる。一方、下ハンドルは絶妙な曲がりにちょうど手がフィットし、ポジションもちょうど良いが、ブレーキをとっさに握れないため使える場所が限られる。

結局、これならSハンドルで良いじゃないか…という結論に至り、フラットバーに交換されたのであった。

Hハンドル

高身長向けの仕様。ハンドル形状はMハンドルと同じだがステムが6cm長く、その分ハンドルが高くなっている
イギリス人の平均身長は178cmだが、190cm近くなるとこういうオプションが必要なのかもしれない。

日本ではオーダーでのみ選択可能。

②変速

変速段数は、内装3段変速外装2段変速、それらを組み合わせた6段変速から選べる。
加えて、オーダー専用のシングルスピード仕様も存在する。

段数が多いと勾配変化に強くなり、段数が少ないほど軽量で軽快になる。

内装3段変速

最もベーシックな内装3段変速。
減速比は以下の通り。

  • 1速 0.75
  • 2速 1.00
  • 3速 1.33

使用感は3段変速のママチャリと大体一緒だが、ほとんどの場合で1,2速を使うことになるはず。3速はかなり重く、2速とのギヤ比も離れているので使いづらい
標準50Tのフロントチェーンリングを小さくして、全体的にローギヤードにすると街乗り向きになると思う。

ちなみに、ロンドンでは自転車もみんな飛ばすので、3速の出番は多い。
シェアサイクルに乗った若いお姉さんも、青信号になったらダンシングで猛然と加速していく。

80年前の変速機

80年の伝統と歴史を持つスターメーアーチャー製 AW-3内装変速機(1939年発売)は、ペダリングしながら変速すると引っかかるので、足を緩めて、トルクを抜いてシフトレバーを操作しなければならない。シマノと比べてはいけない。

 ハブ軸から伸びるチェーンを引っ張ることで ハブ内部のギヤの噛み合わせが変わる

スターメーアーチャーに限らないが、多数のギヤが噛み合う内装変速機は駆動抵抗が大きく、ペダリングが重くなるのが欠点。
「走り」向きではないが、ブニブニのMハンドルと古臭い3段変速のブロンプトンで流すのは他の自転車では味わえない感覚で、これはこれで結構楽しい。

外装2段変速

外装2段変速は軽量で駆動抵抗も少ないため、軽快な走りが楽しめる。

欠点は、ギヤレンジの狭さ。ロードバイクやMTBの多段化が進みリヤ12速の時代に、16T or 12Tの二択。

実用上は、16Tが発進用で12Tが巡航用といった感じ。
平坦なロンドン市街地はこれでいけるけど、東京は厳しい気がする。

ブロンプトンはガイドプーリーの位置が固定されていて、多段化、特にワイドレシオ化が難しいが、それなりに手を加えれば3速化は可能。

3速に改造

6段変速

最もワイドなギヤ比を持つ6段変速は、内装3速×外装2速の組み合わせ。
内装ハブは3速モデルと異なるワイドレンジ仕様で、

  • 1速 0.64
  • 2速 1.00
  • 3速 1.56

というギヤ比。

外装2速のギヤは13Tと16T

ワイドレンジの内装3速ハブ+外装2速スプロケットの組み合わせ

これらの組み合わせでヒルクライムから下り坂まで対応する。
ただし、変速操作は複雑で、順番にシフトアップするには左右の変速レバー(右が内装3段・左が外装2段)を同時に操作する必要がある。

軽いギヤから順番にシフトアップする組み合わせは以下のようになる。
内装3段それぞれに対して、外装変速でLo(16T)とHi(13T)があるイメージ。

  1. 1-Lo
  2. 1-Hi
  3. 2-Lo
  4. 2-Hi
  5. 3-Lo
  6. 3-Hi

順番にシフト操作をするのは疲れるので、外装3段で大雑把にギヤ比を決めて、Lo-Hiで微調整する乗り方になるが、巡航時は2Hi-3Loの行き来が多くて変速が煩わしい

また、重量も最重量級である。

シングルスピード

オーダー限定だが、シングルスピードも存在する。ギヤ比は2速モデルの重い方と同じ54×12T
最軽量で最安値。シンプル・イズ・ベストと割り切れる人はぜひ。

各モデルのギヤ比と選び方

各モデルの標準ギヤ比※をまとめると次の通り。
内装変速を1-2-3外装変速をLo-Hiで表記し、ペダル一回転で進む距離をグラフにプロットしている。

※チェーンリング交換で、全体のギヤ比を重め/軽めにできる

参考までに、700cのロードバイクでは、50×27Tが3.9m、50×15Tが7.0m。内装3段変速がカバーする範囲はこのあたり。
6速モデルでは、ロードバイク換算で34×27T~50×13Tあたりのギヤ比をカバーできる。

何速のモデルにするか迷っているなら、走る場所のアップダウンで決めると失敗がない。

平坦な都市移動に使うなら、軽量な外装2速

真っ平らな平地に住んでいてギヤ比の幅が必要ないなら、駆動効率が良く重量も軽い外装2速が最も快適に走れる。
1速モデルでもいいけど、オーダー専用の仕様なので、迷っている人にあえて勧めるものではないかな。

アップダウンがあるなら内装3速

ロードバイクならアウターで登れる程度の、多少のアップダウンがあるなら内装3段。
内装ハブゆえの重量の重さや駆動抵抗もあるが、オールラウンドに使える。
停車中に変速できるのも、地味に便利なポイント。

山を越えるなら6速

市街地を離れて、山を越えてツーリングするなら、ギヤ比がワイドな6速モデルがベスト。
変速操作は面倒だし重量もあるが、2速や3速だと本格的なヒルクライムは厳しいので他に選択肢は無い。

2,3速モデルと6速モデルの価格差は1万円程度なので、迷ったら6速モデルを選んでおけばどんな乗り方にも対応できるし、もし2速、3速に仕様変更したくなったときも出費を抑えられる。(シフターや外装変速機周りの部品は単品で買うと地味に高く付くし、年式によって形状が違う。)

③泥除け・リヤキャリア

実用車のブロンプトンは泥除け(フェンダー)が標準装備。これに加えて、リヤキャリアの有無を選択できる。

L…泥除けつき

標準的な泥除け付きモデル。
雨が多いロンドンを走るなら泥除けは必需品。ブロンプトンのフェンダーは軽量なプラスチック製。前後ともマッドフラップ付きで、高い効果がある。

小径車だから泥跳ねしないと侮るなかれ。遠心力の公式は

F=mv^2/r

つまり周速が同じ場合、回転半径が小さいほど遠心力は大きくなる
たいして速度を出してなくても、めっちゃ濡れる。

前後にマッドフラップ装備で雨対策は万全

R…リヤキャリアつき

アルミ製のリヤキャリアも取り付けられるが、荷物と踵が干渉しやすく、荷台としての使い勝手は微妙。
どちらかというと、ブロンプトンを転がしやすくしたり、自立時に安定させるためのアクセサリー。
また、Lモデルを頻繁に輪行するとフェンダーステーが曲がってタイヤに擦るようになるが、Rモデルは頑丈なリヤキャリアがフェンダーステーの役割を担うので、こういった問題が起きない。

純正リヤキャリア brompton.com

本来の用途として、サドルとリヤキャリアを利用して登山用バックパックを載せる方法がある。長期ツーリングに出かけるなら覚えておいて損はない。

ザックパッキング Honoring My Compass

なおブロンプトン購入後にL仕様とR仕様を行き来する場合、フェンダーごと交換が必要になる。

E…泥除けなし

雨のことは考えない、オーダー車と一部限定車(CHPT3)のみの仕様。
泥除けを外してE仕様にすることも可能だが、フロントフックなど、別途必要な部品がある。

泥除けを外してE仕様にしたブロンプトン

④スーパーライトモデル ーX

フォークなどをチタンに置き換え、軽量化を追求したスペシャルモデル。
スーパーライトモデルは、M6L-Xなど、末尾にXがつく
通常モデルとは以下に示すような差異があり、800gの軽量化を実現する一方、およそ10万円のアップチャージとなる。

チタン製のフロントフォークとスイングアーム

ひと目見てスーパーライトモデルを主張するのが、チタン製のフロントフォークとスイングアーム。
サンドブラスト仕上げが標準だが、後述のブラックエディションには黒色の塗装が施される。

チタン製のスイングアーム

言われるまで気づかなかったが、前後フェンダーステーもチタンになっている。
チタンの比重は鉄の60%程度だが、何もここまでこだわらなくても…

乗り心地の向上

軽量化に加え、ホイールからの衝撃を最初に受け止めるフォークとスイングアームが鉄からチタンになることで、乗り心地が向上する。

スーパーライトホイール

スーパーライトモデルはホイールも特別仕様。こちらは単品購入も可能。

シールドベアリングハブ

ブロンプトンのハブの回転はお世辞にも良くないが、スーパーライトホイールはシールドベアリング採用のハブでよく回る。
小径車はホイールの回転数も高いので、ロードバイクよりよほど効果があるはず。

また、ホイール固定方法もハブナットからスキュワーに変更されている。

シールドベアリング採用の軽量ハブ

バテッドスポーク

両端に比べ中央が細いバテッドスポークを使用し、僅かだが軽量化に貢献している。なおスポークはSAPIM製。
スーパーライトホイールといえば通常前輪を指すが、後輪のスポークもバテッド形状になっていた。

SAPIMのバテッドスポーク

フレームポンプ非搭載

チタンスイングアームにはポンプ取付台座がなく、フレームポンプが付属しない。
別途ポンプを買って持ち運べばいいんだけど、ちょっと気に入らないポイント。

レギュラーモデルには付属するZEFAL製の携帯ポンプ

他に、ヘッドセットも鉄からアルミ製に変更され、軽量化が図られている。

カラーリング

ブロンプトンの機能的な仕様は以上だが、最後はカラーリングについて。
ブロンプトンの塗装品質は高く、丈夫で剥がれにくい。以前は外注していたらしいが、現在は塗装工程も自社内で行っている。

フレームの塗装

フレームカラーは、ソリッドな標準色と、特殊なカラーがある、

標準色

ブロンプトンの基本的なカラーリングは赤、緑、黒。この他に、毎年変わるカラーリングが数色存在する。

定番カラーのレーシンググリーン

特別色

レギュラーモデルのラッカーカラーのほか、限定で様々なカラーリングのブロンプトンが発売される。
製造・塗装工程に手間がかかるため、特別色は車体価格が高めになっている。

ラッカー

透明、あるいは半透明の塗装で、スチールの下地やロー付けされた部分が透けて見える仕上げ。ロー付け職人の仕事が見えてかっこいい。
ブラックラッカー(スモーク)やフレイムラッカー(オレンジ)といった、色付きのものも販売されている。

brompton.com

ブラックエディション

ブラックエディションは、レギュラーモデルではシルバーのコンポーネントがブラックアウトされており、引き締まった印象。
こちらは常時ラインナップされており、いつでも手に入る。

2021年モデルのラインナップと価格

以上のように数多くの組み合わせが存在するが、市販車では残念ながら全てが網羅されているわけではない。
2021年モデルのラインナップと価格(税込 2021年4月現在)は以下の通り。

 M2LM3LM6LM6RS2LS6L
レギュラー\209,000\220,000\236,500\214,500\225,500
スーパーライト -X\319,000\330,000\324,500\335,500
ブラック\225,500\236,500\247,500\231,000\242,000
ブラック スーパーライト -X\305,000\315,000\310,000\320,000
2021/4/13現在のラインナップと価格

2021年モデルのカラーリング

レギュラーモデル

ブラック
レーシンググリーン / ブラック
ハウスレッド / ブラック
レーシンググリーン
ハウスレッド
テンペストブルー
オレンジ
クラウドブルー
ブラックラッカー※

※ラッカーカラーは+33000円

スーパーライトモデル

ブラック
レーシンググリーン
ハウスレッド
テンペストブルー
オレンジ
クラウドブルー
ブラックラッカー※

※ラッカーカラーは+33000円

ブラックエディション・ブラック+スーパーライト

フレイムラッカー※
ターキッシュグリーン
ロケットレッド
ブラック

※ラッカーカラーは+30000円

バイクビルダーで好みの仕様をオーダー(21/04 休止中)

既製品の仕様で満足できない場合、購入後にパーツ交換する方法もあるが、
バイクビルダーというサービスを利用すれば、ほぼ全ての組み合わせを選んで注文することができる。

ハンドルや変速段数はもちろん、フレームやフォークの色も部位ごとに選択できるので、オリジナリティを主張した1台を手に入れる事が可能。
注文後ロンドンで組み立てが行われ、通常納期は2~3ヶ月とのこと。

ただし、2021年4月現在は休止中となっている。

Bike Builderでカスタムブロンプトンを注文 bromptonbicycle.jp 

ブロンプトンは決して速くはないが、普段の生活に密着した移動手段として非常に便利で、価格以上の満足感が得られる。(それに、中古相場も高値安定で崩れないし…)
部屋が自転車で溢れていてもブロンプトンなら難なく収まるので、1台お迎えしてみては。

1台では済まなかったよ…