【レビュー】SPINERGY(スピナジー) XAERO LITE PBO ~抜群の振動吸収性を持つザイロンスポークホイール~

スポークに高強度の合成繊維ザイロンを使用したホイール。振動吸収性が抜きん出ており、荒れた路面でもスムーズに走れる。

評価 ★★★☆☆

購入価格 中古

長所 -Pros-

  • 他を圧倒する振動吸収性
  • 構造もビジュアルも個性的。スポークカラーも選択可能

短所 -Cons-

  • 大パワーで踏んだときの、後輪の掛かりの悪さ
  • 定価10万円というのを考慮すると、敢えて選ぶほどでは…

リムブレーキホイールを購入

自転車通勤で乗るバイクは手持ちの中から適当なものを選ぶのだが、ここ半年ほどロードバイクに乗っている。

毎日同じ道を同じバイクで走っていると飽きてくるので気分転換に中古ホイールを物色していたところ、スピナジーを見つけて購入。
ロードバイクのディスク化が進む昨今、10速フリーのリムブレーキホイールは値崩れしており、スピナジーの知名度の低さもあって気の毒なくらい安価に購入できた。

購入したXAERO LITE PBOはザイロンスポークを採用した独特なホイール。
鉄系スポーク、アルミスポーク、カーボンスポークのホイールを所有してきたが、ザイロンは初めて。他の素材使ったスポークってあったっけ…

スピナジー社

Spinergy(スピナジー)社は、元キャノンデール社員のRaphael Schlanger氏が1991年に創業したアメリカのホイールブランド。

創業間もない頃にカーボン+アルミリムを板状のカーボンスポークで支えたホイール Rev-Xを発売。
バトンホイールではなく、スポークの張力で構造体を保っている。

Rev-Xは、マリオ・チッポリーニによってツール・ド・フランスでも使用され、90年代を代表するカーボンホイールのひとつになった。

検索していてびっくりしたが、2021年もシクロクロス世界選手権を制したマチュー・ファンデルポールの父親、アドリ・ファンデルポールが1996年CX世界戦を優勝したときにもRev-Xを使っていたようだ。

その後、Rev-Xは安全性が問題となり製造中止となった。
現在は後述する合成繊維PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール 商品名ザイロン)をスポークに使用したホイールの開発・販売を行っている。

なおスピナジー社は自転車に限らず、車椅子用のホイールも製造している。

XAERO LITE PBO

購入したXAERO LITE PBOはアルミリムにザイロンスポークを組み合わせた、スピナジーではエントリーモデルにあたる製品で、現在は廃盤。
後継モデルとしてワイドリム化されたZ Liteというアルミホイールが販売されている。

PBO(ザイロン)スポーク

スピナジーのPBOスポークは、ザイロン繊維を3万本以上束ねて、スポークとしての強度を確保している。
ザイロンは紫外線や可視光で劣化し強度が下がるため、物理的な保護も兼ねて、樹脂カバーで覆った構造をしている。

4ヶ月の屋外放置で強度がもとの35%になる
(PBO FIBER ZYLON 技術資料より)
https://www.toyobo.co.jp/

テンション構造のスポークホイールはスポークの張力でリムを支える。強固なホイールを組むには、スポークの引張強度と引張弾性率が重要になる。
PBOスポークは単体の状態ではクネクネ曲がるが、ザイロンの引張強度と引張弾性率はカーボンファイバーと同等。振動の減衰率はカーボンファイバーを上回る。

スピナジーのPBOスポークは、ステンレススポークの3倍の強度で、重量は半分と謳われている。また、振動吸収性もステンレスに比べて25%高く、乗り心地の良いホイールを作れる。

スポーク数と組み方

スポークパターンはオーソドックス。フロントはリムハイトを考えれば適正に思える18本ラジアル。
リヤは24本の2クロス。なお、後継モデルのZ Liteの後輪は反フリーラジアル組に変更されている。

  • フロント 18本 ラジアル
  • リヤ 24本 (DS 12本 2クロス+NDS 12本 2クロス)

2クロス組の後輪はスポークを編んである。完組ホイールでは編まないことが多いのでちょっと珍しい。

リム

リムは普通のアルミリム。古いホイールなので外幅18.6mmと、ワイドではない。リムハイトは24mm。ジョイント部は溶接されている。
スポークホールはPBOスポークに合わせて大きめのサイズ。

ハブ

前後ともアルミハブ。PBOスポークを使うため、スポークホール部は独自の形状。
ハブベアリングはカートリッジベアリングを使用。

フリーボディはシマノ8,9,10速用。カセット側を加工して11sで運用。
特に表面処理も施されていないアルミ製なので、スプラインが食い込む点が気になる。

重量

実測重量は

  • フロント:696g
  • リヤ:870g

前後合計で1566gと、アルミリムのクリンチャーホイールとしては、各社のフラッグシップアルミホイールに並ぶ軽さ

公称重量は1535gだが、差をリムテープ分とすればかなり正直では。

実走レビュー

タイヤはVittoria Corsa 23c。空気圧はいつもどおり7気圧。

バイクは05年 マドン5.9。マヴィック コスミックカーボンSLからの交換。
他の手持ちホイールはフルクラムのレーシング1。
過去所有したホイールは、シマノ RS80-C24-CL、WH-6700や、マヴィック R-SYS、古いキシエリなど。

振動吸収性

乗ってすぐ感じたのが乗り心地の良さ。タイヤに空気を入れ忘れたかと思った
23cの細いタイヤに7気圧入れてるけど、30cに4気圧くらいに感じる。

フワフワする感じは無いのだけど、衝撃にカドがなく、すぐに収束する。
他のホイールでは体験したことのない振動吸収性は、このホイール最大の値打ちだと思う。

ひび割れたガタガタの舗装路でもバイクが暴れないため失速しないし、ペダリングもスムーズに行える。
荒れた路面での巡航性能は、過去所有したホイールの中でも抜きん出ている。

普段100km以上走ることはないので想像だが、長時間走ると身体へのダメージも変わってくるはず。

コーナリング

コーナリングは思いの外良かった。フロントホイールは剛性感があるのに振動吸収性が良いので路面の凹凸に弾かれにくい。
狙った場所に前輪がスパッと切れ込み、かなり気持ち良いハンドリング。

ただ、イン側に切れ込んでいく前輪に対して、後輪がついてきていないような気がする。
オーバーステア特性にして軽快さを演出していたマツダ車かな?

ヒラヒラ曲がって楽しいんだけど、後述の通り後輪が剛性不足なのだろうか。前後のバランスが悪い気がする。

加速・登坂性能

ゼロ発進は良くも悪くもなく、前後1500g台のホイールなりの加速をする。

ただ後輪の剛性が低いのか、大トルクでペダルを踏み込むと、後輪がヨレて引きずるような感覚がある。
スプリントはもちろん、上りでダンシングして600Wくらいで踏むときも掛かりの悪さを感じる。

一定ペースのヒルクライムでは不満は無いのだけど、レースなど、強烈なインターバルがかかる乗り方には合わない。
ケイデンスでパワーを稼ぐ踏み方をすれば欠点は誤魔化せるものの、体重が重い人は剛性不足を感じやすいと思う。

巡航性能

前述のように振動吸収性がよくバタバタしないので、ラフな路面でも速度を保ちやすい

一方で、リムハイトの低さとスポークの太さから、空力に優れるとはお世辞にも言えない。
今まで履いていたのがコスカボということもあって、40km/hオーバーでの速度の乗りは良くないと感じた。

空気抵抗の改善がどれほどのものかはわからないが、現在はオプションで扁平PBOスポークが選べるらしい。
また、スポークのドラッグが大きいだけに、スポーク長が短く、本数も減るディープリムのモデルではどんな印象になるのか興味がある。

後輪の剛性不足の考察

前輪の印象が良かったのとは対象的に、後輪はレビューでも「高出力で引きずるような」と指摘したように、剛性不足でヨレるように感じた。
海外サイトの実験結果を見ても、スピナジー(テストされているのはカーボンリムのStealthだけど)は前輪の横剛性が高い割に、後輪の横剛性が低い。

後輪の剛性不足の原因として、リヤハブのフランジ寸法が影響していると予想したので、他のハブと寸法を比較してみる。

説明のため、下図の寸法をL,R,Wとする。

  • L…ハブセンターから左(反フリー側)フランジまでの距離
  • R…ハブセンターから右(フリー側)フランジまでの距離
  • W…フランジ幅(=L+R)

シマノ アルテグラ

先代アルテグラの11sリヤハブ FH-6800の寸法は

  • L:38.15mm
  • R:18.75mm
  • W:56.9mm

10速時代のシマノハブはR寸法が20mm程度あったが、11s化でフリーボディが伸びた分R寸法が減った。それでも18.75mm確保されている。

スピナジー XAERO LITE PBO

一方で、XAERO LITE PBOのリヤハブ寸法は、

  • L:38.5mm
  • R:16.5mm
  • W:55mm

定規で計測したので1mm以下の誤差はあると思うが、左(反フリー側)フランジの位置はほぼ同じものの、右フランジが狭いことがわかる。
このオチョコの大きさとフランジ幅の狭さこそが、リヤホイールの剛性不足の根本的な原因だと踏んでいる。

せめて11sシマノハブ並のR寸法が取れればよいのだがが、ザイロンスポークは太さが3mmほどあり、現状でもディレイラーケージとスポークのクリアランスが厳しい
(下の写真では、加工したシマノ11sカセット(11-28T)を取り付け、カンパニョーロ11sレバー・ディレイラーで運用。仮にカンパ用フリーボディとカンパカセットを使っても、ディレイラーはほぼ同じ場所に来る。ただ、CDJのビッグプーリーを取り付けているので、純正よりクリアランスは減っているかも。)

スポークとディレイラーケージのクリアランス

フルクラム レーシング1

フルクラム レーシング1・レーシングゼロは「走るホイール」として定評があり、大パワーで踏み込んでも反応良く加速する。
太いアルミスポークを使っているのでフランジ寸法は厳しいはずだが、手持ちのレー1後輪ハブの実測寸法は以下の通り。

  • L:43mm
  • R:17mm
  • W:60mm

R寸法だけみるとスピナジーと大差ないが、L寸法が大きくとってあり、結果としてフランジ幅が60mmと広い。
これほど左右の寸法差があると反フリー側のスポークテンションを確保するのが難しいが、ハイローフランジと2:1組で大きなオチョコ量のホイールを成立させている。

リム剛性、ハブ寸法、スポークパターンを最適化した、完組ならではの構造

ホイールの走る・走らないはスポークパターンだけでなく、リムの剛性やスポークそのものの太さ、張力など、様々な要因が合わさって決まるはずだが、
それでも、XAERO LITE PBOのリヤハブ寸法は、横剛性を確保するには不利と言えそう。

現行スピナジー製ホイールは反フリーラジアル組

現在ラインナップされているスピナジーのリヤホイールは、アルミリムのZ Liteも、カーボンリムのモデルも、スポーク本数に差はあれど、すべて反フリー側ラジアル・フリー側2クロスとなっている。

反フリー側のスポークテンションを十分確保できるなら反フリーラジアルは決して悪くはないと思っているんだけど(G3も2to1も変則的な反フリーラジアルだし…)、後輪のヌルさが改善されているのかどうか気になる。

まとめ: 反応は悪いが快適性に優れる

数あるホイールブランドの中で唯一ザイロンスポークを採用したスピナジー。期待に違わず、強い個性を持ったホイールだった。

乗り心地の良さは際立っており、ひび割れた舗装路など、荒れた路面でもバイクが跳ねない
凸凹の路面でもスムーズにペダリングし続けられるし、タイヤが弾かれないのでコーナーも安心感がある
また、長時間にわたるロングライドでは身体のダメージ軽減が期待できそう。

スピナジーは現在、グラベルロードでのマーケティングに力を入れているようだが、なるほど確かに相性は良いと思う。

しかしながら、前輪はしっかりしていてハンドリングも優れる反面、後輪の剛性に難があり「掛かり」の良さを重視するレース用途には向かない
反フリーラジアル組になった現行モデル Z Liteはどんな感じになっているんだろう。

個人的には、前輪にスピナジー、後輪には高剛性なMavic R-SYSを履かせて

「ザイロン・アルミ・カーボンスポーク3点盛り」

をやりたい。半分ネタだけど半分本気。R-SYS買い直そうかな。