4iiii Precision
4iiii Precisionパワーメーターは小型で軽量、何より安価な価格設定が特長のパワーメーター。安価ではあるが、左クランクの片側測定という点にさえ納得できれば一通りの機能は揃っている。2台目、3台目のバイクに取り付けるパワーメーターとしても良い。かくいう僕も3個持っている。
長所 -Pros-
- 低価格
- 小型軽量(左クランク重量+9g)
- 複数のバイクで使い回しやすい
短所 -Cons-
- 左クランクのみの片側測定
- フレームによってはチェーンステーとの干渉に注意
パワーメーターの低価格化と普及の歴史
僕が自転車に乗り始めた2007年頃、パワーメーターは一部のプロ選手がドイツのSRMパワーメーターを使っているという程度で、一部のマニアのみぞ知る機材、という状態だった。SRMは高価な(確か、当時30万円以上?)うえ、電池切れのたびにドイツに送り返す(DIYで電池交換できるけど)必要がある、たいへん高価で面倒くさい機材だった。
当時は、サイクルコンピュータでケイデンスを測るだの、Polarで心拍トレーニングがどうのこうの、という時代だった。
ところが、GarminのGPSサイクルコンピュータの登場で従来のトレーニングに大きな変化が訪れる。2009年にEdge 705日本語版、翌2010年にEdge 500日本語版が発売されると、信号待ちのたびにピロピロ鳴らすサイクリストが一気に増えた。僕も、2011年にEdge 500を購入して高機能ぶりに感動した覚えがある。
従来のサイクルコンピュータでは「現在」と「合計」の速度、ケイデンス、心拍etcしかわからなかったが、Garmin EdgeはAnt+で接続したセンサーの情報を1秒毎に記録し「いつ、どこで、どれだけのスピードや心拍数だったか」振り返ることができた。
トレーニングのデータを記録しやすく、利用しやすくなるとあれこれログを取りたくなる。ケイデンスや心拍では飽き足らず、自転車乗りたちが次に目をつけたのがパワー。円高で海外通販が一気に普及し、当時の国内価格に比べると異様な安価で各種機材が手に入るという状況も重なった。
流石にSRMはまだ高かったので、CycleOpsのパワータップやQuarq Cinqoなんかを使う人が、シリアスレーサー中心にちらほら現れ始めた。僕のパワーメーター遍歴もこの頃で、2013年に中古のQuarq Cinqoを購入したのが始まりとなる。当時、新品のQuarqは海外で15~20万円程度だった記憶がある。
パイオニアのペダリングモニタ発売もあり、パワーメーターがサイクリストに認知されていくとともに、Power2Max、Stagesといった低価格を売りにする製品も出始め、一気に選択肢が広がった。
そして、2015年頃発売されたのが初代4iiii Precision。圧倒的な低価格と、小型軽量さは衝撃だった。すべてのバイクにパワーメーターを装着する時代が来た。
4iiii Precisionの外観
たいへん前置きが長くなってしまったけれど、今回レビューするのはPrecisionの現行モデル。
パワーメーターは、ペダリングに伴う、クランクやリヤハブの僅かな変形を検知することでパワーを測定する。SRMやQuarqはスパイダーアームの変形を、パワータップはリヤハブ軸のねじれを検知しているが、4iiii Precisionは左クランクアームの変形を、クランク裏に貼り付けたひずみゲージで測定している。
左クランクのみの測定とすることで本体の小型軽量化を実現するとともに、低価格化のため専用のクランクやスパイダー、リヤハブを開発せず、既存の製品を利用している。
使用するひずみゲージも安価な市販品で、クランクへの貼り付け方を工夫することで、クランクの曲げだけを測定し、測定誤差の原因になるねじれの影響をキャンセルしている。なお、温度補償も行っているので、乗車中の外気温変化でゼロ点が狂いにくい。
バッテリーは入手しやすいCR2032を1個使用。電池寿命は100時間以上。
電池蓋は手で開閉できて便利だが、防水性がやや不安。電池交換時はOリングに付着したチリ・汚れを清掃し、防水とOリング保護のためシリコングリスを塗るようにしている。
4iiiiとフレーム左側チェーンステーとの干渉
BBやチェーンステーが太いフレームや、BB裏にキャリパーブレーキを装着するフレームは、左クランク裏のセンサー本体が干渉するおそれがある。
目安として、センサーが付いている場所はクランク軸中心から70~105mmのあたり。この位置で8mm以上のクリアランスが確保できていれば取り付け時に干渉しない。
パワーメーター購入前には、クランク裏に8mmの六角レンチを通してみて、余裕があるかどうかチェックすることをおすすめする。
Ant+とBluetooth両対応、スマホアプリで各種設定
4iiii Precisionは低価格を売りにしているが、機能面では妥協していない。
- 通信プロトコルはAnt+とBluetooth両方に対応
- マグネットレスでケイデンス測定可
- スマホアプリ経由でのファームウェアアップデート、測定値スケーリング、盗難防止タグ機能
と、むしろ充実しているくらい。
Ant+ Bluetooth両対応
Garmin Edgeはじめ、GPSサイクルコンピューターはたいていAnt+に対応しているが、Bluetoothが使えるのでスマートフォンやタブレット、PCに接続できる。
これで何が嬉しいかというと、Ant+ドングル無しでZwiftができる。特にスマホやタブレットにドングルをつけると充電ポートを塞いでしまうので、こういった機器でZwiftしてる人にとってはかなり重宝するはず。
マグネットレスでケイデンス測定
ケイデンス測定は、本体に内蔵された加速度センサーで行われるので、フレーム側にケイデンスマグネットを貼る必要がない。
変なケイデンスを表示することも殆どないし、見栄えの悪いマグネットが無いとバイクの見た目もスッキリする。
左クランクを取り付けるだけでパワーメーターとして使用できるので、僕は手持ちのバイクをシマノクランクで統一し、複数のバイクで4iiiiを使いまわしていた(過去形なのは、今は手持ちのバイク以上にパワーメーターがあるから…)。
スマホアプリ
スマートフォンの4iiiiアプリ(iOS、Android)で各種設定が可能。
- バッテリー残量確認
- ゼロ点キャリブレーション
- ファームウェアアップデート
- 測定値スケーリング
- 盗難防止タグ設定
ゼロ点キャリブレーション
ゼロ点キャリブレーションはクランクに力が掛かっていない状態でゼロ点を校正する操作。温度変化でゼロ点が狂うので、正確なパワーを測定するには練習前に毎回やるほうが良い。僕は10分くらい走って外気温に自転車の温度が馴染んだ後にゼロ点校正している。なお、この操作はペアリングしたGarmin Edgeからでも可能。
測定値スケーリング
スケーリング設定は、測定値に一定の数値を掛けて出力する機能。4iiii Precisionは左側の片側測定なので、デフォルトでは左足のパワーを2倍して送信している。
左右のペダリングパワーにばらつきがある場合や、他のパワーメーターと4iiiiの測定値が合わないときは、スケーリング機能を利用して、他のパワーメーターと近い値が出るように調整できる。
どちらにせよ、他にパワーメーターを持っている人向けの機能だが、悪用厳禁!1.5倍にスケーリングしてZwiftするなよ!
盗難タグ設定
盗難防止機能について、ファームウェアアップデートでCHIPOLO追跡機能というのが利用できるようになった。
4iiii Precisionを取り付けた自転車が盗難された場合、Bluetooth範囲内にいる、Chipoloサービスを利用している他のユーザーによって位置を特定できる、という機能なんだけど、肝心のChipoloユーザーがいないのであまり頼りにならない。
http://www.trisports.jp/?q=news/node/9383
4iiii “Precision” の精度について
4iiii Precisionは左クランクでパワーを測定し、それを2倍したものを両足のパワーとして出力している。
ところが、ペダリングの左右バランスは一定ではないので、両足測定のパワーメーターに比べるとどうしても精度が悪くなってしまう。
以上を念頭に置いた上でだが、4iiii Precisionと、Garmin Vector(ペダル型 両側測定)を取り付けたバイクを用意し、測定値の比較を行った。
ローラー台で3分ごとに160W→240W→320Wとパワーを上げながら一定のケイデンス(85rpm)でペダリングしたログを以下に示す。なお記録間隔は1秒ごと。
パワーの絶対値は製品差や個体差があるものなので(今回はたまたま揃ってるけど)、注意してほしいのはパワーの波形。
4iiiiとVectorを比べると、4iiiiのほうが上下の振幅が大きいものの、概ねVectorに近い波形を示している。4iiii Precisionの価格が300ドル(105モデル)、対してGarmin Vector(初代)の価格は1700ドル。確かに片側測定で精度が悪いながら、動作も安定しているし、変なスパイクも出ない。高価格帯のパワーメーターと比べても、意外と健闘しているのでは?と感じた。
以下の記事では、他のパワーメーターとの測定値比較を行っている。
まとめ: 小型・軽量・低価格の3拍子が揃った 2台目に最適なパワーメーター
4iiii Precisionは小型軽量で低価格という特長があり、パワーメーターの普及に一役買っているとともに、2台目、3台目のバイクに取り付けるパワーメーターとしても最適。パワートレーニングを始めると所有するすべての自転車にパワーメーターを取り付けたくなるのだが、本製品なら、現実的な予算で叶う。
また、左クランクのみ取り替えることで、夏場はロードバイクに、冬場はシクロクロスバイクに、と複数台で共有することも可能(ただし、クランクの互換性が必要)。
Ant+・BT両対応など、機能面では低価格を感じさせない充実ぶりだが、左側のみの片側測定という点には注意しなければいけない。
ペダリングの左右バランスは、たとえ平均が50:50でも常に一定ではないので、片足測定のパワーメーターは、FTPにして数ワット程度の、僅かなフィジカルの上下をきちんと検知しきれない=日々のトレーニング効果を測る指標としては信用しきれない。
しかしながら、小型軽量であること、安価で練習用バイクにも取り付けやすいといった点を活かし、レース中の大雑把なパワーの推移を把握するとか、トレーニング量を管理する用途には十分だとも感じた。実際に、シクロクロスのレースバイクには2台とも4iiiiを使用している。
現在、7つだか8つのパワーメーターを所有しているが、4iiii Precisionは「2台目のパワーメーターとしてベスト」と感じている。