片側測定パワーメーターの精度検証 (パイオニア ペダリングモニタ編)

Stages Power、4iiii Precision、Rotor Inpower等の片側測定パワーメーターは安価で、パワーメーター普及を後押ししている。

しかし、片足のパワーを単純に2倍して本当に信用に足るパワーが測定できるのだろうか。パイオニア ペダリングモニタ SGY-PM910を使用して検証を行った。

片側測定と両側測定のパワーメーター比較

片側測定パワーメーターの誤差を調べるため、パイオニアのペダリングモニタ(SGY-PM910)を使用した。この製品は左右クランクそれぞれでパワーを測定し、「左クランクパワー」「右クランクパワー」「左右合計パワー」を同時に記録できる。詳細なペダリングトルク・ベクトル解析も行えるが、今回は左右のパワー値のみ使用する。

パイオニア ペダリングモニタ SGY-PM910

検証用のデータとして、以前Zwiftで行ったFTP Test(Shorter)のログデータを利用する。スマートローラー Saris H3で測定したが、同時にペダリングモニタでもログを取っていたので。

ペダリングモニタ 測定結果

いきなりだが、FTP測定区間(20分)の左右合計パワーと、ペダリングの左右バランス(左側のパーセンテージ)を時系列でグラフに表示すると以下のようになる。

グラフ1:パワーとペダリングバランス

また、20分間の平均値は次の通り。

項目20分間の平均値
両足測定パワー (の合計)341W
左クランクパワー163W
右クランクパワー178W
左右バランス(L:R)48.6:51.4
表1:20分間の平均値

考察:片側測定パワーメーターの誤差

さて、データが出揃ったところで、以下の場合について20分平均パワーの計算を行う。

  1. 両足測定の場合
  2. 片足測定を単純に2倍した場合
  3. 片足測定を、平均左右バランスを考慮して両足パワーに換算した場合

1.両足測定の場合

これは、表1の内容より、

1-両足測定:341W

2.片足測定を単純に2倍した場合

表1の左側、右側の測定値をそれぞれを2倍して

2-左側:163×2=326W

2-右側:178×2=356W

3.片足測定を、平均左右バランスを考慮して両足パワーに換算した場合

左右バランスは48.6:51.4なので

3-左側:163×(100/48.6)=335W

3-右側:178×(100/51.4)=346W

片足測定の誤差

計算した値をまとめると下表の通り。

項目左側右側
1.両足測定341W (基準)341W (基準)
2.片足を2倍326W (-15W)356W (+15W)
3.左右バランス考慮335W (-6W)346W (+5W)
表2:片足測定パワーの計算結果

まず、1.両足測定の結果は、左右のパワーを直接測定して合計した、ペダリングモニタの真の測定値である。これを基準にして他の計算値を考察する。

2.は、左足(または右足)の測定値を単純に2倍しただけである。左右のペダリングバランスは常に50:50という前提の上で計算しているが、実際は左右均一なペダリングではないため、両足測定と比べて15Wの誤差が生まれている。

3.は「平均の」左右バランスを考慮したもの。常に48.6:51.4のバランスでペダリングし続けたという前提での計算値である。2.に比べると誤差は少なくなっているが、それでも両足測定とは5~6Wの開きがある。グラフ1に示されているような、時々刻々と変化する左右バランスが反映されていないからだ。

以上のように、片側クランクでの測定は、両足で測定する場合に比べるとかなり精度が悪くなってしまう。今回の例では、2.のように単純に2倍しただけだと4.3%、ペダリングの左右バランスが既知の場合でも1.6%程度の誤差が生じている。

左右均一なペダリングスキルの持ち主なら誤差は少なくなるが、逆に、ペダリングが汚かったり、片方の膝を傷めてる場合などは、片足測定と両足測定の差はさらに大きくなる。

なお僕の場合、ペダリングの左右バランスは体調や乗り方によって

48.5:51.5 ~ 50.5:49.5

くらいの範囲で変動する。つまり、「片足測定パワーを、平均左右バランスを考慮して両足パワーに換算」する場合も、「左右バランス」は日替わりなのだ。そして、左右バランスを知る手段は両足測定しか無い。

さらに付け加えるなら、今回はほぼ一定ペースの20分走だったが、実走ではパワーは乱高下し、ペダリングの左右バランスも相当に乱れる。

グラフ2:[参考]実走トレーニング時のパワー(赤線)と左右バランス(緑点)

ローラーで、一定ペースで、左右バランスも既知という、相当に条件が良い場合でも1.6%の誤差。これが片側測定パワーメーターの限界である。

結論

本格的にパワートレーニングに取り組むなら、定期的にFTPを計測し、トレーニング内容と現在のフィジカルレベルを記録していく必要があるが、日々のトレーニング効果は、FTPにしてわずか数ワットの違いとして現れる。

パワーメーターの測定値は製品差があるので、FTPテストでは「同じ環境、同じ内容、同じパワーメーター」が鉄則。基準となるパワーメーターを決める必要があるが、では片側測定パワーメーターは基準になりえるのか?

片側測定パワーメーターは、片足のみのパワーを測定し、それを単純に2倍、もしくは一定の倍率を掛けて両足分のパワー値として出力する。

一方で、ペダリングの左右バランスは時々刻々と変化するため、両足測定と片側測定では理想的な状況でも1.6%の誤差があった。これは、毎日のトレーニングで積み上げた数ワットをかき消すのに十分な大きさである。

以上より、

片側測定のパワーメーターはパワートレーニングの基準たりえない

というのが僕の結論。

パワートレーニングを始めるなら、左右バランス測定は必須ではないが、最低限、両足の合計出力を測れるパワーメーター(Quarqやパワータップ、あるいはスマートローラーでも勿論OK)を用意して、そのパワーメーターを基準としてFTPの推移を記録すべきだと思う。

しかしながら、小型軽量で安価といった点を活かし、レース中のパワーの推移を把握するとか、練習用バイクでのトレーニング量を管理する用途には片側測定でも十分だとも感じた。

要は使い分けで、精度が重要なFTP測定をはじめパワートレーニングに使用しているのはSaris H3、ペダリングモニタ、Garmin Vectorだが、シクロクロスのレースバイク2台には4iiiiを使用しているし、MTBにはRotor Rex Inpowerを取り付けている。僕は172.5mmクランクだけど、170mmのシマノクランクであれば片側パイオニアも悪くないと思っている。

QuarqとかInfocrankも持ってるんだけど、それはまた、別の機会に。