クルマのダートトライアル専用サーキットで行われた「グラベル選手権」
ME(男子エリート)カテゴリは2.9km グラベル率はほぼ100%のコースを25周。夏の日差しの中、70km以上に及ぶ過酷なレースを走りきり、初代グラベル王となった。
9/3 第1回日本グラベル選手権 in テクニックステージタカタ ME
コースコンディション:ドライ
リザルト:1位/6名(25周回 2時間36分51秒)
機材
Cannondale TopStone Carbon 1 Lefty
- 前輪: Hollowgram G27 / Panaracer Gravelking SK 38c / 2.3bar
- 後輪: Hollowgram G27 / Panaracer Gravelking SS 38c / 2.3bar
※空気圧はPanaracer デュアルヘッド デジタルゲージ基準
動画
すくみずログ YouTubeチャンネルでレース動画を公開中
日本グラベル選手権
新しい自転車の楽しみ方として定着しつつあるグラベルライド。
チャンピオンスポーツとしてのグラベルレース人気も世界的に高まっており、2022年はUCIグラベル世界選手権も開催された。
そんな中「第1回日本グラベル選手権」が開催されるという情報が。
「日本~」とついてるのでJCFレース?と思ったが、どうやら草レースのようだ。
会場はクルマのダートトライアル専用コース「テクニックステージタカタ」
整備された砂利の路面で、適度なアップダウン。まさにグラベルレースにうってつけの会場だ。
「走る」楽しさの提供
全国的に「ダートコースの名所」と言われる、テクニックステージタカタ。その所以は「完全な砂利のコース」であること、そして「徹底されたコース整備」にあります。砂利を踏み固めて作られているコースはタイヤのグリップがよく、ドリフトや高速走行でのコーナリングが楽しめます。コースには、適度なアップダウンもあって、やみつきになること間違いなし!利用者の安全と楽しさを願って行われている徹底した日々のコース整備のおかげで、安心して走行することができます。「TESTA」は安全に、そして楽しく「走る」ステージを提供し続けています。
テクニックステージタカタ
開催日程は9月の第1週。ニセコグラベルの3週間前だ。
他にレースもない時期なので出場を決めた。もちろん狙うのは初代チャンピオンだ。
聖地三次市の観光を敢行
会場のテクニックステージタカタは広島県の内陸部にあり、大阪からはクルマで4時間ほどかかる。
せっかくの遠出なので、前日早めに広島県へ向かい、宿を取った三次市を観光することにした。
マツダ三次試験場
まず三次といえば、マツダ三次試験場。
開設された1960年代は東洋一と言われたテストコースで、当時マツダが注力していたロータリーエンジン車の開発に大きく貢献したという。
コスモスポーツに始まり、RX-7、そしてロードスターと、マツダのスポーツカーには縁深い三次試験場。内部は当然関係者しか入れないので、正門前にロードスターを停めて、コソコソと写真撮影。
朝霧の巫女
こちらが本命。三次市は、2000年頃から連載されていた漫画「朝霧の巫女」の舞台なのだ。同市に伝わる「稲生物怪録」をモデルにしている。不人気なNBロードスターが登場する数少ない作品でもある。
連載当時はNBが最新モデルだったと思うと胸が熱くなるな…
内容は割とハードな伝奇もので、巫女さんが出てくる緩いバトルものかと思って手に取った僕(当時高校生)は打ちのめされた。
刊行ペースが遅いこともあり、5巻くらいまで読んでフェードアウトしていたのだが、2013年に完結していたっぽい。
レース遠征に先立ってアニメ版(こっちは緩いバトルもの)は全話見直したが、全巻セットで揃えた原作漫画は読破が間に合わなかったよ…
ということで、土曜日は予め作った巡礼マップを見ながら自転車でウロウロ。改装や取り壊しでなくなってしまった場所も多かったが、太歳神社(ださいじんじゃ)は作中のままの姿だった。
なんか顔ハメパネルまで設置されている…不気味だ。
しっかりとコラボお守りを購入したのであった。ざっくりと厄除けが見込めるらしい。
その他、路地とかスーパーとかバス停の画像をいっぱい撮ったけど割愛。
1枚だけ、翌朝早朝に撮った写真を貼っておく。NBロードスターで来れて満足した。
その他の見どころ
三次市はコンパクトな街で、自転車(スポーツサイクルではなくママチャリ)でも十分に巡ることができる。3つの川が合流するポイントで、川沿いを自転車移動しやすいのも良い。
時間に余裕があったので、数年前に廃線となったJR三江線の遺構を訪ねたり、広島風お好み焼きを食べたり。
食後はちょっと遠回りして鵜飼を見物。ウカイだけに
山に囲まれた三次市は朝霧も有名らしい。
レース当日朝、外を見ると霧がかかっていたので、これはいけるかも…と、高谷山の「霧の海展望台」へ。
ハイシーズンの10~3月でも打率5割程度らしいが、この日は幸運なことに、眼下に広がる霧の海と朝日を見ることができた。
三次市、ちょっとレトロな町並みで、コンパクトで、人も少なくて妙に居心地が良かった。また来たい。
フルサスグラベルバイクを投入
さて、レースの話に戻る。
レースは13時からだが、朝しか試走時間が無いため、朝7時頃に会場へ。
三次市内からテクニックステージタカタまでは20~30分といったところだった。なお道中は信号も少なく、きわめて快適。
霧がかかり、若干ウエットなコンディションで試走を済ませる。硬く締まった土に細かい砂利が敷かれた路面で、転がりは良い。
今回のレースは、フルサスペンションのグラベルバイク「Cannondale TopStone Carbon 1 Lefty」で参戦する。借り物の試乗車だ。
最大の特徴は30mmストロークの片持ちサスペンションフォーク「Lefty Oliver」
グラベル専用のチューニングが施されたこのフォークは、平地ではリジッドフォークとして振る舞いペダリングロスを生まず、大きな荷重が加わったときだけストロークして衝撃を吸収する。
また、リヤにもフレーム自体をサスペンションとして機能させる「Kingpinサスペンション」が搭載されている。
このバイクの本来の用途は、トレイルライドに近いハードコアなグラベルライド。レースならもっと軽量なグラベルレーサーを選択するのが定石だろう。
まぁぶっちゃけ、レースには不利な機材だな?と思った。
ただ、レース前に400kmくらい乗り込んでみて、長丁場のレースではバイクコントロールミスを吸収したり、疲労を軽減したり、意外と有利かもしれないと考え直した。
レースのため、一部パーツを交換している。まずはステム。90mm→110mmに伸ばし、ハンドルの高さも限界まで低くセットした。
タイヤも、グラベルレース向けに前後異なる銘柄を選択。
グリップが重要なフロントは、グラベルキングSK 38c。リヤは転がりを重視して、グラベルキングSSの38cを履かせた。空気圧は2.3barにセット。
それにしても、朝からレーススケジュールが遅れっぱなしだ。見込みより周回に時間がかかっており、なかなか選手が帰ってこないらしい。
この調子なら1時間くらいは押しそうだし、日差しも強くなり暑くなってきたので、いったん会場を離脱。
クルマで5分ほどの場所にあるスーパーで涼みつつ、昼食を食べたり買い出ししたり、できる限り体力を温存した。
レースレポート
14時頃。気温35度の中、定刻を1時間ほど過ぎてようやくスタート。出走した6名のうち、2名が飛び出した。
しかし、ここは落ち着いてステイ。自分のペースを守る。
シクロクロスならともかく、今回のレースは2.9km×25周回で、2時間半~3時間の長丁場。
しかも、スタートが遅れたことで今は最も暑い時間帯だ。
一度深部体温が上がってオーバーヒートするとパワーは1~2割低下するし、運動中に冷やす方法は無い。
耐久レースで重要なのはペース維持だ。序盤は抑えすぎくらいでちょうど良い。序盤のラップタイムは6分ほどだ。
先頭の松原選手は独走体制。私は2~3番手で、黒田選手と何度か順位を入れ替えつつ走行。しかし決して競り合わない。あくまでもマイペースを守る。
4周目のコントロールライン手前、激坂区間で前に出てそのまま振り切った。
単独走になってからは淡々と走っていると、いつのまにか全体1位になっていた。
どうやら、スタートで飛び出した松原選手は10周回でレースを降りたようだ。
しかしまだまだ先は長い。平坦区間はL3ゾーンで省エネ走行。登り返しや急坂といった、タイム短縮に効果的なポイントでのみペダルに力を込める。
補給も意識的に。こまめに水分をとりつつ、30分毎に補給食を食べる。今回は、アミノバイタルゼリーと練り羊羹を交互に食べた。
16周目にボトル交換。ピットエリアで素早く降車し、予め用意しておいたボトルと入れ替える。数秒のロスで復帰した。ちなみに中身はアクエリと大量の氷。
ただ、予想よりも暑く水分の消費が激しい。19~20周目、こりゃボトル足りないな…タイムロスになるけどペットボトルから汲むか…と思っていると、ちょうどピット付近で撮影されている方が。
咄嗟にボトルを投げて「アクエリ入れてください!」とお願いした。
後でわかったが、突然の要求に応えてくれた親切な方はTeam Vassago Japan時代のチームメイト。さらに偶然なことに、投げたのはVassagoボトルだった。
すべての選手をラップし、盤石の体制を築いてレースは終盤へ。
腰の痛みが出てきたが、パワーマネージメントとバイクコントロールはしっかりできている。
むしろ、周回を重ねるごとにどんどん走りが洗練されていく。
とはいえダメージの蓄積は確実にあった。残り2周に入った直後、両脚が悲鳴を上げた。そこらじゅうの筋肉が同時に攣って激痛に悶えるが、無理やりペダルを回しながら散らす。
1周かけてなんとかコンディションを戻し、ファイナルラップへ。
最後の激坂をよじ登って先頭でフィニッシュ。走行タイムは2時間36分51秒。平均時速は28km/hだった。
レースを振り返って
一言でいうと平坦なSDA王滝。ひたすら自分との戦い。
完走することに価値を見いだせるレースだったと思う。
ペース配分は非常に良かった。スタート直後に飛ばさなかったのは英断だ。
長時間維持できるパワーで踏みつつ、補給も欠かさない。耐久レースらしい走り方ができたと思う。
まぁ、ラスト2周で足を攣ってしまったが…
過酷なレースを通じて、機材面でも気づきがあった。
当初「グラベルレースには不向き」と思っていたサスペンションには大いに助けられた。
下りやコーナー区間ではバイクを安定させたり、上りでトラクションが掛かるのはもちろん、大きな衝撃を吸収することで身体へのダメージを緩和できた。
特に疲労が蓄積するレース終盤では、サスペンションの恩恵が大きかったと思う。
特に、グラベル専用のLefty Oliverはペダリングロスを生みにくい。数100gの重量増は確かに無視できないが、長丁場の耐久レースではメリットが上回る。
なんだかんだ、乗りやすいバイクは速い。
レース運営上の問題点について
今回、イベントを主催したもみじシクロクロスに対して、レース運営上で思うところがあった。
当日に口頭でフィードバックしたが、選手側の意識も大切だと思うので、改めてここに書いておくことにする。
レーススケジュール遅延
まずはスケジュールの遅れ。周回タイムの見込みが甘く、第1レースから予定をオーバー。次々にレーススタートが遅れていった。
これは初開催のグラベルレースなので仕方ないことだと思う。
ただ、その対応は良くなかった。
スケジュールが遅れている旨は何度も放送されていたが、具体的に「何分遅れていて、何時にスタートするか」という情報がなかった。そして突然「今のカテゴリがゴール後すぐに次のレースを始めます」という放送。
運営側はスタート時刻に号砲を鳴らすだけだが、選手はスタート時間を逆算してボトルや補給食を準備したり、ウォーミングアップを行う。
レース運営の経験が無いと気づきにくい部分だが、選手側の事情を理解して運営にあたってほしい。実際今回は、スタート時刻が読めなかったせいで招集ギリギリになり、ウォーミングアップを行う余裕が無かった。
安全対策の欠如
もう一点、こちらのほうが重大な問題だ。
今回、レース中の安全管理を行うコースマーシャルが配置されておらず、怪我や急病に対応する医療スタッフも不在だった。これは自転車レース主催団体としてありえないことだ。
我々サイクリストは、自転車が危険であることを理解し、大きな怪我を負ったり、最悪の場合死亡するリスクを認識した上でレースを楽しんでいる。
しかしそれは、想定されるアクシデントに対して、ある程度の安全が担保されているからできることだ。
助けがすぐに来ない状況で転倒し、重症を負ったら?
それが見通しの悪い場所で、身動きが取れないところに、後続の選手が突っ込んで来たら?
「本部からコースの殆どは見渡せる」と言っていたが、選手を遠目に見物するだけでは意味がない。
さらにレース当日は厳しい暑さだった。コース上は日を遮る場所がなく、長時間のレースでは熱中症に陥りやすい。
レース中も、コース脇に座り込んで休憩する選手を見かけたが、もし彼がその後意識を失っていたら?
実際、レース中の転倒で流血している人は何人もいたし、マスターに出走した選手は中程度の熱中症で立ち上がれなくなっていたが、自身で処置したり、周囲の知り合いが介抱している場面を見た。
こんなお粗末な体制で死亡事故が起これば、今後大会開催は行えなくなるだろう。
犠牲者はもちろん、運営団体も、会場も、他のサイクリストも、誰も幸せにならない。
以上2点、特に安全対策については、もみじシクロクロスに対しかなり強く指摘した。
選手としても、安全面が担保されていないイベントには出るべきではないと思う。
可能性を感じるグラベルレース
運営面では厳しい評価となってしまった今回のイベント。しかし、グラベルレースとしては、大いに可能性を感じるものだった。
何よりコースが素晴らしい。コントロールライン付近を除くほぼすべての区間がグラベルのクローズドコースで、整備が行き届いていて路面状況も良い。
また、勝負どころになる適度なアップダウンや難しいコーナー、急勾配もある。グラベルレースには理想的ともいえる環境だ。
今回はほぼ一人旅だったが、参加者が増えれば選手同士の駆け引きも生まれ、ロードレースのような面白い展開も見られるだろう。
レース運営上の問題が解消され、来年も開催されるのなら、タイトル防衛を目指してまた出場したい。