シクロクロスは各社独自の考え方で設計されていて、ジオメトリは千差万別。見た目が気に入ったから、安かったから、などという理由で適当に選ぶと、思ったように走れないこともある。
何度もバイクを乗り換えて蓄積した知識と、ざっくり200戦くらいはCXレースを走った経験をもとに、ジオメトリによって変わるバイクの乗り味の違いを書いていきたい。
第1回の今回はBBハイトについて。
BBハイト・BBドロップ(BB下がり)
路面からBB軸中心までの距離をBBハイトと呼ぶが、同じフレームでもタイヤの直径によってBBハイトも変わってしまうため、
フレームのジオメトリではBBドロップ(前後輪の車軸を結んだ線とBB軸との距離)として表される。
基本的に、BBハイトが高いと俊敏、逆に、低いと安定した挙動になる。
BBハイト | 高い | 低い |
BBドロップ | 小 | 大 |
重心 | 高い | 低い |
バイクの振り | クイック | 安定 |
BB横剛性 ※ | 高い | 低い |
コーナーでのペダルヒット | しにくい | しやすい |
足つき性 | 悪い | 良い |
※ BB剛性について、スチールフレームではそこそこ重要な要素だったが、カーボンフレームでは設計でカバーできるので、もはやあまり重視されていない気もする。
エンジン付きのバイクの話だが、スーパースポーツは、コーナーでバンク角を稼ぐため、また鋭い倒し込みをするためにステップ位置やシート位置が高くなっている。
逆に、ハーレーみたいなクルーザーモデルは広大な大陸を長時間走るため、低く安定したポジションになっている。
ロードバイクのBBドロップ
舗装路の高速走行を前提としたロードバイクは、どのメーカーももだいたい似たようなジオメトリに設計されている。
トップ長やシート角に差はあれど極端なスモールサイズでなければ、ヘッドアングル72.5~73度、BBドロップは70mmといったところ。
メーカー | 車種 | サイズ | ヘッドアングル | BBドロップ | チェーンステー長 |
GIANT | TCR ADV SL | M | 73 | 69.5 | 405 |
GIANT | PROPEL ADV SL | M | 73 | 67.5 | 405 |
GIANT | DEFY ADV | M | 72.5 | 75 | 420 |
TREK | Madone SL | 54 | 73 | 70 | 410 |
TREK | Emonda SLR | 54 | 73 | 70 | 410 |
TREK | Domane SL | 54 | 71.3 | 80 | 420 |
Specialized | Tarmac SL7 | 54 | 73 | 72 | 410 |
Specialized | Aethos | 54 | 73 | 72 | 410 |
Specialized | Roubaix | 54 | 72.75 | 76 | 415 |
Cannondale | SuperSix EVO | 54 | 71.2 | 72 | 408 |
Cannondale | SystemSix | 54 | 73 | 72 | 405 |
標準的な範囲を逸脱した(主観)値は赤字表記
こうして見ると、各社エンデュランス系バイクはBBが低く、チェーンステーが長い傾向がある。
改めて調べ直して気づいたが、10年くらい前に比べてBBドロップが大きくなっている。
2010年頃のロードバイクは、BBドロップは68mm前後だったはず。2010年のTarmac SL3は54サイズで69mmだった。
一見BBが低くなったように思えるが、これはおそらく、主流のタイヤ幅が23cから、25~28cに変わったためではないかと思う。
CATEYEの周長ガイドから計算したところでは、700x23cから25cに履き替えるとBBが1mm高く、28cでは6mmも高くなる。
ワイドリムや、タイヤ自体の設計で半径は変わってくると思うが、
25~28cのタイヤを前提として適正なBBハイト(地上高)を確保しようと思ったら、BBドロップは70mm以上になるんだろう。
ETRTO | サイズ | 周長(mm) | 半径(mm) |
23-622 | 700x23c | 2096 | 334 |
25-622 | 700x25c | 2105 | 335 |
28-622 | 700x28c | 2136 | 340 |
30-622 | 700x30c | 2146 | 342 |
32-622 | 700x32c | 2155 | 343 |
脱線するが、SuperSix EVOのヘッドアングル、レーシングバイクにしては寝すぎているように感じる。
56サイズからは73度になるので、フォークオフセットの種類を減らすために横着したのかもしれない。
シクロクロスのジオメトリ
シクロクロスのジオメトリをロードと比較すると、BBが高く、太いタイヤを入れるためチェーンステーも長くなっている。
BBドロップ自体は70mm弱だが、シクロクロスのタイヤは太いので、タイヤ径の差を考慮するとBBハイトは10mm以上違うはず。
メーカー | 車種 | サイズ | ヘッドアングル | BBドロップ | チェーンステー長 |
GIANT | TCX | M | 71.5 | 60 | 430 |
TREK | Boone | 54 | 72 | 68 | 425 |
Specialized | Crux | 54 | 71.5 | 69 | 425 |
Ridley | X-NIGHT | 52 | 72 | 62 | 425 |
Canyon | Inflite | S | 72.25 | 66 | 425 |
Cannondale | Super X | 54 | 71 | 69 | 422 |
Colnago | Prestige | 520S | 72 | 68 | 422 |
BBハイトを稼ぐ理由は、ペダリングしながらコーナーを曲がったり、キャンバー(斜面)を走るため。オフロードを安定して走るためにはコーナーでも後輪にトラクションをかけることが重要。
反面安定性に欠けるが、シクロクロスはテクニカルコースを走り続ける短時間の競技なので問題にならない。
シクロクロスバイクは、シクロクロスのコースを1時間走るためだけに設計されている。
僕はリドレーのX-Nightに乗っているのも、BBドロップが小さく、ペダルを引っ掛けにくいという点を重視してのこと。
BBが高いと安定感に欠けるので高ければ良いというものではないが、僕の走り方、僕のよく走るコースだとBBは高めのほうが速いと感じている。
二輪車はトラクションで曲がる。
余談だが、グラベルロードとシクロクロスは近いスタイルを備えているが、その最大の違いはBBハイト。
フラットな未舗装道路を走り続けるためのグラベルロードは、安定感を高めるためにBBを低くしている。
タイヤさえ揃えればグラベルロードでシクロクロスレースを走ることもできるが、競技レベルが上ってくると、バイクの反応性やコーナーでのペダルヒットが気になってくるはず。
同じように、シクロクロスにロードタイヤを履いてもロードバイクにはなれない。
こうやって理由をつけて、僕は一見似たような自転車を何台も買うのだ。