シクロクロスは各社独自の考え方で設計されていて、ジオメトリは千差万別。見た目が気に入ったから、安かったから、などという理由で適当に選ぶと、思ったように走れないこともある。
何度もバイクを乗り換えて蓄積した知識と、ざっくり200戦くらいはCXレースを走った経験をもとに、ジオメトリによって変わるバイクの乗り味の違いを書いていきたい。
どんどんマニアックになってくる第3回は、ホイールベースと前後重量配分について。3回目にしてようやく、フレームサイズやトップチューブ長の話題が登場する。
ホイールベースとフロントセンター
前後ハブ軸間の距離をホイールベース、BB軸から前輪ハブ軸の距離をフロントセンター、BB軸から後輪ハブ軸の距離をリヤセンター(チェーンステー長)と呼ぶ。
ホイールベースが短いほど、同じハンドル舵角でも小回りがきき、逆に長いほどマイルドなハンドリングになる。また、ホイールベースが短いと前後の荷重配分を大きくコントロールしやすくなる。
チェーンステーが短いほうが駆動力をロスなく伝えられるので、レースバイクではリヤセンターはなるべく短く設定されるが、タイヤサイズの制限を受けるので、シクロクロスバイクでは420~430mmに設定されることが多い。
したがって、ホイールベースはフロントセンターに大きく影響される。
トップチューブが短いフレームはフロントセンターが詰まり、過剰にクイックなハンドリングになってしまう。また、前輪と足が当たりやすくなるので、スモールサイズのフレームはヘッド角を寝かせ、前輪を前に移動させることでホイールベースを確保している。
フレームサイズで迷った時、小さめサイズはクイックな、大きめサイズはマイルドなハンドリングになる傾向がある。
ただし、ロードやCXの表記サイズが50cmを割るようなスモールサイズでは、ヘッド周りのジオメトリで無理をしている場合もしばしばあるので、そういう時は乗れる範囲で大きめサイズのほうが乗りやすいかもしれない。
前後重量配分
四輪車の設計では非常に大切な要素となっている前後重量配分。
ドライバーが前後輪への荷重を直接コントロールできないクルマでは、コーナーで速度を上げていったときの姿勢は重量配分に大きく影響される。
タイヤやサスペンションである程度の調整もできるが、それでもレーシングカーやスポーツカーは前後重量配分50:50付近を目指して設計されることが多い。
自転車の前後重量配分は後ろに寄っている。以前、前後輪の下に体重計を1個ずつ置いて前後重量配分を測ってみたことがあるが、ロードバイクにまたがった状態で、前後重量配分は30:70~40:60くらいだった。
乗車ポジションが同じ場合、前後重量配分はライダーの重心に対する前後輪の位置で決定される。
グリップの低いオフロードを走るシクロクロス。泥のタイトコーナーや、キャンバーでの方向転換など、フロントタイヤが食いつかずに滑ってしまうようなときでも、フロントセンターが短く、バランスが前に寄ったバイクは前輪がしっかり食いつくので、ハンドルを切るだけでしっかりと前輪が切り込んでいく。
逆に、曲率半径の大きい高速コーナーでは、フロントに荷重がかかりすぎると前輪から滑って転んでしまうので、リヤタイヤにも相応の荷重を配分したい。
また、自転車は乗車する人間に対して車体が極端に軽いため、前後重量配分はライディングポジションの影響を大きく受ける。そのため、フレームが同じでも、ハンドルの高さ、ステムの長さ、サドルの位置でハンドリングは大きく変わる。シクロクロスでは、パワーを出しやすいポジションと同じくらい、バイクをコントロールしやすいポジションに調整することが重要だと感じている。
試しに、サドルを前後させ、それに合わせてステム長も買えると、ハンドリングがだいぶ変わるはず。
余程変なジオメトリやポジションでなければ、バイクの癖に合わせて走れるのだけど、メインバイクとスペアバイクでハンドリングの特性が違うと、レース中にバイク交換した時にしばらく戸惑う。
これは、レースで乗る2台のバイクを同じフレーム、同じポジションにしておきたい最大の理由である。
各社シクロクロスバイクのジオメトリ
メーカー | 車種 | サイズ | ヘッドアングル[deg] | オフセット[mm] | トレール[mm] | フロントセンター[mm] | BB下がり[mm] | チェーンステー長[mm] |
GIANT | TCX | M | 71.5 | 50 | 62.4 ※ | 596.2 ※ | 60 | 430 |
TREK | Boone | 54 | 72 | 45 | 67 | 594.4 ※ | 68 | 425 |
Specialized | Crux | 54 | 71.5 | 49 | 65 | 601 | 69 | 425 |
Ridley | X-NIGHT | 52 | 72 | 47 | 62.6 ※ | 581.9 ※ | 62 | 425 |
Canyon | Inflite | S | 72.25 | 44.4 ※ | 62 ※ | 589.9 ※ | 66 | 425 |
Cannondale | Super X | 54 | 71 | 55 | 62 | 607 | 69 | 422 |
ヘッド周りのジオメトリを解説した前回では、ヘッド角とトレールに注目した。
しかし、X-NIGHTとInfliteを比べると、よりヘッドの立ったInfliteのほうがよく曲がるのかというと、そう単純ではない。
というのも、上に書いたように、BBと前輪車軸の距離=フロントセンターも旋回性能に影響するから。
リドレーは平均的なステアリングジオメトリながらトップ長が極端に短い(シート長560mmなのにトップ長がわずか520mm)ので、Inflite以上にクイックなハンドリングになっている。
X-NIGHTはやや特殊なジオメトリで、52cm以下のサイズはホイールベースが同じ(999mm)。前輪が足にバシバシ当たるので慣れるまで怖いが、乗り慣れたら、前輪が自在に切れ込んでいく。
ホイールベースが短いので小回りも効き、関西クロスのようなタイトコーナーが多いコースに向いたハンドリングになっている。
バイク選びと言うと、リーチとシートチューブ長くらいしか気にしない人も多いかもしれないし、ロードバイクだとそんな選び方で十分かもしれない。
しかし、シクロクロスのレース出場を繰り返し、走り方が固まってきて2台目、3台目に乗り換える時は、こういうジオメトリにも気を使って、テクニックやスタイルに合ったバイクを選択したい。