チタンフレームを6台乗り継いできた経験からチタンの自転車を語るコラム。
前編ではチタンという金属の物性や、自転車フレームへの適用について扱ってきたが、この後編ではチタンフレームの特徴のひとつとなっている金属剥き出しの外観、そして、フレームが割れた事例について触れる。
無塗装の個性
チタンフレームの大半は、錆びない特徴を活かした無塗装の仕上げで、ひと目見てそれとわかる。
鈍く光るメタリックな(当然だけど)質感はチタンフレームの魅力のひとつだと思う。
塗料の分、およそ100g程度軽量になるという実用上のメリットもある。
無塗装と言っても、ザラザラとした梨地のブラスト仕上げ、一定方向にサンディングしたヘアライン仕上げ、鏡のように磨き上げたポリッシュ仕上げなど、
表面の仕上げ方は何通りかある。
これらを組み合わせて、ブラストでブランドや車名の文字を入れることもできる。
スコッチブライトで蘇る
素地を活かした無塗装のフレームは、見た目という点では確かに一生モノかもしれない。
チタンフレームばかり乗っているとフレームの傷を気にしなくなる。
傷が目立ってきたらデカールを剥がし、スコッチブライト等のスポンジヤスリで表面を磨いてヘアラインを入れ直せば新品のように蘇る。
デカールはメーカーから補修部品として購入できる。
ちなみに古いデカールは、ガスバーナーで軽く炙って溶かし、残りカスをIPAとウエスで拭き取ると手っ取り早く除去できる。
陽極酸化処理で着色可能
チタンフレームならではの方法だが、カッティングシートでマスキングし、陽極酸化処理でロゴを入れることもできる。
リン酸三ナトリウム溶液を筆に含ませ、筆とフレームの間に30V程度の電圧をかけながら(+をフレームに接続)撫でると、表面に酸化被膜ができて青く着色される。色は電圧によって変化する。
電源の準備がネックだが、作業自体はそんなに難しくはないし、失敗してもスコッチブライトでやり直せる。
こういう手法はFirefly Bicyclesが最初に始めたように思う。現在ではKUALISやPanasonic、Lynskeyも同様の仕上げをオプション設定している。
あえて塗装する選択肢
素地剥き出しの外観がチタンのアイデンティティとはいえ、塗装されたフレームもまた良い。
所有するライトスピード ブレイドは前三角が塗装され、BB周辺とリヤ三角は素地が剥き出しになっている。
もちろん、こういうバイクは塗装を傷つけないよう取り扱いに注意する必要がある。特に、チタンは塗装の乗りが良くないので…
チタンは割れる
耐久性が高いと思われがちなチタンフレームだが、所有するMTBフレーム Vassago Optimus Tiは過去に2度割れている。
このフレームは、スライダーエンドを除くと1600g台前半。MTBとしてはまずまずの重量。
(最新の軽量アルミハードテールは1400gくらいだけど)
ボトル台座にクラック
1度目はボトル台座。アルミ製のブラインドナットが打ち込んであったが、穴の縁に応力が集中したのだろうか。ダウンチューブの台座を起点に2個ともクラックが入った。
こちらは、チタンの溶接技術に定評ある京都のウェルドワンに修理を依頼。問題の雌ねじはチタンの小物を溶接してもらったので、今後割れることはなさそう。
ビードが残っているが、アップチャージを支払えばもっと綺麗に直せるらしい。
もっと酷い割れ方をしたフレームの修理や、650c→700cへのホイール径変更のような大改造も引き受けてくれるようで、たいへん心強い。
チェーンステー溶接割れ
2度目も同じフレームが割れた。今度はトレイルライド中、チェーンステーのリヤエンド側の溶接が外れてしまった。
このフレームはクリアランスが狭く、太いタイヤを入れるためスライダーエンドを伸ばした状態で乗っていたので、エンドに過負荷がかかったのだろうか。
あるいは、溶接不良だったのかもしれない。
こりゃもう駄目か、5年くらい乗ったし廃車か…と思ったが、ダメ元でメーカーに相談したところ「往復送料だけ払ってくれれば直してあげるよ!」との返事。
うーん、これを機に乗り換えるつもりだったけど、直るなら仕方ないなー!
アメリカ・アリゾナのVassago本社まで往復して、復活!
思い入れのあるフレームなので、また乗れるようになって良かった。
この後、トレイルライドに行ったり、白馬でゲレンデDHを繰り返したりしたが再発はしていない。
一応、スライダーエンドはなるべく伸ばさないようにして乗っている。
金属素材の中では割れやすい
他の素材に比べて、チタンフレームは割れやすい。
これはクラッシュで壊れるのではなく、乗り続けているとある日クラックが見つかる、という意味。
ネットで検索すると一時期のライトスピードもよく割れているし、特に軽量なフレームに関しては耐久性は高くなさそう。
フレームではないが、チタン製のボトルケージも割れた(Lifeline製)。
薄肉パイプ、曲げ加工や変形加工が施された部分、溶接部分とその周辺は特に割れやすい。ライトスピード…
丈夫なバイクはひたすらタフ
逆に、丈夫なヤツはとことん丈夫。
2010年に組んだLynskey SuperCooperは、分厚いプレーンチューブで組まれていて重量1450g。
以前サイクリング中に50km/hオーバーで単独落車して、フォークと前後ホイールを全損したが、フレームは無事だった。
現在フォークは3本目、コンポは6セット目。走行距離は40000kmを超えたが、まだピンピンしている。
リンスキーは、ライトスピード創始者が同社退社後に起こしたブランドだが、ライトスピード時代に散々フレームを割ったノウハウが活かされているのか、破損例はあまり見かけない。
あるいは、重たいフレームは丈夫で、軽量化を突き詰めたフレームは短命という、それだけの話なのかもしれない。
チタンフレームは一生モノか
チタンフレームというのは半端な存在で、走りはスチールと同程度、重量はアルミと大差なく、価格はカーボンフレームと同等か、あるいは上回る。
チタンフレームを購入する時は、チタンであることに対して相応の金額を支払う事になる。
記事のタイトル「チタンフレームは一生モノか?」について、一生モノという言葉をどう定義するかだが、
チタンフレームだからといって極端に寿命が長いわけじゃない。現在の通勤バイク、トレック マドンは15年前のカーボンフレームだけど、まったく問題なく走る。
そういう意味では、適切なメンテナンスを行い事故を起こさなければ、大抵のバイクが一生モノにも、上がりのバイクにもなりうる。
(軽いアルミフレームは反発力がなくなってきたり、疲労破壊でクラックが入ったりするけど…)
結局、飽きずに乗り続けられるかどうかということがポイントになるが、
そういう観点では、重量や空力で勝ち目がないチタンフレームは陳腐化しないし、無塗装のフレームは、磨き直せば新品に近い見た目を維持し続けられる。
錆びないという特徴や独特な見た目、工作のクオリティやブランドの歴史を含めた趣味性に価値を感じるならば、愛着が長続きするかもしれない。
ただし一部の軽量チタンフレームに関しては、ある日突然割れる覚悟を持つ必要がある。