ロードレースもマウンテンバイク競技も、レース機材の主流はカーボンフレーム。
カーボンファイバー(CFRP)は細い炭素繊維を織った生地を樹脂で固めた複合材料で、引張強度が高く軽量で、弾性に富み、振動吸収性も高い。
テニスのラケットからレーシングカーまで、軽さと強さが求められる製品はたいていカーボンファイバーで作られている。
自転車のフレームには、安価で軽量なアルミニウム合金もエントリーモデルを中心に使用される。また、スチールも、細身のシルエットとバネ感に根強い人気がある。
そんな中で異色を放つのがチタン合金。錆びないため地肌が剥き出しになっていて、独特の雰囲気がある。
今回は、レースの世界では一度も主流になれなかったチタンフレームについて語ろうと思う。
チタンフレームの都市伝説
自転車競技では長い間スチールフレームが主流だった。その後、90~00年頃にアルミフレームの時代を挟む。そして現在、プロツアーではカーボンフレームしか走っていない。
バイクの素材が移り変わる中で、チタンはある程度の知名度がありながら、一度も主役になれなかった素材。
競技向けではなく、ニッチで価格も高いチタンフレーム。ユーザーが少ないこともあって、様々な噂が囁かれている。
例えば
- 丈夫で錆びない一生モノ
- 上がりのフレーム
- しなやかな乗り味
など…
私はいまでこそレースはカーボンバイクで走っているがチタンフレームが好きで、独特の魅力に抗えず通算6本ほど所有してきた。
ロードもシクロクロスもMTBも、チタンフレームで相当数のレースを走ったが、上のような感想は抱かなかった。
チタンという素材の特徴
純チタンは耐食性が高いかわりに柔らかく強度が低いため、フレームに使用されるのは合金化した3AL-2.5Vチタン。3%のアルミと2.5%のバナジウムを含んでいる。
3-2.5チタンはパイプ材用に開発された合金で曲げ加工が比較的容易なため、航空機の配管や自転車フレームによく用いられる。
工業的には、構造用のチタン合金といえばより強度の高い6AL-4Vチタンが代表的。
こちらは一部のハイエンドフレームや、切削加工される小物(アウター受け等)に使用される。
チタンという素材の特徴は、ざっと以下のような感じ。
- クロモリ鋼に匹敵する引張強度
- 高い耐食性
- 鉄の60%程度の比重(6-4チタン:4.43g/cm^3)
- 鉄の半分程度の弾性率
- 低い熱伝導率
実用金属の中ではマグネシウム、アルミニウムに次ぐ軽さで、同時に高い耐食性を誇るため、航空宇宙分野や、海水にさらされる環境で使われる。
また、生体への親和性が高いため人工関節などの医療用途にも用いられる。鎖骨にチタンプレートを打ち込まれたサイクリストはまぁまぁ多いのでは。
軽く高強度で高温にも耐えるので、エンジン部品やマフラーなど、モータースポーツで使われる例も多い。
性能の割に高コスト
以上のような特性を持つチタン。十分な強度があるため自転車のフレームとしての用途に耐えるが、海中で使うものではないし、高温にさらされることも、ましてや体に埋め込まれることもないので、チタンである必然性もまた無い。
一方でチタンは加工性が悪く、鉄やアルミに比べて切削加工や自由な成形が難しい。溶接にも注意を要するため、どうしても製造コストが高くなる。
そして、高コストになった割には、薄肉大口径のスチールフレームやハイドロフォーミングを駆使したアルミフレームに比べて明確な優位性が得られない。
例えばフレーム重量を比べても、現行モデルのライトスピード T1SLは1150g(リムブレーキ仕様)で、アルミフレームのCAAD13(1100g)やTCR SLR(1kg切り)のほうが軽い。
もっとも、2000年代半ばの超軽量フレーム、ライトスピード ギザロはフレーム重量770g(公称)だったが…
チタン専業(だった)ブランドのライトスピードは2000年代前半、チタン加工技術を活かして打倒カーボンフレームを目指していた。
しかし当時の製品は剛性や耐久性に問題を抱えており、素材レベルで進歩し続けるカーボンには到底対抗できなかった。
そしてチタンフレームはロマン枠、つまり趣味性を求めるサイクリストをターゲットにして存続していくことになる。
チタンフレームのフィーリング
「チタンはしなやか」というが、ひとくくりにできるものではない。
大雑把に言うと、スチールフレームとアルミフレームの中間的な乗り味だが、
カーボンフレームでも柔らかいものからガチガチの高剛性フレームまであるように、チタンフレームも千差万別。
鉄やアルミと同じく、薄いバテッドチューブで軽量化したモデルは柔らかめ、厚み一定のプレーンチューブで組んだフレームは硬く感じる。
バネ感はあるが、しょせん金属フレームの枠を出ない。カーボンフレームのほうがよく掛かるし振動吸収性も高い。
余談だが、熱伝導率が低いので、寒いときに掴んでもアルミフレームほど冷たくない。
寒い日のシクロクロスでバイクを持ち上げても手が冷えないという利点がある。(カーボンはもっと冷たくない)
後編では、チタン素地剥き出しの外観や、フレームが割れた話について書いていく。