かつては高価だったパワーメーターが徐々に普及する過程で、様々な製品が発売されてきた、最近は、安価な片側測定パワーメーターも注目を集めている。しかし、どのパワーメーターでも同じパワー値が測定できるんだろうか?
今回、所有する以下のパワーメーター4製品について、測定値を比較した。
- 4iiii Precision(左クランク片側測定)
- Pioneer ペダリングモニタ PM910(クランク型 右側のみ使用)
- Garmin Vector J(両側個別測定 ペダル型)
- Saris H3(スマートローラー リヤハブ部分にパワーメーター内蔵)
パワーメーター比較テスト
一定のペースでペダリングした際、各パワーメーターの測定値の違いを調べる。
実走ではパワーの変動が大きくなってしまうため、Zwiftでカスタムワークアウトを作成し、固定ローラー上で実験を行った。
機材
パワーメーターを4つ装備したバイクを用意し、同時に測定してログを比較する。
今回用意したのは以下のパワーメーター。
- 4iiii Precision(左側クランク)
- Pioneer ペダリングモニタ PM910(右側クランクのみ)
- Garmin Vector(ペダル型 左右測定)
- Saris H3(スマートローラー リヤハブ) ※ワークアウトの負荷制御に使用
実験中のパワー値記録にはAndroidアプリ IpWattsを使用した(スマホにAnt+ドングルを指して利用)。このアプリは複数のパワーメーターのデータを同時に記録し、CSV形式で保存できる。
実験内容
暖気のため15分程度のフリーライドを行った後、各パワーメーターをゼロ点キャリブレーション。
その後、ケイデンス85rpm前後、39x14Tにて
3セット×(160W 3分→240W 3分→320W 3分)
というワークアウトを実施した。
負荷はSaris H3スマートローラーのERGモードで制御し、パワーログは1秒毎に記録した。
実験結果と精度の考察
時系列の測定結果
まずは各パワーメーターの測定結果を重ねたグラフを示す。生のログは細かい振幅があり見にくいので、30秒ごとに平均をとって見やすくしてある。
データの前処理:ペダリングの左右バランス補正
今回の実験では、4iiiiは左足のパワーを2倍、ペダリングモニタは右足のパワーを2倍したものが記録されている。
ところが、人のペダリングは左右不均一なので、これをら直接比較しても、パワーメーターの測定値の差となのか、左右のペダリングが不均一なせいなのか判断できない。
そこでまず、Garmin Vectorで測定したペダリングの左右バランスを使って、4iiiiとペダリングモニタの測定値を補正する。
グラフ1の9~19分の区間に、Vectorから取得したペダリングの左右バランスを重ねて、1秒ごとの測定値を表示すると以下のようになる。黄色の線で示されたペダリングの左右バランスは、ペダリングが安定しない低パワー域では顕著に乱れているし、安定している320W区間でも47~52%まで変動している。
片足測定パワーメーターの測定値は次のような手順で補正した。
例えば、4iiiiの測定値が300W、Vectorで測定したバランス(左足の割合)が60%だった場合、
4iiiiは左クランクの測定値を2倍にした値をパワーとして出力しているので、左クランクで測定されたもともとの値は…
300/2=150W
左足のバランスは60%なので、両足のパワーは
150/0.6=250W
となる。
これを1秒毎に計算して(というかExcelにやらせて)、4iiiiとペダリングモニタの「バランス補正パワー」を計算した。
パワーメーターの個体差
パワーメーターの製品ごとに、160W区間、240W区間、320W区間それぞれにおける平均パワーを計算すると、以下のようになった。各棒グラフに、160W,240W,320W区間での平均パワーを重ねてプロットしている。Saris H3のERGモードを使用したので、H3の測定値はほぼ160,240,320Wになっている。
「バランス補正前」のグラフは、パワーメーターのばらつきとペダリングの左右差が混在している未加工のデータ。
対して「バランス補正後」のグラフは、先程の計算で4iiiiとPM910の左右バランスを補正したもので、パワーメーターのばらつきだけが現れている。
ペダリングの左右バランスの影響を排除した「補正後」のグラフを見比べると、同じようにペダリングしていても、パワーメーターの測定値は製品によって結構違うことがわかる。やはり、僕の持っているペダリングモニタは他の3製品より低めの測定値を出力しているようだ。
パワーメーターの製品ページでは測定精度は±2%などと書いてあるけど、機種によって測定方式も計算方法も違うので、この程度の製品差は当たり前に生まれる。この差を見ると、数ワットの差が大きな意味を持つFTPテストでは「同じ環境、同じ内容、同じパワーメーター」が鉄則、ということを改めて思い知る。
また、「補正前」と「補正後」のグラフを見比べると、片側測定と両側測定で、どれくらいの誤差があるかわかる。
4iiiiもペダリングモニタも、240W区間では補正の前後で最大3.5Wくらいの差が表れていることに注目してほしい(4iiii…235.8→232.6W、PM910…222.3→225.8W)。
ペダリングの左右差は人によるが、左右が大体揃っている僕でも比率にして約1.5%の誤差が生じている。ペダリングが安定していない場合はもっと大きな差が生まれるはず。これが片側測定パワーメーターの限界である。
なお、両足測定と片側測定との誤差については、別記事で詳しく検証している。
結論
片足測定のパワーメーターを使用したためデータ処理に少々手間がかかったが、パワーメーターは製品によって結構違うパワー値を測定するということがわかった。注意してほしいのは、どのパワーメーターが高精度か、という話ではなく、それぞれの測定方式、計算方法によって差が生まれているということ。
どれが「真のパワー」に近いかを個人レベルで調べるのは難しいので、自分なりの基準となるパワーメーターを決めるのが良い。
ただし、ペダリングの左右バランスは、たとえ平均が50:50でも常に一定ではないので、片足測定のパワーメーターは、数ワット程度の、僅かなフィジカルの上下をきちんと検知しきれない=日々のトレーニング効果を測る指標としては信用しきれない。
本格的にパワートレーニングに取り組むなら、左右バランスまでは必須ではないが両足の合計出力をちゃんと測れるパワーメーター(Quarqやパワータップ、あるいはスマートローラーでもOK)を基準として、そのパワーメーターでFTPの推移を記録すべきだと思う。