この10年ほどでロードバイクのタイヤ幅、ホイールのリム幅は拡大する一方だ。この状況を受けてタイヤとリムの基準を定めたETRTO規格が改定され、ロードバイクで現在メジャーな25cや28cタイヤは、リム幅の基準が19mmで設計されるようになった。
現在手に入るディスクロードの殆どは17c以上のワイドリムを履いているため、新ETRTOタイヤがマッチする。
しかし、まだリムブレーキのロードバイクに乗り続けていて、手持ちのホイールも15c以下のナローリム、という人も多いのではないだろうか。
新ETRTO準拠タイヤをナローリムで使用すると本来の性能を発揮できず、乗り心地やグリップ感を損なったり、ハンドリングに違和感を覚える場合もある。
現在は旧ETRTO規格のタイヤも市場に残っているが、Panaracer AGILESTなど、新発売のタイヤは新ETRTO準拠である。そして今後、各社タイヤはモデルチェンジのたびに新規格に移行していくと思われる。
そこで、この先5年、10年をリムブレーキで走り続けるために、現在入手可能なワイドリム(内幅19mm以上)の完組ホイールを調べてリストアップした。
ホイール選定条件
今回、以下の条件を満たす完組ホイールをピックアップした。
- リムブレーキ対応であること
- 内幅19mm以上のワイドリムであること
- チューブレス対応であること
- 2022年4月現在 製品ラインナップに存在すること
リム内幅について、25c~28cタイヤは17~21mmリムに対応しているが、リムブレーキロードの時代に存在した17mmリムではなく、ディスクロード過渡期を乗り越えてラインナップされる19mmを対象とする。
また、現在普及が進み、今後は主流になるであろうチューブレスタイヤへの対応も要件とした。
主要メーカーの2021年あるいは2022年ラインナップを一通り調べたつもりだが、小規模なメーカーまでは網羅できていないかもしれないので、漏れがあってもご容赦願いたい…
Campagnolo(カンパニョーロ)
カンパニョーロは、BORA WTOシリーズが条件に適合する。
BORA WTO:Wind Tunnel Optimized リムは、旧世代のBORAとくらべて大幅に空力が改善されている。
2-Way Fitリムはクリンチャーとチューブレスに両対応。ニップルホールが無いため、リムテープも不要となっている。
Campagnolo | 素材 | リム内幅 | リム外幅 | リムハイト | 重量 | 価格 |
BORA WTO 33 2Way | カーボン | 19 | 26.5 | 33 | 1395 | 352000 |
BORA WTO 45 2Way | カーボン | 19 | 26.5 | 45 | 1496(657+839) | 352000 |
BORA WTO 60 2Way | カーボン | 19 | 26.5 | 60 | 1550(670+880) | 352000 |
BORA WTO 77 2Way (前輪のみ) | カーボン | 19 | 26.5 | 77 | 755(F) | 323400 |
105%ルール※に従うなら、想定タイヤ幅は25mmだろうか。
※リム最大幅がタイヤ幅の105%となる場合に、最も空力的に優れるという経験則
BORA WTO 77はディスクホイールと組み合わせるのが前提のため、前輪しかラインナップされていない。
Mavic(マヴィック)
完組ホイールの元祖、Mavicはアルミリムとカーボンリムでそれぞれ2グレードのホイールを展開している。
Mavic | 素材 | リム内幅 | リム外幅 | リムハイト | 重量 | 価格 |
Cosmic SLR 40 | カーボン | 19 | 26 | 40 | 1390(640+750) | 286000 |
Cosmic SL 40 | カーボン | 19 | 26 | 40 | 1600(705+895) | 187000 |
Ksyrium SL UST | アルミ | 19 | 22 | 22 | 1480(645+835) | 104500 |
Ksyrium S UST | アルミ | 19 | 22 | 22 | 1570(675+895) | 77000 |
MavicのホイールはUST規格のチューブレスシステムに対応しており、対応タイヤとの組み合わせであればシーラントなしでの運用が可能となっている。
上記ラインナップでは、Cosmic SL 40を除くモデルがリムベッドに開口部が無いリムテープレス使用で、運用もしやすい。
アクシウムエリートUSTやキシリウムプロカーボンSL USTも内幅19mmのUSTリムだったが、2021年にカタログ落ちしてしまった。
Reynolds(レイノルズ)
カーボンリム専門のレイノルズは、(前後リムハイト違いのセットを差し引いても)今回調べた中では最も種類が充実しており、リムの種類でいうと6種類となる。
メインストリームのAR(ALLROADS)シリーズはリムハイト29mm, 41mm, 58mm, 80mmが揃う。末尾にXがつくモデルはハブとスポークが異なる。
高級ラインのBlacklabel Aeroは65mmと80mmの2種類。
Reynolds | 素材 | リム内幅 | リム外幅 | リムハイト | 重量 | 価格 |
AR 29 | カーボン | 19 | 27 | 29 | 1455 | 208000 |
AR 29 X | カーボン | 19 | 27 | 29 | 1390 | 248000 |
AR 41 | カーボン | 19 | 27 | 41 | 1545 | 208000 |
AR 41 X | カーボン | 19 | 27 | 41 | 1480 | 248000 |
AR 41/58 X RB | カーボン | 19/19 | 27/28 | 41/58 | 248000 | |
AR 58 | カーボン | 19 | 28 | 58 | 1700 | 208000 |
AR 58X | カーボン | 19 | 28 | 58 | 1635 | 248000 |
AR 58/80 X RB | カーボン | 19/19 | 28/29.5 | 58/80 | 248000 | |
AR 80 | カーボン | 19 | 30 | 80 | 1802 | 208000 |
AR 80 X | カーボン | 19 | 30 | 80 | 1767 | 248000 |
BLACKLABEL AERO 65 | カーボン | 19 | 28 | 65 | 1590 | 348000 |
BLACKLABEL AERO 80 | カーボン | 19 | 29 | 80 | 1780 | 348000 |
(実売)価格が手頃なレイノルズ。AR29やAR41あたりはオールラウンドに使えそう。
Bontrager(ボントレガー)
業界最大手のトレックは、フレームと同様、ホイール開発にもしっかりコストを掛けて開発している。
ボントレガーブランドで展開されるAeolus(アイオロス)シリーズは、単に空気抵抗が少ないだけでなく、横風でもハンドリングが不安定にならないことも考慮されている。
Bontrager | 素材 | リム内幅 | リム外幅 | リムハイト | 重量 | 価格 |
Aeolus XXX 6 TLR Clincher | カーボン | 21 | 28 | 60 | 1530 | – |
Aeolus XXX 4 TLR Clincher | カーボン | 21 | 27 | 47 | 1400 | – |
Aeolus Pro 3 TLR | カーボン | 19.5 | 27 | 35 | 1506 | 202400 |
Aeolus Pro 5 TLR | カーボン | 19.5 | 27 | 50 | 1605 | 202400 |
ホイールは2グレード×リムハイト2種類で、4種類のラインナップ。最上位のAeolus XXXはリム内幅21mmと、リムブレーキ用ホイールとしては最大級の広さ。
リム外幅も27~28mmと広いため、ブレーキキャリパーによってはアームの開きが足りなかったり、リンク角度が最適位置からズレて効きが悪くなることもある。
こういうときは(程度にもよるが)ワイドリム用の薄型のブレーキパッドを使うと改善される。
Aeolus XXXシリーズは前後ホイールの合計価格を確認できなかった。
Enve(エンヴィ)
高品質なカーボンコンポーネントを販売するEnveは3種類のホイールをラインナップ。
SES:Smart ENVE Systemは、前後で異なるリムハイト、スポーク穴数の組み合わせにすることで製品コストを削減…もとい、最適な空力や重量を実現している。
ENVE | 素材 | リム内幅 | リム外幅 | リムハイト | 重量 |
SES 3.4 | カーボン | F21/R21 | F27.5/R27.5 | F38/R42 | 1409 |
SES 5.6 | カーボン | F20/R19 | F29/R28 | F54/R63 | 1481 |
SES 7.8 | カーボン | F19/R19 | F29/R27.5 | F71/R78 | 1670 |
こちらもAeolusと同様リム外幅が広いため、ブレーキキャリパーとの相性には注意。
ZIPP(ジップ)
カーボンリムの老舗ZIPP。ラインナップのほぼすべてがディスクブレーキ用ホイールだが、
リムハイトが「ちょっと低め」の303と、「ちょっと高め」の404の2モデルのみ、リムブレーキ仕様のホイールが用意されている。
ZIPP | 素材 | リム内幅 | リム外幅 | リムハイト | 重量 | 価格 |
303 FIRECREST TUBELESS RIM-BRAKE | カーボン | 19 | – | 45 | 1530(688+842) | 266500 |
404 FIRECREST TUBELESS RIM-BRAKE | カーボン | 19 | – | 58 | 1621(734+887) | 266500 |
EASTON(イーストン)
一時期はよく見た気がするが、最近あまり存在感の無いイーストン。
しかし、1モデルだけ、条件ぴったりのアルミホイールがあった。
EASTON | 素材 | リム内幅 | リム外幅 | リムハイト | 重量 | 価格 |
EA90 SL | アルミ | 19.5 | 24.5 | 27 | 1490 | 107800 |
EA90SLはワイドでチューブレス対応。アルミにしては高めのリムハイトだが、リム重量は455gと常識的なレベルに収まっている。
カーボンリムのEC90 AERO55やSLXはディスコン、下位モデルのEA70は内幅17.5mmでクリンチャーのみ対応となっている。
FFWD(ファストフォワード)
2021年に日本再上陸したファストフォワード。ほとんどの製品はディスクブレーキ用だが、TYRO RIM BRAKEとTYRO TUBULARの2種類のみリムブレーキモデルが用意されている。
今回の選定条件に合うのはチューブレスレディ/クリンチャーのTYRO RIM BRAKE。
FFWD | 素材 | リム内幅 | リム外幅 | リムハイト | 重量 | 価格 |
TYRO RIM BRAKE | カーボン | 21 | 29 | 45 | 1640(700+940) | 168000 |
リム内幅は21mm、外幅は今回リストアップした中で最大の29mmとなっている。
デュラエースのブレーキキャリパー BR-R9200(BR-R9100と同等)の対応リム外幅は20.8~28mmと、これをオーバーしているため、1mm薄いワイドリム用カーボンブレーキシューを使う必要がある。
ちなみに、私の使っている先々代デュラ BR-9000は1mm薄いブレーキシューを使ってもリム幅28mmが限界で、このホイールを履くことができない…
Rolf Prima(ロルフプリマ)
独特の外観が目を引くロルフプリマ。左右のスポークを1箇所にまとめたペアスポークは少ないスポークでも構造を保つことができる。
カーボンリムのEos 4はなんとフロント14本、リヤ16本で、スチールスポークのホイールとしては他に例を見ない。(かつては、前後とも12本というホイールが存在した)。
Rolf Prima | 素材 | リム内幅 | リム外幅 | リムハイト | 重量 | 価格 |
Eos 6 | カーボン | 19.5 | 29 | 60 | 1565 | 363000 |
Eos 4 | カーボン | 19.5 | 28.5 | 42 | 1395 | 363000 |
Eos 3 | カーボン | 19 | 27 | 32 | 1325 | 363000 |
Ares 6 | カーボン | 19.5 | 29 | 60 | 1585 | 278300 |
Ares 4 | カーボン | 19.5 | 28.5 | 42 | 1430 | 278300 |
Ares 3 | カーボン | 19 | 27 | 32 | 1365 | 278300 |
Vigor Alpha Stealth | アルミ | 19.5 | 23 | 32 | 1490 | 198000 |
Vigor | アルミ | 19.5 | 23 | 32 | 1515 | 148500 |
Elan Alpha Stealth | アルミ | 19.5 | 23 | 22 | 1345 | 198000 |
Elan | アルミ | 19.5 | 23 | 22 | 1345 | 148500 |
すべてのホイールはアメリカ オレゴン州の自社工場で受注生産されるロルフプリマは、小規模ながらリムブレーキ用ホイールはカーボン6種、アルミ4種と充実しており、全てがワイドリムかつチューブレスタイヤ対応となっている。
VISION(ヴィジョン)
情報提供を頂いたので追記。
FSAのブランドのひとつで、TT/トライアスロン向けアイテムを中心に手掛けるVisionのホイールにも、今回の条件に適合するモデルがあった。
Vision | 素材 | リム内幅 | リム外幅 | リムハイト | 重量 | 価格 |
TEAM 30 | アルミ | 19 | 24 | 30 | 1990 | 38535 |
TRIMAX 30 KB | アルミ | 19 | 24 | 30 | 1495 | 115118 |
TRIMAX 30 | アルミ | 19 | 24 | 30 | 1630 | 84356 |
SC 30 | カーボン | 19 | 26 | 30 | 1330 | 162261 |
SC 40 | カーボン | 19 | 25.5 | 40 | 1560 | 164876 |
SC 55 | カーボン | 19 | 25 | 55 | 1660 | 178639 |
METRON 30 SL | カーボン | 19 | 26 | 30 | 1370 | 274977 |
METRON 40 SL | カーボン | 19 | 26 | 40 | 1400 | 269609 |
METRON 55 SL | カーボン | 19 | 25 | 55 | 1580 | 277867 |
METRON 81 SL | カーボン | 19 | 24.8 | 81 | 1740 | 284335 |
TRIMAXホイールは25,30,35mm 3種類のリムハイトがあるが、「30」のみがチューブレス対応の内幅19mmリムで、「25」はチューブレス対応の17mm幅、「35」はクリンチャーのみ対応で17mm幅となっている。
モデル | リム幅 | チューブレス対応 |
TRIMAX 25 | 17 | ○ |
TRIMAX 30 | 19 | ○ |
TRIMAX 35 | 17 | × |
「KB」がつく上位モデルはプラズマ電解化皮膜処理、要するにMavicのエグザリットや、フルクラムのNite処理に相当する表面処理が施されており、黒くてかっこいい。
条件に当てはまらなかったメーカー
Shimano(シマノ)
R9200デュラエース/R8100アルテグラはチューブレスホイールが揃うが、ディスクオンリー。
リムブレーキのホイールはTL非対応でリム幅は17mmとか15mmとか。
Fulcrum(フルクラム)
カンパニョーロの兄弟ブランド。
最近勢いが無い気がする。リム幅は17mm。
DT SWISS
ハブ屋だったが、いつのまにか存在感を強めているDT。
カーボン・アルミともラインナップは充実していたが、リム幅17~18mmだったので今回は条件に当てはまらなかった。
Roval(ロヴァール)
スペシャライズドのブランド。リムブレーキ仕様の製品は存在せず。
Spinergy(スピナジー)
PBOスポークを使用した振動吸収性の高いホイールが特徴のブランド。
カーボン2種、アルミ1種のリムブレーキ用ホイールがあったが、残念ながらリム内幅18mmだったので条件に入らず。
まとめ:アルミホイールの選択肢は絶望的
以上が、各社のワイドリム&チューブレス対応リムブレーキホイールの展開状況である。
他にScopeとかCadexもあったけどキリがないので割愛…
リムブレーキからディスクブレーキへの移行時期と、17c→19cへのワイドリム化のタイミングが重なったため、リムブレーキ用ホイールは17cで止まっているブランドが多く見られたが、こうしてリストアップしてみると、カーボンリムならそれなりに選択肢があるということがわかる。
一方で、アルミホイールの選択肢は絶望的と言っても良い。
コストや雨天時のブレーキ性能を考えて、アルミリムを使うサイクリストは多い。というか、カーボンリムを常用する層のほうが少数派であるが、19c以上のアルミチューブレスリムとなると、以下の製品に絞られる。
- Mavic Ksyrium SL
- Mabic Ksyrium S
- Easton EA90 SL
- Rolf Prima Vigor Alpha Stealth
- Rolf Prima Vigor
- Rolf Prima Elan Alpha Stealth
- Rolf Prima Elan
- Vision TEAM 30
- Vision TRIMAX 30 KB
- Vision TRIMAX 30
…半数がロルフプリマだ。
ただし問題は価格で、最も安価なKsyrium Sが77000円。他はすべて10万円以上のプライスであり、お手軽なアルミホイールとはいえない。
とはいえ、メーカーを問わず、今後リムブレーキのラインナップが減ることはあっても充実することは無いと思われるので、リムブレーキのバイクに今後まだ乗り続けるつもりなら、手に入るうちにワイドリムのホイールを買っておくべきだ。