SIGEYI AXO Road Power Meter Crankset
スパイダー部に取り付ける低価格な「中華パワーメーター」。ロード・MTBともに、多種多様な市販クランクに対応する。
オートゼロリセットと温度補償機能つきで精度は1%。仕様上、ペダリングが乱れた際にスパイクを拾いやすいものの、パワートレーニングする上で信頼できる製品。
本品はSIGEYI製品を取り扱う鈴市商店様からの貸与品です。
長所 -Pros-
- 多種多様なクランクに対応
- 一定ペダリング時の測定精度が高い
- 測定値のスケーリング機能搭載
短所 -Cons-
- レポートレートが高くスパイクを拾いやすい
- 左右バランス測定が簡易的
- クランク長が2種類のみ(RC219クランクセット)
あらゆるクランクに対応する中華パワーメーター
ロードバイクの世界で、この10年の間に普及したトレーニング機材といえば、GARMIN Edgeを始めとするGPSサイクルコンピュータ、そしてパワーメーターだろう。
パワーメーターはかつては非常に高価で、トッププロの中でも一部しか使っていなかったが、低価格化が進み、今やアマチュアレーサーはもちろん、非競技層のサイクリストも使用するようになった。
SIGEYI(シゲイー)は2015年にスタートした中国のブランド。最近になって国内取扱も始まり、鈴市商店が輸入販売している。
こういう電子機器は故障がつきものだ。
私はパワーメーターをのべ15台は購入したが、そのうち3台は故障し、修理や交換を行っている。
海外から購入した場合、英語でやりとりしたり、故障した製品を海外に発送したりと、手間と時間がかかる。
製品保証の面で、国内で取り扱っているというのは安心できる。今や内外価格差もほとんど無いし…
さて、SIGEYIの主力製品であるAXOは「スパイダー型」と呼ばれるタイプのパワーメーターで、パワーメーターの元祖といえるSRMや、QUARQが採用している。
SIGEYI AXO特徴はラインナップの多さで、スパイダーを分離できるダイレクトマウント方式のクランクアームの殆どに対応しているため、
もしSRAMやROTORのクランクを持っているなら、スパイダー部分だけ購入することでパワーメーター化できる。
対応チェーンリングも、SRAM用の伝統的な5ピンと、最近のシマノの不等ピッチ4ピンから選べるため、軽量なSRAM REDのクランクと、変速性能の高いシマノ製チェーンリングを組み合わせる、というような運用も可能だ。こういう機材は夢が広がる。
もちろん、MTBのラインナップも抜かり無い。
パワーメータークランクセット
SIGEYI AXOは基本的にスパイダー部分の単品売りだが、今回レビューするのはクランクアームがセットになった製品。
SIGEYIオリジナルのRC219アルミクランクにスパイダーが取り付けられている。
クランク長は170mmと172.5mm、スパイダーはSRAM5ピンとシマノ4ピンから選択可能だ。
レビューにあたっては、クランクセットに加えて、チェーンリングとBBも一緒にお借りした。
技適取得済みのパワーメーター部
スパイダー部分は円盤状で、内部にひずみゲージやバッテリー、電子回路が収められている。重量は公称105g。
SIGEYIロゴが記載された赤い部分はステッカーなので、剥がせば黒字に白ロゴとなる。
ちなみにステッカーは数色用意されているようだ。
SRMや昔のQUARQのように、フレーム側にケイデンス測定用のマグネットを取り付ける必要はない。
また、チェーンリングを交換してもスロープ値の調整は不要だ。
スパイダー裏側を見ると、技術基準適合証明(技適)取得済みであることがわかる。
また、スパイダーのマウント方式はSRAM 3ボルトタイプで、少し古い(11s)SRAM製クランクのほか、Plaxisや中華ブランドが良く採用している形状だ。
バッテリーは充電式で、付属の充電ケーブルをマグネットで固定し、USB充電が可能。
バッテリーライフは300時間なので、相当走り込む人でも2~3ヶ月に1回の充電で事足りる。電池切れよりもケーブル紛失のほうが心配だ。
SRAM互換 ROTOR似のクランク
RC219クランクは公証重量448g。ROTORのパクr…インスパイアされたデザインだ。
切削加工されたアルミクランクは、長手方向に3つ穴が開けられて軽量化されている。
スピンドル周りはSRAM互換形状だ。ダイレクトマウントはSRAM 3ボルトタイプで、スピンドル軸径は29mmでDUB規格に対応する。
RC219クランクには、左クランク基部にネジ式の与圧機構が設けられているので、ガタ取り作業も行いやすい。
アーム単品価格は本国で75ドルほど。敢えて選ぶほどの物ではないが、とりあえず普通に使える。
難点を言えば、クランク長が170mm or 172.5mmの2種類で、選択肢に乏しいことか。
なお、一緒にお借りした50-34Tチェーンリングを含めたクランクセット合計重量は実測735g(クランク+スパイダーで540g)だった。
参考までにアルテグラのFC-R8100-Pクランクセットの公称重量は758g(50-34T)だ。
なお、このチェーンリングはシマノ12sチェーンと相性が悪かったため、テストではシマノ FC-RS500用チェーンリングを使用した。
パワー測定機能
SIGEYI AXOの測定機能は以下の通り。
- パワー(0~2000W 精度±1%)
- ケイデンス(30~220rpm)
- 左右バランス
を測定し、Ant+ またはBluetoothでサイクルコンピュータ等に送信できる。
注意点として、スパイダー型パワーメーターの左右バランスは、クランク半周ごとのパワーの比率を出すだけの簡易的なものだ。
真の左右バランスを測定したいなら、クランクアーム内蔵型やペダル型パワーメーターを使う必要がある。
もっとも、個人的にはパワーの左右バランスにあまり意味はないと考えている。
その他仕様は以下の通り。
- オートゼロリセット
- 温度補償機能(-20~50℃)
- IP67防水
僅かな変形を検知するパワーメーターは熱膨張の影響を受けるが、SIGEYI AXOは温度補償機能を搭載、つまり温度変化に対して自動的に測定値が補正されるため、
朝方冷えて昼間暑くなるロングライドや、麓と頂上で気温が大きく変わるヒルクライムでも一貫したパワーデータ記録が可能だ。
この温度補償機能は、現在市販されているパワーメーターはほぼ全て搭載しているので、敢えて書く必要はなかったかもしれない。
しかし、昔のパワーメーターは温度変化でしょっちゅう狂って大変だったのだ。
Quarq Cinqoを使っていた頃に染み付いた、クランク逆回転5周でゼロ点リセットする癖はなかなか抜けなかった。
ケイデンスマグネットは必要だしチェーンリング交換のたびにスロープ値校正が必要、しかも電池は変なサイズのCR2450。今はいい時代になった(しみじみ)
SIGEYIアプリ
パワーメーターのメンテナンスや設定は、スマートフォンアプリ上で行う。
アプリ上では、以下のような操作が可能だ。
- 測定値の確認
- ゼロキャリブレーション
- ファームウェアアップデート
- スケーリング
アプリの出来は良く、メニューはよく整理されているし、不具合もなく操作しやすい。
あたり前のことがきちんとできていて好印象だ。
機能面では、スケーリング機能(Power Offset Adjustment)が搭載されている点が評価できる。
パワーメーターにはどうしても個体差があり、同じようにペダリングしても、パワーメーターAとパワーメーターBで測定値が微妙に異なることも多い。
たとえ2~3%の誤差でも、FTP付近では大きな違いになり、パワートレーニングを正確に行うことはできない。
「そんな細かいことを」…と言う人は、FTPインターバルの1本目を98%、2本目を101%で走ってみてほしい。全然違うから。
したがって、複数のパワーメーターを運用してトレーニングする場合、基準となるパワーメーターに測定値を合わせる必要がある。
SIGEYI AXOは0.5%刻みで測定値を補正することが可能なため、2台目、3台目のパワーメーターとしてもおすすめできる。
パワー測定値の検証
パワーメーターとしての性能を評価するため、信頼が置けるパワーメーターと同時にトレーニングログを記録し、測定値の検証を行った。
ローラー
まずはローラー台で一定のペダリングを行い、平均パワーの大小を比較する。
使用するパワーメーターは、SIGEYI AXOに加えて、ペダル型のAssioma Duo、そしてSaris H3だ。
低出力から高出力まで、様々な領域におけるパワーメーターの癖を把握するため、以下のカスタムワークアウトを作成し、160,240,320,400,480Wでのペダリングを行った。
- アップ
- 100→160W 1分
- メインセット
- 160W 3分
- 240W 3分
- 320W 3分
- レスト 160W 1分15秒
- 400W 1分
- レスト 50% 1分
- 480W 1分
- クールダウン
- 200→150W 2分
ギヤ比:52x15T
ケイデンス:
- 80~85rpm(160,240,320W)
- 100~105rpm(400W,480W)
各パワーメーターの測定値はAndroidアプリ IpWattsで記録した(スマホにAnt+ドングルを指して利用)。このアプリは複数のパワーメーターのデータを同時に受信して1秒毎にロギングし、CSV形式で出力できる。
なお、10~15分程度のフリーライドで暖気を行い、各パワーメーターのゼロオフセットを行ってからテストを行った。
測定結果は以下の通り。
ERGモードを使用中はSarisH3のパワーは数%高く計測されるので、AXOとAssiomaの間で測定値を比較してほしい。
AXOはパワーのレポートレートが高いようで、IpWatts上では毎秒2~3回、測定値が更新される。(AssiomaやH3は毎秒1回程度)
そのため、急な踏み込みを検知してグラフ上にはスパイクが認められる。とはいえ、これは測定エラーというより、仕様上の癖のようなものと捉えて良いだろう。
上のグラフの右半分は、各パワーゾーンの平均値を表している。160Wから480Wまで、AXOはAssiomaと殆ど変わらない測定値を記録している。
一定のパワーでペダリングする際、AXOの測定値は十分に信頼できると言える。
実走
続いて実走テストの結果を示す。
パワーメーターを評価するにあたって、一定ペースでペダリングするローラー台だけでは検証が不十分だ。
路面からの振動が加わったり、急激な踏み込みやダンシングを行う実走で、エラー無く測定できるか確かめた。
SIGEYI AXOとAssioma Duoのパワーデータを比較するため、何度か実走テストを行ったログのうち、一部を抜粋した結果を以下に表す。
まずは、「アタック→VO2MAX走→急坂でインターバル(ダンシング)」という走り方。
アタックからVO2MAX走にかけては、AXOとAssiomaの値はよく一致しているが、その後のダンシングでは、Assiomaより低めの測定値となってしまった。
続いて、全力でスプリントを行った。
途中でコーナーがあるため、いったん足を止めて再びもがく、変則的なスプリントになっている。
1本目のスプリントで、AXOには1500Wほどのスパイクが観測された。
レポートレートの高さゆえか、ペダリングが乱れる場面で、瞬間的に高いパワーを測定してしまうのかもしれない。
パワートレーニングにおいて、ごく瞬間的な最大パワーに意味はないため、他のパワーメーターのように、およそ1秒毎に平均した値を送信してくれるとベターと感じた。
まとめ:信頼の置ける中華パワーメーター
スパイダー型という、古臭いが堅実な方式を採用したSIGEYI AXO。
安価なパワーメーターということで、それなりに不具合というか、癖があると予想していたのだが、
そんな期待(?)を裏切って、測定機として十分に信頼できる製品だった。
レポートレートが高く、スパイクを拾いやすい点は改善してほしいが、一定ペースのペダリングでは精度に文句なし。
バッテリーライフも長く、アプリの完成度も高い。
スケーリング機能も搭載するため、2台目以降のパワーメーターとしても勧められる。
「中華パワーメーターは安いが品質が悪い」というのは過去の話になったようだ。