シクロクロスのジオメトリ② ~ヘッド角とフォークオフセット~

シクロクロスは各社独自の考え方で設計されていて、ジオメトリは千差万別。見た目が気に入ったから、安かったから、などという理由で適当に選ぶと、思ったように走れないこともある。
何度もバイクを乗り換えて蓄積した知識と、ざっくり200戦くらいはCXレースを走った経験をもとに、ジオメトリによって変わるバイクの乗り味の違いを書いていきたい。
いきなりBBハイトの話で始まった第1回に続く第2回は、ハンドリングをつかさどるヘッド角(ヘッドアングル)とフォークオフセットについて。

ヘッドアングル・フォークオフセット・トレール量の関係

ヘッドアングル・フォークオフセット・トレールの関係

二輪車のハンドリングはヘッドアングル・フォークオフセット・トレールの関係で決まる。

ヘッドアングルとはフォークが回転するステアリング軸の角度。画像のように角度がついていると、フロントタイヤの接地点はステアリング軸よりも後ろになり、外乱でハンドルがふらついたとしても、自然と直進方向に戻るというわけ。
ステアリング軸とタイヤの接地点との距離をトレールと呼び、バイクの直進安定性を決める重要な要素となっている。
トレール量が大きすぎると乗りにくいため、フォークのハブ軸を前に突き出し(フォークオフセット)て調整している。

ロード向けだが、可変オフセットのフォークも存在する。

左右に傾いて旋回する二輪車のステアリングジオメトリは、直進時のハンドリングや、バイクを傾けた時の特性など、様々な要素を勘案して設計される。
ステアリングのジオメトリは他の要素(例えばホイールベース)にも影響するため、各数値の大小で単純にハンドリングを表現できないのだが、ざっくりと言うと、以下のような傾向がある。

  • トレールの大小が直進時の安定性を左右し、トレールが大きいほど直進安定性が高くなる。
  • ヘッドアングルは旋回時の特性に影響し、ヘッドアングルが大きい(立っている)ほどクイックなハンドリングになる。

ヘッドが立っていてトレールが少ないバイクはハンドルの効きが良く、タイトコーナーが連続するコースをアグレッシブに攻めていけるが、テクニックが伴わないと転倒しやすい。

逆に、ヘッドアングルが小さく(寝ている)、長めのトレールを確保したバイクは、連続コーナーのような素早い姿勢変化が苦手なかわりに、外乱に対して安定している。コーナリング中に小石を踏んで弾かれてもバイクのほうがフォローしてくれる。
コースが荒れていたり、バイクコントロールに自信がないなら、安定志向のジオメトリのほうが速さを引き出しやすいかもしれない。

コーナーの走りが次のストレートスピードに響く

各社シクロクロスバイクのジオメトリ

シクロクロスはオフロードを比較的低速で走るので、ロードバイクに比べるとわずかに寝たヘッドアングルと長めのトレールで、安定性を高めている。

メーカー車種サイズヘッドアングル[deg]オフセット[mm]トレール[mm]フロントセンター[mm]BB下がり[mm]チェーンステー長[mm]
GIANTTCXM71.55062.4 ※596.2 ※60430
TREKBoone54724567594.4 ※68425
SpecializedCrux5471.5496560169425
RidleyX-NIGHT52724762.6 ※581.9 ※62425
CanyonInfliteS72.2544.4 ※62 ※589.9 ※66425
CannondaleSuper X5471556260769422
市販シクロクロスバイクのジオメトリ(54前後のサイズ ※印は実測値または計算値)

上表に挙げた54付近のサイズだとヘッドアングルは71.5度あたり、トレールは62mm少々が標準的だが、シクロクロスバイクに対する各社の考え方でジオメトリに幅が生まれている。

例えば、トレックやスペシャは多めのトレール量で直進安定性を重視している。
また、キャノンデールはヘッドを寝かせてマイルドなハンドリングを狙う一方、キャニオンはヘッドを立てて旋回性を重視しているようだ。

ヘッド角0.5度の違いは試乗程度でもハッキリわかる。乗り比べてみると曲がり方が全然違って面白い。

乗り方とジオメトリが合っていると轍のトレースもしやすい

ところが、ハンドリングはヘッド角とトレールだけでは決まらない。
例えばX-NIGHTとInfliteを比べると、Infliteのほうがよく曲がるのかというと、そう単純ではない。

「体に合った」バイクではなく「乗り方に合った」バイクを選ぶためには、もう少しいろんな数値を見ていく必要がある
次回はホイールベースと前後重量配分の話。第3回でようやく、フレームのサイズだとかトップチューブ長の話題が登場する。