Shokz OpenMove
頭蓋骨を振動させて音を伝える構造のヘッドホン。耳元に小型スピーカーが浮いているような使用感で、音が籠もらず環境音が聞こえるため、長時間の使用でも疲れにくい。
※AfterShokzは2021年12月、ブランド名をShokzに変更した。レビューする製品は旧ブランド時代に購入したものなので、システム音声やデバイス名が「AfterShokz」となっている
評価 ★★★★☆
購入価格 7500円
長所 -Pros-
- 耳を塞がず、環境音が聴こえる
- 長時間の使用でも聴き疲れしにくい
短所 -Cons-
- 重低音や高音の伸びは望めない
- バッテリーライフ6時間は短くはないが、もう一声ほしい
骨伝導ヘッドホンとは
音を聴くメカニズムと骨伝導
人間は、空気の振動を電気信号に変換して音を認識している。
耳で音を聴くとき、空気中を伝搬した音波は鼓膜を振動させ、その振動は耳小骨を経由して、頭蓋骨に埋まっている蝸牛という器官に伝わる。ここで振動を電気信号に変換して脳が認識するというわけ。(空気伝導)
これに対して骨伝導は、鼓膜を介さず、頭蓋骨の振動を蝸牛が感知することで音を聴く。耳の穴を塞いで喋ると、骨伝導で伝わる自分の声が聞くことができる。
骨伝導ヘッドホン
空気伝導を利用する通常のイヤホンやヘッドホンは、耳元に設置したドライバーユニットが空気を振動させ、それを鼓膜で受け取って音楽や音声を聴く。
対して骨伝導ヘッドホンは、頭蓋骨を振動させることで蝸牛の聴覚神経に直接音を伝える。
耳をふさがない骨伝導ヘッドホンは環境音が聞こえるため、装着中に会話することもできるし、ジョギングなど、屋外でのスポーツも安全に行える。また、耳をふさぐイヤホンやヘッドホンに比べて聞き疲れしにくいとされている。
しかし、従来の製品は音質が悪く、ワイヤレスタイプはバッテリーの持ちも悪かった。また、骨に振動を伝えやすくするため圧迫感が強く、長時間装着すると頭が痛くなる。
音が聞こえればいいという程度で、音楽鑑賞に使えるような代物ではなかった。
Shokz OpenMoveの特長
高品質な骨伝導ヘッドホンを手掛けるShokz(旧Aftershokz)が2020年秋に発売したOpenMoveは、上位機種譲りの性能を持ちながら税込定価1万円を切るという戦略モデル。
最近の骨伝導ヘッドホンは凄いという噂を聞き、Zwift中の使用に…という建前で購入したが、
「音が悪く電池が持たず装着感が悪い」という骨伝導ヘッドホンのイメージを覆す性能で、骨伝導ヘッドホンに対する認識が改まった。
Bluetooth接続・マルチペアリング対応
Bluetooth 5.0での接続に対応し、最大10mの距離で通信が可能。
マルチペアリングに対応し、最大2台のデバイスに同時にペアリングできる(後述)。
2デバイスから音声の同時再生はできないが、特別な操作なしに音源を切り替えできる。
6時間のバッテリーライフとUSB-C充電
連続再生時間は公称6時間以上。待機状態では10日間以上のバッテリーライフ。
充電端子はUSB-Cを採用し、2時間でフル充電。
専用ケーブルが不要というのは、上位機種Aeropex(や、その後継機のOpenrun)と比べても大きなメリット。
USB-C充電のAndroidスマートフォンやiPad Proユーザーはケーブルを使い回せる。
29gの軽量ボディ
重量は29gと、サイクリング用のアイウェア程度の重さ。
長時間装着していても、重さはほとんど気にならない。
IP55防塵防水
IEC(国際電気標準化会議)の定めるIP55の防塵・防水規格を満たしている。
IP55の防塵・防水性能
- 防塵…IP5X:粉塵からの保護
- 防水…IPX5:いかなる方向からの水の直接噴流によっても有害な影響を受けない
水や汗のかかる環境や砂埃の舞う場所など、屋外のスポーツでの使用にも対応した設計になっている。
ただし、充電は完全に乾燥した状態で行う必要がある。
製品仕様
型番: | AS660 | 周波数特性: | 20Hz – 20kHz | |
骨伝導技術: | 第7世代の骨伝導テクノロジー | 防塵防水: | IP55 | |
チップ: | QCC3024 | 重量: | 29g | |
Bluetooth® バージョン: | Bluetooth® v5.0 | 電池: | 充電式リチウムポリマー電池 | |
対応プロファイル: | HSP, HFP, A2DP, AVRCP | バッテリー容量: | 135 mAh | |
周波数帯域: | 2402 – 2480MHz | 連続再生時間: | 6時間以上 | |
最大RF出力: | 4dBm | 連続待機時間: | 10日間以上 | |
最大通信距離: | 33 ft (10m) | 充電電圧: | 5.25V ± 5% | |
スピーカーインピーダンス: | 8.0 ± 0.5ohm | 充電時間: | 約2時間 | |
スピーカー感度: | 96 ± 3dB | 充電タイプ: | USB-C | |
マイク感度: | -40 ± 2dB | 保証期間: | 2years |
本体の外観と操作方法
付属品
付属品は以下の通り。
- ヘッドホン本体
- ソフトケース
- 耳栓
- USB-Cケーブル
- 説明書類
ソフトケースは手触りの良い巾着袋。サイズに余裕がなく、少し出し入れしにくいかも。
イヤホン自体そこまで傷を気にするようなものでもないと思うので、ケースは小物入れなど、他の用途に使えそう。
ボタン類
本体のボタンは3つ。流行りのタッチ操作でなく、クリック感のある物理ボタンなのが好印象。手探りでも確実に操作できる。
- ボタンA マルチファンクションボタン
- ボタンB 音量+/電源
- ボタンC 音量-
機能と操作一覧
ボタンA(マルチファンクションボタン)
機能 | 操作(ボタンA) | 音声案内 |
音楽再生・停止 | 押す | ピッ |
次の曲 | 音楽再生時に2連打 | ピッ |
前の曲 | 音楽再生時に3連打 | ピッ |
言語切替 | ペアリング中に2連打 | English/中文/日本語/한국어 |
電話に出る | 1回押す | ピピッ |
電話を切る | 1回押す | ピッ |
通話を切って、2つ目の着信に出る | 2秒長押し | ピッ |
通話拒否 | 2秒長押し | ピピッ |
音声アシスタント | 2秒長押し | ピピッ |
最後に発信した番号にリダイヤル | 待機中に2連打 | リダイヤルします |
ボタンB(音量+/電源)とボタンC(音量-)
機能 | 操作(ボタンB、ボタンC) | 音声案内 |
電源オン | B(+)を2秒長押し | AfterShokzへようこそ |
ペアリング | B(+)を約6秒長押し | ペアリングモードです |
電源オフ | B(+)を3秒長押し | 終了します |
ミュート | 通話中B(+)とC(-)を2秒長押し | ミュート-しました/を解除しました |
イコライザー切り替え | 再生中B(+)とC(-)を3秒長押し | スタンダードモード/ボーカルモード/イヤプラグモード |
バッテリー残量チェック | 待機中 B(+)またはC(-) | バッテリーは-充電されています/およそ半分です/残りわずかです/充電してください |
音量調整 | B(+)またはC(-) | ピッ |
電源とペアリング
電源・ペアリングボタンを兼ねた「音量+」ボタンを2秒ほど長押しすると電源が入る。
このとき女性の声で「アフターショックスへようこそ」とガイダンスが流れる。遠い昔に聞いた「ニフティサーブへようこそ」を思い出した。
そのままボタンを離さずに押し続けると、「ペアリングモードです」という声が流れてペアリングモードに入る。
「音量+」ボタンを3秒長押しで電源オフ。「終了します」とガイダンスが流れて電源が切れる。
マルチペアリング機能
マルチペアリングに対応し、最大2台のデバイスに同時にペアリングできる。
2デバイスの音声の同時再生はできないが、例えばスマホとPCにペアリングして
スマホで音楽再生 → 一時停止 → PCで動画再生
といった操作をした場合、(接続切り替えで若干のラグはあるものの)特別な操作無しにヘッドホンから音声が再生される。
ただし、同時再生した場合は、すでにペアリングされているデバイスが優先される。
また、PCとペアリング中でも、スマホに電話の着信があれば通知が来る。
なお通知音は「ワルキューレの騎行」2小節ぶん。ヘリと機関銃の音が聞こえてきそうで、心臓に悪い。
デバイスのペアリング方法
- LEDが赤青点滅するまでボタンB(+)を押し続け、ペアリングモードに入る。
- ボタンAとボタンB(+)ボタンを3秒間押し続けます。ヘッドホンから「マルチポイント接続を開始します」と聞こえます。
- 接続するデバイスのBluetoothメニューを開き「OpenMove by AfterShokz」を選択します。「接続しました」とガイダンスが流れペアリング完了。
マルチペアリング設定方法
もう1台デバイスをペアリングする場合、2台目のデバイスに対しても上記のペアリング作業を行う。
ヘッドホンから「接続しました」「2台目のデバイスが接続しました」とガイダンスが流れると成功。
マルチペアリング解除方法
ペアリング操作中、ボタンAとボタンC(-)を3秒間押し続けると、
「マルチポイント接続を終了します」と音声ガイダンスが聞こえて、マルチペアリングモードが解除される
本体の初期化
設定を工場出荷時に戻す場合は、以下の操作を行う。
- 電源オフ状態から、LEDが赤青点滅になるまでボタンB(+)を長押しして、ペアリングモードに入る
- ボタンAとボタンB(+)、ボタンC(-)の3つを同時に押し続け、2回のビープ音または3~5秒間の振動を感じたら離す
- 電源をオフにすると、ペアリング情報など、設定内容がすべてリセットされる
実際の使用感
音質と音量
通常のイヤホン・ヘッドホンと聞こえ方はかなり違う。
環境音は変わらず聞こえるし、スピーカーで聞いているように感じる。
音質は取り立てて悪くはないが、重低音が響くわけでも、高音が綺麗に伸びるわけでもない。
例えるなら、iPhoneのスピーカーを耳元に置いて音楽を聴くのに近い感じ。
音量は小さめでも十分聞こえる。逆に音量を上げると、ブルブルとした振動がこめかみに伝わってきて気持ちが悪い。
音を大きくすると迫力が増すわけでもなく、ラジオのような音質の悪さが目立ち始めるので、大音量で音楽を楽しむには向かない。
低めの音量で、BGM的に「ながら聴き」するのがベストな使い方だと思った。
なお、音量を上げるとドライバーユニットが周囲の空気を振動させるため、割と盛大に音漏れする。
イコライザ
音楽再生中、B(+)とC(-)を3秒間長押しすることでイコライザを切り替えできる。
スタンダードモード
通常のモード。特にこれで不満はない。
ボーカルモード
ボーカル音声が強調されるが、やや不自然な印象だった。
イヤプラグモード
付属の耳栓を装着した状態で使用する。頭の中で音楽が鳴っているように感じる。耳栓なしだとスカスカの音になる。
骨伝導ヘッドホンを耳栓して使うくらいならイヤホンで音楽を聴くほうがずっと音質も良いし快適なので、使うことはないかな…
装着感
形としてはネックバンドヘッドホンで、振動するドライバー部分を両耳の前のこめかみ付近に当て、フレームのバネで挟み込んで保持する。
ドライバー部が骨に振動を伝える構造なので、ここがフィットしていないと音がよく聞こえない(イヤホンの音漏れのような音質になる)。
よく聴こえる位置に調整する必要があるが、フィッティングが決まればズレることもないし、長時間つけていても不快な圧迫感はなかった。
メガネ・アイウェアとの干渉
購入時に気になっていたのがメガネ・アイウェアとの干渉だが、フレームが少し浮いた形状になっているので問題なく装着できた。
レース用のRUDYのアイウェアでも干渉しなかったが、テンプルが極端に太いアイウェアの場合は当たるかもしれない。
Zwiftでの使用感
スピーカーの音量を上げてローラーをぶん回せる環境なんだけど、Zwiftのワークアウトで使ってみた。
ただでさえ汗だくになるローラートレーニング。通常のイヤホンは耳の中がジットリして不快だし、バイクの振動や呼吸音が頭に籠もる。
その点、骨伝導ヘッドホンは耳の穴を塞がないし、ビデオチャットをしながらのMEET UPも快適だった。
ただ、ドライバー部が当たるこめかみは汗ばむ。いや、顔中汗だくだけど。
ヘッドホン本体はIP55の防塵防水なので、汗で壊れる心配はない。汚れが気になる場合は軽く水で流してタオルで拭いておけばOK
ただし水没には耐えられないので、あくまで流水で洗う程度に。
公道での使用について
Zwift用に買ったんだけど、製品の性質上、公道での使用可否についても触れておく。
法律のレベルでは自転車運転中のイヤホン装着は明確に禁止されていないが、都道府県の条例レベルでは個別に規制されている場合がある。
例えば大阪府では以下のように記載されている。
ヘッドホンステレオ等を使用して大音量(警音器、緊急自動車のサイレン、警察官の指示等安全な運転に必要な交通に関する音又は声を聞くことができないような音量)で音楽等を聴きながら自転車を運転しないこと。
(注意)音量に関わらず、「安全運転の義務」に違反する可能性があります。
https://www.police.pref.osaka.lg.jp/kotsu/taisakushitsu/6/1/5864.html
イヤホンでも骨伝導ヘッドホンでも、ハンドルにスピーカーを設置しても、救急車のサイレンが聞こえないほどの爆音で音楽を聴いていたらアウトだし、適正な音量でも「あいつ耳の周りになんかついてるぞ!」とお巡りさんに呼び止められる可能性は十分ある。
また、万一の交通事故時には不利に働くこともありうる。
大体の自治体は「環境音が十分聞こえればOK」というような内容だが、京都府はかなり厳しい。無線機のイヤホンつけたパトロール中のお巡りさんはどう言い訳するんだろうか…
京都府自転車の安全な利用の促進に関する条例 第3条 (2)
http://www.pref.kyoto.jp/reiki/reiki_honbun/a300RG00001815.html
携帯電話、イヤホン又はヘッドホンを使用しながら運転をしないこと。
以上のように、たいへん曖昧な内容だし地域によっても違うので、実走中の使用に関しては、安全を確保した上で自分で判断してほしい。
まとめ:ながら聴きに最適な軽量ヘッドホン
Shokz OpenMove の売りは
- 自然に環境音が聴こえること
- 長時間の使用でも快適なこと
骨伝導ならではのポイントだが、頭に音が籠もらないのは良い。
耳元に超軽量のスピーカーが浮いている感じ。
一方で、腰を据えて音楽鑑賞するには向かない。
高級イヤホンやヘッドホンに期待するような重低音や高音の伸びは無い。
また、音量を上げると音質が悪化したりブルブルと不快な振動が出るので、低めの音量でBGMがわりに音楽や動画を流すような、ながら聴き用途で使うのがベストと感じた。
また、コロナ禍で仕事が在宅のテレワーク中心になり、長時間のWeb会議をする人たちの間でもヘッドセットとして結構な需要があるらしい。
ヘビーに使うなら6時間のバッテリーライフは十分長いとは言えないが、充電はUSB-C接続で2時間。使い勝手は良いヘッドホンだと思う。