UCIがロードレースでディスクブレーキを解禁したのが2018年。それ以降、ロードバイクのディスクブレーキ化が一気に進み、自転車メーカーのラインナップも、1車種につきリムブレーキ版・ディスクブレーキ版をラインナップ→エアロロードを中心に、ディスク専用モデルの登場→リムブレーキモデルの廃止と変化してきている。
「自転車を今買うならリムブレーキか、ディスクブレーキか」という悩みはこの数年間続いたが、MTBやシクロクロスが通った道を同じく、今後(中~高価格帯の)ロードバイクはディスクブレーキのみになりそう。
後20年もすれば、「わしが若い頃は、ホイールのリムをゴムで挟む野蛮なブレーキがついていたんじゃよ」なんて昔話をするウザい老人になっていると思うので、物忘れが激しくなる前に、リムブレーキ全盛時代の各社ブレーキの特徴を書き残しておく。
ただ、実はロードバイクにあんまり興味がないので、一昔前の古いキャリパーブレーキが中心。
なお、以下の3点を満たすものを良いブレーキキャリパーと考えている。
- 意図すればロックさせるだけの制動力があること
- レバーを引く力に比例してリニアに効くこと
- 摩擦や引っ掛かりなくスムーズに動作すること
シマノ デュラエース BR-7800
9000系もR9100系も持っていないので、いきなり旧式ブレーキの話。
7800デュラエースのブレーキ、BR-7800はシマノの冷間鍛造技術を活用して製造されている。重量はペアで実測316gと、当時としては平均的な重さ。
剛性が高く、発売当時は効くブレーキとして評判が良かった。
握り込んでいくとガツンと効く一方、コントロール性は並。
制動するという点では信頼できるブレーキだが、下りコーナーでジワーっとスピードを殺しながらバイクを倒す場面では握りゴケしそうな不安がある。
シマノ純正のブレーキパッドもガツンと効くタイプなので、社外のマイルドなブレーキシューを使うと、多少味付けは変えられる。
軽量化のためか、あるいはキャリパーの剛性を意図的に下げるためか、リヤキャリパーのみ、アーム裏側に肉抜きが施されている。
リターンスプリングの受けにはイモネジがあって戻りの強さを調整可能だが、最弱に設定していた。
シマノ デュラエース BR-7900
6700アルテグラのSTIレバーと一緒に導入したブレーキキャリパー。
7900以降はレバー比が変わり、引き量が大きくなった。高い制動力を保ちつつ、BR-7800で感じたコントロール性を改善するために必要だったらしいが…
7800までの世代のSTIレバーと7900以降のキャリパーの組み合わせは、ブレーキが効きすぎてコントロールしにくく危険だという理由でシマノ公式には互換性なしとされている。
逆に、7900以降のレバー+7800以前のキャリパーは、若干制動力が落ちるものの互換性ありとなっている。
また、当時はSRAMの台頭もあり軽量化も意識された。固定ボルトのチタン化などで、実測重量はペア299g。
他に細かな改良点として、アジャスターの背が低くなってブレーキワイヤーの取り回しがスムーズになっている。
肝心の性能については、BR-7800と同じようなキャラクターだけど、初期の効きが悪くなって、コントロール性が上がっている。絶対的なストッピングパワーも下がったような…
7800系に比べると平凡という印象。すぐにコンポを変えたこともあって短期間しか使わなかった。
カンパニョーロ スーパーレコード(11速)
これまた現行12速モデルは形状が変わっているけど、所有しているのは大胆な肉抜き(スケルトン)が特徴的な11速時代のブレーキキャリパー。
年寄りくさい発言だが、5アームクランク時代のカンパニョーロが一番優雅で美しいと思う。
フロントはデュアルピボットだが、リヤブレーキはデュアルピボットのものと、シングルピボットのものがラインナップされていた。
フロントがデュアル、リヤがシングルという構成は、フロントが制動、リヤはスピード調整といった使い方をするなら理にかなっているし、急制動時も荷重がかかるフロントが効き、リヤはロックしにくいため安全。
ただ、所有しているのは前後ともにデュアルピボットの製品。なおワイヤー固定ボルトはチタン製。
レバーも同世代のスーパーレコード、ブレーキシューもカンパ純正で使用し通勤からロード練まで毎日のように乗っているが、スピードコントロールに優れるが制動力はもう一歩足りないという感想。
下りの急カーブ前で減速するような場面で、フロント側のブレーキレバーを引ききってしまう。
もっとも、特徴的な肉抜きで意図的に剛性を下げているらしく、フルブレーキでの制動力不足もメーカーの狙い通りなのかも。
コントロール性についてはシマノ・カンパ・スラム3社のなかで一番で、ロードレースの集団走行では一番扱いやすそう。ロードレース走らないけど。
なお、カンパニョーロはレバー(エルゴパワー)側がクイックリリース機構が備えるため、キャリパー側には開放レバーがついていない。
スラム RED22
軽量コンポーネント「RED」で、カンパニョーロを瀕死に追いやった(と僕は思っている)SRAM。初代REDのブレーキキャリパーはテクトロ製(という噂)の平凡なデュアルピボットブレーキだったが、2代目となる2×11段変速のRED22にラインナップされたブレーキは変則的なシングルピボット構造。
部品点数が少なく軽量なシングルピボットブレーキをベースに、「AeroLink」というカムを使うことでレバー比を増し、制動力を高めている。
同様の構造は、軽量ブレーキの定番、ゼログラビティでも採用されている。
重量はペア240gと、79デュラより60gも軽い。
しかしキャリパーやAeroLinkの剛性が足りず、ブレーキを握り込むとたわむ。スピードコントロールはともかく、ハードブレーキングは不安なレベル。
おまけに、標準で付属するシューがスイスストップ。シュー自体が柔らかくてタッチがユルいし、効きもマイルド(婉曲)…
フロントのブレーキシューをシマノに変えたら多少は良く止まるようになったが、それでもキャリパーと、なによりREDのレバーの剛性が低く、制動力不足。
ハードブレーキングでは巨大なダブルタップレバーがハンドルを握った指に刺さってすごい痛い。もっとしっかり作ってほしい。
マヴィック SSCブレーキ
僕もリアルタイムでは知らないのだけど、ホイールメーカーのMAVICは昔コンポーネントも製作していた。
世界初の無線電動変速「メカトロニック」はイロモノ的に取り上げられることがあるので、知っている人もいるかも。
このSSCブレーキは、当時のコンポーネントのひとつとして開発され、コンポから撤退した後もしばらく販売されていたもの。
最大の特徴は、リターンスプリングに1枚のリーフスプリング(板バネ)を使用しているということ。
渦巻状に針金を巻いたバネを使う他社ブレーキと違い、フリクションロスが少なく、とにかくスムーズに動作する。
真っ黒だがディテールが凝っていて、シュー取付部は肉厚でボルトが沈む形状になっていて剛性が高そう。
ワイヤー固定部も樽状の造形。こちらは見た目のデザインだろうが、スーレコでもここまで拘っていない。
性能は文句なしで、引き始めは軽いし、握り込んでいくとディスクブレーキのようにリニアに効く。
握っただけ効くので、引いたブレーキを戻していく時に制動力をコントロールしやすく、
フロントブレーキで後輪をジャックナイフさせつつ停止するような芸当がたやすくできる。
欠点らしい点を挙げるなら、キャリパー開放レバーがついていないことと、センタリング調整ボルトが無いので片効き調整が面倒なこと、設計が古いのでワイドリムに対応できないことくらいだろうか。
重量はペア実測310g。この性能を考えると決して重くはない。
今まで使った中で最高評価のキャリパーブレーキ。もう手に入らないのが本当に残念。