Gripper Aero 600ml Bottle Cage & ReGrip Aero Bottle Cage
空力特性の改善のため、ダウンチューブ幅に合わせてカットされたエアロボトルと専用ボトルケージ。
ボトルは飲みやすく、専用ボトルケージでは一般的なサイクルボトルも使用可能と、使い勝手の良さ、汎用性を重視している。
ボトルに方向性があり、ケージに差しにくいのが欠点だが、設計者の努力と葛藤が感じられる逸品。
本稿でレビューするボトルはキャノンデール・ジャパンからの提供品、ボトルケージは同社の貸し出し品です。
長所 -Pros-
- サイクルボトルとして使いやすい
- ボトルケージでは汎用ボトルも使用可能
短所 -Cons-
- ボトルに方向性があり、ケージに差しにくい
- ボトルケージがやや重い(50g)
ボトルを付けたほうが速い
自転車がスピードを出して走っているとき、ペダリングパワーのほとんどは空気を押しのけるために使われる。
そのためサイクリストは、深い前傾姿勢を始め、ディープリムやエアロフレーム等、ポジションと機材の両面で空気抵抗の低減を図っている事は今更言うまでも無い。
そんな中、意外なもので空気抵抗を減らせることがある。
例えばボトル。「ボトルを取り付けて、前三角を塞いだほうが空力が良い」事があるという。
前輪と後輪の間、フレームやペダリングで乱れる空気の流れを整流する効果があるらしい。
これが周知されると、タイムトライアルを中心に、整流効果を狙った「エアロボトル」が作られ、販売されるようになった。一応ボトルとして使えるもののほとんどエアロパーツで、ボトルとしての完成度はお世辞にも高いとはいえなかった。
例えば、以前使用していたスペシャライズドのVirtue エアロボトルは専用ボトルケージの保持力が低く、水を満タンに入れて走行中、段差を踏むと射出されることがあった。
他のメーカーからも同種のエアロボトルが発売されて盛り上がるかに思われた…のだが、当然UCIに規制された。
現在、ボトルの寸法は直径4cm~10cm、容量400~800mlと定められている。
この条件を満たしたUCIリーガルなボトルも発売されているが、飲みやすさやケージへの脱着に難があるためかロードレースではほぼ見かけず、タイムトライアルで使う選手がいるくらいだ。
なお、UCIルールに縛られないトライアスロンバイクでは、前三角の下部を塞ぐような専用の「ボトル」や「ストレージ」が設けられることも多い。
当然ながら、UCIルールが適用されるタイムトライアル競技で使用する場合は取り外す必要がある。
「ボトル型のエアロパーツ」ではなく「エアロボトル」
「グリッパーエアロ ボトル」と、専用の「リグリップ エアロ ボトルケージ」は、2023年デビューの新型スーパーシックスエボ(第4世代)と同時に開発された。
グリッパーエアロボトルは一見普通のボトルに見えるが、両サイドがダウンチューブ幅に合わせてカットされ、フレームからの張り出しをなくす形状となっている。
新型スーパーシックスエボのダウンチューブとシートチューブにこのボトルを取り付けると、システムシックスと同等…要するに世界トップクラスの空力性能になるという。
サイクルボトルとしての使い勝手も上々で、キャップ周辺は通常のサイクルボトルと同じ円断面で、滑り止めパターンも配置されているので握りやすい。
バルブも大きく開き、ボトル本体も柔らかいのでゴクゴク飲める。(今更当たり前の話だけれど)プラスチックの嫌なニオイもしない。
シルエットは750mlボトルに見えるが、スリムな形状のため容量は少なめの600ml、重量は70gとなっている。
直径74mmのサイクルボトルがベースになっており、カット部分の幅は約56mm。
ボトルの固定には、次項で紹介する専用のボトルケージが必要だ。
取り付けに使用するレールが設けられているため、最大寸法は約80mm。そのため、汎用ボトルケージには入らない(針金タイプのケージなら、かなり無理をすれば収まらないこともないが…)。
エアロ形状の副産物として、ジャージのバックポケットに入れた際の収まりが良い。
汎用ボトルも使えるボトルケージ
グリッパーエアロボトルと組み合わせるのが、専用の「リグリップ エアロ ボトルケージ」。
ナイロン製で、重量は50gと少し重いものの十分な固定力を備え、ボトルをしっかりホールドしてくれる。
ボトルを装着するときは、側面のレールをケージの溝に合わせて差し込む。
また、このボトルケージは直径74mmの一般的なサイクルボトルも使用可能という特徴を持っている。
様々なエアロボトルと専用ケージが市販されているが、エアロボトルと汎用のサイクルボトルが両方使えるケージというのは他に例がない。
ケージが共用できると、レースではエアロボトル、長距離のサイクリングでは大容量のロングボトルという使い分けができるし、暑い夏場のトレーニングでは保冷ボトルを使うこともできる。
汎用ボトルが使用できることで、エアロボトルの出番も自ずと増える。これは優れたアイデアだ。
ただ、あえてケチをつけるなら、ケージのデザインが気になった。
有機的な肉抜きが施されているが、こういう泡だて器のような形状は大量に渦を発生させ、空気をかき乱す。
数値解析をしたわけじゃないので憶測になるが、ケージ単体ではかなりの空気抵抗を発生させるのではないだろうか。
用はなくても、常にボトルを差しておいたほうが良さそうだ。空気抵抗を増やし、トレーニング負荷を高めたいならこの限りではないが…
抜き差しには慣れが必要
ボトルとして、ボトルケージとしてはなかなかに優れた製品なのだが、最大の欠点がボトルを差しにくいことだ。
円筒形のボトルと異なり、本品はボトルの位置と向きを合わせないとケージに正しく収まらない。
慣れれば手探りで抜き差しできるようになるが、それでも「ちゃんと入ってるかな?」と心配になってしまう。
数日間使い続けて、それなりにストレスなく使えるようになったが、それでも汎用ボトルの使い勝手には及ばない。
限界ペースでのヒルクライムや過酷なインターバル直後など、追い込まれた状況ではミスをするかもしれない…
エアロボトル専用のボトルケージを設計すれば、もう少し使いやすくなったはずだ。
しかし、ノーマルボトルとの互換性を保つにはこれが限界だったのだろう。
エアロボトルの使いやすさに振り切るか、汎用性を重視するか。開発者の葛藤を強く感じた部分である。
ボトルとケージは単品購入可能
ボトルケージとボトルは単品でも購入可能。スーパーシックスエボに最適化してあるが、ダウンチューブ幅が近いバイクなら効果はあるかもしれない。
Bottle Cage
600ml Bottle
まとめ:性能とユーザビリティ
抜き差しのしやすさに難点があるものの、サイクルボトルとして、ボトルケージとして優れた製品だと感じた。
水が漏れるボトルや段差で吹っ飛んでいくボトルケージを販売するメーカーは見習ってほしい。
ただ一方で、フィン形状をした「ボトル型エアロパーツ」に比べると、空力的に無駄が多いようにも思える。
それは妥協ともとれるし、ユーザビリティを重視した結果ともとれる。
キャノンデールというのは「信念に従って我が道を行く」癖の強いブランドだ。
片持ちサスペンションフォーク「Lefty」を筆頭に、独自規格や専用パーツを積極的に採用してきた。そのため、バイクやパーツ類が供給されるファクトリーライダーならともかく、アマチュアサイクリストにとっては、(身も心もキャノンデールに捧げる)覚悟が必要なブランドだった。
ただ、最近のキャノンデールはモノづくりの姿勢が激変した。シナプス(2022)やトップストーン(2022)以降は、ボトムブラケット規格をBB30からスレッド式に変更したり、オフロード系バイクのAiオフセットを廃止するなど、独善的な設計は鳴りを潜め、運用性、ユーザビリティを重視するように変化してきている。
昔のキャノンデールなら、ボトルもケージもフレーム専用設計にして、徹底的に空力を追求しただろうが、今回はそうしなかった。
専用エアロボトルも汎用ボトルも使えるこのボトルケージを手にとって、キャノンデールの新たな哲学が感じられた。