Cannondale Topstone Carbon 1 Lefty
キャノンデールのグラベルバイク「トップストーン」のラインナップ中、最も高い走破性を備えるモデル。
グラベル専用に設計された30mmストロークの片持ちサスペンションフォーク Lefty Oliver を搭載し、フレームと一体化したリヤの「Kingpinサスペンション」とあわせて、フルサスペンションバイクと言える構成になっている。
独自のチューニングにより、舗装路のペダリングロスを抑えつつ、ハイスピードのグラベルやシングルトラックでは高い衝撃吸収性を発揮する。
本稿でレビューするバイクはキャノンデール・ジャパンの試乗車です。パーツスペックは市販車両に準じます。
長所 -Pros-
- 高い衝撃吸収性と接地性
- 一般的な規格を採用し整備性良好
- 独特のスタイルと性能を兼ね備えるLeftyフォーク
短所 -Cons-
- 独自規格のフロントホイール
- 入門者にとっては過剰なスペック
- 100万円に迫る価格
キャノンデールのグラベルバイクラインナップ
北米3台ブランドのひとつ、キャノンデールといえば今やロードバイクのイメージだが、実は個性的なMTBをいくつも送り出してきたブランドでもある。
そんなキャノンデールは近年盛り上がりを見せるグラベルバイクにも意欲的だ。
一言で「グラベルバイク」と言ってもその楽しみ方は多彩で、1台で全てをカバーするのは不可能なのだ。
グラベルレースで優勝を目指すのか、あるいはバイクパッキングスタイルでキャンプを楽しむのかで、自ずとバイクのスタイルも変わってくる。
キャノンデールでは以下の3車種をラインナップしている。
- Topstone Alloy
- Topstone Carbon
- SuperSix EVO SE/CX
Topstone Alloy
街乗りからツーリング、グラベルまで対応するエコノミーなアルミグラベルバイク。
コンポーネントにもよるが、メインの価格帯は20万円台。初めてのスポーツバイクとして手を出しやすいバイクが揃う。
当然パーツは価格相応だが、走行性能に大きく影響するフォークはカーボン製なのがこだわりを感じるポイントだ。また、「たかがアルミ」といえど、キャノンデールはもともと高性能アルミフレームで地位を築いたブランド。あなどれない。
最大45cまでのタイヤに対応し、ストレージ用のダボ穴も豊富についているので、キャンプツーリングにも使えそうだ。
既に深い沼にどっぷり浸かったサイクリストの目には留まらないバイクかもしれない。だが、学生時代サイクリング部に所属していた私にとっては妙に惹かれるバイクでもある。
Topstone Carbon
キャノンデールの主力グラベルバイクが本稿でレビューする「トップストーン カーボン」。
用途にあわせて、軽快なリジッドフォークのモデルと、よりハードな状況に対応できるフロントサスペンション付きモデルがラインナップされる。
フレームの特徴については後述するが、フレームと一体化した軽量な「KingPinサスペンション」が一番の目玉といえる。
最大タイヤ幅は45mm。アドベンチャーライドからバイクパッキングまで、一通りこなせる懐の広さを持っている。
SuperSix EVO SE/CX
SuperSix EVO SEの立ち位置は「グラベルレーサー」。軽さと反応性を武器にしたバイクだ。
私が目の敵にしていた(笑)グラベル・シクロクロス共用フレームでもある。
グラベル向けのモデルがSuperSix EVO SE、シクロクロス向けモデルがSuperSix EVO CXとされているが、
EVO CXには前乗りを想定した0mmオフセットのシートピラーが付属するくらいで、フレームは全く同一。
実際のところ、SuperSix EVO SE/CXのジオメトリは先代のシクロクロスバイク「SuperX」と全く同一で、違いといえばタイヤクリアランスが40mmから45mmに拡大されたくらい。つまり、「シクロクロスフレームをグラベルに転用した」という言い方が正しい。
スタビリティ重視のジオメトリなので、BBがやや高いものの確かにグラベルレースで使えそうだ。
このあたりは以下の記事を参照のこと…
最もハードコアなグラベルバイク Topstone Carbon Lefty
今回レビューするのは、「Topstone Carbon 1 Lefty」。キャノンデールのグラベルバイクラインナップ中で最もハードコアな1台だ。
キャノンデールのアイコンである片持ちの倒立サスペンションフォーク「Lefty」を装備し、フレームのKingPinサスペンションとあわせて、フルサスペンション構成になっている。
サスペンションにより衝撃を吸収しバイクの挙動が安定するため、グラベルライドはもちろん、MTBが走るようなシングルトラックでも対応できるキャパシティを持つ。
サスペンションのデメリットのひとつが重量増だが、Topstone Carbon 1 LeftyはSRAMのワイヤレス電動コンポーネント Force eTap AXS XPLRやフックレスカーボンホイールで軽量化し、ペダルレス8.7kgを実現している。
しかもこれは、45cタイヤをチューブドで運用している場合。チューブレス化すれば8kg台前半は確実だ。
片持ち倒立フォーク「Lefty Oliver」
このバイクを前にして、真っ先に目につくのが、左側のレッグしか存在しない片持ちフロントフォークだ。
キャノンデールのアイコンともいえる「Lefty」フォークは、
- 高剛性な倒立レイアウト
- 低フリクション
という特徴を持つ。さらに、Lefty Oliverはグラベルライドに最適化され、サグ0mmという独特なチューニングが施されている。
高剛性な倒立レイアウト
通常のサスペンションフォークは、インナーチューブが上側、アウターチューブが下側だが、Leftyは逆に、上側がアウターチューブ、下側がインナーチューブとなっている。
これを倒立フォークといい、大きな力が加わるフォーク根本を太いアウターチューブで支えるため剛性が高く、オートバイの世界では高性能マシンの代名詞になっている。
Leftyは、ダウンヒルMTB用の倒立フォークを半分にすればいいのではないか?というアイデアに端を発しており、
見た目から受ける弱そうな印象とは裏腹に、LeftyのMTB用フォークは、他社製のクロスカントリーMTB用フォーク以上の剛性を誇るという。
また、バネ下重量が軽いことも特徴。ホイールと一緒に上下動する部分が軽くなるため、路面の凹凸に対する追従性が高い。
低フリクション
サスペンションには、大きな負荷がかかっている際にもスムーズに動作することが求められる。
高性能なサスペンションフォークは、ブレーキ中など、フォークに横力が掛かっている際でも引っかかりなくストロークする。
通常のサスペンションフォークでは、アウターチューブがとインナーチューブの間にはブッシングと呼ばれるすべり軸受が打ち込まれており、ここで摺動するようになっている。
一方でLeftyは、三角柱をしたインナーチューブ側面をニードルベアリングで支持する構造になっている。
これは、ハンドルの向きに対してインナーレッグが回転しないようにするための工夫だが、同時に低フリクション化にも一役買っている。
特に、サスペンションの動き始めで引っかかりがなく、なめらかに動く。
さらに、そもそも脚が1本しかないため、(乱暴に言えば)各シールで発生するフリクションも半分だ。
サグ0mmのグラベル専用チューニング
以上がLeftyの一般的な特徴だが、TopStone Carbon Leftyに搭載される「Lefty Oliver」はグラベル専用の設計がなされている。
まず、ストロークはわずか30mm。100mm以上あるMTBフォークと比べると極端に短く、バイクの軽快感を損なわないようになっている。
最も注目すべき点は、サグが0mmという事。通常サスペンションフォークは、乗車時にストロークの10~15%ほどが沈んだ状態になる。これをサグと言う。
サグがあることで、ギャップで路面からタイヤが離れた時、サスペンションが伸びて接地性を確保できるのだ。
サグが無い、あるいは小さすぎるバイクは、前輪が弾かれた時にそのままグリップがスコンと抜けて転倒しやすい。
では、なぜLefty Oliverはサグが0mmなのか。それはひとえに、舗装路でのパワーロスをなくすためだ。
サスペンション付きバイクでペダリングすると上下にストローク(ボビング)し、ペダリングパワーの一部が浪費される。
でこぼこ道を走るMTBの場合はそれでも衝撃吸収のメリットが上回るが、舗装路だと無視できない損失になる。
そこでLefty Oliverは、普段はリジッドフォークとして振る舞い、大きな荷重や衝撃が加わった時だけサスペンションとして働くようなチューニングがなされているというわけ。
一応、サスペンションを固定するロックアウトレバーが設けられているが、激坂でダンシングする時くらいしか使わない。
おそらく、Lefty Oliverの思想は「タイヤの補助」だ。
バイクの接地性はタイヤで確保し、大きな荷重に対してのみサスペンションが補助を行う。実際乗ると、タイヤが1サイズ、いや2サイズ太くなったような感覚だ。
なので、このフォークを活かすには、太めのタイヤを履き、低めの空気圧で使う必要があると感じた。
サスペンションがあるからといって、高めの空気圧を入れると、(たしかに転がりは軽いが)全然グリップしてくれない。
なお、最適な空気圧とリバウンドセッティングはレッグに記載されている。
ホイールの着脱
ホイールの着脱は難しそうだが、実に簡単だ。
Leftyのホイールは軸方向に引き抜くため、ブレーキローターが引っかからないようにキャリパーを一旦取り外す。
昔のLeftyフォークはボルトを緩めて、また調整して…と面倒だったが、最新のLefty Oliverはクイックリリースレバーを操作するだけでブレーキキャリパーが外れる。
テーパーで位置決めされているため、再調整も不要だ。
キャリパーを外したら、ハブ軸中心のキャップボルトを5mmの六角レンチで緩めるだけだ。ボルトは脱落しないような構造になっているので、どこかに置き忘れるリスクがあるスルーアクスルより余程安心だ。
運用面で課題
高性能…と、何より見た目のカッコよさは申し分ないLeftyフォークだが、欠点もそれなりにある。
まずはハブが専用となること。完組ホイールの利用は絶望的で、Leftyハブでホイールを組む必要がある。
他のバイクとのホイール共用もできないため、少々手を出しづらい面はある。
また、Leftyフォークは定期的に「ベアリングリセット」という作業が必要だ。
構造上、使用に伴ってニードルベアリングの位置がズレ、ストロークが少なくなってしまうので、およそ50時間を目安に、ベアリング位置を正しい位置に戻す必要があるのだ。
作業自体は簡単で、サスペンションのエアを抜いて、何度かガンガンストロークさせるだけ。
5分ほどで終わるが、こういう一手間が必要という点は認識しておきたい。
フレーム
フレームはTopstone Carbonとして第2世代にあたり、以下のようなスペックを備えている。
- Kingpinサスペンション
- ワイヤー類外装
- JIS BB
- 積載用ダボ
- 最大45mm幅のタイヤに対応
初代Topstone Carbonではリヤホイールのセンターを6mmずらすことでホイール剛性を適正化する「Aiオフセット」が採用されていたが、今作では廃止され、142x12mm規格の通常のホイールが使用可能だ。
キャノンデールらしい合理的なシステムではあったがホイール互換性の点で難があったため、ユーザーの立場では歓迎すべき仕様変更だ。
第2世代Topstone Carbonは、様々な用途に対応し整備運用もしやすいグラベルバイクとなっている。
試乗車のカラーはRally Red。一見黒っぽく見えるが、光が当たると赤色が浮かび上がる。
ダウンチューブに文字はなく、エンボス加工の「cannondale」ロゴがトップチューブに小さく設けられる。
全体的に上品で高級感がある仕上がりだ。まぁ、実際に高級なんだけど(94万円)。
キャノンデールのバイクは何故か写真映りが悪く、カタログではパッとしない印象を受けるのだが、実車を見ると深みのある良いカラーリングであることが多い。
Kingpinサスペンション
Topstone Carbonの目玉が「Kingpinサスペンション」と呼ばれるサスペンション機構だ。
サスペンションと言っても、MTBのようにスイングアームやリンク、ショックユニットを組み合わせたものではない。
Kingpinサスペンションはフレームの構造と一体化しており、シートチューブをバネとすることでサスペンション機能を実現している。
シートステーとシートチューブはピン接合されており、シートチューブがたわむことで後輪に加わった衝撃を受け止める。
ストロークは30mmと(MTBに比べれば)短いが、軽量でメンテナンスフリーだ。
Kingpinサスペンションには調整機構が無いが、フレームサイズごとに硬さが調整されており、小さいフレームは柔らかく、大柄なライダーが乗る大きいフレームは硬く設計されている。
ところで、リヤサスペンションのメリットは乗り心地改善だけではない。
単に衝撃を吸収し、ライダーの疲労を軽減するだけならシートポストの剛性を下げるほうがシンプルだし軽量だ。実際、他のブランドはそういうアプローチを取ることが多い。
キャノンデールが敢えてリヤサスペンションを選んだ理由は、おそらく後輪の接地性を確保するためだ。
サスペンションによってタイヤは路面に追従し、荒れた路面でもトラクションが掛かるし、ブレーキ、コーナリングの安定性も高まる。
オフロード走行では、重量増やある程度のパワーロスを覆すメリットがあると判断したのだろう。
キャノンデールは古くからフレームの衝撃吸収性向上に取り組んできたブランドだ。
アルミ時代のアワーグラスシートステーや、SAVEテクノロジーなど、他ブランドが「ひたすら軽く硬いバイク」を追求していた時期にも、衝撃吸収性を意識したバイクづくりを行ってきた。
ロードバイク・MTB両方のバックグラウンドがあり、後輪の接地性がいかに重要か理解しているのだろう。
Kingpinサスペンションは、こういった衝撃吸収構造の集大成と言える。
SuperSix EVOやSynapse Carbonといったロードバイクでも(より簡素化された形だが)同種の構造が確認できる。
ワイヤー外装と汎用規格を採用
最近のトレンドであるワイヤーフル内装&ステム一体ハンドルのバイクと対照的に、Topstone Carbonはサンデーメカニックにとってずいぶん親しみやすい仕様だ。
ワイヤー類は外装だし、BBもJIS規格のねじ切りタイプだし、ハンドル周りも、シートピラー(27.2mm)も汎用の規格だ。
好みのハンドルを選んで、好みのポジションに設定する。かつて当たり前だったことが当たり前にできる。
レビューした試乗車はハンドルが高く近すぎたのだが、長いステムに交換し、コラムスペーサーを抜き、ヘッドセットのダストカバーを背が低いものに交換して、好みのポジションに調整できた。
SuperSix EVOではこうはいかない。ステム長を変えるだけでも、ブレーキホースを切って繋いでの大仕事だ。
ただし、ケーブルルーティングはイマイチ。日本で一般的な右前ブレーキだと、リヤブレーキホースの取り回しが悪い。
昔乗っていたCAAD10もリヤブレーキワイヤーの収まりが悪かったし、キャノンデールのバイクは左前ブレーキ前提で設計されているのだろう。
また、チェーンステー部分もブレーキホースが外装なのは、流石に野暮ったいと思う。
積載性
グラベルライド中の荷物をバイクに装着できるよう、積載性も考慮されている。
トップチューブ上面にはトップチューブバッグ用の台座が装備され、ダウンチューブ裏面にもボトルケージ台座が備わる。
また、Topstone CarbonはCannondaleのレーダー・ライト統合システム「SmartSense」に対応しているが、非装着モデルのバッテリー台座部分を塞ぐプラスチック製の蓋は、チューブなどをバンドで装着できるアクセサリーマウントとして機能する。
さらに、裏技的な使い方になるが、この蓋を外すとダウンチューブ内にアクセス可能で、内部にチューブなどを収納できる。
ただし、これはあくまでも非公式な使い方で、硬いものや重いものを入れるとフレームにダメージを与える可能性がある。ここの利用は自己責任で。
なお、リジッドフォークのモデルではフォークブレード側面にも台座が備わる。
各種ストレージの台座が充実している一方で、フレームバッグとの相性は悪い点には要注意だ。
フロントサスがストロークした際にタイヤが当たらないよう、Topstone Carbonのダウンチューブは高い位置に逃され、前三角が小さい。
そのうえダウンチューブのボトル台座も高い位置にあるため、フレームバッグを取り付けるとボトルの抜き差しが難しい。
ジオメトリ
ジオメトリはトップチューブが長くステムが短い「アウトフロントジオメトリ」を採用。
ヘッド角も寝ており、グラベルバイクらしい、安定感あるハンドリングに仕上がっている。
一方で、前輪が遠いため小回りは苦手だ。タイトな切り返しではフロントが回り込むような動きをする。
ジオメトリで特徴的なのはBBの高さ。
通常、グラベルバイクのBBは安定性重視で低くなっている。太いタイヤは直径が大きいこともあって、標準的なBBドロップは75~80mmだ。
しかし、Topstone CarbonのBBドロップはなんと61mm。ロードバイク(70mm程度)どころか、シクロクロス並の高さだ。
おそらく、前後にサスペンションを搭載することを前提として、サスが沈み込む分の余裕を持たせているのだろう(フルサスペンションMTBも同様にBBが高い)。
コンポーネント
Topstone Carbon 1 Leftyはシリーズ最上位モデルだけあって、上位グレードのコンポーネントが採用されている。
HollowGram G-S 27 Carbon ホイール
ホイールはキャノンデールの独自ブランド品「HollowGram G-S 27 Carbon」がセットされる。
内幅27mmのワイドなフックレスカーボンリムはエアボリュームが豊富で、コーナーでもタイヤがヨレにくい。
さらに、重量1425g(前後12mmスルーハブ仕様の公称値)と軽量なので、よほどホイールにこだわりが無い限りは、敢えて交換する必要は無いだろう。
標準装備のタイヤはWTBのRaddler TCS Light 44c。
クロスカントリーMTBタイヤのようなアグレッシブなパターンで、ちょっとしたシングルトラックなら不安なく走れるグリップを備える。
ただし舗装路では転がり抵抗が大きいため、グラベルライドメインならもう少しスピード重視のタイヤが良いだろう。
SRAM Force eTap AXS XPLR
駆動系はSRAMのワイヤレスコンポ Force eTap AXS XPLRが搭載される。
XPLR(エクスプロア)はグラベルライド向けの1x(フロントシングル)コンポーネントで、フロントチェーンリングは40T、カセットは12sの10-44Tとなっている。
カセットは2T刻みなので、舗装路巡航時には最適なギヤに合わせづらく、不満を感じる。一方、グラベルライドでは使いやすい。
試乗車のコンポは旧型で、ブレーキレバーのブラケットが大きく太かった。かなり手が大きい私でも握りづらく感じたので、平均的日本人がしっかり握るのは難しいだろう。
なお現行Forceはレバーが小型化され、握りやすくなっている。
アルミ製のフレアハンドル
ハンドルはアルミ製。ブラケット部の幅は44cmだが、ドロップ部は12度のフレアがついて、さらに広がっている。下ハンを握った際に抑えが効き、バイクをコントロールしやすい。
実走レビュー
実走レビューでは、バイクを2ヶ月以上お借りし、舗装路はもちろん、グラベル、トレイルを合計1000km乗り込んだ。
その間、グラベルレース(日本グラベル選手権)やライドイベント(ニセコグラベル)にも参加した。
舗装路
まずは舗装路。SuperSix EVOと比べるのは流石に気の毒だが、加速のキレやスピードには乏しい。
フレーム自体レース向けではないし、リヤサスペンションはペダリングで僅かに沈み込み、ロスを生む。
仮にロードタイヤを履いても、完全なロードバイクにはならない。という点は認識しておかねばならない。
グラベル専用設計のLefty Oliverフォークは好感触。シッティングだとリジッドだが、小さな段差に突っ込んでみるとストロークする。
MTBフォークのような懐の深さは無いが、30mmのストロークで不快な衝撃をいなしてくれる。
普通に走る限りフォークは無駄に動かないが、激坂でダンシングする時だけは流石にフォークが伸び縮みする。
もっとも、ロスが気になるならロックアウトレバーを回してやれば良い。
ハンドリングは、ジオメトリから想像した通りゆったりしたもの。バイクを傾けて、タイヤのキャンバースラストも活かして曲がっていく感じだ。
とはいえ、峠のダウンヒルは異様に速い。舗装路でもグリップするグラベルキングSSなんかを履くと、ちょっとヤバいくらいのペースで下っていける。サスペンションの効果は絶大だ。
なおLeftyフォークの左右差は、すぐに慣れるレベルだった。
重心が左に寄っているため、左コーナーのほうが少しだけ曲がりやすいように感じるが、2~3回乗ったらもうわからなくなる。
ただ下を向くと、あるべき位置にフォークブレードが無いので、気分的にちょっと怖い。
グラベル
グラベルはTopstone Carbonの独壇場だ。フレームの剛性も、ハンドリングも、グラベルをターゲットに設計されている。
前後にサスペンションがあることでタイヤが安定して接地し、ブレーキもハンドルもよく効く。まるでタイヤがワンサイズ太くなったような安心感がある。
特にフロントのLeftyフォーク。ガツンと来る衝撃を吸収してくれるため挙動が乱れないし、上半身へのダメージも軽減される。
2時間40分の長丁場となった日本グラベル選手権では大きなアドバンテージになった。
トレイル
続いてトレイル。普通のグラベルバイクでは我慢が必要なレベルのシングルトラックに分け入ってみる。
ここでもサスペンションが活躍。タイヤが弾かれる根っこや、ちょっとしたドロップオフも乗車していける。
フレアハンドルの下ハンを握れば、しっかり抑えが効くのでMTBのように走れる。
BBが高く、ペダルやチェーンリングを障害物に引っ掛けにくい点も好印象だ。
急な上りではリヤのKingpinサスペンションが仕事をしてトラクションを確保してくれる。
多分、昔のMTBより走破性は高いと思う。
まとめ:グラベルバイクにサスペンションは必要か
前後にサスペンションを搭載し、グラベルバイクの中ではトップクラスの走破性を誇るCannondale Topstone Carbon 1 Lefty。
2ヶ月以上、1000kmにわたり、あらゆるシチュエーションでこのバイクをテストし、「グラベルバイクにサスペンションは必要か」見極めた。
スペックは掛け値なしに最高で、高い振動吸収性能と安定した接地性を備える。このバイクでなければ味わえないスピードレンジは確かに存在する。
また、ハイスピードなグラベルでもしっかりと車体を安定させてくれるため、同じスピードならより安全にライドを楽しめる。
しかし、グラベルライドという「遊び」では、スペックが高すぎるのも悩ましい。
「普通の」グラベルバイクで楽しめるグラベルは、Topstone Carbon Leftyではイージーすぎて退屈に感じてしまうのだ。
簡単に乗れてしまうから、不安定な状況でバイクをコントロールする楽しさや、だんだん上達していく感覚も味わいづらい。
過ぎたるは猶及ばざるが如し。過剰なスペックはグラベルライドの楽しさをスポイルしてしまう。
少なくとも、グラベルライド入門者の選択肢としてはおすすめできない。
また、サスペンション搭載によって重量は嵩み、軽快感は損なわれるし、メンテナンスに気を使う必要もある。
最大のネックは価格だ。
Topstone Carbon 1 Leftyの価格は税込み94万円(2023モデル)。
サスペンションに加えてワイヤレス電動コンポ、フックレスのカーボンホイールで武装したこのバイクは、後からパーツ交換する必要はないとはいえ、ほとんど100万円コースだ。
このバイク、グラベルライド入門者にはオーバースペックだ。
だが、既にグラベルライドを楽しみ、相応の経験とテクニックを備えたサイクリストにとっては、今までの限界を打ち破る最高の1台になるかもしれない。