Garmin Fenix 6s Elevate光学式心拍計の精度について

パワーメーターを使ったトレーニングを行っていても、身体の負荷を測る指標として心拍数も重要。
心拍計の主流は、胸に巻いたバンドから心臓の電気信号を読み取る心拍バンド(いわゆる乳バンド)だが、装着が面倒さや締めつけ感といった欠点がある。

一方で、数年前からは光学的に心拍(正確には脈拍だが)測定を行う心拍計が世に出てきた。これは、LEDの光を皮膚に当て、反射光から血管を通る血流を測定するという仕組み。

Mio LinkやGarmin Vivoactive, Foreathlete等の腕時計型デバイスをいくつか使ってきたが、ローラーはともかく、実走でハンドルから振動が加わる状況では明らかに異常な心拍数を示すこともあり、測定の信頼性という点で心拍バンドには遠く及ばないという印象だった。

2020年8月、最近使っているGarmin fenix 6sにファームウェアアップデートがあり、光学式心拍計の精度が良くなったように感じたので、比較してみた。

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ガーミン(GARMIN)

Garmin Elevate 光学式心拍計について

手首や腕で測定する光学式心拍センサーは反射型という形式で、皮膚にLED光を照射し、反射光の変動から脈拍を測定する。

動脈に緑色のLED光を照射すると、血液中のヘモグロビンに反射して返ってくる。脈拍にあわせて血管が拡張しているときは反射光が少なく、収縮しているときは反射光が多いため、光量の変化を光センサで捉えることで心拍数の測定ができるという原理。

光学式心拍計の測定原理

Garminの腕時計型デバイスに搭載されている光学式心拍計「Elevate」は、測定精度を向上させるため、以下のような特徴を備えている。

1.ノイズの抑制

時計と手首との密着度や、腕の動き、あるいは振動の影響を受けにくいよう、Garminの光学式心拍計は、加速度センサーからの情報などで光学センサーの測定値に補正をかけている

2.省電力と高精度の両立

安静時と運動時では心拍数が異なるため、安静時はサンプリングレートを低くして省電力に、心拍数が上がる状況ではサンプリングレートを高くして、より高い精度で心拍測定を行えるように工夫されている。

後述するが、運動時の心拍測定は万能ではない。しかし、動きの少ない安静時の心拍数はなかなか正確に測定できている印象。

Garmin製品は数日は平気でバッテリーが持つので、睡眠中も装着することで、睡眠時間や睡眠中の動きに加え、疲労のバロメーターとなる起床時心拍数を毎日測定できる。

光学式心拍計の精度を検証

自転車で実走中の心拍測定において、光学式心拍計はあまり当てにならないと感じている。

光学式心拍計の技術はまだ発展途上で、Garminでも新機種が出るたびに形状が変わり、バージョンアップしていることが伺える。また、ソフトウェアによっても性能が左右される。

fenix 6sの心拍センサーは当初は精度が悪かったが、2020年8月のファームウェアアップデートで大幅に高精度化された。fenix 6シリーズとforeathlete 945、foreathlete 245、Vivoactive 4シリーズ、Venu、あとは新発売のforeathlete 745に同型の心拍センサが搭載されている。

では、最新の光学式心拍計は自転車でどれくらい使えるのか?ローラーおよび実走にて、心拍バンドとの比較を行った。

比較1:ローラー台での心拍数測定値

いわゆる乳バンド式心拍計のCATEYE HR-11 割と年季が入っている

固定ローラーSaris H3上でインターバルトレーニングを行い、胸部に巻きつけるタイプの心拍バンド CATEYE HR-11と、fenix 6sの光学式心拍計の比較を行った。

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キャットアイ(CAT EYE)

測定した心拍データそれぞれを以下に示す。

グラフ1:固定ローラーでの心拍数測定値

スタート直後の測定エラーと、450秒あたり、1200秒あたりで大きめの差が出たものの、概ね乳バンドと遜色ない精度で測定できている。

光学式心拍計は反応がやや遅く、若干高めの測定値になる傾向となった。

比較2:実走での心拍数測定値

ローラーではそこそこ信用できることがわかったが、実走では路面の振動に影響されることが予想される。

そこで、ロードバイクで舗装路を走り、CATEYE HR-11とFenix 6sの心拍数測定値を比較した。

先程と同様、測定した心拍データそれぞれをプロットしたグラフを以下に示す。

グラフ2:実走での心拍数測定値1(上り区間)

グラフの600~1000秒あたりでギザギザしているのは信号が多い区間。信号停止時は心拍が下がるが、Fenixの光学式心拍計は反応が遅い。急激な心拍数の変化には追従できないようだ。

いっぽう、1000秒以降では、信号の少ない登り基調の練習コースに入る。すると、光学式心拍計は乳バンド心拍計とほぼ同じ心拍数を示すようになった。

これなら、光学式心拍計は十分、乳バンドの代替になる。すごいじゃん、と思ってたら、コースが下り基調になって舗装状況もやや悪化。ご覧の通りに…

グラフ3:実走での心拍数測定値2(スピードの出る区間)

Fenixは心拍数の変化に追従できていないし、測定値も不安定。やはり、ハンドルからダイレクトに振動が伝わる状況は苦手らしい。

比較3:実走での心拍数測定値(上腕に装着)

同じ光学式心拍計でも、PolarのOH1は測定位置を上腕部にすることで振動の影響を少なくしている。バッテリーライフがやや短いが、実走でも心拍測定の精度は良いと聞いたので、Garmin Fenixを同じように二の腕に装着してみた。

二の腕にFenix 6sを装着

長めのベルクロバンドに交換していたため、上腕になんとか装着できた。ボタン操作はしにくいが、画面は意外と見やすい。あと、顔に近いのでアラーム音がよく聞こえる。

この状態で、先程と同様に練習コースを実走し、心拍数を比較した。

先程と同じ上り中心の練習区間で心拍グラフを比較したところ、手首に装着した場合よりも、Fenix 6sを上腕に装着したほうが、より乳バンドに近い測定値を計測している。

グラフ4:手首装着と上腕装着の比較(上り区間)

では振動が激しくなる下り区間ではどうか。ここからは前回と違うコースに入ったので比較はできないが、ご覧の通り、手首装着との差は歴然。

グラフ5:実走(上腕装着)での心拍数測定値2(スピードの出る区間)

1800~2000秒あたりは下り区間で、350Wくらいで踏んで60km/h以上出てるんだけど、乳バンドとの測定誤差は十分に許容範囲に収まっている。

上腕に光学式心拍計を装着したときは、以下のように、帰宅するまでの全ての速度域、心拍数で、乳バンドとほぼ同じ心拍数を記録し続けていた。

グラフ6:実走(上腕装着)での心拍数測定値(全体)

まとめ:光学式心拍計の現状

血管に照射したLEDの反射光で血流の変化を検知して心拍数を測定する光学式心拍計は、振動に弱いという印象を裏付ける結果になった。

  • ローラーや、スピードの遅い上りでは心拍バンドとほぼ同じ心拍数を測定できる。
  • スピードが出たり、路面状況が悪い場合など、心拍計に振動が伝わる状況では正確に測定できない
  • 上のような状況では、振動の影響が少ない上腕(二の腕)に光学式心拍計を取り付けることで、心拍測定の精度を高められる

GarminのFenixシリーズやForeathlete(Forerunner)シリーズが主に想定しているランニングに比べると、自転車乗車中はハンドルから振動・衝撃が絶え間なく加わる。こういう状況では、手首での光学式心拍測定はまだ難しいようだ。

二の腕に装着すると十分実用になるが、いちいち付け替えるくらいなら乳バンドでいいや…と思ったりもする。ここは、手首測定で高精度な心拍測定ができる製品に期待したい。

数年前の光学式心拍計は、どうやっても自転車で使い物にならなかったことを思うと、もう一息で実現できそうな気がする。