シマノXTRペダルの独自設計について ~下位グレードSPDペダルとの違い:オフセットビンディングとスタックハイト~

MTB用ビンディングシステムは歩行性に優れ、マウンテンバイク以外にもシクロクロス、グラベル、ツーリングや街乗りにも適している。

その中でも、シマノのSPDペダルは安価で入手性も良いためユーザーが多いが、XTRのみクリート前後位置が異なる点はあまり知られていない。

複数台持ちにとっては悩みのタネとなるSPDペダルのオフセットビンディングとスタックハイトについて解説する。

XTRペダルのみビンディング金具の位置が異なる

PD-M980 XTRペダルで採用されたオフセットビンディング

シマノの最上位MTBコンポーネント XTRのペダルはSPDペダルのラインナップの頂点に位置し、軽量なボディ、スムーズなベアリング、高いペダリング効率を実現している。

XTRには最新の技術がいち早く投入されるが、2011年発売のM980系XTRでは、ペダルに大幅な設計変更がなされた。

M970XTRまではペダルの寸法が全てのグレードで同じだったが、M980XTRのクロスカントリー用ペダル PD-M980は、ダイレクト感を高めるためスタックハイトが下位グレードより2mmほど低く、足裏とペダル軸との距離が近い。

一方、オフロードで使用されるMTBペダルには、泥詰まりのしにくさも重要。

そこで、ペダルボディを楕円断面にするとともに、ビンディング金具を1.4mm後退させ、泥が抜けるクリアランスを確保している。

…まぁ、それでも泥ハケ性能が不十分だったので、シクロクロスではPD-M980はたいへん不評だったのだが。

当時CXワールドカップに出場するプロ選手のバイクを見ても、旧型のPD-M970や、下位グレードのPD-M520を使っている例が多かった。

閑話休題。「低いスタックハイト+楕円断面+オフセットビンディング」という構造はPD-M980以降のXTRペダル、PD-M9000やPD-M9100においても採用されている。

最近はCXワールドカップのレースバイクにPD-M9100がついているのを見かけるが、泥づまりは改善されたのだろうか。

XTRと一部XTがオフセットビンディングを採用

現行製品(2022年4月現在)でオフセットビンディングを採用するSPDペダルはXTRのクロスカントリー用モデルのみだが、M980XTRと同性代のM780XTもオフセットビンディングを採用していた。

SHIMANO スペック ハンドブック 2012-2013

したがって、オフセットビンディング採用ペダルは以下の4種類となる。

オフセットビンディング採用ペダル

  • PD-M9100 XTR
  • PD-M9000 XTR
  • PD-M980 XTR
  • PD-M780 XT

注意点として、XTRであっても、トレイル・エンデューロ向けのケージ付きモデルはビンディング金具がオフセットしていない

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シマノ(SHIMANO)

以下、断りなく「XTRペダル」という場合は「オフセットビンディングを採用したペダル」を指すこととする。

XTRペダル専用のクリート位置とサドル高さに調整

オフセットビンディングとクリート位置

ビンディング金具の位置がズレることで、クリートの実質的な「深さ」が変わるため、オフセットビンディングの有無で最適なクリートポジションが異なる

XT以下のSPDペダルでクリートを拇指球位置に合わせていたビンディングシューズでXTRペダルを使うと、1.4mmつま先側で踏むことになってしまう。

PD-M980のマニュアル

スタックハイトとサドル高

また、ペダル軸からシューズのソールまでの距離=スタックハイトの違いにも留意しておく必要がある。

前述の通り、XTRペダルはペダリングのダイレクト感向上のためスタックハイトが低い。そのため、サドル高(BB~サドルトップ)を下げる必要がある。

なお、スタックハイトが変わると、ごく僅かだがクリート位置にも影響を与える。

XTRペダル(右)はスタックハイトが低く、ペダル自体の薄さが際立っている。

同じクリートを使う同じ構造の「SPDペダル」であっても、XTRグレードは別物で、クリート位置とサドル高を調整する必要がある。

複数のバイクを持っているサイクリストにとってはこれが悩みのタネ。

わずか1.4mmとはいえ、長距離・長時間乗ると筋肉や関節にダメージを与えることがあるし、そもそもポジションを妥協するくらいならXTRペダルを使う値打ちがない。

全てのペダルをXTR/それ以外に揃えるか、あるいはペダルにあわせてシューズを用意することを強いられる。

SPDペダルのスタックハイト・重量実測値一覧

私はシクロクロスはもちろん、MTBにもグラベルロードにも乗るので、SPDペダルはいくつも持っているが、これらのペダルは寸法が異なるためペダルに合わせてポジションの微調整が必要になる。

そこで、個人的なメモの意味合いもあって、所有するSPDペダルのオフセットビンディングの有無とスタックハイト実測値を一覧にした。

スタックハイトは、ペダルの厚みをノギスで測り、これを2で割ることで、ペダル軸~ソールに接する部分の距離を算出している。

スタックハイトの測定
モデルオフセット
ビンディング
スタックハイト(ペダル軸~ソール)実測重量
PD-M9100 XTR○(1.4mm14.7mm312g
PD-M985 XTR(ケージ付き)15.1mm379g
PD-M970 XTR(※情報提供)16.6mm
PD-M8100 XT15.9mm341g
PD-M8000 XT16.2mm
PD-M785 XT(ケージ付き)16.6mm
PD-M54016.6mm351g
PD-M52016.6mm374g
ペダル寸法と重量

他の型番や互換SPDペダルスタックハイトについては、baruさんの記事に詳しいので参照されたし。

上位グレードになるほどスタックハイトは低く、重量は軽くなる。また上表からは読み取れないが、踏面が広くなり、シューズとの接触面積が増えることで安定感が増す

左から、M9100XTR、M8100XT、M540、M520

現在は、先代XTのPD-M8000をグラベルロードのキャニオン グレイルで、先々代XTのPD-M785(ケージ付き)をトレイルライド用MTBで使用。

シクロクロスは同じフレーム2台態勢だが、ペダルは1号車にPD-M540、2号車にPD-M520を使っている。

これらはスタックハイトが高く泥ハケが(SPDペダルにしては)良い。しかも安価なため、泥で消耗が激しいシクロクロスで使いつぶせる

なお、M540とM520はペダルの寸法が同一のため、混ぜて使用してもポジションに違和感は無い。

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左がPD-M540 右がPD-M520 軸の仕様が異なる

性能を取るか 運用を取るか

ペダルの品質やペダリング効率、重量、耐久性、どれをとってもXTRが最も優れているが、ビンディング金具の位置とスタックハイトが独自の寸法で、その他グレードのSPDペダルとは(クリートポジション的な意味で)別物。

1足のシューズを他グレードのSPDペダルと共用することは難しく、全てのペダルをXTRに揃えるか、あるいはペダルにあわせてシューズを用意する必要がある。

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セカンドグレードであるXTは、下位グレードより僅かにスタックハイトが低いものの、ビンディング金具の位置は同じなので、クリートポジションを調整する必要がない

ペダル形状は踏面が広く安定感があるし、ベアリングも相応の品質。コストを含めて非常にバランスが良い。

スタックハイトの低さを重視するならばXTRだが、そうでなければ、XTのほうが複数台のバイクで運用しやすいと思う。

縞模様はプリント
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性能を取るならXTR、運用を重視するならXT。あるいはシクロクロスでペダルを酷使する私のように、安価な(そして泥ハケの良い)M540やM520を使い潰すという選択肢もある。

なお現在私は「専用のシューズを用意してまでXTRのペダルを使う値打ちはあるか?」と自問自答している。

そもそもバイクが1台しかないならこんなことに悩む必要はないのに。業が深いサイクリストの悩みは尽きない。