【レビュー】Wahoo ELEMNT ROAM V2 ~多機能を見やすく使いやすく ユーザビリティ第一のGPSサイクルコンピュータ~

Wahoo ELEMNT ROAM V2

サイクリスト向けトレーニング機器を幅広く手掛けるWahoo FitnessのGPSサイクルコンピュータ。
見やすいディスプレイにLEDバー、押しやすいボタンとシンプルなメニュー構成など、ライディング中の使いやすさを意識した点が好印象。ロードバイクのトレンドである「エアロ」に注目したという点も目新しい。
バッテリーライフの短さが泣き所だが、レース・トレーニング志向のサイクリストにとってはベストな選択肢となりうる。

本稿でレビューする製品は、Wahooからの提供品です。

長所 -Pros-

  • 視認性の高いディスプレイとLEDバー
  • 乗車中も押しやすいボタンとシンプルな操作系
  • 空力的に洗練された形状

短所 -Cons-

  • 起動が遅い
  • バッテリーライフが短い
  • 独自のマウント規格

グランツールで存在感を増すWahooのGPSサイコン

本格的なサイクリストの多くが使っているGPSサイクルコンピュータ。自転車のスピードや走行距離だけでなく、現在地や標高、あるいは外部センサーで取得した心拍数やパワーデータを表示、記録でき、レースやトレーニングはもちろん、旅の記録にも欠かせない存在になっている。
そんなGPSサイクルコンピュータの市場を開拓したのはGPS機器メーカーGarminのEdgeシリーズで、現在もシェアの多くを占めている。

しかし、近年は完成度の高い製品が各社から発売され、「ガーミン一強体制」は崩れつつある。
GPSサイコン市場において、ロードレース分野で存在感を示すのが、スマートトレーナーなどのトレーニング機器を中心に展開する Wahoo Fitnessの「ELEMNT(エレメント)」シリーズだ。

2023ツール・ド・フランスでは半数近いシェア

Wahooはレースサポートに力を入れており、プロのロードレースチームに供給を行っている。
直近に行われた2023年のツール・ド・フランスでは、半数近い使用率を誇っている。

GPSサイクルコンピュータ採用チーム数
Garmin11
Wahoo9
Hammerhead1
Bryton1
2023 ツール・ド・フランス 全22チームのGPSサイコンシェア

とはいえ、単に供給しているからシェアが大きい、というわけではない。
現代のロードレースではGPSサイクルコンピュータは必須のデバイスだ。たとえタダでも、性能が悪ければ話にならない。各チームが採用するだけの理由はある。

多機能なだけでなく、使いやすさを重視

Wahoo ELEMNTシリーズは、カラー液晶にマップ表示、Ant+/Bluetoothの各種センサーに対応と、機能は充実しており、GPSサイクルコンピュータの中ではハイエンド帯に分類される。
一方で画面表示や操作系は工夫され、シンプルな操作で各機能を使いこなせるようになっている。Garmin Edgeと比較しても、より見やすく、より使いやすい印象だ。

詳しくは後述するが、サイクリング中の使いやすさがしっかり考慮されていることがWahoo ELEMNT最大の美点だ。

「エアロ」に着目

Wahoo ELEMNTシリーズの独自性のひとつは、空力を意識した形状だ。

最近のロードバイクのトレンドはエアロ。重量よりも空力を重視したバイク作りがスタンダードになり、数ワットを削減するために莫大な費用をかけてCFD解析と風洞実験を行っている。

そして機材価格も青天井だ

Wahoo ELEMNTシリーズは、付属の専用エアロアウトフロントマウントと組み合わせることで凹凸のない形状となり、他社製品より空気抵抗を抑えられるという。

フロントフォークやハンドルといった、風が最初に当たる部分の形状は空気抵抗に及ぼす影響が大きい。
サイクルコンピュータの位置はハンドルよりも前だ。たとえ微々たる前面投影面積でも、ここの空力をおろそかにして良い理由はない

ラインナップ

現行製品は、大型のELEMNT ROAM V2と、小型軽量なELEMNT BOLT V2。主な違いは画面サイズとバッテリー駆動時間だが、上位モデルかつ後発製品のROAM V2はGPSがより高性能になっている。一方BOLTは小型軽量だが、加速度計やジャイロ・コンパスが省略されている。

旧製品のROAM V1も一応ラインナップされている。

競合にあたるGarmin Edge 540もあわせてスペックを比較すると下表のようになる。

Wahoo ELEMNT ROAM V2Wahoo ELEMNT BOLT V2(参考) Garmin Edge 540
本体寸法90.5 x 59.5 x 20.5mm77 x 47 x 21mm85.1 x 57.8 x 19.6 mm
重量93.5g68.04g80.3g
ディスプレイ2.7インチ
240 x 400
2.2インチ
240 x 320
2.6インチ
246 x 322
LEDインジケータ2本1本×
稼働時間17時間15時間26時間
GPSDual Band
GPS, GLONASS, BEIDOU, Galileo, QZSS, SBAS, NavIC
Singe Band
GPS, GLONASS, BEIDOU, Galileo, QZSS,
マルチバンド(Dual Band)
GPS, GLONASS, GALILEO, QZSS, BeiDou, IRNSS (NavIC)
加速度計×
ジャイロ・コンパス×
メモリ32GB32GB16GB
価格(本体のみ)\55,000\35,200\54,800

スペック表を見る限り、小型で軽量、価格も安いELEMNT BOLTが魅力的に映る。
実際、レース現場ではBOLTがよく使われているそうだ。

ROAMは大画面のため、多くのデータ項目を表示したり、地図を多用する用途と相性が良い。バッテリーライフもわずかに長い。
サイズ的には、Edge540/840シリーズより少し縦に長い。ただ、上下がカーブしているEdgeと並べると寸法値以上に大きく感じる。

ELEMNT ROAM V2とEdge 840 Solar

Wahoo ELEMNT ROAM v2

今回レビューをするのは、ELEMNTのラインナップ中で最新かつ最上位のROAM。センサー類も付属するバンドルキットを提供いただいた。

めちゃくちゃコストが掛かってそうな、カッコいい箱に入っている。
たかがパッケージだが、こういうところから商品デザインに対するブランドの姿勢が伺える。

独自規格のマウント

ELEMNTシリーズは、本体をひねって固定するマウントが採用されている。ただし、Garmin Edgeシリーズとは互換性がない独自規格だ。

形状はガーミンマウントに酷似していると言っても良いが、爪の向きが90度違い、各部の寸法も微妙に異なる。

最初は、権利関係などの都合で独自形状にせざるを得なかったのではないかと考えていた。
ところがWahooからは、Wahoo規格-Garmin規格変換アダプタが公式に販売されている。どういうことだ。

クォーターターンマウントアダプター

こういった規格の乱立は、ユーザーにとって何一つメリットがない
アクションカメラの世界でGoProマウントが標準になっているように、GPSサイコンの世界でもガーミンマウントがデファクトスタンダードになれば良いのに、と思う。

…とはいえ、単なるコピー品ではない、機能的にはむしろWahooのほうが優れているといえる。

Garminマウントが左右とも回転するのに対して、Wahooは右に90度弱回してロックされると、それ以上回らない

また、本体側面のボタンは左側面上側、右側面下側に配置されており、ボタン操作でマウントが外れないように配慮されている。
(本体サイズが大きい最近のモデルでは特に)マウントから外れやすく、命綱が必須ともいえるGarmin Edgeに比べて1歩進んだ構造だ。

ボタン操作で本体が脱落しない工夫

バイクにサイコンを取り付けるためのマウントは2種類付属する。

ステムマウント

ステムマウントは、ステム上やハンドルに結束バンドで固定するマウントだ。
使用感は可もなく不可もなく。固定もしっかり行えるのだが、マウント自体に厚みがあり野暮ったい印象。正直あまりやる気が感じられない。

インテグレーテッドアウトフロントマウント

本命はこちらだろう。

インテグレーテッドアウトフロントマウントは、ステム前の見やすい位置にサイコンを設置できる。装着時はELEMNT ROAMと一体化したエアロフォルムとなる。
エアロはともかく、ビジュアルは非常に洗練されている。

細かい点にも気遣いが行き届いている。

マウント面にはゴムの部品が埋め込まれ、サイコンのガタつきを抑えるようになっている。ゴムの摩擦で、不意の脱落も防げる。

また、付属の小ネジを取り付けることでマウントとELEMNT ROAMをロックすることができる。
脱落や盗難対策に役立つが、それだけではない。

UCIルールでは、取り外しに工具が必要なアクセサリは自転車の一部として扱われる。
つまり、この小ネジを取り付けておくことで、サイコン込みで車検の車重測定(6.8kg規制)を行えるというわけだ。

このように、アウトフロントマウントの造りは非常に良いのだが、欠点が無いわけではない。

エアロフォルムが仇となり、ELEMNT ROAMとBOLT、それぞれ専用のアウトフロントマウントとなっており、相互に互換性は無い(マウント自体は同じ形状だがボディが干渉する)。
ELEMNT ROAMとBOLT両方を所有し、状況に応じて使い分けるようなWahooフリークは注意してほしい。

あと、レース専用ならともかく、普段のトレーニングでも使うなら、マウント下にライトとかアクションカメラとか吊りたい…

バンドルキットにはセンサー類が付属

バンドルキットを購入すると、本体に加えてスピード・ケイデンスセンサーや心拍バンドが同梱されている。

バンドルキットの付属品

スピードセンサー・ケイデンスセンサー

バンドルキットに付属するスピードセンサー・ケイデンスセンサーはどちらもマグネット不要なタイプだ。
通信方式はAnt+に加え、Bluetoothにも対応している。電池はそれぞれ、CR2032コイン電池を1個使用する。

スピードセンサーはゴムバンドでハブ軸に巻き付けるタイプ。
ゴムバンドが短く、ハブによっては取り付けが難しいものもあるかもしれない。

ケイデンスセンサーは何通りかの取り付け方法を選べる。

クランクアームに取り付ける場合、両面テープで貼り付けるほか、シリコン製ジャケット+結束バンドでも固定可能だ。

また、付属のクリップを靴紐やBOAダイヤルのワイヤーに通すことで、シューズに固定することもできる

もっとも、スピードはGPSで、ケイデンスはパワーメーターから取得できるので、今やあまり使わないセンサーである。

ただ、ケイデンスセンサーに関しては、ローラー用のバイクかシューズにつけておくと良いかもしれない。
スマートローラー内蔵のケイデンスセンサーは不正確で、ケイデンス指定のワークアウトをするときにイライラするので。

私のローラー用バイクにはなぜかパワーメーターが複数ついているのだが…

心拍センサー Wahoo Tickr

Wahooは腕に巻き付ける光学式心拍センサー「TICKR Fit」も販売しているのだが、バンドルキットに付属するのはいわゆる「乳バンド」方式の心拍センサー。
胸の締めつけ感が気になる人も多いが、心臓の拍動に伴う電気信号を受信するため、測定精度という点では最も信頼できる方式だ。光学式に比べてバッテリーの持ちが良いのも利点。

こちらもAnt+とBluetoothに両対応するため、屋外ライドだけでなく、Zwift等のインドアトレーニングで、スマホ・タブレットにペアリングして使用できる。

見やすく使いやすいハードウェア

ディスプレイ

ELEMNT ROAMには、2.7インチ 240 x 400ドットの64色カラー液晶ディスプレイが搭載される。
ディスプレイ表面の強化ガラスはアンチグレア、つまりつや消しで、屋外でも映り込みが少なく見やすい。また、表示内容のフォントやサイズも調整されており、非常に視認性が高い。高速走行中でも、一瞬視線を落とすだけで内容を確実に読み取れる。
Garmin Edge 840のコントラストが低いカラー液晶と比べると表示品質は雲泥の差だ。

上はEdge840Solar。手前のWahoo ELEMNT ROAM V2は画面のコントラストがハッキリしており、文字も大きく読み取りやすい。

もちろんバックライトも搭載。点灯設定は、常時オン・常時オフ・5秒・自動から選べる。
自動の場合、周囲が暗くなると点灯し、輝度も自動調整される。

バッテリー駆動時間が短くなってしまうが、夜に練習することが多い人は自動にしておくと便利だ。

夜間も見やすいバックライト。なお写真のようにパワーメーター電池切れアラートが表示される。

LEDバー

画面の左側と上側のベゼル部分には、LEDバーが埋め込まれている。

左側のLEDバーは7つ。パワーゾーン、もしくは心拍ゾーンに連動して点灯し、現在の負荷がひと目でわかる
ゾーンの数としきい値は設定可能だが、カラーは選べないのが残念。なぜL4(乳酸閾値)が緑色なんだ…
慣れ親しんだZwiftのパワーゾーン色に合わせておきたいのだが。

LT(乳酸閾値)が緑色。黄色のイメージが強いのだが

画面上部のLEDバーは5つで、こちらは画面切り替え時にページ位置を示すほか、ルートナビゲーション時に点灯して右左折を知らせてくれる。

まぁ特に必要はないけど、あると楽しい。こういう遊び心は好きだ。

6つの物理ボタン

ELEMNT ROAMの操作は、本体各部のボタンで行う。

  • 本体左側面に電源ボタン
  • 画面下部にボタン×3
  • 本体右側面にスクロール/ズームボタン(上・下)

最も操作頻度が高い画面下部のボタンは大きく、クリック感も明確で押しやすい
このボタンのせいでELEMNT ROAMは少々野暮ったく見えてしまうのだが、実際に触れると好印象に変わる。

高機能をシンプルにまとめたソフトウェア

「多機能」と「簡単操作」を両立するのは難しい

家電、例えばエアコンでも、高級機ほどボタンが多く操作に戸惑う。冷暖房と温度設定しかできない古い製品のほうが使いやすいくらいだ。

サイクルコンピュータも同じだ。Garmin Edgeシリーズなんかモデルチェンジのたびにどんどん多機能化し、今やちょっとしたスマートフォンみたいになっている。
様々な画面遷移、メニューの階層構造をスッと理解できる人じゃないと、扱うのは難しいだろう。

その点、Wahoo ELEMNTシリーズはソフトウェアの設計がうまく、機能の多さに対して操作がシンプルだ。サイクリング中に使うインターフェースはどうあるべきか、しっかり考えてデザインされている

ワークアウト画面

スピードや距離、タイムやパワーなどを表示する画面を、Wahooではワークアウト画面と呼んでいる。

最大11個の項目数について任意の項目を設定できる。ただし、表示レイアウト(マスの大きさ)は項目数によって固定されている。
もちろん、ワークアウト画面のページ数は自由に増減できる。

面白いのは、ライド中であっても本体右側面の上下ボタンで表示項目数を1~11項目に増減できることだ。

これは面白い。1~5番目くらいに重要な情報を設定しておけば、レース時は項目数を絞って見やすく、練習時はいろんなデータを確認する、という使い方ができる。

パワーや心拍については、背景色をゾーンの色にすることができる。

画面下に並んだ3つのボタンはファンクションボタンで、割り当てられた機能はボタンのすぐ上に表記される。
一番右のボタンを押すとページが切り替わる。左・中央ボタンの機能は画面にあわせて変化し、ワークアウト画面では左がラップ、真ん中が一時停止だが、クライムやマップ画面では他の機能に割り当てられる。

クライム

クライム画面では、コースプロフィールが表示される。

また、自動クライム機能「Summit Freeride」のオプションを入れておくと、上り区間に近づいた際に自動で画面が切り替わり、タイム計測が始まる。
Stravaと連携しておくと、セグメントに反応して計測開始することも可能だ。

同種の機能はGarmin Edgeシリーズにもあるが、流しているときもピロピロと鳴って非常に不快だった。
アラートの音質のせいか、画面が見やすいせいか、Wahooはあまりイラつかない。

マップとナビゲーション

ELEMNTにはマップ機能も搭載されている。地図のサイズや色合いは小さなディスプレイにあわせてうまく調整されており視認性が良く、走行中の確認もしやすい。

マップの視認性はきわめて良好

地図の拡大縮小は本体右側面の上下ボタンで行える。ただしスクロールを行う際は複数ステップの操作が必要で、走行中行うのは現実的ではない。
ここはタッチパネルを搭載した製品にはかなわない。

ナビゲーションについては、StravaやRidewithgpsとアカウント連携しておけば、これらで作成したルートから選択してナビさせることが可能。
右左折の際には画面上のメッセージ、アラート音と共に画面上部のLEDバーが光って合図してくれる。

地図上で選択した任意位置へのナビゲーションも行えるが、位置指定する作業が大変だ。

Wahoo ELEMNTスマートフォンアプリで指定した地点までのルートを作成し、転送することもできる。
ただ、自動で計算した場合目的地までの経路を最短距離で結ぶようで、ナビゲーションされるルートはイマイチだ。短距離の目的地案内用、といった程度に思っておくほうが良い。

それにしても「以下へ移動」って意味わからん。

設定はスマホアプリ上で

操作が簡単ということは、できることも少ないのでは?と思うが、そんなことはない。各種設定・カスタマイズはスマートフォンアプリ上で行う

Wahoo ELEMNT本体で行える設定は、バックライトと各種センサーのペアリングといった、最低限の内容に絞られている。
サイコンとしての操作はELEMNT本体で、設定はスマホアプリで、と住み分けすることで、多機能とシンプル操作を両立しているのだ。本体のスマホ化が進むGarmin Edgeとは対照的だ。

本体で行える設定はこれだけ

スマホ上での設定は快適だ。当たり前だが、画面はサイコンよりずっと大きいし、操作もしやすい。しかも設定した内容はすぐにELEMNT ROAM本体に反映される。操作性はかなり良好だ。
最近のEdgeはGarmin Connect上でも設定が行えるようになったが、同期が必要だったりと、レスポンスの悪さを感じる。設定のしやすさはELEMNTの圧勝だ。

ただしこのスマートフォンアプリ、和訳の精度がイマイチだ。「パワー」を「電源」と訳すのは流石にどうかと思う。

走行ログは自動アップロード

ライド後に走行ログを保存すると、Wahooのクラウドに自動アップロードされる。
Wahoo ELEMNTアプリ上から予め連携する設定を済ませておけば、StravaやTrainingPeaks、Ridewithgpsといったサービスにも同時にアップロードしてくれる。

流石にGarmin Connectにはアップしてくれなかった。
Dropboxに自動アップロードする設定が行えるので、Garminでトレーニング量なり管理してる人は、Dropbox上のfitファイルを手動でGarmin Connectにアップロードするとよい。
このあたりの処理を自動化しているテック系な人もいるようだ。

GPS精度は良好

最新モデルのELEMNT ROAM V2はデュアルバンドGPSを搭載しており、GPSに加えてGLONASS, BEIDOU, Galileo, QZSS, SBAS, NavICといった各国の衛星情報を受信できるうえ、複数周波数帯を同時利用するデュアルバンド対応となっているため、山間部や高層ビル群でも位置精度が悪化しづらい。

同じ仕様のGarminと同時記録しながら山間部を走行したが、スピードの上がる区間でも遜色ない精度となっていた。
走行距離や走行時間はWahoo,Garminでほぼ同じ値となる。ただし、消費カロリーについては1割程度の差があった。

Wahoo ELEMNT ROAM V2とGarmin Edge 840 Solarのログ比較

起動時間とバッテリーライフ

このように使用感に優れるWahoo ELEMNTだが、起動時間やバッテリーライフといった点では競合機種…というかGarmin Edgeに見劣りする。

起動は遅い

電源ボタンは本体左側面にあり、長押しで起動する。

電源ボタンを押してから、ワークアウト画面が表示されるまでの時間は約40秒。GPS衛星を掴むまではさらにもう少し時間を要する。ここは正直、不満なポイントだ。
Edge 530やEdge 840 Solarの場合、電源オフからの起動時間は15秒ほどで、しかも起動中にGPS衛星を捕捉している。また、スリープ状態からの復帰なら1~2秒だ。

ウォーミングアップは入念に行うタイプのようだ。

ワンデーライド向けなバッテリーライフ

ELEMNT ROAMのバッテリーライフはカタログ値で17時間(BOLTは15時間)。

フル充電からのバッテリー消費量を実測したところ、バックライト自動で使用した場合、11時間使用後にバッテリー残量45%となっていた。
ワンデーライドなら十分なバッテリーライフだが、通勤で毎日1~2時間ほど使って、さらに土日もライドするような場合、週2で充電したい。

なお充電は本体底部のUSB Type-C端子から行う

スリープ機能無し。電源オフでログリセット

Garmin Edgeの場合、長時間の休憩時はスリープ機能にしておくことでバッテリーを節約しつつ、素早く復帰することが可能だ。

しかしWahoo ELEMNTにはスリープ機能が搭載されていない。また、電源をオフにすると記録中のログが保存・リセットされてしまうため、ロングライド等でひと続きのログを記録したい場合は、電源をつけっぱなしにする必要がある。

バッテリー持続時間の短さもあいまって、ロングライド、特に数100kmを走るようなスーパーロングには向かない仕様だ。
Wahoo ELEMENTシリーズは、あまり長距離・長時間の使用を想定していないように思える。

まとめ:レース志向なら間違いのない選択

Wahoo ELEMNT ROAM V2を試用して3ヶ月。「使いやすいGPSサイコンはどうあるべきか」ということをしっかり考えられた製品と感じた。

視認性が高いディスプレイ、操作しやすい大型のボタン、シンプルなメニュー構成など、走行中ストレスなく扱えることを念頭に置かれており、
レース中、身体的にも精神的にも追い込まれた状況でも、必要な情報を最短時間で確認できる。

もし「レース中のデータ確認用にGPSサイコンを購入したいが、Garmin EdgeかWahoo ELEMNTどちらか悩んでいる」と相談されたら、Wahooを勧めると思う。

ただしGarmin Connectでライフログを管理している場合は、GPSサイコンの出来に関係なく同社製品を選ばざるを得ないのだけれど…

シンプルな操作性と多機能を両立するため、複雑な設定はスマートフォンアプリに任せるという割り切り方も良い。

私は長らくGarminに飼いならされており、GPSサイコンはこんなものかと思っていたが、改めてEdgeを使うと、文字が読みづらいな…操作が複雑だな…と感じてしまう。
Edge 840はバックライトの点灯設定を変えるだけでもメニューの深い階層に潜る必要があるのだ…
こういう複雑な操作は、スマートフォンの大画面で済ませるほうが断然ストレスが少ない。

このように、Wahoo ELEMNT ROAM V2のユーザビリティの高さは極めて好印象だった。

一方で起動の遅さ、バッテリーライフについては満足できなかった。
電源オフでログがリセットされる仕様も相まって、丸一日、あるいは日をまたいで走るような長時間・長距離のライドには適さない

こういう領域はやはりGarminが強い。Edge 540の稼働時間は26時間、ソーラー付きモデルなら32時間で、ELEMNT(ROAM:17時間、BOLT:15時間)の倍だ。

WahooとGarmin、2社ともハイエンド帯に属する製品で、マップとナビゲーション機能やレーダー対応など、機能面ではほぼ互角だが、製品づくりの思想は若干異なっている。
シンプルな操作性を重視し、見やすく操作しやすいWahooと、本体だけで全ての機能にアクセスでき、長時間稼働できるGarmin、それぞれに長所と短所がある。

何にせよユーザーにとっては、いろんなメーカーが参入して製品が競合することで、GPSサイコンの選択肢が増えるのは良いことだ。

なお、Wahoo ELEMNT ROAM V2をテストした3ヶ月ほどの間で、不意のハングアップや強制再起動といった不具合には一度も遭わなかった。
新製品購入者をボランティアのデバッガーか何かだと勘違いしているGPS製品メーカーは見習ってほしい。