自転車のチェーンやスプロケットに施工する酸化チタン粒子のコーティング「チタンの鎧」のフリクションロス低減効果を調べるため、コーティングを施工した駆動系部品と非施工の部品を用意して比較実験を行った。
先に結果を言うと、1ワット程度だが、確実に効果はあった。
まちがいない―――
ドライサンプ化で思い切りEg(エンジン)をオトしてるEg低重心化によりウソみたいに前輪に荷重がかかり舵が効く
フロントヘビーな曲がらないその車を自在に曲げてきたお前だ
もう意のままのコーナリングマシンだろだが すぐにわかる 本当に驚くのはコーナリングじゃあない―――
―――
重心低下 オイルの安定 そして確実な出力増加だ
ドライサンプはその構造上 クランクシャフトがオイルを掻きあげないそのフリクション(摩擦)低減により 数パーセント出力は上がる
1%か2%か―――600馬力のクルマにとってそれはわずかなコトかもしれない
だがそれをわずかと笑える者は チューニングを語る資格はナイ
楠みちはる『湾岸ミッドナイト 24巻』
体を絞り、ハードなトレーニングを積み、妥協のない機材で臨むレース。どうしても勝ちたいときに、最後に削れる1ワット。
酸化チタンコーティング「チタンの鎧」について
チタンの鎧とは、株式会社クレストヨンドが販売する、競技用自転車のチェーン・スプロケットを対象としたコーティング。部品表面に付着したナノメートルオーダーの微細な酸化チタン粒子が潤滑剤として振る舞い、摩擦を低減する作用がある。
「チタンの鎧」はシングルナノの酸化チタン粒子が分子間力(ファンデルワールス力)で付着しています。そのため一般的にコーティングと言われるものに必要とされるバインダー(対象物にくっつけるための接着剤の役割をするもの)が必要ありません。ファンデルワールス力は結合力としてはそれほど強くありません。でも、そのおかげで表面をチタンナノ粒子が自由に動きチタンナノ粒子自体が小さなベアリング作用をします。そして、外的な力が加わり一度離れてもまた付着するので長寿命を実現しています。
体感できる効果としては低トルク時はフリクションも低減し、高トルク時はギアとチェーンがガッチリと噛み合うイメージです。そのため滑るようにシフトチェンジ出来、より少ないパワーでスピードを上げることが出来ます。また酸化ナノチタンによる優れた自浄効果が付与されております。
http://4-crest.com/titanium/index.html
なお、最初はチタンの鎧専用オイルが塗布されているが、以後は必要に応じて市販のチェーンオイルを使用して問題ないし、パーツクリーナー等でチェーンを洗浄しても構わないらしい。ただし、酸化チタン粒子が脱落してしまうので超音波洗浄は避けてほしい、とのこと。
フリクション低減効果を実験で検証
センセーショナルな広告を打って一部界隈で話題になった「チタンの鎧」。
フリクション低減
http://4-crest.com/titanium/index.html
外部機関による抵抗テストでは気温20℃ケイデンス130rpm40kmで約10Wの抵抗低減が確認されました。これはかなり控えめな公表値です。実際の走行ではパワーメーターで10%ー30%もの抵抗低減が効果が発揮されたという報告もあります。加えて、漕ぎ出しの伝達力、シフトチェンジのスムーズさ、帯電防止による摩擦の低減、自浄効果によるロスの低減も見込めます。
「10Wの低減」については、実験のやり方と解析が不味かったようだが、自転車の実走でどれくらいの効果があるのかは気になっていた。
世の中には、駆動系のフリクション低減をうたったチェーンオイルやセラミックベアリング、ビッグプーリーがあふれているが、どれくらいの効果があるのかはイマイチわかりづらい。メーカーの実験条件もまちまちだし、インプレ記事を読んでも「1枚重いギヤを踏めるようになった」といった曖昧な感想しか見当たらない。やはり、自分で試してみないとわからない。
そんな折、2020-21シクロクロスシーズンからチタンの鎧を販売するクレストヨンド様にサポートしてもらえることになったので、無理を言って協力していただき、比較実験を行うことにした。
実験の概要
実験にあたって、駆動系のコンポを2セット(チェーンリング、チェーン、スプロケット、ディレイラープーリーを各2セット)用意して、片方だけにチタンの鎧を施工した。
そして、スマートローラー(Saris H3)の自動負荷調整機能(ERGモード)を使って一定のパワーでペダリングし、
チタンの鎧を施工した駆動系と、非施工の駆動系で、クランクのパワーメーター測定値を比較することで、フリクション低減効果を求めた。
ZWIFTに明け暮れる人のイラスト
自転車に乗っている間、ペダルを踏むパワーは常に変化しているし、状況に応じてギヤを変速する。
どういう状況でチタンの鎧の効果が発揮されやすいのかを調べたかったので、実験ではカスタムワークアウト(160W+240W+320W 各3分 ×3セット)を作成し、セットごとにギヤを変速(39x24T→17T→13T)しながらペダリングした。
また、今回測定しようとしているフリクションロスはごく僅かな値で、市販パワーメーターの測定誤差の影響を受ける。そのため、この手の測定は同じ条件で何度も何度も繰り返す必要がある。コロナ自粛の2020年夏は毎日のように実験に明け暮れた。
実験内容の詳細は別記事にまとめた。
僅かだが、価値のある1W
実験では以下の4つの条件( [チタンの鎧施工 or 未施工] × [未注油 or 注油] )で比較を行った。
実験記号 | チタンの鎧 | チェーンオイル |
Ti | 施工済 | チタンの鎧専用オイル (ほぼオイル切れ) |
NC | 未施工 | チタンの鎧専用オイル (ほぼオイル切れ) |
TiO | 施工済 | ワコーズチェーンルブ注油 |
NCO | 未施工 | ワコーズチェーンルブ注油 |
実験結果を整理し、各ギヤ・パワーにおけるNCO(未施工・チェーンルブ注油後)を基準とした駆動損失の差をグラフに表すと、以下のようになった。
測定点がグラフの上方にあるほど、NCOに対して駆動損失が少ないことを表している。
たとえば、グラフの一番左の列を見ると、39x24Tで160Wのペダリングを行う際、NCO(未施工・注油後)に対してTiO(施工済・注油後)は0.4W抵抗が少なく、NC(未施工・未注油)は2.7W抵抗が大きいことが読み取れる。
今回の実験結果から、以下の事が分かった。
1.チェーンオイルが不足すると1~5Wのロス
最初から塗布されていたチタンの鎧専用オイルは量が少なかったのか、すぐにオイル切れを起こしてしまった。
チェーンオイルを塗布して実験を最初からやり直したが、副産物的に、チェーンオイルの潤滑状態によって1~5Wのフリクションロスが生まれることがわかった。
チェーン潤滑の重要性を再認識。フィルタークリーナーでリンク内まで綺麗に洗浄してから注油するのがおすすめ。
2.チタンの鎧のフリクション低減効果は0~1.3W
誰もが気になるチタンの鎧の効果だが、今回の実験では0~1.3Wという結果になった。
最も効果があったのは39×13Tで320W出力時の1.3W。
逆に、最も効果が少なかったのは、39×24Tで240Wの時で、0W。
スプロケの歯数やパワーによってフリクション低減効果は異なるが、概ね、以下のような傾向があった。
①パワーが大きいほど効果がある
実験では3段階のパワー(160,240,320W)しか試していないのでハッキリと言いきれないが、ペダルを踏むパワーが大きいほどチタンの鎧のフリクション低減効果も大きくなり、320Wで踏んでいるときに最も大きな効果があった。
②小さいスプロケほど効果がある
(今回はフロントをインナー39Tに固定したので)チェーンがたすき掛けになり、また歯数が小さい13Tは、そもそもフリクションロスが大きい。
そういう、もともとフリクションが大きい状況ではチタンの鎧の効果が(絶対値として)大きく現れた。
参考:Friction Facts: free speed from proper shifting
チタンの鎧はレースリザルトに影響を与えるか
実験結果によると、チタンの鎧を施工した駆動系は、39×13Tで320W巡航時に1.3Wの出力を節約できる。この差を体感するのは難しいかもしれないが、チェーンの注油の有無で生まれる差が5W程度であることを考慮すると、ヒルクライムやタイムトライアル等、出力が結果に直結する種目では施工する価値があると言える。
まとめ:最後に削る1ワット
パワートレーニングに取り組んでいる人なら、FTPを数W上げることがいかに大変か知っていると思う。
レースに向けてトレーニングを重ねて、もうこれ以上FTPは上がらない。そこから、さらに1.3Wを稼げる。チタンの鎧は、そういった類の製品。
ただし、こういうのは積み重ねで、バイクが高品質なパーツで組まれ、完璧に整備されている状態から、さらにその上を極めるためのもの。ゴリゴリのベアリング、汚れたチェーンでレースに出るような人は、チタンの鎧より先にやるべきことがある。
効果は1W程度。コストパフォーマンスは正直かなり悪い。見た目には違いがわからない地味なチューンだし、パワーメーターの測定誤差に埋もれてしまうわずかな差かもしれない。
「だがそれをわずかと笑える者は チューニングを語る資格はナイ」
機材の制約が厳しく、かつ勝敗によって大金が動く競輪選手は、ベアリングやオイルに並々ならぬこだわりを持つという。それは、少しでも有利にレースを走るためだけど、気持ちの面も大きいのではないかと思っている。
――やれることを全てやりきってスタートラインに立ちたいなら、ぜひ。