新ETRTO規格に準拠し、内幅19mmのワイドリムを基準として設計されたPanaracer AGILESTを15cリムと17cリムに履かせ、乗車感を比較した。
タイヤを推奨範囲外のナローリムで使用するとどういった問題点があるのかをレポートする。
新ETRTO規格タイヤに合わせたリム幅選択
2020年に改定された新ETRTO規格(ETRTO STANDARDS 2021)では、リムのワイド化が進む現状にあわせ、ワイドリム基準でタイヤを設計するよう定められた。
従来の25cタイヤが15cリムへの取り付けを前提としていたのに対して、新ETRTO準拠の25cタイヤは19cリムに装着時に規定の幅となり、ベストな性能を発揮する。
すなわち、新ETRTO準拠のタイヤを使うときは、ワイドリムと組み合わせるのが基本。AGILESTの場合は、設計基準リム幅から±2mmの範囲で使うよう推奨されている。
700x25cタイヤの場合、適正リム幅は17c~21c。
リム幅の許容範囲を逸脱するとタイヤ本来の性能を発揮できないため、この範囲外の組み合わせは非推奨(上表の斜線部)となっている。
しかし、リム幅のワイド化はこの数年で急速に進んだため、私のように15cホイールがまだ現役という人は意外と多いのではないだろうか。
そこで、新ETRTOタイヤをナローリムに取り付けて実走し、どういった問題点があるのか確かめてみた。
※テストに先立ち、ナローリムに取り付けても危険ではないことは確認済み。
「リム幅以外」同じホイールを準備
さて、ホイールによって剛性や重量、振動吸収性は異なるため、リム幅の比較を行うためには、リム幅以外の仕様が同じホイールを複数用意しなければならない。
今回はテスト用として
- フルクラム レーシング1 2-way Fit(リム内幅15.6mm)
- カンパニョーロ シャマルウルトラ C17 2-way Fit(リム内幅17.3mm)
を用意した。
レーシング1(現在は廃盤)は、レーシングゼロのハブをコストダウンしたモデルで、ホイールの構造としてはレーシングゼロ(C15)とほぼ同一。
そして、レーシングゼロとシャマルウルトラは兄弟モデルであり、
- 同じアルミ切削リム(リムハイト F 23mm / R 27mm)
- 同じアルミスポーク(F 16H / R 21H)
- 同じハブ
を備えている。
レーシングゼロ・シャマルウルトラともに、2016年頃にリム幅が拡大され、C15→C17へとモデルチェンジした。
レーゼロとシャマルの違いは後輪のスポークパターン。どちらもフリー側14H2クロス、反フリー側7Hラジアルではあるが、
レーシングゼロが反フリー側のスポークを1本飛ばしに間引いたようなパターン(2:1組)なのに対し、シャマルウルトラのG3組は、フリー側2本、反フリー側1本のスポークをまとめて配置してある。
2:1組は反応性に優れ、G3組は空気抵抗が少なく巡航性能に優れる、なんて話もあったが、すべてのスポークが均等間隔だった初期の2:1組と違い、現在はどちらも大差ないように思える。
多少の仕様の違いはあるものの、レーシング1(私物)とシャマルウルトラC17(借り物)を、リム幅のみが異なるほぼ同じホイールとみなして比較テストを行った。
なお、マヴィックの長寿モデル キシリウムエリート(アルミ切削リム+イソパルス組スチールスポーク)は、世代によってリム幅が13mm→15mm→17mm→19mmと広がってきている。今回のテスト、歴代キシエリを揃えられればよかったんだけど…
リム幅による乗車感の違いをテスト
普段はレーシング1を使っているが、人間の感覚はネガティブな方向に敏感なため、
- AGILEST 25cを17cのホイール(シャマルウルトラ C17)に取り付けてライド
- AGILEST 25cを15cのホイール(レーシング1)に取り付け、同じコースをライド
という順序でテストした。それぞれのライドは別の日に行っているが、使用バイクやウエア類は可能な限り揃えている。
チューブはR’AIRを使用。空気圧6.5barのとき実測タイヤ幅は、
- シャマルウルトラ C17(17.3mm)…25.0mm
- レーシング1(15.6mm)…24.0mm
だった。
まずはシャマルC17でライド。
シャマルウルトラ/レーシングゼロはアルミスポークを使用し、大パワーで踏み込んでもホイールがたわんで力が逃げないレース向けのホイール。10年以上にわたり、アルミホイールの頂点に立っていると言って良い。
そんなシャマルは結構ゴツゴツと衝撃を伝えてくるのだが、AGILESTは荒れた舗装でも衝撃を吸収して跳ねないため、スムーズにペダリングを続けられる。下りの限界がとんでもなく高いのも、実走レビューで書いた通り。
さて、今度は自分のレーシング1にタイヤを履き替え、同じコースを走ってみた。乗りなれたバイクに履きなれたホイールだが、シャマルC17との違い…というか「落差」はハッキリ感じられた。
まずは乗り心地。シャマルC17に比べるとゴツゴツとした感触が伝わってくる。綺麗な道路ではわからなくても、舗装が荒れた場所では顕著な違いがある。
次にコーナリング時。バイクを倒して旋回していくとき、前輪の安心感がやや少ない。ただ、これはリム幅が狭くなって、タイヤがヨレやすくなったのを感じているんだと思う。
今までは15cリムしか知らなかったので、AGILEST+レーシング1の組み合わせに何の不満も無かったが、適正リム幅範囲内である17cでの乗車感を体験し、物足りなさを感じるようになってしまった。
15cナローリムにアジリスト28cを入れる
アジリスト発表時、ひとつ試してみたかったことがあった。それは、アジリスト 28cを15cリムに取り付け、26~27cのタイヤとして使うということ。
私のロードバイクは2010年モデルで、当然リムブレーキ仕様。最大タイヤ幅はせいぜい26mm程度だ。
できるだけワイドなタイヤを履こうと思った時、パナレーサーの一部モデルに存在する26cタイヤというのは(私にとって)絶妙な幅で、今まではグラベルキング 26cや、Race C EVO4 26cを使用していた。
これらは旧ETRTO規格のタイヤなので、15cのレーシング1に取り付けると実測幅も26mm程度となる。
AGILESTは23c,25c,28cという展開で、残念ながらというか当然というか、26cはなくなってしまった。
しかし25c,28cは19cリムに合わせてあるため、AGILEST 28c+レーシング1(15c)なら履けると予想した。
実際に28cのAGILESTを15cホイールに履かせると、実測幅は想定通りの26.5mm。フォークやフレームとのクリアランスはかなりきわどいが、なんとか収まっている。
コーナリングやダンシングでちょっと擦るかもしれないが、高剛性のレーシング1だから大丈夫だろう。多分。
さて、これで25cよりも高い振動吸収性とグリップが手に入ると思ってテストライドに出かけたものの、期待を悪い意味で裏切られた。
25cよりエアボリュームがあるにもかかわらず乗り心地が大幅に悪化し、路面からの振動・衝撃がダイレクトにゴツゴツ伝わってくる。アジリストの持ち味である「接地感」は全く感じられない。
タイヤ空気圧が高すぎるのかと思い、最初6.1barほど入れていたエアを徐々に抜いていったが、5.5barでもバタバタ感は消えなかった。
あれだけ好印象だったAGILEST 25cのサイズ違いとはにわかに信じられない。
もしも最初に試したのがAGILEST28c+推奨外の15cリムだったら、ファーストインプレッションは最悪のものになっていただろう。
150kmほど走ってからタイヤを外すと、巻き上げた砂や小石によってブレーキキャリパー裏側が傷だらけになっていた。
クリアランスは1mmちょっとしかなかったから、そりゃそうか…
見えない場所だが腐食すると厄介なので、脱脂後タッチアップしておいた。
その後、改めてAGILEST 25cを試してみたら、レビューで書いたような接地感が際立つフィーリングだった。
タイヤクリアランスにも余裕がある。
推奨外の15cリムに履かせた場合は25cよりも28cのほうが乗り心地が悪く、タイヤが太いほど乗り心地は向上するというセオリーに反する結果となった。
AGILEST 25c, 28cともにリム幅17c~21cに合わせて作られているが、AGILEST 28cは、ナローリムとの相性が特に悪いのだろうか。
現在15cリムを使っている人がAGILESTを履く時には、タイヤ幅 25cまでにとどめておくことをおすすめする。
まとめ:新ETRTOタイヤにホイール更新を強いられる
新ETRTO基準のタイヤは、ナローリムに履いても性能を十分発揮できないことを身をもって実感した。
特に28cタイヤを15cリムに履かせたときは、タイヤの評価を誤りかねない程の性能低下が起こった。
数年前であればタイヤは15cリム基準の旧ETRTO準拠。当時流通していた13~17cリムとの相性を気にする必要は無かったが、ワイドリムが新たな基準となった今、タイヤとリム幅のマッチングには注意を払わねばならない。
今後、全てのロードタイヤは新ETRTO準拠の製品に切り替わるだろう。急速なワイドリム化の巻き添えを食った形で、ホイールを更新するタイミングが来たのかもしれない。
…ということで後日、リム内幅19mmのホイールを購入した。もうリムブレーキホイールを買うことはないと思っていたのに。
現在我が家には、リムブレーキ用ロードホイールが13cから19cまで揃っている。リム外幅は18.5mm~25mm。ホイール交換のたびブレーキ調整が大変だ。