2022年2月、パナレーサーのロゴ変更から1年のタイミングで発表された新型ロードタイヤ アジリスト。
クリンチャーモデルのAGILEST、AGILEST DURO、AGILEST LIGHTにある程度乗り込んだので、それぞれのタイヤで感じた特徴をまとめた。
AGILEST クリンチャーを比較
今回比較するのは、3種類ラインナップされているクリンチャーのAGILEST。幅はすべて25cに統一した。
- AGILEST…標準モデル
- AGILEST DURO…高耐久モデル
- AGILEST LIGHT…軽量モデル
AGILEST(標準モデル) | AGILEST DURO(高耐久モデル) | AGILEST LIGHT(軽量モデル) | |
タイプ | クリンチャー | クリンチャー | クリンチャー |
コンパウンド | ZSG AGILE Compound | ZSG AGILE Compound | ZSG AGILE Compound |
ブレーカー | Tough & Flex Super Belt | Tough & Flex Super Outer Shield | Tough & Flex Super Belt |
サイズ・重量 | 700×23C(180g) 700×25C(190g) 700×28C(210g) 700×30C(230g) | 700×23C(210g) 700×25C(220g) 700×28C(250g) 700×30C(280g) | 700×23C(160g) 700×25C(170g) 700×28C(190g) |
カラー | ブラック スキン レッド(25Cのみ) ブルー(25Cのみ) | ブラック | ブラック |
価格 | 7,370円(税込) | 7,590円(税込) | 7,590円(税込) |
使用機材
なるべく同条件で比較するため、バイクやホイールは統一した。
バイク
- Lynskey SuperCooper (2010)
ずっと乗ってるチタンロード。壊れたら乗り換えようと思っているうちに13年目。走行距離は45000kmを超えた。
チタンフレームは意外と良く割れるのだけど、低グレードのプレーンパイプは想像以上に頑丈だ。
ホイール
- 前輪…フルクラム レーシング1 2-way-fit C15(リム内幅15.6mm)
- 後輪…パワータップ AMP50(レイノルズ製リム リム内幅16.9mm)
AGILESTは新ETRTOに準拠しており、25cタイヤの場合、内幅19mmのリムと組み合わせた際にベストな性能を発揮するよう設計されている。
推奨されるリム幅は17~21mm。レーシング1 C15との組み合わせではタイヤ本来の能力を活かしきれていない、ということを注記しておく。
クリンチャータイヤの場合、リム幅によってタイヤの太さも変化する。リム幅2mmに対してタイヤ幅1mmの変化が目安となっている。
それぞれのホイールにAGILESTを組み付けると、実測タイヤ幅は以下のようになった。
- レーシング1(15c)…24mm
- AMP50(17c)…24.5mm
DURO、LIGHTについてもほぼ同じ幅だった。
※空気圧6.5bar タイヤ組み付け後1日放置
タイヤ
体重67kgで、空気圧は前後輪とも6.4~6.5barにセット。毎回、ライド直前にエアゲージで空気圧を確認した。
チューブは軽量ブチルチューブのR’AIR。
カーボンリム+リムブレーキの場合、ラテックスチューブは熱でパンクするため使用できないが、R’AIRは問題なく使える。
テスト方法
普段のロード練で各タイヤの感触を確かめた。インプレッションに使った区間は距離30kmで、獲得標高は500m弱。丘陵と山岳の間くらいのアップダウンが続く。
今回は
AGILEST → AGIELST LIGHT → AGILEST DURO → AGILEST
の順にタイヤを履き替え、連続する日程で、同じコースを、同じバイクで走って比較している。
なお、新しいタイヤに交換後は一晩放置し、20~30km程度走って、タイヤを慣らした後にインプレッションを行った。
この記事を書いている時点では、各タイヤでそれぞれ150~200km走行している。ちょい乗りインプレではないが、長期的な耐久性までは判断しかねることを了承いただきたい。
インプレッション
AGILEST
まずはスタンダードモデルのAGILEST。直前まで履いていたのはRace C Evo4 (26c)。
正直なところ、第一印象は良くなかった。
走り始めてすぐ気になったのは、ハンドリングの違和感。
落ち着きがなく、ふらつくような感覚。これは、設計範囲外のナローリムに履かせたことでタイヤの断面形状が歪んでいるからなのか、それとも、単にタイヤ幅がRace Cの26c(実測26.5mm)から25c(実測24mm)へと細くなったからか。
AGILESTシリーズの売りであるはずの、転がりの良さ、乗り心地の良さも感じられず、むしろRace Cのほうが良かったとさえ思った。
しかし20~30km走ると、タイヤが一皮剥けて、ケーシングも馴染んだのか、ネガティブな印象はかなりの好感触へと変わった。この頃にはハンドリングの違和感もなくなっていた。
AGILESTの最も印象的なポイントは「接地感」。
シクロクロスをそれなりに続けて、
タイヤで最も重要なのは、重量でも転がり抵抗でもなく、あるいは単なるタイヤのグリップでもなく「路面との接地性」だ、
と思うようになった。どんな豪脚でも、あるいは天才的なバイクコントロールテクニックがあっても、タイヤが路面に弾かれてしまえば進まないし曲がらない。
AGILESTはタイヤの路面追従性が高く、常に接地しているような感覚がある。ハイグリップなコンパウンドも相まって、上りやスプリントで踏み込めばしっかりと「掛かる」し、峠の下りもハチャメチャに攻め込める。跳ねない足回りは安心感が違う。
製品名の語源となった「Agile:機敏な、敏捷な」の通り、加速・減速・旋回の限界が押し上げられるタイヤだと感じた。
跳ねないタイヤは乗り心地も良い。25mmに満たないタイヤ幅なので、相応に硬質ではあるが、路面から伝わる振動の角は取れているし、舗装がひび割れた場所でもバタバタしない。
AGILESTシリーズはいずれもしなやかさに優れるが、3種を使った上で最も「跳ねない」タイヤはスタンダードモデルのAGILESTだった。
レース系の人を含む大多数にはスタンダードなAGILESTを勧めたい。DURO、LIGHTとあわせて3種類試したけれど、タイヤの走行性能はAGILESTが一番高い。
飛ばし屋も納得のAGILEST。ただ、調子に乗って限界を超えたときが怖い…
(小声):あまりにも古い例え(しかも他社製品)で恐縮だが、Pro 3 Raceの乗り心地とGP4000Sのグリップ感を両立しているように感じられた。思い出補正があるので実際はもっと良くなっているだろうけど。
AGILEST LIGHT
スタンダードモデルのAGILESTを堪能した後、AGILEST LIGHTに履き替えた。
AGILESTも190g(25c)と軽量だが、LIGHTはさらに軽量化されており、その重量はiPhone 13(173g)とほぼ同じ170g。
トレッド部分の幅を測ると、AGILESTは30mmなのに対して、LIGHTは25mmと狭い。ケーシングも明らかに薄く、手に取るとすぐに違いがわかる。
AGILESTで走った練習コースを、翌日AGILEST LIGHTで走ってみた。
まずは軽量化の効果について。
タイヤの重量は190g→170gへと1割以上軽くなっているのだが、リム450g、チューブ70gを足すと、ホイール外周部の重量変化は
710g→690g(-2.8%)
理屈のうえでは軽量化の効果はあるが、割合にすると3%足らずの変化。
私が鈍感なこともあって、ハッキリとした違いは感じられなかったが、激坂の上りで、ペダルひと踏みごとに車体が大きく加減速する状況では若干反応が良かった…気もする。
チューブレスタイヤのシーラント量の違いを感じられるくらいの鋭い感性を持った人、あるいは体重の軽い小柄なライダーなら踏み出しの差を感じ取れるかも知れない。
重量以外では、乗り心地の悪化を感じた。
AGILEST LIGHTは、シリーズ中3種類中で最も乗り心地が悪かった。薄くて軽いタイヤは乗り心地が良いものとばかり思っていたが、ゴツゴツ・ザラザラした感触がダイレクトに伝わってくる。
全体的にネガティブな印象になってしまったけど、多少乗り心地が悪くとも跳ねにくさは健在で、峠を登った後の下り区間は、いつものペースで飛ばすことができた。それに、軽量だが耐パンクベルトも入っている。普段遣いできるヒルクライム用タイヤ、というのは価値がある。
AGILEST LIGHTは3種類のうち最も尖ったタイヤで、軽量化のために相応の代償を支払って良いと考える人にとっては、実用できる170g(25c)のタイヤは刺さると思う。
このタイヤが使われる場面といえば、軽量化の影響が大きく、かつ速度が遅い(≒乗り心地悪化の影響が少ない)ヒルクライムレースだろう。
しかし個人的には、このタイヤが最も活きるシチュエーションは、
- 七葛(和泉葛城山を登る7本のルートを1日で全制覇する 頭のおかしいチャレンジ 120km 4700up)
- 耐久アップ(峠をひたすら往復し24時間での獲得標高を競う 某大学サイクリング部の頭のおかしいチャレンジ 15000up)
のような、大量に登って大量に下るイベントではないかと考えている。
No.11【TQU】
— 京都大学サイクリング部 (@kucc_box) March 17, 2022
耐久アップ。フラットがあればアップもある!
同じ峠を24時間登り続けるこれまた狂った行事です。普段は飛ぶように過ぎる1日も永遠に感じてしまいます⏰
歴代記録は男子は15000mに迫り、女子も10000mを超えています!
エベレスティングのその先へ⛰
※当然任意参加です#KUCC語録 pic.twitter.com/BAU0sH14CJ
AGILEST DURO
最後に、高耐久モデルのAGILEST DUROをテスト。
トレッド直下の耐パンクベルトに加えて、ケーシング全体を覆う耐パンクレイヤーが追加されており、サイドカット耐性も高められている。それでいて重量は25cで220gと健闘。しかし、直前まで履いていたLIGHTからは50gの増量となる。
タイヤ交換作業時、重量よりも気になったのはサイドの硬さ。ケーシングに耐パンクレイヤーが重ねられているせいで、タイヤサイドは分厚くコシがある。
タフな印象を受ける一方で、鈍重で乗り心地も悪そうな、嫌な感じがした。
タイヤを履き替え、LIGHTで走ったコースをDUROで走ってみると、ゼロ発進や上りで、加速がワンテンポ遅れるような感覚。さすがにタイヤ1本50gの重量増は実感できた。
※人間は、良くなる変化よりも、悪くなる変化に敏感、という理由もあると思う
一方、「嫌な予感」に反して、乗り心地はLIGHTよりDUROのほうが良かった。路面の微振動をよく吸収してくれている。
130kmほどの(個人的な基準では)ロングライドも行ってみたが、振動吸収性に関して不満はいっさい感じなかった。もちろん、AGILESTシリーズの高い接地感は健在。上りも下りもグイグイいける。
パナレーサーの昔の高耐久タイヤ(Rade D Evo2とか…)には重くて硬い印象があったが、AGILEST DUROは重量も乗り心地も合格点。
25cで220gという重量は、軽くはないが決して重たくもない。この重量を受け入れれば、落石のある林道や軽いグラベルといったサイドカットしやすい状況でもトラブルを避けることができる。
スピードよりもパンクリスク低減を優先するロングツーリング派や、あるいはロードバイクでグラベルに飛び込んでいくハードコアなサイクリストにはDUROがマッチするに違いない。
AGILEST DUROの「ちょっとくらいサイド引っ掛けても平気」という安心感は、悪路に踏み込む勇気を与えてくれる。
3種タイヤの相対比較
3種のタイヤについて、相対比較表を作ると以下のような感じ。
タイヤ | AGILEST | AGILEST DURO | AGILEST LIGHT |
重量(25c) | 190g | 220g | 170g |
乗り心地 | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ |
踏み出しの軽さ | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★★★★ |
乗り心地の差は、特に傷んだアスファルト上では違いを感じられた。
一方、AGILESTとLIGHTの踏み出しの差は僅か。極端な状況(激坂の上り等)で僅かにLIGHTのほうが軽いかな?というくらい。
可能な限り条件を揃えた「比較試験」ではなく、主観的な印象が多いインプレッションだが、この記事がタイヤ選びの参考になれば嬉しい。
なお、少し遅れて発売されたチューブレスレディタイヤ AGILEST TLRについてはこちらの記事でレビューしている。