【レビュー】Verve InfoCrank ~SRMを超える高精度を実現 専用設計クランクで校正不要のパワーメーター~

Verve InfoCrank

高精度なパワー測定を追求した両脚測定のパワーメーター。正確にパワーを測るため専用設計されたクランクはパワー測定値が温度に影響されず、キャリブレーションは不要。
また、クランクに加わる力は毎秒256回測定しており、ダンシング、スプリントなど、どんなペダリングであっても正確な測定値が得られる。
結果として、±0.37%というずば抜けた精度を実現している。

評価 ★★★★☆

購入価格 65000円

長所 -Pros-

  • 測定器としての精度を追求した構造
  • パワー測定値が温度変化の影響を受けない

短所 -Cons-

  • クランクとしては重量級
  • ケイデンスマグネット無しの場合、まれに起動しない
  • 高価なSR44電池を両側合わせて4個も使う

InfoCrankのスペック

InfoCrankは左右独立測定のクランクアーム型パワーメーターで、購入したものはクランク長172.5mmで、PCD130mmの5ピンチェーンリングに対応する。
スピンドルは24mmで、シマノホローテックIIと互換性がある。

製品名Valve Infocrank 110 BCD 24mm
クランクアーム仕様
スピンドル24mm(シマノホローテックII互換)
クランクアーム172.5mm Qファクター145mm
重量700g(チェーンリング含まず)
パワーメーター仕様
防水IPX7
バッテリーSR44 酸化銀電池 4個(片側2個×左右)
電池寿命 500時間(ケイデンスマグネット使用時)/ 250時間(ケイデンスマグネットなし)
測定精度±0.37%
最大パワー3000W
測定項目パワー(左/右/合計), 左右ペダリングスムースネス, 左右トルク効率
通信規格Ant+
InfoCrank スペック

まるで精密な測定器のような箱に入っている

クランク型パワーメーターの特徴

パワーメーターの測定原理

パワーメーターは、駆動力がかかる部分の微小なひずみを検知してパワーを計算する。

より正確に書くと、駆動トルクと回転速度の積がパワー(W)となる。

そのため、市販のパワーメーターはペダルスピンドル、クランクアーム、クランク軸、スパイダーアーム、リヤハブといった、ペダリングの力が後輪に伝わる経路上に組み込まれており、ケイデンスなりハブの回転数なりと掛け合わせて計算したパワー値をAnt+やBluetooth通信でサイクルコンピューターに送信している。

しかし、人のペダリングは力もスピードも不安定でモーターのようにスムーズに回らないため、クランク1周ごとに計算していたのでは誤差が大きくなってしまう。
そこで、実際はクランク1周を何分割かにして、あるいは短い時間ごとにパワーを計算している。

クランクアーム型パワーメーター

InfoCrankは、パイオニアのペダリングモニタやStages、4iiiiと同じクランクアーム内蔵型のパワーメーター
ペダリングに伴うクランクアームの曲げ変形をひずみゲージで検知している。

クランクの変形でパワーを測定する4iiii

クランクアームはパワーの源である脚に近い場所にあり駆動抵抗の影響を受けないため、理屈の上では正確なパワー測定が可能である。
(例えばリヤハブ計測のパワータップは、チェーンが汚れていて抵抗が大きい場合、実際のペダリングパワーより低めの値が測定されてしまう)

ところが、クランクアームはクランク回転方向に曲がるだけでなく、クランク軸方向に曲がったり、アーム自体がねじれるように変形し、測定精度に大きな影響を与える。
その具合は個々人のペダリングによって千差万別だし、低出力と高出力、シッティングとダンシングでも異なる傾向を示す。

そのため、クランク型パワーメーターはひずみゲージを複数貼り付けて、クランク回転方向以外の変形が測定値に影響しないように工夫しているが、
市販のクランクは軽量化と剛性の両立、そしてデザイン上の理由で曲面を組み合わせた形状をしており、ペダリング時に複雑に変形する。そのため、誤差を完全に補正することは難しい

InfoCrankは、何種類かあるパワーメーターの測定方式の中でクランク型がベストと考えており、専用クランクの使用で測定誤差を排除した上で、高い精度と信頼性を誇るパワーメーターを開発した。

InfoCrankが高精度である理由

InfoCrankは「正確にパワーを測定する」ことを第一に設計されており、

  • 専用設計クランク
  • 高速サンプリング

という特徴を持つ。

なお当然ながら、左右クランクアームそれぞれにパワーメーターが内蔵されており、測定されるパワーは片足測定パワーメーターのような推定値ではない。

専用設計したクランク

自転車のクランクに要求される性能はシンプルで

  • 軽い重量
  • 高い剛性

の両立である。もちろん限度はあるし、コストの問題もあるが、概ね、上位コンポーネントほど軽量高剛性なクランクといって良い。

ところがInfoCrankは「正確にパワーを測定する」ためだけにクランクを専用設計した。

クランクアームの根本側にある測定部分は単純な四角柱で、材料力学の教科書通りに変形する。

「VERVE」の文字がプリントされている測定部は単純な四角柱

内部には長円形の穴が空いており、そこにひずみゲージが貼り付けられている。

クランクの曲げ・ねじれ変形の軸線に対称な位置に貼り付けられた2個のひずみゲージは、クランク駆動方向の変形のみを検知できる。
市販クランクにパワー測定機能を付加する4iiii Precisionではねじれ具合を測定して補正後のパワーを送信しているが、InfoCrankはそもそも補正する必要がない

クランクアーム内部にひずみゲージを貼り付け

また、温度による熱膨張の影響も受けないため、InfoCrankはキャリブレーション不要となっている。
サイクリング中、時間変化、標高変化、天候変化で気温は刻々と変化するが、InfoCrankは家を出てから帰ってくるまで、常に正しいパワーを測定することができる。

InfoCrankのウェブサイトでは、同社製品の優位性について解説されている。
ここに限らず、同社サイトにはパワーメーターマニアにとって有益な情報がたくさん掲載されており、翻訳アプリ片手に眺めると非常に面白い。

InfoCrank Tech

Verveでは、精密機器に求められる高い基準でInfoCrankを製造しています。
すべての製造工程を管理することで、既存のクランクセットに追加したパワーメーターでは不可能な精度を実現しています。

クランクは、従来の2D冷間鍛造による最高品質のもので、ポケットは100分の5ミリ(0.05ミリ)の精度※1 で加工されています。
ストレインゲージは、クランクの内側と外側の面に対称的に設けられたポケットに接着されています。左右のクランク間、あるいはInfoCrankの個体ごとのばらつきは非常に小さく、製造時に1ワット以上の差が出ることはありませんが、その差も工場で校正されます。

合金製クランクセットであるInfoCrankがなぜ精密機器であると言えるのか。それは、左右のクランクがそれぞれひずみゲージを中心に設計されているからです。
ひずみゲージは自転車を駆動する接線方向の力(トルク)のみを測定し、クランクにかかる(駆動力に寄与しない)横荷重、半径方向荷重、ねじれ荷重は測定しないため、InfoCrankは単体で非常に高精度です。
すべてのロードセルは個別に校正され、独立した試験と外部認証を受けています。認証テストでは、InfoCrankの誤差は私たちが最も乗るゾーンで平均0.2%未満であることが証明され、100回のテストでの最大誤差は0.57%でした。
これほどまでに高い精度を実現したパワーメーターは他にありません。

ひずみ式ロードセルの精度は、外部からの温度変化によって低下します。これは、全天候型アスリートであるサイクリストがあらゆる状況で使用する場合、問題となります。
温度変化は熱膨張を引き起こし、これが負荷の変化と混同されて誤ったパワー測定値となるため、ひずみゲージを使用するパワーメーターは通常、これらのエラーを補正する必要があります

InfoCrankは、アルミニウム製クランクの熱膨張を補正した最高品質のストレインゲージを使用することで、こうした誤った測定値を克服しています。
さらに、完全なホイートストンブリッジ構成で各クランクセットに4つのストレインゲージ※2を使用することで、構造レベルで温度を補正し、InfoCrankを温度変化の影響を受けないようにしています。
ひずみゲージの品質、適合性、配置、そして完全なホイートストンブリッジ構成は、温度変化に影響される測定値に対処する最も正確な手法です。

※1 切削加工において加工精度0.05mmは大したこと無い
※2 1アーム2個、クランクセットで4個

InfoCrank Tech
駆動方向(1)のみの力を測定するよう設計されたクランク InfoCrank.cc

高速サンプリング

前述の通り人間のペダリングは不安定なため、正確なパワー測定を行うには、刻々と変化する力とスピードをどれだけ細かく捉えられるかがカギになる。

パワーメーターの元祖であるSRMは毎秒200回の測定を行っているが、InfoCrankのサンプリングレートはSRMを凌ぐ256Hz。つまり1秒あたり256回パワー測定を行う。ケイデンスにかかわらず、また急激な踏み込みを行っても高精度にパワーを測定できる。
Ant+でパワーデータを送信する際は、256点のデータをもとに、平均化したパワー値を毎秒4回のレートでヘッドユニット(Garmin Edge等)に送信している。

例えばケイデンス180rpmで回している時、クランク1回転に要する時間は約0.33秒だが、InfoCrankは、この間85点のデータを取得できる。
たとえゴールスプリントでガチャ踏みしている状況下でも、瞬間的に変化するペダリングトルクを取りこぼし無く測定できる。

ウェブサイトによれば、闇雲に高いサンプリングレートで測定しても精度向上は認められず、計算負荷のみが高まるため、測定は毎秒256回となったらしい。

サンプリングのイメージ InfoCrank.cc

パワーメーターとして

パワー計測機能

パワーメーターとしての機能は、ほぼフル装備と言って良い。

パワー(左、右、合計)、左右バランス、左右ペダリングスムースネス、左右トルク効率を送信可能で、これらはGarmin Connectで確認できる。

他のパワーメーターと比較してみても、精度に問題はない。というかむしろ、InfoCrankをパワーの基準にすべきと思える。

測定精度と再現性

また、測定精度は±0.37%と驚異的な値。本当の意味で「測定器」と言える存在である。

市販のパワーメーターの精度はだいたい±2%で、精度が良いとされるパワータップでさえ±1.5%と、桁が違う。

精度2%といっても、上下に4%も振れたら、例えばFTP300Wの場合12Wもの差になる。
パワートレーニングに真剣に取り組んでいる人なら、指定パワー10Wの差が決して小さくない事は身を持って知っているはず。

トップアスリートのパフォーマンス測定や実験用途に使用されるSRM Powermeter Science Roadでようやく精度±0.5%である。

前述のように、クランク形状そのものから設計することでパワーメーターとしての精度や再現性を大幅に高めており、
温度変化による熱膨張の影響を受けないため、ゼロキャリブレーションも不要とされている。

単に荷重を精度良く測定するだけでなく、サンプリングレート

サンプリングレートの高さゆえ、フリー空転状態からの踏み込みでパワースパイクが出ることが稀にあるものの、
パワーメーターとしての精度、信頼性は非常に高く、パワートレーニングにおける絶対的な基準たりうると言って良い。

SR44ボタン電池を4個使用

バッテリーはSR44酸化銀電池で、片側のアームに2個、両側で4個使用する。

アーム内に埋め込む都合で他に選択肢がなかったのかもしれないが、高価な電池を4個も使うのは精神的に少々こたえる。

電池寿命は公称500時間(ケイデンスマグネット使用時)だが、そんなに持たない。
マグネットなしで使う場合は電池寿命が250時間になるが、ライドログを見ると250時間で2~3セットの電池を使っている。
使用期間切れの電池を使ったとはいえ、少々燃費が悪すぎる気がする。

一応、安価なLR44アルカリボタン電池で代用することもできるが、液漏れリスクを考えるとあまり使いたくない

バッテリー交換は面倒で、はっきり言ってイケてない。
長円形の蓋を2mmの六角レンチで外すと電池がポロリとこぼれ落ちる。
固定ネジは電池蓋から脱落しないようになっているが、向きを間違えるとインジケーターLEDが見えなくなる。

また、このOリングは防水性の要なので、電池交換時にはゴムの保護と防水のため、シリコングリスを塗っておくほうが良い。

起動時の不具合

発売当初はケイデンスマグネットが必要だったが、これがBBシェルに取り付け、または両面テープで貼り付けるブサイクな代物で、フレームによっては取り付けが難しいこともあり不評だった。
のちにファームウェアアップデートでマグネット不要になったが、やや不安定なのか、ペダリングを始めても起動しないことが1年間で数回あった。

電池を一旦外して強制的に起動させる方法もあるが屋外でやりたくないので、
小さなネオジム磁石をバイクの適当なボルトにくっつけておき、不具合の際は磁石でセンサーをつついて起こすことにしている。

ケイデンスマグネットを使用しない場合はバッテリー寿命が半減する(公称500時間→250時間)ことも考えると、できる限りマグネットつきで運用したい。

クランクとして

パワーメーターとしての完成度の高さに対して、クランクのバイクコンポーネントとしての性能は今ひとつといったところ。

シマノホローテックII互換のスピンドル

鉄製のスピンドルは24mm径で、シマノホローテックIIと互換性がある。

スピンドルは右クランクと一体化しており、左クランクをフィキシングボルトで締めて固定する。
六角レンチのサイズは8mm、締め付けトルクは45Nmとなっており、微妙な圧入具合はプラスチック製のシムで調整する。

なお、アルミ製30mmスピンドルの製品もラインナップされている。

重量級のクランクアーム

プラクシスワークス製という噂のクランクアームは梨地仕上げで、仕上げが悪いわけではないものの定価1279ドルに見合った高級感は無い

また、パワー測定精度を最優先にした設計のため、クランクアームとしては重量級。
一応クランク裏に肉抜きはあるが、クランクアームの重量は700g。これにチェーンリングが加わると、850gを超える

高級感に乏しい外観

R9100デュラエースのクランクがチェーンリング込みで624g(52-36T)、R7000系105ですら742g (52-36T) というのを考慮すると、重量増加は100~200gほどになる。
トレーニング機材としては全く問題ない重量ではあるが、レースバイクに取り付けるのには少なからず抵抗を感じる。

今どき5アームスパイダー

2015年頃の製品なので仕方ない部分もあるが、スパイダーは5アームのPCD110mm、あるいは130mm
現在、5アームのチェーンリングは入手が難しくなってきている。シマノに限って言えば、9000世代、R9100世代はPCD110mm 4アームクランクになったので、適合するチェーンリングはすでに2世代前のコンポーネントとなる。

購入したクランクはPCD 110mm。当初はFSAの50-34Tチェーンリングを使っていたが、私の乗り方ではコンパクトクランクは使いにくいうえ変速性能にも不満があったため、現在はFC-RS500用のチェーンリング(52-36T)を使用している。

まとめ:パワートレーニングの基準となる測定器

バイクを構成するコンポーネントとして見ると、InfoCrankは5アームの重たいクランクに過ぎないが、この製品の値打ちはパワーメーターとしての精度にある。

パワートレーニングに取り組む際、パフォーマンスの指標としてFTPMMP(最大平均パワー)が使われる。

すでにトレーニングを積んでいるサイクリストの場合、FTPが何10Wも上がることは稀で、パフォーマンスの向上はFTPにして数Wずつの積み重ねとして表れる。
ところが市販パワーメーターの精度は±2%程度。上下に4%も振れたら、例えばFTP300Wの場合12Wもの差になる。
もちろんFTPテストの結果は体調や環境に大きく影響されるが、高精度なパワーメーターを使うことは、トレーニング成果を高精度に捉えることに繋がる

トレーニングの最中にパワーゾーンを管理したり、あるいは単にTSSを測るために使うのなら、精度±2%程度のパワーメーターでも実用になるが、歪んだ物差しや狂った秤ではパフォーマンスの絶対値は測れない。
InfoCrankは精度の高い「測定器」として、パワートレーニングの絶対的な基準になる存在。