【レビュー】WINSPACE M6 MILEMASTER ~ホビーライダーのための「GTカー」~

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WINSPACEの新製品M6 MILEMASTERは、フレーム価格30万円というミドルグレードの激戦区ながら、「エンデュランスバイクの快適性とレーシングバイクのスピードを両立させたエアロロード」という独自のコンセプトを掲げる一台だ。

スピードを出して走ることは好きだが、レースはしない。速く、遠く、快適に走りたい。そういうホビーサイクリストのためのコンセプトがどう実現されているのか。バイクの形状・構造をクローズアップするともに、実走テストを通じて確かめた。

目次

動画レビュー

ミドルグレード市場を狙う戦略モデル WINSPACE M6

日本のサイクリストの間で人気のロードバイクといえば、やはりグランツールを走るハイエンドエアロロード。これらのバイクはグランツールで勝つことを至上命題とし、CFDや風洞実験、FEM解析を駆使し、プロレーサーのフィードバックを重ねて開発される。
カーボン繊維や製法についても、現時点で利用可能な最高のものが投入される。
こういう最先端のレース機材は雑誌やWebメディア、SNSで取り上げられ話題になる。しかし、高性能を追求した結果、フレーム70~80万円は当たり前、100万円に迫るものもあり、とても身近とは言い難いものになってしまっている。
これらのバイクに乗る層は、シリアスレーサーか、それとも富裕層か。いずれにせよ、サイクリストのごく一部に過ぎない。

レースをしない層を含む大多数のサイクリストが購入するのは、ミドルグレードのカーボンバイクだ。特に、フレーム価格30万円前後の価格帯は売れ筋で、さまざまなブランドがしのぎを削る激戦区となっている。
フレーム価格308,000円で発売されたWINSPACE M6は、まさに激戦区のど真ん中を狙ったバイクといえる。

WINSPACEは中国福建省の厦門を拠点とする「中華ブランド」だ。日本の自転車業界で経験を積んだ蔡正昌氏が2008年に設立し、いまやXDSやPARDUSと並ぶ「中国三大ブランド」の一つとなった。
同社は、競技志向のハイエンドロードバイクを得意とし、多数の特許を取得している。中国政府からはXiaomiやInsta360と並ぶ「ハイテク企業認定」を受けていることからも、その技術力がうかがえる。

WINSPACEの最大の特徴は、開発・製造・組み立て・販売までを自社で一貫して行える点だ。多くのブランドは製造工程をOEM工場に委託しているが、WINSPACEは自社工場を保有(委託生産も行っている)することで、リードタイムの短縮と高水準な品質管理を実現している。

そんなWINSPACEは「大手ブランド並の高性能を手頃な価格帯で」というコスパ戦略で市場を拡大してきた。
昨年の日本バイシクルオブ・ザ・イヤー大賞を受賞したSLC3も、その後継モデルSLC5も、「エスタマ」の重量や剛性をターゲットに開発されたことは誰の目にも明らかだった。

しかし、今回の新製品M6は「大手のジェネリック」とは一味違う。他社よりワンランク上の性能はもちろん、独自のコンセプトを持った一台だった。

コンセプト:レースカーでもファミリーカーでもない「GTカー」

WINSPACE M6のコンセプトについて、資料では「エンデュランスバイクの快適性とレーシングバイクのスピードを両立」と表現されている。

プロレーサーが操るハイエンドなエアロロードは、常人離れしたフィジカルを前提としており、大出力での高速走行時に本領を発揮する設計だ。また、コストよりもパフォーマンスを極限まで追求した結果、価格も高額になりがちで、一般のサイクリストには正直なところ持て余す存在だ。
一方で、エンデュランスロードは快適性を最優先しているが、スポーツ走行というよりはレクリエーションを想定した製品も少なくない。高すぎるハンドルポジションやマイルドすぎる挙動は、スピードを楽しみたいサイクリストにとって物足りなさを感じる要因となる。

M6 MILEMASTERが目指したのは、その中間的な立ち位置だ。フレーム形状は高速性能を追求したエアロロードのスタイルだが、設計の主眼はペットネーム「MILEMASTER」の通り、一般サイクリストが長距離を速く、かつ快適に、最後まで体力を残して走り切ることに置かれている。

車に例えるなら、速いが乗り心地が悪く疲れるレースカーでもなく、安楽だが退屈なファミリーカーでもない。M6は「スポーツカー」、それも長距離を速く快適にドライブできる「GTカー」のような存在だ。
しかもM6は専用に設計された金型を持つ。カーボン繊維のグレードを落とした「レースカーのデチューン」ではないところに、WINSPACEの本気度合いがうかがえる。

こういうコンセプトを打ち出したバイクは意外と少ないが、M6がフィットする層はかなり広いのではないだろうか。

外観デザインと空力

M6のエアロロードであり、フレームの各部には空力を向上させるためのな工夫が見られる。特に、バイク全体の空気抵抗の大部分を占める、フロント周りを中心に徹底した空力対策が施されている。

まず目に留まるのは極端に幅広なエアロフロントフォークだ。走行風が最初に当たるフォークブレードで、できるだけ空気抵抗を減らそうとする意図が読み取れる。
また、スルーアクスルのネジ部に蓋がされたステルスアクスル仕様となっており、僅かな抵抗も減らそうとしている。

ヘッドチューブは先端が尖った造形で、さらに前後にも長さをとり、全体として翼断面を形成している。
さらに、中央部は絞り込まれ、前面投影面積を減少させることでさらに空力を高めている。

ヘッドチューブとフォークの接続部もスムーズに繋がっている。
ダウンチューブのヘッド側は薄く絞られ、フォークの内側を通った風を、後方にスムーズに流すようになっている。
同様の造形を採用するSLC5ではハンドル切れ角に制限があったが、M6は改良され、フォーククラウンとフレームが干渉しない設計となっている。

リヤ周りは、エアロロードとしてオーソドックスな設計だ。シートチューブとシートポストは扁平のエアロ形状を採用。
ドロップドシートステーの接続部は水平尾翼のような薄い形状になっている。

さて、このM6。塗装が綺麗な点も特徴だ。
最近新たに作った自社の塗装工場でペイントされており、品質は高い。
コストに制限のあるミドルグレードながらカラーバリエーションも豊富で、そのどれもが手間のかかる塗装方法を採用している。

剛性・重量

M6には、東レT800、T700、M40に加えてM60カーボン繊維が採用されている。

T系列のカーボン繊維は高強度で、破壊されにくく、大きな力に耐えることができる。
一方M系列の繊維は高弾性率が特徴で、曲がりにくい、つまり剛性の高い構造を作ることができる。

M60は強度こそ平凡だが、その弾性率はT800の約2倍に及ぶ。つまり、全く同じ積層の場合、T800の倍の剛性になるということだ。
高強度カーボンや高弾性率カーボンを適切な場所に使用することで、重量を抑えつつ剛性を高めることができるが、こういうハイエンド繊維は高価だ。
通常M60のようなカーボンはハイエンドバイクにしか採用されない。ミドルグレードの価格帯でこれだけの材料を採用できるのはWINSPACEならではと言える。

ただ、良い繊維を使ったから必ず良いバイクになるというわけではない。
M6の開発にあたり、バイクの乗り味を決定するカーボンシートの積層パターンは試行錯誤が重ねられた。6回以上の設計変更を経て、重量と剛性バランスが最適に調整されており、ISO規格を大幅に上回るフレーム強度も達成している。

Mサイズの未塗装フレーム重量は900gと決して軽量ではないが、エアロロードであることを考慮すると重くもない。
例えば、キャニオンのエアロードCFRは900g台半ば。パーツ載せ替え次第ではエアロードより軽くなる可能性もある。

なお、105Di2完成車でペダルレスの車重は8kgだった。

整備性:汎用規格を選んだ理由

M6は汎用規格を積極的に採用し、長期間にわたって高い整備性を実現している。

フル内装のヘッドセットはFSAのACR規格を採用する。ヘッドベアリングが上下とも1.5インチでクリアランスが広く、ブレーキとシフトで4本のケーブル類が通る機械式コンポーネントでも組付けが行いやすい。
また、ACR対応の他社製ハンドルを無加工で取り付けられるし、将来的なパーツ入手にも困らない。

ディレイラーハンガーにはSRAMが提唱するUDH(ユニバーサルディレイラーハンガー)を採用。重量や空力面で多少のデメリットはあるものの、車種やメーカーを問わない汎用規格のため、予備ハンガーの入手が容易だ。
また、大きな衝撃が加わった際はハンガー自体が後方にズレるように回転することで、フレームやディレイラーへのダメージを防ぐ機能も備わっている。

最後にボトムブラケットはT47規格となっている。剛性を稼ぎやすいワイドなBB幅を備えつつ、スレッド式のため簡単・確実に脱着を行え、異音などのトラブルも起きづらい。

限界の軽さや速さを追求するなら、ヘッドは専用設計になり、BBも圧入タイプになるが、我々は、プロメカニックが毎日メンテしてくれ、新型が出れば新たに供給されるプロレーサーではない。
M6は敢えて汎用規格を採用したことで、5年後、10年後も簡単にスペアパーツが手に入り、個人レベルでもメンテナンスしやすいようになっている。まさにホビーサイクリストのための自転車といえる。

サイズとジオメトリ

M6は6サイズで展開される。フォークオフセットはXS/Sが49mm、M以上が43mmの2種類で、全サイズで自然なハンドリングを実現することにこだわっている。

先代C5 AEROからジオメトリが調整され、より「走り」を重視した正確に味付けされている。
チェーンステー短縮(412→410mm)、トレール短縮(66→63mm)により、よりダイレクト&クイックな特性になった。

Winspace M6 MILEMASTERジオメトリ

項目XSSMLXLXXL
シートチューブ長 (mm)430460480510530560
スタック (mm)507521535550564593
リーチ (mm)365374383391400407
トップチューブ長 (mm)502514536554571587
ヘッドチューブ長 (mm)107120130145160187
ホイールベース (mm)97298198099210061013
チェーンステー長 (mm)410410410410410410
BBドロップ (mm)727272727272
シートチューブ角74.9°74.9°74.0°73.5°73.1°73.1°
ヘッドチューブ角70.8°71.3°72.2°72.3°72.3°73.2°
フォークオフセット (mm)494943434343
トレイル・32C (mm)65.462.463.162.562.557.2

また、スタック値もC5 AEROから約7mm低くなった。
バイクのフィッティングに影響するスタック・リーチの数値を他社のバイクと比較すると以下のようになる。

リーチ・スタック比較

M6のスタックは競合と比べてやや低めで、大手エアロロードと同等の、ハンドル落差を大きく確保したエアロなポジションに調整しやすい設計になっている。

コンポーネントとラインナップ・価格

M6はフレームセットのほか、3グレードの完成車で販売される。
フレームセット308,000円もバーゲンプライスだが、完成車になるとそのコストパフォーマンスは群を抜いている。

特に、今回のレビューで使用した105 Di2 SPORTS完成車(498,000円)は、電動コンポにカーボンホイール(UNAAS HARD SE)、カーボン一体型ハンドル(WINSPACE ZERO SL)が標準装備になって50万円を切っている。

なお、ハンドルは購入時に幅とステム長を選択できる。

ラインナップ価格(税込)コンポーネントホイールハンドル
フレームセット308,000円
105 SPORTS 完成車448,000円Shimano 105UNAAS HARD SEZERO SL
105 Di2 SPORTS 完成車498,000円Shimano 105 Di2UNAAS HARD SEZERO SL
ULTEGRA Di2 完成車728,000円Shimano ULTEGRA Di2HYPER5HYPERハンドル

実走レビュー

雨の日が多く思ったより乗れなかったが、130kmのロングライドを含む合計200kmのWinspace M6 MILEMASTER 実走テストを行った。

第一印象

いつもバイクに試乗する時は、バイクの挙動を確かめながら徐々にペースを上げていくのだが、M6は走り出してすぐ身体に馴染んだ。
高剛性を追求したレーシングバイクのようなダイレクトで強烈な加速感はない。だが、加速・減速・旋回・巡航、どの状態でも予想しやすい自然な挙動を示す。今回の試乗車は箱から出したばかりの新車で、まだブレーキの当たりも出ていないのに、乗り慣れたマイバイクのようだった。

乗り心地と剛性

フレームやフォークが幅広いエアロ形状で、縦方向にも横方向にもかなり硬いのではないかと想像していたが、実際の乗り心地はマイルドで驚いた。
50mmディープ+28cクリンチャータイヤを履いているが、荒れた路面でも身体を跳ね上げられる不快感が少ない。

フレーム剛性に関しては、ヘッドチューブ周りはかなりしっかりとしている一方、後ろ半分は良い意味でしなやかな特性だ。
高トルクの踏み込みに対してねじれを許容するため、足への跳ね返りが少なく、長距離を走っても疲労が少ない。
前が硬くて後ろがしなやかなこの性格は、マイバイクのCannondale SuperSix EVO Hi-MODに近い印象だが、ホビーサイクリスト向きをうたうM6のほうがやや柔らかめの味付けに感じた。

ヒルクライム中、ダンシングで激坂を登る時くらいのパワーだと、フロントが荷重を支えてバイクの進路を保ちつつ、BBは絶妙にウィップして乗りやすい。ちょっと重めのギヤで、しっかりペダルを踏んで登るのが気持ちいい。

ただし、1000W、1200Wの全力スプリントでは流石に剛性不足で、フレームが変形しきってしまい、トラクションが逃げてしまう。
M6が目指したのは全力全開でのパフォーマンスではなく、ハーフスロットルでのキビキビした走りだ。毎日のようにスプリントして最大パワー更新を狙う武闘派レーサーには物足りないかもしれないが、ライドの大部分を占める中程度の負荷領域ではスイスイと進んでくれる。

空力・巡航性能

空力については外的要因の影響を大きく受けるため評価が難しいが、UNAAS HARD SE 50mmディープとの組み合わせでは、エアロロードらしい、高速時に背中を押されるような速度の伸びを実感できた。
また、ペダリングのムラを吸収する適度なフレーム剛性と、乗り心地の良さも相まって、巡航性能は高い。

ジオメトリの恩恵も大きい。スタックが低いためハンドル落差を大きく確保したエアロなポジションに調整しやすく、バイクとライダー全体で空気抵抗を低減できる。

さらに、M6は同社レーシングバイクのSLC5と比べるとトレール値もチェーンステー長もわずかに長く、マイルドなハンドリング特性が与えられている。そのため、直進安定性が高まり、車体のふらつきを抑えられる。

空力・剛性・振動吸収性・ハンドリングといった様々な工夫で、肉体的にも精神的にも疲労を軽減できる。今回の実走テスト中、130kmほどのライドに出かけたが、最後まで余裕をもって走りに集中できた。

まとめ:「これでもいい」から「これがいい」へ

Winspace M6 MILEMASTERは、レーシングバイクが持つ驚異的な軽さや爆発的な加速力はない。しかし中負荷で気持ちよく走り、長距離をハイスピードかつ快適に走り切れるGTカー的な一台だ。
シリアスレーサーではないがスピードを楽しみたい、もっと遠くまで、もっと速く、しかも快適に走りたい。そんなホビーサイクリストにぴったりのバイクといえる。

随所にコストが掛かっていることがうかがえるが、高騰するロードバイクの中では価格も手頃。
さらに、規格も汎用的で長期的な整備性が良く、一般サイクリストのためのエアロロードとして非常に完成度が高い。

SLC3やSLC5に試乗したとき、その性能の高さ、完成度の高さは確かに実感できた。しかしその一方で「大手のジェネリック」の域を脱していないとも感じた。
ブランド価値を高め、ロードバイク市場で「安くて高性能」以上の評価を得るためには独自の「WINSPACEらしさ」が必要だ、と当時のメモには書いてある。

M6 MILEMASTERは「GTカー的なエアロロード」という明確なコンセプトを打ち出し、それをカタチと走りに落とし込んできた。
「これでもいい」から「これだからいい」と思えるバイクになったし、この30万円のフレームで、WINSPACEというブランドにはしっかりと「色」がついたように感じる。

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