軽量クリンチャータイヤPanaracer AGILEST LIGHTと、中華ブランドRideNowの超軽量TPUチューブを組み合わせて、ロードバイクを120g軽量化。ヒルクライム仕様にした。
ロードバイクのタイヤ交換で軽量化
ロードバイクに履いていたタイヤが摩耗してきたので、そろそろ交換することにした。
現在のタイヤは(パナレーサーのアンバサダーということもあって)クリンチャーのAGILEST 25c+R’Airチューブ。AGILEST TLRを使っていた時期もあるが、シクロクロスシーズンはほとんどロードに乗らないので、シーラント管理が不要で運用面に優れるクリンチャータイヤを使用していた。
走行距離は2000kmほどだが、後輪がやや台形化してきたのと、トレッドには切り傷がいくつか。サイドも1箇所切れている。
(ケーシングが見えるまで使うサイクリング部員の感覚では)もう少し走れそうではあるが、シクロクロスシーズンが終わってロードに乗る機会も増えるだろうし、気持ちよく交換。
今回は、アジリストシリーズ最軽量のAGILEST LIGHTとTPUチューブでバイクを軽量化し、ヒルクライム仕様にする。
…ヒルクライムレースに出る予定は無いけど。
普段使いできる軽量タイヤ AGILEST LIGHT
クリンチャーのアジリストは、
- オールラウンドなAGILEST (23, 25, 28, 30c)
- 耐パンク性重視のAGILEST DURO (23, 25, 28, 30c)
- 軽量なAGILEST LIGHT (23, 25, 28c)
の3種類ラインナップされ、用途に応じて選択できるようになっている。
ヒルクライム仕様ということで、履き替えるタイヤはもちろんAGILEST LIGHT。タイヤ幅25cで比較して、AGILEST(無印)より20gも軽い170gという軽さを誇る。
軽さの秘密はトレッドにある。幅を測ると、AGILESTは30mmなのに対して、LIGHTは25mmと狭い。ゴムの量を減らすことで軽量化しているのだ。
ケーシングも明らかに薄く、手に取るとすぐに違いがわかる。
これだけ薄いとパンクが心配だが、AGILEST LIGHTには踏み抜きパンク対策のため耐パンクベルトが入っている。
薄いケーシングが広く露出しているためサイドカットには注意が必要だが、普段遣いできるヒルクライムタイヤといえる。
格安で超軽量な中華TPUチューブ
チューブは、ブチル、ラテックスに継ぐ第3のチューブ「TPUチューブ」を使用する。
TPU(熱可塑性ポリウレタン)は、エア配管用チューブや靴底、スマートフォンケース、明るい家族計画などに使用される軟質な樹脂素材だ。
自転車用インナーチューブとしては、強度があるため肉厚を薄くでき、非常に軽量にできる。重量は30-40g程度で、ブチルチューブと比べて半分~3分の1。ラテックスチューブより空気抜けが穏やかな点も利点といえる。
今回使用するのは、いわゆる中華TPUチューブ。RideNowというブランドでAliexpressやAmazonで販売されている製品だ。
TPUチューブのネックは価格で、元祖的な存在であるTubolitoは1本4000円、少し安いRevoloopでも1本3000円程度の値付けなのだが、RideNowは1本1000円程度(Aliexpress)。
Aliexpressの難点はいつ届くかわからないことだが、特に急いでいるわけでもないのでとりあえず2本購入した。
なお国内発送のAmazonでは1800円程度で購入できる。
はるばる中国から届いた封筒は、1本しか入っていないのではないか?というくらい軽かった。
チューブを開封すると、まずそのコンパクトさに驚く。
肉厚も相当に薄く、チューブというより、厚手のビニール袋のような触感。厚みは0.3mm程度だ。バルブステムもプラスチック製となっている。
パッケージには36gとあるが実測重量はさらに軽く、31gと33g。軽量ブチルチューブの半分の重さだ。
タイヤ交換
まずは古いタイヤをホイールから取り外す。AGILESTとR’Airチューブが癒着していて若干手間取ったが、タイヤは(もったいないと思いながらも…)廃棄。チューブは再利用するので、空気を抜いて折りたたみ、予備チューブボックスへ。
次に、AGILEST LIGHTのビードを片側だけ嵌める。タイヤの回転方向指定があるので注意すること。
そしていよいよTPUチューブのインストール。噛み込み防止のため、チューブに軽く空気を入れてからタイヤに収めていくが、TPUチューブは伸びるともとに戻らないため空気の入れすぎには注意。マニュアルには0.5bar以上入れてはいけないと記載されている。
ちなみに、RideNow TPUチューブの対応タイヤ幅は18-32cと幅広いが、太いタイヤで使うと伸びてしまうため、その後細いタイヤでチューブを使うことはできないらしい。
組付け作業自体はそこまで難しくないが、チューブが薄いため噛み込みに注意。
幸い、鮮やかなピンク色なので、ビードとリムの間に噛み込んでいたらひと目で分かる。
タイヤを嵌め終わったら空気を入れていく。ただし、一気に高圧まで入れてはいけない。
1気圧程度入れてタイヤをよく揉み、チューブの偏りやねじれを取り除く。
また、空気を入れる前にバルブステムを引っ張り出しておくことも重要だ。これを怠ると、バルブ付近でチューブが伸びてパンクするらしい。
入念にタイヤを揉んだら7気圧程度まで加圧。ホイールを回して、タイヤのビードが均一に上がっている事を確認。
チューブが薄いため気を使う場面もあったが、慎重に作業すれば問題なく取り付けできる。
最後に、バルブ部分に付属のステッカーを貼る。少し厚手の素材で、バルブステムのガタツキを抑える役目があるようだ。
タイヤ+チューブでわずか200g
タイヤ交換前後の重量をまとめると、以下のようになった。
交換前 | 交換後 | |
タイヤ | AGILEST 25c 189g | AGILEST LIGHJT 25c 172g |
タイヤ | AGILEST 25c 186g | AGILEST LIGHJT 25c 169g |
チューブ | R’Air 76g | RideNow TPU 31g |
チューブ | R’Air 76g | RideNow TPU 33g |
合計 | 527g | 405g |
AGILEST LIGHTとTPUチューブで、ホイール1本あたりの重量はわずか200g。そこらへんのクリンチャータイヤ単品より軽い。
したがって、比較的軽量な組み合わせであるAGILSET+R’Airから交換しても、バイク全体で122gもの軽量化を達成した。
加速に大きく影響するホイール外周部がこれだけ軽くなるとは。乗車感の変化への期待も高まる。
適正空気圧はやや低め
タイヤの適正空気圧は体重の他に、リム内幅によっても変化する。そのため、「体重○○キロなら○○気圧」というように単純に決められない。
ケーシングの硬さによっても適正空気圧は変化するのだが、とりあえずAGILEST+R’Airと同じF5.7 R5.9barに設定した。
…走り出してすぐ、乗り心地の悪さを感じた。以前の比較レビューでAGILEST LIGHTは乗り心地が悪いと評したが、それにしても突き上げが強すぎる。空気を入れすぎているような感覚だ。
そこで、空気圧を0.1bar下げるとちょうどよいフィーリングになった。
タイヤやチューブ素材の違いも影響しているだろうが、おそらく主な原因はチューブの厚み。R’Airはじめ軽量ブチルチューブの肉厚は0.6mm程度だが、TPUチューブの厚みは0.3mm。
つまり、チューブが0.3mm薄いため、同じ25cタイヤでもエアボリュームが増大し、25.6c相当になっているというわけだ。
SRAMのツールで検証してみると、体重70kg 車重8kg、リム幅19mmのチューブタイヤ(薄型ケーシング)の場合、後輪の適正空気圧は
- 25c…6.15bar
- 26c…5.83bar
と算出され、(これらから単純に計算すると)25.5cの場合は5.99barあたり。計算上の適正空気圧は0.15barほど下がる。
以上のように、TPUチューブの適正空気圧はやや低くなるため、乗り心地が悪いと感じたら0.1~0.2bar程度下げると良いだろう。
実走インプレッション
AGILEST LIGHT 25c+RideNow TPUチューブで、空気圧をF5.6 R5.8barに設定して250km程度走行したインプレッションをまとめる。
ただし、AGILEST 25c+R’Airとの相対比較であるという点には留意していただきたい。
加速のダイレクト感
タイヤを交換によって、ホイール外周部が120g軽くなった効果はすぐに体感できる。
停止状態からの踏み出しが軽く、タイムラグなく速度が乗る。
この特性は、上り斜面になるとより顕著になる。
特に、ペダリングのトルク脈動で車速が上下するような激坂では、ペダルの踏み込みに対してダイレクトに反応して気持ちがいい。
いっぽう、スムーズに走れる緩斜面では軽量化の恩恵をあまり感じられなかった。
乗り心地は硬い
走行中は、タイヤの中でロードノイズが反響する音が聞こえる。
乗り心地については、AGILSETとR’Airの振動吸収性に慣れていると、振動や突き上げがどうしても気になる。
普段より0.1bar低い空気圧にしていても路面の凹凸を伝えてくるのは、チューブのせいか、それともタイヤのせいなのか。
以前アジリストシリーズ3種を比較レビューした際には、AGILEST LIGHTの乗り心地が硬い印象を持ったが、TPUチューブでより悪化してるように思われる。
ダウンヒルは苦手
上りの軽快さの代償として、下りは苦手だ。
スピードが乗るのに従って路面の突き上げを感じ、60km/h、70km/hと速度が増していくにつれて、接地感はどんどん失われていく。これは結構怖い。
また、タイヤのトレッド幅が狭いせいか、バイクを倒し込んだ時の旋回力の立ち上がりも弱く、深いコーナーでは外側に膨らむ。下りは十分にセーフティマージンを取るべきだ。
いくら耐パンクベルトが入っていて普段使いできるといっても、AGILEST LIGHTはもともとヒルクライム向けのタイヤだ。
ダウンヒルをぶっ飛ばす人は、AGILEST(無印)なり、さらにハイグリップなAGILEST TLRなりを使おう。
トラブルやメンテナンス
極薄で超軽量ということでパンクが心配になるが、AGILEST LIGHTには耐パンクベルトが入っていることもあり、(250kmしか走ってないが…)さいわいパンクには遭っていない。
もっとも、こればっかりは運なので、パンクするときはどんなタイヤとチューブでもパンクするが。
もうひとつ、気になっていたのはTPUチューブの耐熱性。
TPUの耐熱温度は100度未満で、特に薄型のTPUチューブはディスクブレーキ専用となっていることもある。
今回はカーボンホイール+リムブレーキという熱的に厳しい構成だったので不安に感じていたが、標高差400~500m程度のタイトな峠を下って、特に問題はなかった。
ただし、それなりのペース(ブレーキの頻度が少ない)で、リムの熱管理をしながら下った場合は大丈夫だった、というだけで、ヒルクライムレースの下山のような場面ではチューブが熱でパンクするかもしれない。
熱に弱いという点をしっかり把握し、用心しておくべきだ。
なお、空気圧低下は24時間で0.2bar程度だった。ラテックスチューブよりは緩やかで、軽量ブチルチューブ並みといったところ。
ほったらかしで1週間くらい乗れる低圧・大ボリュームのグラベルタイヤに慣れているとやや面倒に感じるが、ロードタイヤはこういうものだ…と言い聞かせて乗るたびに空気を入れている。
マキタの電動ポンプを片手に、朝から大きな音を立てて空気を継ぎ足していると家族の視線が痛い。
まとめ
耐パンクベルトを備えながら170g(25c)。アジリストファミリー最軽量のAGILEST LIGHTは、少々扱いづらい面もあることは事実だが、もともと軽量なAGILESTから更に20gを削り落とせる。
パンク上等のノーガードタイヤでも良いなら、MTBチューブみたいな厚さのヴェロフレックス レコード(25cで150g)とかあるけど…
キワモノと思っていた中華TPUチューブも予想以上に品質が良く、取り付けに少々注意すれば普通に運用できた。
ちょっと高いブチルチューブ程度の価格で、30g少々の超軽量チューブが手に入るのには驚く。
乗り心地の悪さ、グリップの希薄さというネガはあるものの、タイヤ+チューブで200gという重量は上りで大きな武器になる。
(やたら金がかかる)軽量化のなかではかなりコストパフォーマンスが良いし、バイクの剛性も犠牲にならない。ヒルクライムレース用の決戦機材として採用する価値は十分あると感じた。