2021年9月1日、シマノの最上位コンポーネント デュラエース R9200シリーズが発表された。
トレンドを表すデュラエース
ロードバイクを代表するコンポーネントであるデュラエースはおよそ5年毎にモデルチェンジする。
新製品はその時のトレンドを反映しているし、トレンドを作っているとも言える。
モデル | 発表年 | 備考 |
7700シリーズ | 1996年12月 | リヤ9速 |
7800シリーズ | 2003年12月 | リヤ10速 BB軸一体のホローテックIIクランク |
7900シリーズ | 2008年12月 | シフトワイヤー内蔵化 中空チェーンリング コンパクトクランク(50-34T)追加とフロントトリプル廃止 |
7970シリーズ (Di2) | 2009年 | シマノ初の電動変速 |
9000シリーズ | 2012年 | リヤ11速 チェーンリングによらずクランクのPCD統一(110mm4アーム) ダイレクトマウントキャリパーブレーキ |
9070シリーズ (Di2) | 2013年 | 第2世代Di2(6770アルテグラから採用) |
R9100シリーズ (機械式/Di2) | 2016年6月 | 油圧ディスクブレーキをラインナップ [機械or電動変速]×[リムorディスクブレーキ]の4種類 リヤディレイラーのシングルテンション化 28cタイヤ対応のキャリパーブレーキ |
R9200シリーズ (Di2) | 2021年9月 | リヤ12速 Di2のみ展開。第3世代となりセミワイヤレス化 ディスクブレーキがメインで、リムブレーキはR9100と同等 |
例えばギヤ比。ロードバイクブームでサイクリストが増え、「レース用機材」であるデュラエースにも50-34Tのコンパクトクランクが用意されるようになった。
また、多段化に伴ってロー側が大きなカセットスプロケットもラインナップに追加されてきた。
7800デュラエースの最大カセットは11-27T。インナーロー39×27Tを踏めるサイクリストのみが使えるコンポだったが、
12速化したR9200デュラエースでは、最も小さなカセットですら11-30T。プロツアーで使われているバイクをそのまま持ってきても、ギヤが重すぎるということはないだろう。
一方で、電動変速(Di2)や油圧ディスクブレーキはシマノが作ってきたトレンドといえる。
7970シリーズのデビュー時は電動変速の有効性に懐疑的な声もあったが、フロント変速の軽さ、複数の場所に変速スイッチを取り付けできるなど、機械式にはないメリットが認識されると、またたく間に普及した。
ただ、ロードバイクのディスクブレーキ化は業界側が思うようには進まなかったと感じている。
MTBやシクロクロスはすでにディスクブレーキが当たり前になっているが、ブレーキを使う場面は少ないロードバイクでは、 重量増と高価格化のため、ユーザーからはあまり歓迎されていなかった。
普及グレードの105まで油圧ディスクがラインナップされたことで、自転車メーカーの完成車はほとんどがディスクブレーキとなったが、
2021年現在、敢えてリムブレーキを使うプロチームもあり、完全に移行したとは言えない。
スーパーカー化する現代の競技用ロードバイク
その昔、ロードバイクがロードレーサーと呼ばれていた頃は、それに乗るサイクリストの殆どは競技者だった。
自転車ブームでフィットネス・レクレーションとしてサイクリングを楽しむ層が増えた今でも、ロードバイク、特に各社フラッグシップモデルはレース用の機材。
サイクリストの限られたパワーで、より速く、より遠くに走れるように造られている。
レースで勝てる、現代の「速いバイク」の要素は4つ。
- 重量
- 剛性
- 空力
- 快適性
大手メーカーが莫大なコストをかけて開発し、プロレーサーによるテストを経て世に出るバイクは、基本的にこの4点全てが高い基準にあると言って良い。
軽量化は何十年も昔、クロモリフレームがツールを走っていた時代から取り組まれてきたが、CFRP(カーボンファイバー)の技術革新でUCIの最低重量6.8kgを簡単に達成できるようになった。
現在、最も開発競争が盛んなのは空力だろう。
自転車が平地を30km/hで走るとき、ライダーの出力の約80%は空気抵抗に費やされる。
さらに速度が上がって45km/hでは、空気抵抗は走行抵抗の90%を占める。
空気抵抗の大半はライダーが生み出していて、バイクやホイールの割合は1~2割程度だが、それでも、バイクの空力性能向上は速度アップにてきめんに効く。
まず、タイムトライアル競技用のTTバイクをベースにしたエアロロードというカテゴリが登場し、今ではカテゴリをこえて、空力に気を使うのは当たり前になった。
しかし、空気抵抗の少ない形状に設計するためには、高性能な計算機による流体シミュレーションや、風洞設備での実験が必要になる。こういった研究開発費は当然、製品価格に反映される。
バイクそのものも、ワイヤー類のフル内蔵化やステム一体ハンドルの採用でコストが嵩んでいるし、油圧ディスクブレーキの採用でコンポーネントも高い。
つい先日発表されたR9200デュラエースは電動変速(Di2)しかラインナップされず、コンポは一式で45万円ほど。
各社から発表されたR9200デュラ組の完成車はどれも100万円スタート。ボリュームゾーンは130~150万円となっている。
これらのバイクはハイエンドのフレームにハイエンドのコンポ。ホイールも価格に相応しいものが組み合わされていて、ポジションさえ合わせればすぐにでもグランツールを走れるスペックになっている。
例えるならばスーパーカー。軽いしかっこいいし、べらぼうに速い。グランツールやオリンピック、世界選手権で走っているバイクとほぼ同じものが手に入るという満足感も得られる。
ただし、アクセル踏めば走り出すクルマと違い、エンジンは人力なので、開発時に想定された、空力が効くおいしい領域で走り続けられる人は一握りのシリアスレーサーのみ。
ゆっくり走っても良質さは味わえるが、都内の渋滞に引っかかるフェラーリと同じ。
高価格はともかく、高すぎるスペックを持て余すことに対して、ちょっと冷めてきている人もいるんじゃなかろうか。
過度な開発競争の果てに、一般サイクリストが置いてけぼりを食った結果、グラベルロードが流行っているという側面もあると思う。
(※個人的には、油圧ディスクブレーキ化を正当化するため、太いタイヤでオフロードを走るグラベルロードが流行った、と考えているが…)
レース用とスポーツ用に二極化
今までは、基本的に同じフレームに、グレード違いのホイールやコンポーネントを組み合わせるようなラインナップが多かった。
完成車ラインナップの例
- ハイエンドカーボンフレーム デュラエース組
- ハイエンドカーボンフレーム アルテグラ組
- 中級カーボンフレーム アルテグラ組
- 中級カーボンフレーム 105組
- エントリーアルミフレーム 105組
- エントリーアルミフレーム ティアグラ組
それが最近、ディスクロードへの移行に伴う形で、レース用ロードバイクと、スポーツ用ロードバイクに二分されているように感じる。
例えばGIANTの2022ラインナップでは、TCR(オールラウンド)、PROPEL(エアロロード)、DEFY(エンデュランス)がカーボンフレームのみになった。
TCRやDEFYのアルミモデルは、CONTEND(オールロード)に統合された。
CONTENDはオールロードというジャンルで、標準で32cのタイヤを履き、最大38cまで対応する。
泥除け用のダボも備え、サイクリング、ツーリング、通勤通学、ちょっとしたグラベルライドもこなせるようなスペックになっている。
要するに、競技者(またはそれに準ずるシリアスサイクリスト)はカーボンピュアロードバイク、サイクリングならアルミのオールロード、という棲み分けが行われるようになった。
もう一社、トレックはまだコンサバなラインナップで、純粋なロードバイクはMADONE,EMONDA,DOMANEの3種類。エアロロードのマドン以外はアルミモデルも用意されている。
- マドン…カーボン(最大28c)
- エモンダ…カーボン(最大30c)・アルミ(最大28c)
- ドマーネ…カーボン(最大38c)・アルミ(最大35c)
タイヤサイズを見るとおよその性格がわかるが、競技志向のマドン・エモンダに対して、エンデュランス系ロードバイクのドマーネはオールロード的な立ち位置になっている。
それにしてもドマーネいいなぁ。ロードサイクリングもちょっとしたグラベルライドも1台でこなせるじゃないか。ダウンチューブに小物入れついてるのは地味に便利だし。
ロードバイクは「ロードレーサー」に戻る
「ピュアなロードバイクは絶滅する」なんて言う人もいたが、人気スポーツとしてロードレースが行われる限り、それは無いと考えている。
ただし、ピュアロードバイクはかつて「ロードレーサー」と呼ばれていた頃のように、競技者が乗るレース専用の機材となる。
先のトレックの例だと、マドン・エモンダとドマーネの間にハッキリ線引され、レース機材としてはマドンやエモンダ、それ以外の、フィットネスやレクレーションとしてサイクリングを楽しむ層に対しては、オールロードのドマーネを用意するようになるのではないだろうか。
今後、競技に特化したサイクリスト以外は、オールロード1台で通勤通学も、週末のロングライドも、連休を利用したツーリングも、たまにはちょっとしたレース参戦だってできるようになる。
でも機材オタクにしてみれば、着順を競えるロードレーサーも欲しいし、MTBも、シクロクロスも(当然2台)、グラベルロードも必要。ブロンプトンはノーカウントとしても、きっとオールロードも欲しくなるに決まっている。
自転車部屋が広くなることは無さそうだ。