Wahoo Fitness POWRLINK ZERO DUAL
低いスタックハイトと充実の調整機能を備える「スピードプレイ」ペダルに、パワー測定機能を内蔵した両足測定パワーメーター。
スピードプレイを販売するWahoo純正だけあって使用感はスピードプレイそのもの。パワーメーターとしての精度も高い。
ユーザーを選ぶ癖の強いペダルだが、スピードプレイ愛好家にとっては間違いのない逸品。
本稿でレビューする製品は、Wahooからの貸与品です。
長所 -Pros-
- スピードプレイペダルの優れた調整機能
- ペダルメーカー純正品であり、使い勝手はスピードプレイそのもの
- パワーメーターとしての精度・信頼性に優れる
短所 -Cons-
- パワー測定値のスケーリング機能非搭載
- 通常のスピードプレイペダルと比べて、スタックハイトが1.5mm高い
- 充電クリップを脱着しにくい
パワーメーターとパワートレーニング
ペダルを漕ぐ出力をリアルタイムで計測できるパワーメーターの低価格化に伴い、ホビーサイクリストの間でもパワートレーニングが身近になってきた。
私は2013年頃にパワーメーター(Quarq)を導入し、翌年には手持ちのバイクの大半にパワーメーターを装着。
その後しばらくは走行中のパワー管理や、トレーニング量の把握くらいにしか使っていなかったのだが、2020年からはスマートトレーナーとZwiftワークアウトでパワートレーニングを行うようになった。
がむしゃらに走り、体を痛めつけるだけの苦行は質の高いトレーニングといえない。パワートレーニングでは、運動生理学的な反応に対応したパワーゾーンに滞留することで、狙った能力を的確に刺激する。そのため、限られた時間で効率よくフィジカルを鍛えられる。
さて、一度パワートレーニングを行うと、全てのバイクにパワーメーターを取り付けたくなる。
結果、我が家には10台ほど転がっている。
しかし、パワーメーターは機器ごとに力の測定方法やデータ処理方法が異なるため、測定値が数%程度ズレる。
そのため、新たなパワーメーターを導入するたび、複数のパワーメーターを取り付けたバイクでテストワークアウトを行い、クセの検証と測定値の補正(機種によっては可能)を行っている。
…そうこうしているうちに、パワーメーターの収集と比較が私の趣味の一つとなってしまった。
前置きが長くなったが、こういった事情を伝えたところ、スマートローラーやGPSサイクルコンピューターを販売するWahooより、ペダル型パワーメーター「POWRLINK ZERO」をお借りし、評価する機会に恵まれた。
1ヶ月間しっかり使ったので、パワーメーターとして、そしてペダルとしての使用感をレビューする。
独自機構のビンディングペダル「スピードプレイ」
スピードプレイは1989年創業のペダルブランド。ビンディング機構をクリート側に備える独特な構造で、コアなユーザーから支持を集めていた。
2019年よりWahoo傘下に入ってからも継続的に販売されていたが、2021年に小改良が施され、現在は「Wahoo SPEEDPLAY」としてラインナップされている。
2023年現在、展開されている製品は以下の通り。
通常のペダルはSPEEDPLAYブランド、パワーメーターはPOWRLINKブランドで販売されている。
Wahoo ペダルラインナップ
- SPEEDPLAY COMP:クロモリ軸 232g
- SPEEDPLAY ZERO:ステンレス軸 222g
- SPEEDPLAY NANO:チタン軸 168g
- SPEEDPLAY AERO:ステンレス軸 片面踏み 224g
- POWRLINK ZERO SINGLE:ステンレス軸 片側パワーメーター 250g
- POWRLINK ZERO DUAL:ステンレス軸 両側パワーメーター 276g
以降、Wahoo SPEEDPLAYのペダルシステムを指して「スピードプレイ」と表記する。
スピードプレイの機構的な特徴は、スキー用ビンディングがベースになったLOOKのシステム(と、それに倣ったSPD-SLやTIME他ほとんどのシステム)とは逆に、ペダルに可動部を持たず、クリート側にビンディング構造を備えているという点、そして、クリートとペダルの固定を、馬蹄形のスプリング1本で行うという点だ。
この独自構造で実現した、他社ペダルに対するアドバンテージは2つ。
- スタックハイト(ペダル軸と靴底の距離)を低くできること
- フロート角を無段階調整できること
スピードプレイのスタックハイトは11.5mm。シマノやLOOKが14.4~17mm程度であることを考慮すると、驚異的な低さと言える。
快適にペダリングできるスタックハイトには個人差があるが、低い分にはスペーサーを挟んでいくらでも嵩増しできる。しかし、逆は不可能だ。
ただし、パワーメーターを内蔵するPOWRLINK ZEROはスタックハイトが1.5mm増えており、13mmとなっている。
それでもなお他社ペダルより低い水準だが、スタックハイトの低さを重視してスピードプレイを選んでいるユーザーは注意したい。
また、ビンディングメカニズムをクリート側に備えるため、調整機構が充実している点も特徴だ。
前後・左右位置に加え、イモネジを締めることでフロート角度を無段階調整できる(それぞれ0~7.5度)。
フロート角はヒールアウト・ヒールインそれぞれ独立して調整できるので、ペダリングの癖を矯正したり、逆に関節に負担を掛けないようなセッティングが細かに行える。
このように、スピードプレイはシマノSPD-SLやLOOK KEOと比べてかなり勝手が異なる。
そのため、独特の使用感を受け付けない人がいるが、一方で熱心な愛好家がいる製品でもある。
私は現在LOOK KEOやSPD-SLがメインだが、TIMEやスピードプレイ等の使用経験も一通りある。
今回のレビューでは12年ぶりにスピードプレイに触れることになった。
では、POWRLINK ZEROを見ていこう。
外観と重量
今回お借りしたのは両側測定モデルの「Wahoo POWRLINK ZERO DUAL」。
凝ったパッケージのフラップを開くとペダルと対面できる。
内容物は、ペダル本体と充電ケーブル、マニュアル。あとは全部クリートの部品だ。ちょっと笑える。
スピンドル根本にポッドを搭載
ペダルボディはSPEEDPLAY ZEROそのものだが、スピンドル根本に電子回路やバッテリーを収めた「ポッド」がある点が特徴だ。
ポッド外周にはLEDが配置され、充電やペアリング時に点灯する。
このあたりの造りはAssiomaとの類似性が見られる。
寸法
外見上は(ポッドを除けば)SPEEDPLAY ZEROとそっくりだが、パワーメーター機能の搭載に伴い、ペダル寸法が若干変化している。
具体的に比較すると、
- SPEEDPLAY ZERO:Qファクター53mm スタックハイト11.5mm(3つ穴シューズ使用時)
- POWRLINK ZERO:Qファクター55mm スタックハイト13mm
となっている。
シューズのソール形状によっては、ポッドと接触しないようにクリートスペーサーを挟む必要があるため、さらにスタックハイトが高くなるおそれがある。
重量
POWRLINK ZEROは重量276g。ベースとなっているSPEEDPLAY ZERO(222g)と比べて、54gの増加だ。
パワーメーター搭載に伴う重量増としては平均的だろう。
片側測定の4iiii Precisionは僅か9gだが…
ところでスピードプレイは一見軽量に見えるが、ビンディング機構を備えたクリートが重い。
そのため、ペダルとクリートを合計した全体重量では他社ペダルと同等か、少し重いくらいだ。
ペダル・クリートの取り付け
ペダルの取付
POWRLINK ZEROの取り付けには8mmの六角レンチを用いる。
まず、ペダル取り付け時の注意点として、クランクアームとポッドが接触すると測定エラーや破損の原因となるため、隙間が1mm未満の場合にはペダルスペーサーを挟むように指示されている。
ペダル型パワーメーター(の初期の製品)は締め付けトルクに神経質で、トルクレンチを使い、高トルクで固定しなければ十分な精度を発揮できない製品も散見された。
しかし、POWRLINK ZEROはある程度適当に締めても正確なパワー測定が行えるようだ。
とはいえ、クランクとペダルがしっかり密着するよう、十分なトルクを掛けるほうがよい。
参考までに、推奨締め付けトルクは30Nmとされている。
ペダル取り付け後は数回スプリントして馴染ませた後、ゼロオフセット校正を行う。
また、ペダル型パワーメーターでは正確な測定のためにクランク長を設定する必要がある。
これらの操作はWahooアプリやGPSサイクルコンピューターのメニューから行える。
クリートの取り付けと調整
スピードプレイのクリートは多くのパーツで構成され、取り付けが非常に面倒だ。
クリートカバーつきのウォーカブルクリートは特に部品点数が多くなっている。
一般的な3穴のロードシューズに取り付ける場合、まずはベースプレートをねじ止めする。
このとき、シューズの反りにあわせて付属のシムを組み合わせ、ベースプレートが平面になるようにする。
ベースプレートは3本のプラスねじで固定する。締め付けトルクは4Nmだ。
このベースプレートでクリートの前後位置が決まる。
次に、ベースプレートの周りにゴム製のクリートサラウンドを被せ、その上にハウジングとスプリング、プロテクタープレートをねじ止めする。
4本のプラスねじを均等に対角締めする。トルクは2.5Nmと控えめだ。ここでクリートの左右位置が決定される。
この状態で一度ペダルにステップインしてみる。できれば固定ローラー上でやるのが望ましい。
まず、シューズのソールとペダルポッド間に十分な隙間があるか確認する。もし接触する場合は、ベースプレートとハウジングの間にスペーサーを挟み込む。
次に、フロートの調整を行う。クリート側面にある2個のイモネジを締めると、ヒールイン・ヒールアウト方向それぞれのフロート角を調整できる。
スピードプレイはステップアウトが軽いため、可動域を絞りすぎると、ペダリングが乱れた際に不意に外れてしまうことがある。ある程度余裕を持たせるのがおすすめだ。
クリートの調整が終わったら、最後にクリートカバーを取り付ける。
しっかり嵌まり込んでいることを確認したら完了だ。ボルト3本締めるだけのLOOKタイプクリートと比べて、なんと面倒なことか…
しかし辛いのはここからだ。クリートの深さ(前後位置)を調整したくなった場合、ほぼ完全に分解し、最初の手順からやり直す必要がある。
これが嫌なら、4つ穴の「スピードプレイ専用シューズ」を購入することだ。ソールに直接ハウジングをねじ止めするため、調整がラクになる。おまけにスタックハイトも3mm低くなる(もっとも、4穴シューズはそれ自体が分厚くなりがちだが)。
ところで、昔のスピードプレイクリートはアルミ製のプロテクタープレートが剥き出しで、非常に滑りやすく歩きにくかった。
しかも、すぐにネジの頭が潰れてクリートを外せなくなるため、クリートカバーが手放せなかった。
そんな状況だったので、当時(2010頃?)のスピードプレイユーザーの間では、クリートカバーに穴あけ加工し、カバーを付けたままペダルにステップインできるようにする改造が流行った。
後にそういうクリートカバー(Keep On Kovers)が発売され、今ではスピードプレイ純正で、エアロなクリートカバーつきのウォーカブルクリートが用意されている。
12年ぶりに使って、歩きやすさにちょっと感動した。しかもLOOKと違って減らないし。しみじみ、いい時代になったものだ…
スピードプレイ独特の使用感
スピードプレイのビンディングメカニズムは独特で、LOOKタイプのペダルが前爪と後爪でクリートを固定するのに対して、スピードプレイは馬蹄形のスプリングがペダル外周に嵌ることでクリートを固定する。そのため、ペダルの使用感はLOOKタイプとかなり異なっている。
ステップイン時は(若干コツはあるが)上から踏みつけるだけ。新品時は硬いが、スプリングが馴染んでくるとパチっと固定されるようになる。ドライタイプのチェーンオイルをクリートのスプリング部に差すとスムーズになる。
リリース方法は他のビンディングペダルと同様、足首をひねって外す。
ただ、リリースされるポイントに当たってから解放されるまでのストロークが短く、しかも軽いため、不意に外れることがある。フローティング範囲をやや広めに設定しておくのがおすすめだ。
ペダルのフロート角度を納得行くまで調整できる点は、他社製品に対する大きなアドバンテージだ。
ただしフローティングの感覚は独特で、ペダル踏面中心を軸に抵抗なく回転する。足裏のセンターとペダル中心がズレていると落ち着かないので、Qファクターはペダルワッシャーで調整するのが良い。
また、構造上、シューズとペダルの間には僅かにガタがある。この不安定感はMTB用SPDペダルに近い。SPD-SLやLOOKで固定クリートを使い、足裏とペダルの一体感を重視する人にとっては受け入れがたいだろう。
運用上注意すべき点もいくつかある。
まずはスプリングの折損。クリート固定を司るスプリングには寿命があり、いつか折れる。
寿命は使い方に大きく影響されるが、ベースプレートが平面になっていなかったり、各パーツが適切なトルクで固定されていないと短期間で折れるらしい。
スプリングが折損するとビンディング機能が失われるため、コアなユーザーはサドルバッグにスプリングを忍ばせているという。
なおスペアクリートは単品で8000円と高価だ。
また、複雑な機構がシューズ側についているため、オフロードを歩行して泥が詰まると作動不良を起こしやすい。
ウォーカブルクリートは確かに歩きやすいし、クリートも傷まないのだが、路面の状態には注意したい。
このように、細かなセッティングが行える代償として、とにかく面倒くさい。SPD-SLのように、程よい位置にクリートを固定して終わり!とはいかないのだ。
ペダルシステム自体が合わないユーザーにとっては、本品はそもそも購入候補に上らない。
とはいえ、Wahoo POWRLINK ZEROは「本物の」スピードプレイだ。SPD-SL互換のGarmin Rallyや、LOOK KEO互換のAssioma Duoと異なり、スピードプレイペダルの使用感そのままにパワーメーター機能が付加されている。
癖の強いペダルではあるが、スピードプレイユーザーにとっては間違いない選択肢と言える。
パワーメーター機能は最低限
通信方式
今や常識なのでわざわざ書くまでもないかもしれないが、POWRLINK ZEROはAnt+とBluetooth、2種類の通信方式に対応し、サイクルコンピューターやPC、スマートフォン等と接続可能。Bluetoothは同時に3台の機器とペアリング可能だ。
測定データはシンプル
さて、本機で測定できるデータは、ペダリングパワー、左右バランス、そしてケイデンス測定の3種類。両側測定のパワーメーターとして、必要最低限の項目だ。
競合製品のGarmin Vector/RallyやAssioma Duoのような、サイクリングダイナミクス(トルク分布測定)には対応していない。
ヘッドユニット(ELEMNT)も販売するWAHOOとしては、Garminのシステムに乗っかりたくなかったのかもしれない。
もっとも、トルク分布がわかったところで、トレーニング上で大きなアドバンテージがあるわけではないのだが…
パワーメーターとしては測定精度は±1%とされており、温度変化に対しても補正が行われる(温度補償)。
スケーリング機能は非搭載
4iiiiやAssiomaにはスケーリング機能が搭載されており、専用アプリからの設定で、測定値に倍率を掛けることができる。
これは、複数台運用している場合には重要な機能だ。
冒頭で述べた通りパワーメーターには個体差があるが、この機能を使うことでトレーニング基準のパワーメーターに測定値を合わせ、一貫したパワー基準でトレーニングを行える。
しかし、残念ながらWahoo POWRLINK ZEROにはスケーリング機能が非搭載。
スロープ値校正(静荷重テスト)も行えない。
複数台のパワーメーターを運用している人にとっては気になる点といえる。
なお、ゼロオフセット(ゼロ点校正)はWahooアプリ、あるいはGPSサイクルコンピューターのメニューから行える。
温度補償があるとはいえ、練習前、パワーメーターの温度が外気温に馴染んだ状態で校正を行うほうが良いだろう。
また、ペダル取り付け後には数回のスプリント後、ゼロ点校正を行う必要がある。
充電式バッテリーを採用
POWRLINK ZEROは充電式で、ポッド部にバッテリーが内蔵されている。
動作時間は公称75時間。Assioma Duoに比べると1.5倍程度のバッテリーライフとなっている。
私は月に1000km乗るが、それでも毎月1回充電すれば十分なくらいだ。
実際は何台もバイクを保有しているので、充電頻度はもっと落ちる。
バッテリー残量が低下するとポッドのLEDが赤色に点滅して知らせてくれる。
充電はUSB端子から行う。
専用のクリップをポッドにはめこみ、付属のUSB A-Cケーブルを使ってUSBポートより充電する。
ケーブルは何でも良いが、付属ケーブルは二股になっており、1つのType-Aポートから左右ペダルに電源を供給できる。
クリップは嵌合が硬めで、斜めに入りやすい。マグネットで吸い付くAssiomaと比べて作業性は悪い。
充電状態では、ポッドのLEDが緑色に点灯する。
充電中は点滅し、充電完了すると点灯状態になる。
パワー測定値の比較
パワーメーターとは出力の測定機。最も重要視すべきなのは、常に信頼できるパワーデータを測定できること。
パワーの大小、ケイデンス、ペダリングの癖、温度、或いはランダムな要因で測定値が振れるパワーメーターは落第だ。
例によって、所有するパワーメーターと同時にログを記録し、測定値を比較した。
テストは固定ローラーと実走の両方で実施した。
ローラー
まずはローラー台で一定のペダリングを行い、平均パワーの大小を比較する。
使用するパワーメーターは、POWRLINK ZEROに加えて、InfoCrank、そしてSaris H3だ。
InfoCrankは高精度を追求したパワーメーターで、パワートレーニングの基準たりうる信頼性を備えている。
低出力から高出力まで、様々な領域におけるパワーメーターの癖を把握するため、以下のカスタムワークアウトを作成し、160,240,320,400,480Wでのペダリングを行った。
- アップ
- 100→160W 1分
- メインセット
- 160W 3分
- 240W 3分
- 320W 3分
- レスト 160W 1分15秒
- 400W 1分
- レスト 50% 1分
- 480W 1分
- クールダウン
- 200→150W 2分
ギヤ比:40x15T
ケイデンス:
- 80~85rpm(160,240,320W)
- 100~105rpm(400W,480W)
実験中のパワー値記録にはAndroidアプリ IpWattsを使用した(スマホにAnt+ドングルを指して利用)。このアプリは複数のパワーメーターのデータを同時に受信して1秒毎にロギングし、CSV形式で出力できる。
なお、テストワークアウト開始前には10~15分程度のフリーライドを行い、各パワーメーターのゼロオフセットを行っている。
測定結果は以下の通り。
左のグラフでは各パワーメーターのログを重ねて表示している。
スマートトレーナーのSaris H3がスムーズで、ペダル型、クランク型パワーメーターの出力が細かく上下するのはいつもの傾向だ。
InfoCrankとPOWRLINK ZEROは概ね一致しているように見える。680秒付近でPOWRLINK ZEROにスパイクが見られるが、160W→400Wで急激に踏み込んだ際、ケイデンス測定でエラーが出たのだろうか。一瞬で収束しているのであまり大きな問題ではない。
次に、各パワー区間を見ていこう。右の棒グラフは、160,240,320Wについては中央2分間、400,480Wについては中央1分間を抜き出した平均値を示している。
Saris H3が高めの測定値を記録しているのはいつも通りだ。
高精度なInfoCrankを基準とすると、POWRLINK ZEROの測定値は-1.3~+0.8%の範囲に収まっている。
480W区間でごくごく僅かに低めに出ているが、測定のばらつきも考慮すると、全てのパワーゾーンで測定値がほぼ一致していると言って良い。
測定値に倍率を掛けるスケーリング機能が無いことを問題視していたが、私の場合では、スケーリングの必要はなさそうだ。むしろ、POWRLINK ZEROをパワートレーニングの基準にしても良いくらいだ。
他のペダル型パワーメーターやInfoCrankとの比較は、以下のテストレポートを参照してほしい。
今回のテスト結果と合わせると、InfoCrank、Assioma Duo、POWRLINK ZEROの測定値は、ほぼイコールと捉えられそうだ。
実走
ローラー上では正常に機能していても、振動や温度変化の影響を受け、パワーの出し入れも激しい実走では問題が出る可能性がある。
そこで、パワータップG3と同時に実走ログを取り、パワーデータを比較した。
記録したログのうち、1200秒間(20分間)を抜粋したグラフを以下に示す。
1800~2000秒の一定ペダリング区間をクローズアップすると、細かい上下はあるものの、測定値はほぼ完全に一致している。
平均パワーも、Powertap G3が289Wに対して、POWRLINK ZEROは290Wだ。
2320~2400秒のハードエフォートもよく一致している。踏み始め、踏み終わりのパワー変動にもキッチリ追従している。
(平均パワー Powertap G3:486W、POWRLINK ZERO:481W)
トレーニング序盤と終盤、レストからスプリントなど、一通り眺めてみたが、パワー測定値に関して気になる点は見受けられなかった。
なお、ログ全体での平均パワーはそれぞれ
- POWRLINK ZERO:237W
- Powertap G3:239W
だった。
まとめ:本物のスピードプレイ・パワーメーター
ペダル型パワーメーターの特徴は、脱着が容易なため、複数のバイクで使いまわしやすいことだ。
また、クランク型と異なりバイクのコンポーネントを侵食しない。すなわち、コンポーネントの剛性や変速性能に影響しないという特徴がある。
一方で、ペダルにパワーメーターを内蔵するデメリットもある。
まず、ペダルは消耗品で、ベアリングやペダル自体の摩耗、あるいは落車による破損のリスクがあるということ。
そして、ペダルは個人の好みが大きく反映され、サイクリングのパフォーマンスを左右するパーツであるということだ。
POWRLINK ZEROと競合するペダル型パワーメーターであるGarmin RallyやAssioma Duoは「SPD-SL互換」「LOOK KEO互換」のペダルだ。
こういった「互換ペダル」はシマノやLOOKのペダルと比べると、固定力や安定感、スピンドルの品質といった面で差を感じる。
パワー測定の代償として「純正とは違う、ちょっとした違和感」を受け入れる必要があるのだ。
しかし、Wahoo POWRLINK ZEROは「本物のスピードプレイ」だ。
パワーメーター実装スペースの都合でスタックハイトが1.5mm高く、Qファクターも2mmほど広くなっているが、
ステップイン・アウトやフローティングといった、ペダル自体の使用感はスピードプレイそのものだ。
パワーメーターとしての機能は最低限で、強いて言えば測定値スケーリング機能が欲しかったが、ローラー・実走ともに測定値は安定しており、パワートレーニングの基準たりうる精度だと評価できる。
パワーメーター収集癖のある私なんかは、POWRLINK ZEROのためにスピードプレイ専用シューズ(4穴)を購入しても良いくらいだと思っている。
本文で何度も書いた通り、スピードプレイ自体はかなり癖が強いペダルシステムで、万人向けとは言い難い。
だが、スタックハイトの低さやフローティング調整機構に魅力を感じるスピードプレイ愛好家にとってはベストなパワーメーター。間違いない選択肢といえる。
Wahoo Fitness直販サイトでの価格は、左右測定のDUALが125000円、左側だけのSINGLEが82000円だが、この精度、パワートレーニングに使わなければもったいない。
もし迷っているなら、トレーニング基準として難のある片側測定ではなく、両側測定のDUALをお勧めする。