2023年3月に発売されたばかりの新型キャノンデール スーパーシックスエボに乗る機会を得た。
軽さと空力性能をさらに洗練させつつ、ユーザビリティ向上も果たした第4世代EVO。最新鋭バイクを1週間にわたってお借りし、その性能を味わってきた。
Cannondale SuperSix EVO Hi-MOD 2 (Ultegra Di2 R8170)
キャノンデールを代表する武闘派ロードバイク。第4世代となる今作は新UCIルールに準拠して設計され、剛性、重量、空力、そして振動吸収性を高次元でバランスさせている。
また、ヘッド周りの構造を見直し、JIS規格のスレッド式BBを採用するなど、ユーザビリティ向上にも配慮されている。
本稿でレビューするバイクはキャノンデール・ジャパンの試乗車です。パーツスペックは市販車両に準じます。
長所 -Pros-
- レースペースで活きる高い加速性能と空力性能
- 道路の凹凸に吸い付くような路面追従性
短所 -Cons-
- ヘッドセットベアリングの防水シール
- アセンブルされるパーツの仕様
最新鋭のディスクロードが欲しい
ロードレースには出ないこともあって、今乗っているロードバイクはリンスキーのチタン。
エントリーグレードの頑丈なチューブを使っていることもあって、幾度のクラッシュを乗り越え(つい先日も1ダウンした)、学生時代から数えて12~3年くらい乗り続けている。
コンポーネントは2世代前の9070デュラエースDi2。当然リムブレーキだが、悪天候のときはグラベルロードなり何なりあるので「晴れた日に路面状況の良い道を高速移動するためのバイク」として活躍している。
19cのワイドリムホイールを購入したので新ETRTO規格に移行したタイヤにも対応。あと10年はこれで行くぞ、と思っていたのだが…
ご存知の通り、ロードレースシーンでもタイヤ幅はどんどんワイドになってきている。今や28cは当たり前、路面の悪いクラシックレースでは30cや32cが使われることも珍しくない。
一方、リンスキーで履けるタイヤは25cが限度。パナレーサーのアンバサダーをするうえで、最新ワイドタイヤが収まるロードバイクが必要だ、というわけで、ニューバイク購入を検討することにした。
リンスキーの走行距離もそろそろ50000kmを突破するので、増車してもバチは当たらないだろう。
…なお、円安と物価高でニューバイク購入タイミングとしては最悪だ。
借りてきたEVO
4月頃に思い立ってから、以下のような条件でバイクを探すことに。
- ディスクブレーキであること
- 30c以上のタイヤに対応すること
- エアロを意識した形状であること
- リヤ12sの電動変速であること
- 予算は70万円くらい…?
これを満たして、好みのブランドのバイクとなると、3月に出たばかりのスーパーシックスが筆頭。在庫あるのかな…と、キャノンデール・ジャパンにコンタクトを取ってみると、残念ながらメーカー在庫は完売しているものの、試乗車を貸していただけることに。
GW明けの5月上旬、大阪 江坂のキャノンデール・ジャパンを訪問。ショールームスペースに入ると、キャノンデール伝統のつや消しブラック「BBQ」カラーの新型エボが祭壇に祀られていた。
用意していただいた試乗車は、Hi-MODグレードの完成車。
Cannondale SuperSix EVO Hi-MOD 2
- フレーム:SuperSix EVO Hi-MOD Carbon 54サイズ
- ホイール:HollowGram 50 R-SL 前後24H 50mmハイト 内幅21mm
- タイヤ:Continental GP5000 25c
- コンポーネント:シマノ アルテグラDi2 R8170系
- 税込価格:1,050,000円
フレームもコンポーネントもセカンドグレードだが、堂々の100万円オーバー。
かつて、スーパーカー化する現代のロードバイクなんていう記事を書いたが、まさかそんなバイクに跨る日が来るとは。
カズさんに持参したペダルを取り付けてもらい、サドル高を合わせてもらい、何ならボトルの水まで汲んでもらって(どこまで甘えるんだ…)、バイクに跨る。お借りする期間は1週間ほど。普段の練習コースで、最新鋭のバイクの実力を確かめるぞ。
…絶対に転べないので、安全運転で。
フレーム
キャノンデールの主力ロードバイク
今更言うまでもないが、スーパーシックスエボはキャノンデールのレース向けロードバイク。
2011年デビューの初代スーパーシックスエボのテーマは「超軽量・高剛性」。700gを切るフレーム重量で、軽量オタクの定番装備にもなった。
周囲にエアロロードが増える中、2015年の第2世代も同じテイストで、軽くて硬い路線をキープした。
一気に方針転換したのが2020年の第3世代。前年デビューしたエアロロード システムシックスで培ったエアロ要素を取り入れ、オールラウンド系エアロロードとなった。
そして、2023年にデビューしたのが本稿でレビューする第4世代スーパーシックスエボ。側面から見ると第3世代に似たシルエットだが、新UCIルールに準拠して空力性能が高められている。フレーム重量の面でも、HiMODグレードで50g以上軽量化され、より速く、より軽くなっている。
さらに、ヘッド周りの構造見直しやJIS規格のスレッド式BB採用によって、ユーザビリティが向上しているのも特徴となっている。
「LAB71」「Hi-MOD」「Std-MOD」3グレードで展開
先代(第3世代)のスーパーシックスエボは2グレードのラインナップで、軽量高剛性のHi-MOD(ハイモッド)と、カーボン繊維のグレードを落として価格を抑えたStd-MOD(スタンダードモッド)が用意されていた。
今回はこれらに加えて、新開発の「Ultralight Series 0 Carbon」を採用した、重量770gの最上位グレード「LAB71(ラブセブンティーワン)」が追加され、3グレード体制となった。
それぞれのフレーム重量と価格は以下の通り。
グレード | フレーム重量(56サイズ塗装済) | フレーム価格 |
LAB71 | 770g | 85万円 |
Hi-MOD | 810g | 62万円 |
Std-MOD | 930g | 完成車販売のみ |
Hi-MODでも他社フラッグシップ級の重量(と価格)だが、LAB71はさらにその上を行っている。
フロントはマッシブに、リヤはエアロでしなやかに
側面視のカタログ写真ではわかりにくいが、フレームを斜めから眺めると、前半分と後半分でフレームの雰囲気が違うことに気づく。
ワイドスタンスでボリュームがあるフォークや、トップ・ダウンチューブがシームレスに繋がるヘッドチューブなど、フロントエンドは厚みがあり、剛性重視のイメージだ。
一方でシートチューブは空力を意識した非常に薄く鋭い造形。これらを繋ぐトップチューブは後方に行くに従って絞られた形状になっている。
フレームの下半分に目を向けると、カムテール形状ながら正方形断面に近いダウンチューブが、ヘッドからBBまでほとんど形状を変えることなく伸びている。
BBやチェーンステーのボリュームは(一時期の超高剛性バイクと比べると)控えめだ。
この「前足はガッシリ、後足は細身」というのが第4世代エボの特徴だ。
スリムになったヘッド周り
剛性重視とはいっても、空力性能のため、ヘッドチューブ自体は可能な限り細くし、前面投影面積が減らされている。
第4世代エボで完全新規設計されたのがヘッド周りの構造。第3世代や他社バイクと比べると、ヘッドチューブが非常にスリムなことがわかる。
現代のエアロロードは空気抵抗削減(とスタイル)のためケーブル・ホース類を内装するのが一般的になっている。
その方式は各社様々だが、第3世代エボではヘッドチューブの前に設けられたトンネルを通す形になっており、ハンドルの切れ角に制限(左右50度)があった。
第4世代では、一切れのピザのような三角形断面の「デルタステアラ―」を採用することで、ワイヤーフル内装にしながらも、細いヘッドチューブを実現している。
ベアリング径は上1-1/8、下1-1/4。ハンドルの切れ角制限が無いうえ抵抗も少なく、自然なハンドリングが可能だ。
なお、汎用ステムも使用できるため、ポジションの自由度は高い。ダストカバーを交換することで、ワイヤー外装にも対応する。
三角形のコラムは弱そうだが、もちろん強度や剛性、ホースとの摩擦対策は十分に行われている。
そんなことよりも不安なのは、ヘッドベアリングが露出しており、防水をベアリング自体のシールに依存しているということ。
長時間の雨天走行後は浸水や錆の不安が拭えない。乾燥した気候の北米ブランドらしい、防水の甘さを感じるポイントだ。
しかも整備性も最悪だ。ヘッドベアリングを交換する際は前後ブレーキホースを切る必要がある。
スーパーシックスエボはロードレースの本場欧州をはじめ、世界中で酷使されるバイク。
あらゆる気候のレース現場で長期間性能を維持できるよう、ダストカバー側にも防水シールが欲しかった。
スレッドBBを採用
ヘッドセットとはうってかわって、BB周りは整備性に配慮されている。
長きにわたって採用され続けてきたBB30系と決別し、本作ではJIS規格のスレッド式BBに対応。整備を行いやすく、異音問題からも解放された。
しかし、独特の凄みがあったBB30規格の軽量アルミクランク「ホログラムクランク」がなくなってしまったのはちょっと寂しくもある。
バッテリーはダウンチューブに
ボトムブラケットシェル裏にはゴムキャップがついており、これを取り外すとDi2のバッテリーが収まっている。
僅かではあるが低重心化を図れるし、配線も短くできるのだが、ここにバッテリーを配置した、いや配置せざるを得なかった本当の理由は別にある。
極端に薄いシートチューブ
バッテリーをBB付近に配置した理由。それは、シートピラーに入らなかったからだ。
新UCIルールに準拠したシートピラーは空力を意識して極端に薄く、厚みは実測16mm。
両脚の間を抜ける空気を阻害せず、なるべくスムーズに流すような意図がある。
ここに凹凸があると抵抗を生むため、シートクランプも内蔵式。4mmの六角レンチで締め付ける。
固定力は十分で、1週間の使用中、きしみ音などは一切発生しなかった。
サスペンション構造
シートチューブの上半分は翼断面のエアロ形状だが、下半分、リヤトライアングルの中では逆に幅広かつ前後方向に薄い形状に変化する。
一般的なエアロロードでは後輪に合わせたカットアウトが施されることが多く、そんなバイクを見慣れていると、突然細くなる造形は少々奇異に映る。
公式情報では特に触れられていないのだが、この部分でリヤトライアングルをしならせることで、乗り心地を確保するとともに後輪の路面追従性を高めているのではないだろうか。
グラベルバイクのトップストーンはこの部分を板バネのようにしならせて「キングピンサスペンション」を構成しているし、エンデュランスバイクのシナプスでも同様の造形が認められる。
BBから後輪までのねじり剛性を保ちつつ、縦方向のみにコンプライアンスを付与するのが狙いか。
対応タイヤ幅 30mm+α
レースの世界でもタイヤのワイド化が進んでおり、28cを常用、クラシックレースでは30cや32cを使うことも珍しくなくなってきた。
現代のロードバイクは、コンペティション向けの製品であっても太いタイヤに対応する必要がある。
スーパーシックスエボの最大タイヤ幅は、公称30mm。
ただしこれは、ヨーロッパの規格で定められた基準にあわせて「タイヤとフレーム・フォークとのクリアランスを6mm以上確保した場合」の数値だ。
実際、32c程度は問題なく使える。
試しにグラベルキングSKの38cを入れてみたが、フロントはギリギリ入った(リヤは未検証)。この状態でタイヤのヒゲがかすかに当たる程度で、クリアランスは約2mm。
ただし、このまま実走するとフォーク裏が傷だらけになること必至。小石を挟んで前転もありうるので、あくまでも参考情報としていただきたい。
コンポーネント
12速のアルテグラDi2(R8170)採用
コンポーネントは、セミワイヤレスでリヤ12段変速となったR8170系アルテグラDi2を採用。
セカンドグレードながら変速速度は十分に速い。デュラエースとの差を感じるのはフロント変速の速さくらい。
54サイズのスーパーシックスエボでは、クランクは172.5mm 52-36T。カセットスプロケットは11-30Tがアセンブルされる。
ホログラム 50 R-SL チューブレスホイール
本モデル「SuperSix EVO Hi-MOD 2」と最上位の「SuperSix EVO LAB71」には、第4世代エボにあわせて新開発されたカーボンホイール「Hollowgram 50 R-SL」が付属する。
スペックは以下の通り。
Hollowgram 50 R-SL
- リムハイト50mm
- 内幅21mm
- チューブレス対応
- スポーク F 20H / R 24H DT エアロライト
- リヤハブ内部メカ DT240 スターラチェット
- ペア重量 1540g
ホイールのスペック的には、アルテグラのカーボンホイール WH-R8170(のC50)に近い(ハイト50mm 内幅21mm 1570g)。
しかし、前輪スポークが少なめの20Hのため空気抵抗や横風耐性といった面で有利なこと、掛かりのよいDTスターラチェットを採用していること、何より、スーパーシックスエボとのマッチングが重視されていることが特徴だ。
付属タイヤはコンチネンタルGP5000の25c。性能には定評のあるタイヤだが、リムとのマッチングが悪い。
GP5000 25cは基準リム幅17mmで設計されており、内幅21mmのリムに取り付けると「引っ張りタイヤ」となってしまい、タイヤの性能を発揮できない。
25c幅なら新ETRTO規格対応のものをアセンブルすべきだったと思う。
リムハイトと重さを感じさせない素性の良いホイールなので、太めのタイヤで本来の性能を確かめたくなった。
ハンドルとステム
コクピット周りは、空力が意識されてはいるがステム・ハンドル別体のアセンブリとなっている。
ハンドルはVision Trimax Carbon。ワイヤーフル内装と外装、どちらにも対応している。
54サイズ完成車の場合、ハンドル幅はCC420mm(ブラケット部でCC410mm)だった。
ステムは車種専用のC1 Concealステム。コラムクランプ部付近は樹脂のカバーが被せられ、スッキリしたスタイルとなっている。
ホース内装用ではあるが断面がコの字型になっており、ホースを下部に這わせることもできる。こちらは100mm長が付属する。
さて、ここでも一言ケチをつけたい。
確かにルックスは良いのだが、ハンドルは重量255g、ステムにいたっては210g(110mmカタログ値)という重量級、合計で465gもの重量があり、「軽くてエアロなロードバイク」であるスーパーシックスエボのキャラクターをスポイルしてしまっている。
ステムの形状が特殊で、ハンドルを下げるためにはコラムカットが必要という点もマイナスだ。
ここは完成車としてのパッケージに迷走が見られた部分。
ハイエンドバイクとして(セカンドグレードだけど…)ステム一体型ハンドルを採用するか、ユーザビリティを優先して汎用的で軽いハンドル・ステムを使うか。どちらかにすべきだったと思う。
空力を高めるエアロボトル
新型エボと同時開発のエアロボトル「Gripper Aero ボトル」を取り付けると、空力性能をさらに高めることが可能だ。
一見すると汎用のサイクルボトルに見えるが、ボトル側面はダウンチューブ幅に合わせてカットされており、前三角内における空気の流れを整える効果がある。
ダブルボトルにするとキャノンデール システムシックス並…要するに世界トップクラスの空力性能になるという。
キャップ付近には滑り止めのパターンがついていたり、バルブは大きく開いたりと、ボトルとしての飲みやすさも優れている。
しかし、ボトルに方向性があるため、専用のボトルケージ「ReGrip Aero ボトルケージ」に差しにくいのが難点。
きちんと固定するには、ボトル側面のレールの位置をケージに合わせる必要がある。目視しながらだと簡単だし、慣れると手探りでも差せるが、汎用ボトルには及ばない。
なお、このボトルケージでは直径74mmの汎用ボトルも使用可能。レースではエアロボトルを、練習ではノーマルボトルを使ったり、夏場に保冷ボトルを入れることもできる。
実走レビュー
バイクをお借りしている9日間で、合計380kmの実走を行った。
最初に断っておくが、現代的なディスクロードにしっかり乗るのはこれが初めてと言っていい。
なので、マドンやターマックと比べてどうこう、というような議論はできない。
参考までに、直近で所有したロードバイク3台は以下の通り。すべてリムブレーキだ。
- Lynskey SuperCooper(2010)
- TREK Madone 5.9(2005)
- Cannondale CAAD10(2014)
ほか、ディスクブレーキのドロップハンドル車という括りなら
- Canyon Grail CF SL(2018)
- Ridley X-Night(2019)
ともかく、ロードバイクの機材に関しては浦島太郎なので、話半分くらいで聞いて欲しい。
…感想を一言で表すと、目玉が飛び出るほど速かった。コーナーの進入速度が違いすぎて、ディスクブレーキじゃなかったら道路から飛び出していたかもしれない。
乗り心地が良い
走り出して最初に感じたのは、剛性でも空力でもなく、乗り心地の良さだった。
例えば舗装の継ぎ目を踏んだ時。25cの細いタイヤなので当然衝撃は伝わってくるが、一発で収束し、ビリビリと振動しない。
一方で、市街地を走る限りは、ただの乗りやすいロードバイクという印象しか抱かなかった。
「カムに乗る」のは600Wから
快適だし乗りやすいけど、こんなものか。
ちょっとがっかりしつつペダルを回していたのだが、短い上り坂をアウターギヤで駆け上がった時、一気に印象が変わった。
クルマのエンジンがパワーバンドに入って「カムに乗る」ような感覚。大パワーで踏んでもエボは一切ブレず、ヨレず、ペダルを踏んだパワーがロス無く路面に伝わる。
このバイクの真価が発揮されるのは600Wオーバー。無酸素インターバルの領域だ…パワーさえ与えてやれば、どんな踏み方をしても進んでくれる。
空力性能と中間加速
エアロロードに乗るのはこれが初めてだったが、空力性能も予想以上だった。空気抵抗が支配的になる45km/h以上では、明らかに差を感じる。ちょっと追い風なのかな?と思うくらい。
先程の駆動能率の高さと相まって、40km/h台からの加速は痛快そのもの。踏めば踏んだだけ、どんどん速度が伸びてゆく。
あまりにも速くて楽しいのでひたすらインターバルを繰り返していたら、脚がスカスカになった。
踏んでナンボ、飛ばしてナンボのレースバイク
乗り味は外観で抱いた印象そのまま。フロントエンドは高剛性、一方リヤはしなやかな特性だ。
シクロクロスやMTBの経験から、バイクを安心してコントロールする上では後輪の接地性が重要だと考えているのだが、第4世代エボの後輪は路面の凹凸に追従することで、姿勢を安定させると同時に後輪のグリップを保ってくれる。
ヒルクライムはまるで固定ローラー。ハンドルを引き付けてもびくともしないし、フレームが路面の外乱を吸収してくれるので、スムーズで力強いペダリングを意識するだけでバイクが登っていく。縦に動くのにねじれる感じがしない感覚は、フルサスペンションMTBに似たものがある。
高速域、特にダウンヒル中のスタビリティも非常に高い。ブレーキやターンインではフロントが力を受け止めてくれるし、激しい振動はリヤが吸収してくれる。
テスト中、バイクの暴れ具合から想像するよりも遥かに高いスピードが出ており、コーナー手前で肝を冷やした。
(セールスポイントとして明快な)重量や剛性、空力性能が取り上げられるが、このフレームの凄いところは後輪のバーティカルコンプライアンスだ。高剛性なのもエアロなのもなんとなく想像はついていたが、ここまで足回りがイイとは思わなかった。
ジオメトリとハンドリング
第3世代以降のエボは、ステアリング周りが少し特殊なジオメトリになっている。
私が乗る54サイズ付近のバイクは、大体72.5~73度程度のヘッドアングルにオフセット45mmのフォークを組み合わせるのが一般的。
しかし、54サイズ以下のエボは71.2度と極端に寝たヘッドに、オフセット55mmのフォークを組み合わせている(56サイズ以上は73度/45mm)。
緩慢なハンドリングになっているのではないかと疑問視していたが、実際に乗ってみるとネガティブな印象はほとんど感じなかった。
スパスパ切れ込むというよりは安定志向ではあるが、しっかり荷重をかけて、バンク角でコントロールしてやれば意図した方向に切れ込んでいく。
ただし、ホイールベースが長い(54サイズで1010mm!)ため、低速コーナーでは前輪が回り込むように感じる。
ジオメトリに関してひとつ付け加えるなら、他社と比較してスタックが高いことが挙げられる。(しかも、汎用ステムを使う場合は背の高いダストカバーを使うため、実効スタックはさらに高くなる。)
北米3ブランドで比較すると、1~2サイズ分ヘッドが長いため、競技志向のサイクリストはスタックでフレームサイズを選ぶことになるだろう。
まとめ
走り屋のためのスーパーバイク
ロード機材には10年の隔絶があるので話半分くらいで聞いて欲しいが、バイクとしての性能は凄まじいレベルで、加速性能、空力性能、そして車体の安定性においても、想像のはるか上を行っていた。
ダンシングでもシッティングでも、ペダルを踏んでパワーを掛ければ応えてくれるし、スピードが出るほどバイクの性能が際立っていく。
あまり語るとボロが出るので手短にしておくが(笑)、サイクリングではこのバイクの本質を味わえない。トレーニングを積んだサイクリストのためのレースバイクという印象を受けた。
セカンドグレードで105万円
最後に、価格についても触れておこう。
2023年モデル SuperSix EVO Hi-MOD 2の価格は税込105万円。
100万円オーバーのロードバイクは今や珍しくもないが、「セカンドグレードのフレームに、セカンドグレードのコンポーネント」で100万円オーバーだ。
最上位モデルのSuperSix EVO LAB71はデュラDi2組で180万円だ
価格を計算すると下表のようになる。完成車価格は概ね妥当といえるが…フレームが高い。
部位 | 製品名 | 価格 |
フレーム | SSEVO Hi-MOD | 62万円 |
ホイール | ホログラム R-SL 50 | 28万円 |
コンポーネント | R8170 アルテグラDi2 | 28万円 |
その他 | ハンドル、ステム、サドル、タイヤ等 | ざっくり10万円くらい |
フレーム価格高騰の理由。それは原材料価格とかコロナ禍とか、円安のせいもあるけど、根本的には開発費の高騰だろう。
現代のロードバイクには重量や剛性だけでなく、空力性能も求められる。
つまり、開発現場では構造解析に加えて、流体解析や風洞実験を行う必要がある。
…要するに、レーシングカーと同じようなプロセスを経て開発されており、そのコストがフレーム価格に上乗せされているわけだ。
市販の乗用車やバイクなら生産数が桁違いなので1台あたりのコスト上昇は大したことないが、ロードバイク程度の数量だと、製品価格に占める開発費の比重が否応にも高くなってしまう。
しかし…だ。
レース機材である以上速さは正義だが、現状は少し過熱しているかもしれない。
ユーザーにとっては、どれだけ素晴らしい製品でも手が届かなければ意味がない。
流石にメーカーも、自社のロードバイクは富裕層のアスリートだけが買えばいい、とは思っていない。
アフォーダブルな選択肢としては、少し重いがコストを抑えたStd-MODフレームの完成車が有力だ。
R7170 電動105搭載のSuperSix EVO 3は57万円。
決して安価とはいえないが、エアロなカーボンフレームに油圧ディスク、電動変速と、モダンなロードバイクのキモは抑えている。
フレーム価格を推定すると、スペック差の割に安価だ。きっと、開発費はLAB71やHi-MODのオーナーに多めに支払ってもらっているのだろう。
ハンドルやホイールはコスト重視のチョイスだが、逆に言うと、後々グレードアップする楽しみも残されている。
それで、エボ買うの?
レビューではチクチク小言も書いたが、乗り物としては文句の付け所がない出来だった。
欲しいか欲しくないかといえば、絶対に欲しい。部屋はすでにバイクで溢れているが、置き場所も多分なんとかなるだろう。
となるとネックは価格だけ。自転車を趣味として15年以上、その間、財産と健康をだいぶ失ってきたが、それでもだいぶ勇気がいる。
スーパーシックスエボのようなレースバイクは、乗り手にも相応のフィジカルを要求するが、サイクリストとしてそれなりのレベルにある現在なら、このバイクの「楽しい領域」に踏み込める。
だが、例えば10年後、スマホ乗り換えくらいの感覚で100万のバイクを買える小金持ちになっていたとして(ありえないだろうけど)、衰えた体では(対して衰えてないかもしれないけど)硬いレースバイクを踏み切れないかもしれない。
…今乗らなければきっと後悔する。
2022/06 追記
買いました(Hi-Mod 2)。