【レビュー】MAVIC ALLROAD SL DISC (2021) ~単なるキシリウムのワイドリム版にあらず フックレスリム採用の軽量アルミチューブレスホイール~

Mavic Allroad SL Disc (2021)

アルミリムなのにフックレスリム、フックレスリムなのにクリンチャータイヤ対応という、かなり変わったグラベル向けアルミホイール。

リムは切削加工され、内幅22mmのワイドリムながら440gと軽量。ニップルホールレスのためテープ不要でチューブレス化できる。

評価 ★★★★☆

購入価格 67500円

長所 -Pros-

  • リムテープレスでフックレスでワイドリム
  • フックレスリムだがクリンチャータイヤにも対応

短所 -Cons-

  • ID360ハブは頻繁なメンテナンスが必要
  • リムの塗装が剥げやすい

シクロクロス用に購入

毎年参戦しているシクロクロス。機材で最も重要なのはタイヤだが、2021-22シーズンはチューブラー2セット+チューブレス1セットという態勢で臨んだ。

当初は、パンクやホイール破損、あるいは手持ちのチューブラーで対応できないコンディション(ヘビーマッド等)時のスペアという位置づけだったが、全日本選手権を終えたシーズン後半は、ほぼチューブレスタイヤで走っていた。

なお、タイヤはアンバサダーを務めるパナレーサーのCGCX&Albitを使用。

シーズン序盤に履いていたのは完成車付属の重たい鉄下駄ホイール(前後で2kg!)。これはさすがに重すぎて、スペア機材としても不十分だった。

そこで、コストを抑えつつそれなりの性能のホイールを、ということで、Mavicのグラベル向けアルミホイール「Allroad SL」を購入した。

Mavic ALLROAD SL

Mavic Allroad SLのスペック

キシリウムのワイド版

Mavic Allroad(オールロード)は、グラベル向けのホイール。

定番アルミホイールのキシリウムがベースになっているが、同年式のキシリウムのリムが内幅19mmなのに対して幅が広く、ワイドなグラベルタイヤとの相性が良くなっている。

2021年モデルのラインナップはすべてディスクブレーキ仕様。ホイール径は700Cと650Bの2種類で、それぞれにカーボンリム版、アルミリム版が存在し、全てUST規格のチューブレスに対応する。

700Cモデルリム内幅重量価格(税抜)
ALLROAD PRO CARBON SL23mm1445g
(F670g+R775g)
\275,000
ALLROAD SL22mm1590g
(F740g+R850g)
\90,000
ALLROAD S22mm1765g
(F830g+R935g)
\70,000
ALLROAD DISC23mm1890g
(870g+1020g)
\36,000
700Cモデルのラインナップ(2021)

650Bモデルリム内幅重量価格(税抜)
ALLROAD PRO CARBON SL ROAD+26mm1550g
(F725g+R825g)
\275,000
ALLROAD SL ROAD+25mm1550g
(F723g+R832g)
\90,000
650Bモデルのラインナップ(2021)

今回購入したのはアルミモデルのAllroad SL。下位モデルのAllroad Sとは

  • リムの切削加工(ISM4D)
  • スポーク

が異なり、重量も1765g→1590gと、175gの差がある。

購入した個体の実測重量は、1574g(F730g+R844g)と、Mavicにしては珍しくカタログ重量より軽量であった。

Mavicの2021カタログを見て初めて知ったが、最廉価版モデルにAllroad Discというモデルがある。
UST規格のチューブレスに対応しているがビードフック付きのスリーブジョイントリムで、リムテープも必要となっている。

リム

Mavicのリムテクノロジー

もともとリムメーカーとして出発したMavic。同社のアルミリムは軽量で剛性があり、精度にも定評がある。

強度や剛性を確保しつつ軽量化するためリムは切削加工(ISM:Inter-Spoke Milling)され、力のかかるスポークホール付近は分厚く、そうでない部分は薄く削られている

従来はスポークホール間をただ削っただけだったが、現行のISM4Dリムは連続的に肉厚が変化しており、より無駄のない形状となっている。

ISM4Dリム(Mavic Crossmax SL PRO)をカットしたもの

上の写真からは、リムに直接ニップルの雌ねじが切ってある(FOREテクノロジー)こともわかる。

回転工具を押し込んで、熱と圧力で塑性変形させ、リム内壁に立ち上がったバリ状の部分に雌ネジを形成している。

バーリング加工かな?と思ったが、これだけの肉厚と立ち上がりの長さから想像するに塑性流動。摩擦攪拌接合(FSW)に近い技術が使われているように思う。リムの切削加工なんかよりこっちのほうがずっと凄いぞ…

…加工技術はさておき、高いスポークテンションに耐えるスポークホールが得られ、さらには、リムベッドに開口部が無いためリム剛性が上がり、しかもリムテープが不要というメリットが得られる。

Allroad SLにはこれらのテクノロジーが採用されており、グラベルタイヤに合わせた内幅22mmのワイドリム(ちなみにオフセットリム)ながら、重量を440gに抑えている。

フックレスリム

Allroad SLのリムで特に目を引く点は、フックレスリムであること。

カーボンリムで一般的になってきたフックレスリムは、クリンチャーリムのビードフック(クロシェット)をなくすことで、軽量化やエアボリューム増大といったメリットがある。構造としてはシンプルになるため、精度や強度も向上し、品質も安定するためコスト削減にもつながる。

逆にデメリットは高圧に対応できないこと。ETRTO規格では、フックレスリムの最大空気圧は5barとされている。

重要な注意点はもうひとつある。フックレスリムでは原則として、クリンチャータイヤは使用できない

なぜならば、(ケブラービードの)クリンチャータイヤはフックでタイヤを保持することを前提としており、空気圧を高めるとビードが伸び、リムから外れてしまうから。

ちなみに、(パンク時など)チューブレス対応タイヤにチューブを入れて使うのは問題ない。

後述するが Allroad SLは少し特殊で、クリンチャータイヤにも対応している。

珍しいアルミ製フックレスリム

フックレスリムは、MTB、グラベル、シクロクロス用ホイールで使われることが多い。一方で、ロードバイクにおいてもタイヤ幅・リム幅がどんどんワイドになり、4気圧台で使用することも珍しくなくなってきたため、フックレスのロードホイールも登場してきている。

Mavicはロードホイールのフックレス化は時期尚早と判断しているのか、兄弟モデルにあたるロードバイク用ホイール Ksyrium SL(リム内幅19mm)では高圧タイヤに耐えられるビードフックつきリムを採用している。

※2021年のキシリウムSLは、アルミリム+スチールスポーク。構造としては旧キシリウムエリートと同等。

ETRTO規格では、チューブレスリムのフックの有無を区別しており、
フックドリム(クロシェットリム)はTC (Tubeless Crochet)、フックレスリムはTSS (Tubelss Straight Side)と記載する。

そのため、AllroadとKsyriumのETRTO表記は以下のようになっている。

  • Allroad SL: 622×22TSS
  • Ksyrium SL: 622×19TC

クリンチャータイヤにも対応

通常、フックレスリムでのクリンチャータイヤ使用はご法度だが、Allroad SLはチューブドのクリンチャータイヤ使用が認められている

ただし、リムの最大空気圧4.5barは守る必要がある。

対応タイヤ幅は28mm~46mmとなっている。タイヤ幅30mmでは空気圧3.5bar、40mmでは3barとの記載もある。

ハブ

ハブは前後12mmスルーアクスル対応。オプションのエンドキャップ組み換えで他の規格にも対応する。

ディスクローター台座はセンターロックとなっている。

フリーハブはインスタントドライブ360(ID360:Instant Drive 360)を採用している。
従来のMavicホイールに使われていたFTS-Lフリーハブはベアリング寸法の都合でスルーアクスル対応できないので、現行製品はほぼID360となっている。

構造としてはDTのスターラチェットと同等で、リングラチェット同士が面で噛み合うことで動力を伝達する。

40ノッチで掛かりは良いが、ラチェットの抵抗が大きい。また、水分が入りやすくメンテナンス周期が短い。

リングラチェットが動力を伝達

スポーク

スポークは、手を切りそうな楕円断面(というかほぼレンズ断面)のエアロスポーク幅3.6mmに対して厚みは僅か0.9mmで、回転中のホイールにキュウリとか突っ込んだら、いい感じにスライスできそう。

時速40km/h時に空気抵抗を4W削減できるというが、カタログに図示されているように、フラットスポークと比べてこれだけの効果があるのだろうか。

40km/hで空気抵抗を4W削減できるという

スポークパターンは、ディスクブレーキということもあって前後ともオーソドックスな24Hの2クロス組。(Allroad Pro Carbon SLの後輪はイソパルス組)

手組みホイールではスポーク交差部を編むが、Allroad SLはスポーク同士を接触させていない。ストレートスポークなので、ニップルホールからハブまでまっすぐ引っ張るほうがロスがなくて良いと思う。接触部の塗装が剥げたり異音が発生したりということもないし。

また、ハブ寸法を工夫することでスポーク長をすべて同一にし、コスト削減…もとい、メンテナンス性向上を図っている。

使用感

チューブレスタイヤの取り付けとビード上げ

リムにニップルホールがないためチューブレステープが不要で、作業性は良い。

タイヤ脱着を繰り返すと、どうしてもテープがヨレたり剥がれたりしてくる。ニップルホールレスは、今後のチューブレスリムで主流になると思う。

シクロクロスで使うため、今回はチューブレスレディのPanaracer Albit(700x33c)を取り付けた。ビードをリム中央の凹みにうまく落としてやれば素手で嵌めることができた。

チューブレスタイヤ装着にあたって最大の難関であるビード上げは、石鹸水で十分潤滑したうえで、チューブレスタンクのエアを送り込んだら8割方上がった。

しかし、なかなかハンプを乗り越えることができず、エアがシューシューと抜ける状態。追加で鬼のようにポンピングし続けると、ようやくバチンと音が鳴ってビードが上がりきった。シーラント不要のUST規格対応のため、ハンプも高いのだろうか。

ビードの保持性は良好で、低圧タイヤをこじってもエアが抜けにくい阿波シクロクロスでは前輪がパンクした状態で1周半走行を続けたがビードは落ちなかった

走行感

加減速が激しいシクロクロスでは外周部の軽さが重要。Allroad SLのリム重量440gというのは、ローハイト~セミディープのカーボンクリンチャーリムと同程度

太めのストレートスポークを24H 2クロスで組んだホイールは駆動剛性も高く、コーナー立ち上がりの踏み込みにもしっかり反応してくれる。

コストも重視しつつ選んだホイールだが、レースで常用できる性能だと思った。(定価9万円のアルミホイールが安いかどうかはさておき…)

Photo Y.Kato

ビード変形と補修

フックレスのリムサイドは薄く、強度が心配だったが、CXシーズン後にリムをチェックすると、やはり曲がっていた。(思い当たる節はいくつかある…)

アルミフックレスリムを見かけないのは、意外とこういうところが理由なのかもしれない。

幸いエアが漏れるほどではなかったが、当て木とハンマーで板金補修しておいた。リム内壁がフラットなため、補修作業は非常にやりやすかった。

ID360ハブは頻繁なメンテナンスが必要

リング状のラチェットで動力を伝達するID360ハブはグリス切れしやすく、水も入りやすいためすぐに錆びる。

公式には2000~3000kmごとにグリスアップするよう推奨されているが、雨天走行を行ったり、シクロクロスで使う場合は、メンテナンスサイクルはさらに短くなる。

整備自体は簡単で、フリーボディは引っ張って外し、リングラチェットの外周スプライン、かみ合わせ面、スプリング、防水シール部分を洗浄後、グリスアップするだけ。

スプロケを引っ張るだけでフリーが外れる

ただし、グリスはMavic専用のものを使用する必要がある。

専用グリスは抵抗を減らすため、かなり柔らかい。試しに汎用のグリスを入れてみたが、ラチェットの歯がかかりにくくなったり、フリーの抵抗が(さらに)大きくなって、チェーンがたるみやすくなる不具合が発生した。

1回分1.5gが319円と高価だが、なるべく純正品を使うほうがいいと思う。

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Mavic

リムの塗装が弱い

リムは黒色に塗装されているが、塗膜が弱いのが気になった。

オフロードで使うと飛び石で剥がれてくるのは仕方ないと思っているが、問題はリム内側。4ヶ月程度の使用だが塗装が剥げてきている

シーラントはアルミを侵しにくいシールスマートを使用しているが、何らかの成分で塗装が変質しているのか、それとも塗膜の密着が悪いのだろうか。

アルミ地がむき出しになっていると後々腐食してくることがあるため、ここは改善してほしいところ。

リム内側の塗装が剥げている

まとめ:トレンドを抑えたフックレスワイドリム

Mavicのグラベル向けホイール Allroad SLは、重量的に不利なアルミのワイドリム(内幅22mm)ながら、Mavic独自のISM4D(切削リム)やFORE(ニップルホールレス)技術を適用し、さらにはフックレス構造を採用することで、(グラベル向け)カーボンホイールにも匹敵する前後1590gを達成している。

オンロードでもオフロードでも。まさにオールロードで使えるホイール

頻繁なメンテナンスを要求するフリーハブや、リムの塗装ハゲはマイナス。

一方で、リムテープレスでチューブレス運用がしやすいうえ、クリンチャータイヤも使用可能で使い勝手が良い。

軽量で反応も良く、ホイールとしての素性にも優れるAllroad SL。キシリウムSL Disc(内幅19mm 1575g)からわずか15gの増量でワイドリムが手に入ると考えると、本来想定されたグラベルライド用途やシクロクロスはもちろん、28~30cのタイヤを履かせてロードバイクで使うのも面白いと思う。

ただし、ホイールの最大空気圧は4.5barなので、その点にはご注意を。

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