国産ロードタイヤとして評価の高いPanaracer Race Evo4シリーズ登場から3年。
パナレーサー創業70周年にあたる今年、新型ロードタイヤが発表された。
より軽く、より速く、より強く。相反する性能を両立するコンセプト「Panaracer Ratio」に沿って生まれた新型タイヤは、AGILEST(アジリスト)と名付けられた。
2023/4追記:新サイズを追記し価格を更新
新世代ロードタイヤAGILEST(アジリスト)
重量、転がり抵抗、耐パンク性能に耐久性。ロードバイクタイヤに求められる要望は多岐にわたる。
しかし、軽量化を進めると耐久性が犠牲になり、逆に耐パンク性能を高めると重量や転がり抵抗、そして乗り心地が悪化する。
あちらを立てればこちらが立たず。これら相反する要素をバランスさせることが優れたタイヤの必要条件だ。
一方、ロードバイクの楽しみ方も大きく変化した。
ロードレースやヒルクライムといった競技志向の用途だけではなく、ブルベやロングライド、あるいはもっとライトなサイクリングやツーリング、通勤通学…
さらに、ロードバイクとグラベルロードの境界もだんだん曖昧になってきている。
ロードバイクが「ロードレーサー」と呼ばれていた頃は、軽く繊細なタイヤこそが優れたタイヤであったが、現在では幅広い楽しみ方に合わせて、タイヤにも様々な用途に耐える必要がある。
そして2022年。パナレーサー株式会社の創業70周年にあたる今年「ROAD再定義」をスローガンに新型タイヤが発表された。
相反する性能を両立するコンセプト「Panaracer Ratio」に沿って、重量、転がりの軽さ、高い耐パンク性能とグリップ力、さらにしなやかさを高い次元でバランスしたタイヤは、12年間続いたRACEシリーズから名前を変え、AGILEST(アジリスト)と名付けられた。
AGILESTは、先代に当たるRace Evo4シリーズ(2019年発売)よりも軽量で、転がり抵抗も低減されている。
また、2020年に改定された新ETRTO規格に対応。断面形状もオーソドックスな丸断面へと改められた。
クリンチャー版のラインナップは標準モデル、高耐久モデル、軽量モデルの3種類。
オールラウンドタイヤAGILESTはRace A Evo4とRace C Evo4の後継にあたり、高耐久モデル AGILEST DUROと軽量モデル AGILEST LIGHTは、それぞれRace D Evo4、Gillarの流れをくむ。
さらに、レース志向のチューブラーに加えて、近年普及が進むチューブレスレディ版も用意され、合計5種類で展開される。
AGILESTの特徴 ~より軽く、より速く、より強く~
重量、グリップ、転がり抵抗、耐パンク性、そして耐久性。優れたタイヤは、これら相反する要素を高いレベルでバランスさせている必要がある。
AGILESTは新開発のコンパウンドや耐パンクベルトを採用し、高いグリップ力と耐パンク性能に加えて、しなやかな乗り心地も実現。レースからロングライドまで幅広く性能を発揮するタイヤとなった。
新型コンパウンドで転がり抵抗削減
タイヤの性能を大きく左右するのがコンパウンド(ゴム)。タイヤメーカーの技術力が如実に現れるポイントだ。
AGILESTでは、ZSG AGILE Compoundと名付けられた新型コンパウンドを採用し、従来品と同水準のハイグリップを維持したまま、転がり抵抗を12%も削減している。
しなやかさを犠牲にせず耐パンク性向上
どんなに速く走れるタイヤも、パンクしてしまったら元も子もない。
レースなら大幅なタイムロスやリタイアに繋がるし、サイクリングでも行程の変更を余儀なくされるかもしれない。
また、状況によっては転倒し、怪我をするリスクもある。
したがって、たとえレーシングタイヤであっても耐パンク性は重要だ。
しかし一方で、分厚い耐パンクレイヤーを何重にも重ねると、重量増や転がり抵抗の悪化につながる。さらに、タイヤのしなやかさが失われて乗り心地も悪化する。
AGILESTでは、高い耐パンク性を発揮しつつ、快適性と軽量性も両立した新型パンク防止ベルト「Tough & Flex Super Belt」を採用した。
前作Race A Evo4ではケーシング全体を覆っていた耐パンクレイヤーをトレッド直下のみとすることで、軽くしなやかなタイヤに仕上がっている。
高耐久モデルにあたるAGILEST DUROでは、サイドカットにも対応できるよう、新型の耐パンクレイヤー「Tough & Flex Super Outer Shield」を採用。トレッド部にはさらに耐パンクベルトが追加され、2重に強化されている。
軽量化
タイヤを選ぶ上で重要な指標となるのが重量。
回転するホイールの外周部に位置するタイヤの軽量化は、踏み出しの軽さや加速力に大きく影響する。
フレームの重量が100g変わってもまぁ気づかないが、タイヤが前後で100g軽くなったら走りが激変する。
ホイール外周部の軽量化は、クリテリウムのような加減速が激しいシチュエーションで実感できるはず。
AGILESTは、軽量な耐パンクベルト採用をはじめ、様々な改善の結果、前作のRace Evo4と比較して40gもの軽量化を実現した(クリンチャー 700x25cにて)。
軽量化を真剣に考えたことがある人なら、この重量にはシビれるはず。
しかも、ホイールの軽量化よりも遥かにコストパフォーマンスが良い。リム重量を40g軽くするのにはいくらかかることやら…
新ETRTO規格に準拠
自転車のタイヤサイズは、ETRTO(エトルト)規格というタイヤ・リムの規格に従って作られている。
ETRTO規格に準拠することで、異なるメーカーのタイヤ・リムを組み合わせても(対応するサイズ同士であれば)問題なく装着できるというわけ。
ETRTO規格では、タイヤサイズは
幅[mm]-ビード座直径[mm]
のように表記される。例えばロードバイクの700x25cタイヤは25-622となる。
ところが、クリンチャー・チューブレスタイヤでは、リムの内幅によってタイヤ幅が変わってしまう。
これまで、ETRTO規格ではリム内幅15mmを基準としていた。
したがって、旧ETRTOで25-622などと表記されていたタイヤを、17mm、19mm幅といったワイドリムに取り付けると表記サイズよりも太くなり、実際の幅は25mm以上になってしまうのだ。
目安として、リム幅2mmでタイヤ幅が1mm変わると言われている。
現在、リム幅はワイド化が進んでおり、ETRTO規格で表記されるタイヤ幅は、実際のタイヤ幅と乖離していた。そこで、2020年に改定された新ETRTO規格ではリム幅の基準が19mm(25c,28cの場合)となった。
AGILESTシリーズは新ETRTO規格に準拠しており、ワイドリムに装着した際に表記サイズとなり、ベストな性能を発揮するように設計されている。
逆に、ナローリムに取り付けるとタイヤ本来の性能を発揮できないため、私のように、古いロードバイクに乗り続けている人にとっては要注意ポイントとなる。
丸断面プロファイルを採用
先代のRace Evo4シリーズまでは、Race Evo Cを除き、タイヤ頂点が尖った「All Contact Tread Shape」という断面形状(プロファイル)が採用されていた。
直進時は接地面積を減らして転がり抵抗を削減しつつ、コーナーでは広い面積で接地しグリップを高めるというコンセプトだったが、バイクを倒し込む際に違和感があり、独特のフィーリングに馴染めない人も一定数いた。
また、タイヤが摩耗すると理想的な形状が崩れてしまうという欠点もあった。
AGILESTシリーズでは、断面形状を再設計し、一般的なラウンド形状のプロファイルとなった。
グリップ感が安定することで、Race C Evo4のようにコーナーを切り返すような場面でも自然なフィーリングが得られ、安心してバイクをコントロールできる。
ラインナップ ~クリンチャーに加えてチューブラーとチューブレスを展開~
AGILESTは、クリンチャーのAGILEST CLシリーズが3種類(標準モデル、高耐久モデル、軽量モデル)と、チューブラー、チューブレスコンパーチブル(チューブレスレディ)、あわせて5種類で展開される。
AGILEST(標準モデル) | AGILEST DURO(高耐久モデル) | AGILEST LIGHT(軽量モデル) | AGILEST TU | AGILEST TLR | |
タイプ | クリンチャー | クリンチャー | クリンチャー | チューブラー (R’Airチューブ) | チューブレスレディ フックレスリム対応 |
コンパウンド | ZSG AGILE Compound | ZSG AGILE Compound | ZSG AGILE Compound | ZSG AGILE Compound | ZSG AGILE Compound |
ブレーカー | Tough & Flex Super Belt | Tough & Flex Super Outer Shield | Tough & Flex Super Belt | Tough & Flex Super Belt | – |
サイズ・重量 | 700×23C(180g) 700×25C(190g) 700×28C(210g) 700×30C(230g) | 700×23C(210g) 700×25C(220g) 700×28C(250g) 700×30C(280g) | 700×23C(160g) 700×25C(170g) 700×28C(190g) | 700×25mm(260g) | 700×25C(220g) 700×28C(250g) 700×30C(270g) 700×32C(310g) |
カラー | ブラック スキン レッド(25Cのみ) ブルー(25Cのみ) | ブラック | ブラック | ブラック | ブラック |
価格 | 7,370円(税込) | 7,590円(税込) | 7,590円(税込) | 12,100円(税込) | 8,580円(税込) |
AGILEST(CLシリーズ) ~クリンチャー標準モデル~
高い耐パンク性とグリップ力、しなやかさをバランスさせたスタンダードモデル。
25cサイズでは重量190gと、前作Race A Evo4に比べて40gもの軽量化を実現している。
28cでも僅か210gのため、重量増を理由にワイドタイヤを敬遠していた層にも刺さりそうだ。
AGILESTのタイヤの構造は、ケーシング全体が耐パンクレイヤーで覆われたRace A Evo4よりもRace C Evo4に近く、トレッド部にのみ耐パンクベルト「Tough & Flex Super Belt」を備える。
この結果、タイヤの重量削減と同時に、よりしなやかな構造も実現している。
軽さとしなやかさに魅力を感じ、Race C Evo4を愛用していた私にとっては本命ともいえるモデル。
タイヤサイズは23c,25c,28cに30c(2023年春発売)を加えた4種類で展開される。
いまや23cは少数派だが、25cが入らない古いバイクのオーナーにとってはありがたいはず。
この製品のみカラーバリエーションがあり、ブラックに加えてスキンサイド、そしてレッドとブルー(25cのみ)が用意される。
なお、各色で重量や性能に差は無い。
AGILEST DURO(CLシリーズ) ~耐パンク性重視の高耐久モデル~
従来のRace D Evo4に相当する、耐パンク性を高めた高耐久モデル。
タイヤをサイドまで覆う耐パンクブレーカー「Tough & Flex Super Outer Shield」に加えて、トレッド部には「Pro Tite Belt」を採用。
突き刺しパンクだけでなく、サイドカットへの耐性も高めている。
標準モデルに比べて30g程度の重量増となるが、路面の悪い状況、あるいはロングライドや通勤通学でパンクトラブルを避けるには心強い。
私はロードバイクでグラベルに突っ込んだりするので、これくらいタフなほうが安心できそうだ。
一方で、耐パンク性能を高めた結果、タイヤのしなやかさはAGILEST(標準モデル)と比較すると多少犠牲になっていると予想される。乗り心地の悪化はどの程度に抑えられているのか、試してみたい。
こちらも23c,25c,28c,30cが用意される。
AGILEST LIGHT(CLシリーズ) ~重量減を追求した軽量モデル~
DUROとは逆に、軽量化を追求したモデルがAGILEST LIGHT。軽量タイヤGILLERの後継となるモデルだ。
AGILEST LIGHTは、トレッドパターンから原材料まで専用設計で、AGILEST標準モデルよりさらに20gの軽量化を実現。
25cで170g、23cでは160gという重量を達成している。これはGILLERと同重量だが、転がり抵抗が低減されているという。
少し話が逸れるが、その昔MAXXISにMont Ventoux(モンヴァントゥ)というタイヤがあった。重量は23cで140gと超軽量。
しかしタイヤサイドには「UPHILL ONLY」とプリントされており、ロック一発で穴が開くようなトンデモナイ代物。
ヒルクライムレース専用で、下山時はタイヤを履き替えるという運用が求められた。
「軽量タイヤ」というと、こういった決戦用の飛び道具を想像してしまうが、AGILEST LIGHTには耐パンクベルトがしっかり入っているし、下りをガンガン飛ばしても問題なし。
AGILEST LIGHTは「普段から使える」超軽量タイヤだ。
ヒルクライム用ということで30cは用意されず、23c,25c,28cというサイズ展開。
AGILEST TU ~R’AIR採用のチューブラーモデル~
主にレースでの用途に対応して、AGILEST TU(チューブラー)も用意される。
AGILEST(クリンチャー標準モデル)のチューブラー版という位置づけで、新開発のコンパウンドと耐パンクベルトを採用している。
内蔵されるチューブは、パナレーサーが誇る軽量ブチルチューブ「R’AIR」。
薄くしなやかなうえ、ラテックスチューブを使用する競合製品に対して空気抜けが遅く、長丁場のレースやロングライドでも空気圧低下を気にしなくて良い。
AGILEST TUは25mm幅のみラインナップされる。重量はRace A Evo4チューブラーに比べて20g軽い260gとなっている。
AGILEST TLR ~チューブレス対応モデル~
AGILEST TLRは、チューブレスレディ対応のモデル。
パナレーサーは従来、シーラント併用のチューブレスシステムを「チューブレスコンパーチブル」と表記していたが、今作より、より一般的に使われている「チューブレスレディ」表記に改めた。
AGILEST TLRは最新のホイールトレンドにあわせた設計を行い、嵌めやすさやビードの上げやすさを改善。フックレスリムにも対応している。
コンパウンドや耐パンクベルトの構成はAGILEST(クリンチャー標準モデル)と同じだが、サイズ展開が異なり
25c, 28c, 30c, 32c
と、ワンサイズずつ太い。コンサバティブなサイズ展開だったクリンチャー版と比べると、イマドキな印象を受けた。
エンデュランス形のディスクロードに30cや32cを履かせて低圧運用すると、ツーリング用途にすごく良さそうだ。手持ちのロードフレームに収まらないのが悔やまれる。
重量は25cで220g、28cで250g、30cで270g。最も太い32cでも310gと軽量だ。
クリンチャー版に比べると、タイヤ単体では30~40gの重量増。しかし、チューブとシーラントの重量差を考えると、合計重量は殆ど同じと言える。
いや、25cでシーラント量をギリギリまで切り詰めたら、AGELEST LIGHT+R’AIRより軽くなるんじゃないかな…
まとめ:高い総合力を持つ新世代ロードタイヤ
新たな素材や技術を使用し、前作よりも軽く、速く、強くなった新世代ロードタイヤ AGILEST。
タイヤとしての総合力を重視し、多様化するロードサイクリングシーンに対応したオールラウンドなタイヤだが、より耐久性を重視するならAGILIST DUROを、軽さを求めるならAGILIST LIGHTを、といった選択肢が用意されている。
パナレーサー創業70周年ということもあって、YouTubeチャンネルでティザー動画を公開するなど、製品にかける熱量が伺える。