Panaracer AGILEST TLR 700x25c F725TR-AG-B
路面追従性に優れた「跳ねない」ロードタイヤ「アジリスト」のチューブレスレディ仕様。クリンチャー版の長所を伸ばした特性を持っている。
ビードは上げやすいが、シーラント前提のシステムのため耐パンクベルトを省略する、エアシールは最低限でシーラントが染み出すなど、より軽くしなやかに、レース向けに性能を振った印象を受けた。
パナレーサー PRパートナーとしてプロモーション活動を行っています。
本品はパナレーサー株式会社様より提供いただいた製品です。
長所 -Pros-
- 軽く快適でハイグリップ
- ビードが上がりやすい
- 手頃な価格(6,700円税別)
短所 -Cons-
- 耐パンクベルトが無い
- タイヤサイドからシーラントが染み出す
アジリストのチューブレスタイヤ
発売以降、注目を集めているパナレーサーの新型ロードタイヤ「AGILEST(アジリスト)」
3月発売のクリンチャー版に少し遅れ、4月に発売されたのがチューブレスレディのアジリストTLR。
昨今、ロードバイクのチューブレスタイヤが盛り上がりを見せており、プロのレースシーンにおいても、チューブラからチューブレスへの転換が起こっている。
そんな状況で発売されたアジリストTLRは、アジリストシリーズの中で最も注目すべき製品といって良いだろう。
なお、パナレーサーは従来、シーラント併用のチューブレスシステムを「チューブレスコンパーチブル」と表記していたが、今作より、より一般的に使われている「チューブレスレディ」表記に改められた。
アジリストはタイヤの性能だけでなく、価格の手頃さも大きな特長。
最近、物価は上昇しており、タイヤが1本1万円というのも珍しくなくなってきたが、アジリストTLRは価格6,700円(税抜)と、競合他社製品と比べるとひと回りもふた周りも安い。年に何セットもタイヤを使う熱心なサイクリストにはありがたいはず。
タイヤは国内製造で、兵庫県丹波市のパナレーサー本社工場にて生産されている。
クリンチャー版との違い:耐パンクベルトを省略して軽量化
アジリストTLRは、クリンチャー版アジリストを単にチューブレス化しただけではない。
ワンサイズ太いラインナップ
まずはサイズ。アジリストTLRは、クリンチャー版よりも一回り太いサイズで展開される。
- アジリスト (CL):23c, 25c, 28c
- アジリスト TLR:25c, 28c, 30c
チューブレスシステムは太いタイヤでこそ発揮されること、現在市場にあるチューブレス対応ホイールはどれもワイドリム(ロード用で内幅19~25mm程度)であることが理由だろうか。
個人的には、これからのチューブレスロードタイヤは30cが基準になると考えている。
一方、太いタイヤを受け付けない古いロードフレームに乗る身としては、25cがラインナップされたのはありがたい。
タイヤの構造
クリンチャーとTLRでタイヤの構造も異なる。
TLRは、空気を保持するための層(Air Proof Layer)がケーシング内側に追加されているため、タイヤを揉むとケーシングの分厚さ・硬さを感じる。
もっとも、ホイールに組み付けた状態では、チューブの無いTLRのほうがしなやかな特性を持つ。
サイドの硬さよりも注目すべき点は、TLRは耐パンクベルト(TF Super Belt)が省略されているという事。
耐パンクベルトはトレッド直下に配置され、細かいガラス片や植物のトゲ、砂粒など、路上の異物による突き刺しパンクを防ぐ。
パナレーサーは耐パンク性には気を使っていて、重量170g(25c)の軽量モデル AGILEST LIGHTですら耐パンクベルトを備えている。
なのに、なぜアジリストTLRが耐パンクベルトを備えないのか?パナレーサーに問い合わせたところ「シーラントの使用が前提のチューブレスレディシステムの場合、貫通パンクはシーラントが塞いでくれるから」という回答を得た。
耐パンクベルトがあったほうが安心だが、無い方がタイヤは軽く、しなやかになる。レーシングタイヤとしては、過剰な耐パンク性よりも性能を取るべきと判断されたのだろう。
とはいえ、耐パンク性が十分なのか、正直不安ではある。アジリストTLRではまだ250kmほどしか走っていないが、実走テストを続けて耐パンク性を見極めていきたい。
2022/06 追記
走行500km時点で突き刺しパンク。ごく小さな穴だったが、タイヤ内に入れたシーラントが乾いていたため塞がらなかった。
システム重量
アジリストTLRの公称重量は220g(25c)。
手元のタイヤ2本を実測すると、それぞれ219gと222gだった。パナレーサーのタイヤは公称重量と実測値にほとんど差がない。
重量の感覚が分かりづらいので、クリンチャー版とのシステム重量を比較してみる。
アジリストの25cクリンチャーは190g、軽量モデルのライトは170g。チューブはR’AIRを組み合わせることにする。
TLRのほうは、チューブは不要だがチューブレスバルブとシーラントが必要。バルブは実測6g程度、シーラントは推奨量を入れて30gとした。
それぞれの場合で合計重量を計算すると、以下のようになる。
- AGILEST LIGHT:170g+チューブ77g=247g
- AGILEST:190g+チューブ77g=267g
- AGILEST TLR:220g+バルブ6g+シーラント30g=256g
重量的には、AGILEST(CL)とAGILEST LIGHTの中間くらい。チューブレスは重いから…と敬遠する理由はもはや無い。
シーラントの量をギリギリまで少なくする、あるいは乾いたら、AGILEST LIGHTより軽くなるかも…
携帯ポンプでビード上げ可能
チューブレスタイヤのビードが上がる・上がらないというのはタイヤとリムの相性で決まるのだが、従来のパナレーサー製タイヤはビードが緩めで、チューブレスタンクで一気にエアを送り込まないとビードが上がりづらかった。
ところが、アジリストTLRは以前のタイヤより少しタイトになっていた。開発時は何パターンも試作して、できるだけ多くのホイールにフィットするよう、ベストなビード寸法を詰めに詰めたらしい。
フロアポンプで空気を入れてみると、1プッシュ目からエアが入っていき、すんなりビードが上がってしまった。
グラベルキング、CGCXやAlbitなど何種類かのチューブレスタイヤを使ってきたが、フロアポンプでビードが上がったのは初めて。
手持ちのホイールで試してみたところ、以下のホイール全てについて、フロアポンプでビード上げできた。
- フルクラム レーシング1 2-Way Fit (622x15TC)
- マヴィック キシリウムプロカーボン SL UST (622x19TC)
- マヴィック オールロード SL (622x22TSS)
- レイノルズ ATR (622x23TC)
特に、これまであらゆるパナレーサー製チューブレスタイヤを拒絶してきた、相性最悪のレイノルズATRもフロアポンプでビードが上がったのには驚いた。
23mmリムに25cタイヤで、すごい引っ張りタイヤになってるけど。
これなら携帯ポンプでも上がるのではないか?と思い、高圧対応の携帯ポンプ「BMP-23AEZ」でビード上げにトライしてみた。
このポンプ、ハンドルを引くときに空気を予備圧縮することで高圧まで入れることができる。ホース付きで作業もしやすい。
キシリウムプロカーボンにアジリストTLRを嵌めてポンピングを始めると、ちゃんと空気が入っている。
ポンピング回数が多く疲れたが、パンッ!という音とともにビードが上がった。
なお、タイヤ実測幅は25.6mmだった(リム内幅19mm)。
シーラントとエアの抜け
チューブレスレディに必須のシーラントは、ビード上げ後にバルブから注入。ホイールあたり30ml入れた。
バルブから注入する都合でパナレーサー純正のシールスマート(クルミ殻が入っている)ではなくカフェラテックスを使ったが、タイヤサイドからシーラント液が滲んでくる。
アジリストTLRの空気保持層(Air Proof Layer)は、シーラントを前提として最低限の厚さで、場所によっては微細な穴があるのかもしれない。
Road.ccのシールスマート レビュー記事に興味深い事が書いてあった。
「Seal Smartはしなやかで薄いタイヤのための、特製の天然ラテックスベースシーラント」とあり、「超薄型でしなやかなタイヤにつきものの微細な穴」を塞げるような成分になっているという。
シールスマートが他社のシーラントより乾きやすいのは、シーリング性を高めるためなのかもしれない。
さて、カフェラテックスで運用した場合だが、タイヤの空気圧低下は1日0.2barほどだった。
メンテナンスの時にでも、改めてシールスマートに入れ替えてみたい。
バルブ穴からシリンジで入れられるように、クルミ殻無しのシールスマート作ってほしい…
空気圧の設定
タイヤの最大空気圧は8.0barだが、そんな高圧を入れる必要はない。リム幅が広くなった現在は、25cタイヤでも5~6気圧で運用するのが当たり前になってきている。
空気圧はSRAMのツールで算出した値に設定後、実走で微調整した。
気持ちの良い空気圧の範囲は狭く、高すぎると跳ねて快適性が損なわれるし、低すぎるとタイヤがヨレる。
最終的にはクリンチャーのアジリストより前後とも0.1bar低い、F5.3bar/R5.7barにセットした。
路面の凸凹にあわせてトレッドが変形する感覚
まだ250kmほどだが、綺麗な舗装からグラベルまで、アジリストTLRで様々な道を走ってみた。
クリンチャー版のアジリストに乗って感じた特徴は「跳ねない」こと、つまり路面追従性の良さだったが、チューブレス化によってその特性がさらに伸びた。
アジリストTLRで荒れた道路を走ると、高性能なシクロクロスチューブラータイヤのように、路面の細かい凹凸に沿ってトレッドが変形するような感覚がある。
例えば、路上に落ちている枝を踏むようなシチュエーション。クリンチャータイヤは接地面全体が沈み込んで衝撃を吸収するが、チューブレスは枝の形に沿ってトレッドが局所的に凹んでいるように感じられる。
コンパウンドはクリンチャーとチューブレスで同等だが、路面追従性が高まったことでグリップもさらに向上している。路面状況が悪いダウンヒルでもタイヤがしっかり地面を捉えているため、バイクに身体を預けて安心して下れる。
一方で、25cという幅では限界もある。小さな凹凸には対処できても、路面の穴や舗装の段差といった大きな凹凸に対しては、タイヤが潰れるストロークの不足を感じる。
試しにガレたグラベルに踏み込んでみたが、流石に衝撃を吸収しきれていなかった。
チューブレスタイヤのメリットは、タイヤがしなやかに変形し、しかもエネルギーの損失が少ないこと。しかし、そもそもの変形量が少ない(大きく出来ない)25cでは、チューブレスの旨味を十分に味わえていないと感じた。
フレームのタイヤクリアランスが許すのであれば、28cや30cといったもっとワイドなタイヤを選択するほうが良いと思う。
まとめ:性能をとるか 運用をとるか
アジリストTLRは、乗り心地、グリップ、軽量性においても、クリンチャー版のアジリストを上回っている。
しかし、25cという(今となっては)細いタイヤでは、その差はあまり大きいと思えなかった。
ビード上げ、シーラントの管理、そしてパンク時の対処。チューブレスタイヤは高性能だが面倒だ。
アジリストTLRはかなりビード上げしやすいタイヤだが、チューブレスタイヤとホイールは、相性が良いことのほうが少ない。私も散々泣かされてきた。
さらに、シーラントは乾くので定期的に継ぎ足す必要がある。特に耐パンクベルトを持たないアジリストTLRの場合、突き刺しパンクを塞げる程度のシーラントは常に入れておきたい。
そして、サイクリングにはつきもののパンク。シーラントで塞がればいいが、塞がらなかったら?プラグを入れる手もあるが、最終的にはタイヤを外してチューブを入れるしかない。硬く嵌ったビードにシーラントまみれのタイヤ。路肩ではあまりやりたくない作業だ。
チューブレスタイヤの修理はどれも「応急処置」。短時間で、完璧に修理するという点ではクリンチャーにかなわない。
残念ながら、現在のロードチューブレスシステムは(一昔前よりかなり改善されたが)まだ完全ではない。
サイクリスト個々のスタイルに合わせて、性能を取るか(TL)、運用を取るか(CL)、選択する必要がある。
もしレースで使うのなら、迷わずアジリストTLR。スムーズでハイグリップで軽いチューブレスタイヤは、運用が面倒でも使う価値がある。
でも、ツーリングやサイクリングメインで、整備は苦手だし面倒だ、というのなら、クリンチャー+軽量チューブというのもひとつの正解だと思う。
個人的には、頻繁に乗るバイク(ホイール)はアジリストTLR。たまにしか乗らないバイク(ホイール)はクリンチャー版アジリスト、という組合わせで使うつもり。
2022/10/21 追記
2000km走行後のレビューはこちら