コースほぼ全域が砂に覆われた「ワイルドネイチャープラザ」で開催されたシクロクロス全日本選手権。
今年はシングルスピードレースに出場。予想通り、昨年度チャンピオン コッシーとのマッチレースになったが、ゴール直前までもつれ込む接戦の末にタイトルを獲得した。
1/14 第28回全日本自転車競技大会 シクロクロス ワイルドネイチャープラザ シングルスピード
コースコンディション:小雨、セミウエット、砂
リザルト:1位/23名(4周回 29:39 順位5% フルラップ完走20名)
機材
Lynskey CooperCX
- 前輪: Fulcrum Racing 1 / Panaracer CGCX + Latex tube / 1.5bar
- 後輪: Fulcrum Racing 1 / Panaracer CGCX + Latex tube / 1.5bar
- ギヤ: 40×18T
※空気圧はPanaracer デュアルヘッド デジタルゲージ基準
動画
すくみずログ YouTubeチャンネルでレース動画を公開中
シングルスピードに出場
C1昇格後は毎年全日本選手権の男子エリートに出場していたが、今年はエリート、マスターともに出場できず。
しかし、何度も走ったワイルドネイチャープラザで開催される全日本を走りたい。そこで、シングルスピード(エキシビジョン)にエントリーした。
シングルスピード出場は4年ぶり。前回は2018年の全日本(マキノ)でシングルスピードに出場し、タイトルを獲得している。
誰でもエントリーできるレースではあるが、レベルの高い選手もエントリーしている。
最大のライバルは昨年度優勝のコッシー。普段のC1レースもSSCXで参戦するフルタイムシングルスピーダーで、BMX仕込みのバイクコントロールが光る選手。
特に、コーナーのライン取りと縦の動きが抜群に上手い。
さらに、地道にトレーニングを重ねて、ここ2年ほどでフィジカルが大幅に向上。テクニカルコースでは、以前のようにパワーで押し切って勝てなくなってきた。
実際、泥+砂という難しいコンディションとなった今季の関西CXマイアミではコッシーに負けている。
全日本が開催されるワイルドネイチャープラザは、パワーとテクニックどちらも必要な「砂」のコース。フィジカルの私とテクニックのコッシー、実力は互角で、どちらが勝っても不思議ではない。
また、昨年の全日本でコッシーと接戦を繰り広げ、昨年11月の前橋シクロクロスC1で優勝したヒロム君や、過去2度の全日本タイトルを持つCOGS 牧野さんも優勝候補だ。
レース会場
会場は愛知県稲沢市の「ワイルドネイチャープラザ」。木曽川の河岸段丘に形成された「祖父江砂丘」に設営されたほぼ全域が砂のコースだ。
こういう河畔砂丘は国内では珍しい。シクロクロスコースとしても非常にユニークで、高低差がある砂のコースというのは国内では他に例を見ない。
そんな理由で、ここワイルドネイチャープラザは、シクロクロスワールドカップが行われる(砂のコースとして有名な)コクサイデに例えられている。
コースは、スタートからつながるホームストレートによって大きく2エリアに分けられる。
前半で走るのは平坦なエリア。ピット前を通過した後はシケイン、そして林間を縫うコーナーセクションが続く。この辺りの砂は比較的浅く、掘り返されるコーナー以外は走りやすい。また、林間はハードパックに近い。
ブースエリア脇を通過して、コース後半は高低差のある砂丘エリアを走る。砂丘をつづら折れに登っていき、頂上からはまっすぐに駆け下りる。
こちらは、川から吹き上げられた砂が堆積して、走行抵抗の大きい深い砂地となっている。特に、最後の下り直線は最も重い路面で、コースで一番の勝負どころとなる。
下りきったら最終コーナー。直線を立ち上がってコントロールラインだ。
試走とバイクセッティング
金曜日の試走に行きたいところだったが、先週の希望が丘で負傷した肩がまだ治っていない。
日に日に回復していて、自転車で舗装路を走るくらいなら問題ないが、ハンドルを抑え込んだり、ダンシングしたりすると痛みが走る。フロントアップは到底無理。
そういうわけで、少しでも回復することに期待して、金曜日はノーライド。土曜の朝試走で感触を確かめ、レースの負荷に耐えられそうなら出走することにした。
バイクは、リンスキーのCooper CX。私がシクロクロスを始めたときに買ったチタンフレームだ。
肘を広げると左肩が痛くないことに気づいたので、ブラケットを内側に傾けてセッティングしている。
ギヤ比は当初40×20T(2.0)だったが、金曜夜から土曜の午前中まで雨が降り、路面が締まって高速化することが予想できたので直前にコグを変更。40×18T(2.2)にセットした。
足回りはフルクラムのレーシング1に、前後ともパナレーサーCGCXを履く。
ホイールはチューブレス対応だが、内幅15mmのナローリムなので低圧にするとタイヤがヨレてエアが漏れるリスクがある。
そこで、ラテックスチューブを入れてチューブド運用とした。
なおチューブはチューブラータイヤを裂いて引きずり出した。
コース全体でパンクする場所もないので、空気圧は前後1.5bar。チューブドとしては低い空気圧だが、これで問題なく走れた。
レースレポート
1/14~15の2日間にわたって開催される全日本選手権。レース日程のオープニングレースとなるシングルスピードには、同時出走の女子2名を含む23名が出走した。
スタート順はランダムで、ゼッケン12番の私は2列目。
2列目以降は「どのラインか」よりも「誰の後ろか」のほうがずっと重要。迷うことなく、昨年度優勝者のコッシーの真後ろに並んだ。
小雨の降る中、9時30分にレーススタート。250mの直線を高回転で回す。トップスピードは44km/h、ケイデンスは155rpmに達した。
砂の1コーナー、2コーナーを抜け、昨年2位のヒロム君、コッシーに続く3番手でピット前を立ち上がる。
少しベストラインを外したが、多めに踏んでリカバリー。3名続いてシケインへ。
バニーホップでシケインを飛ぶトップ2名に対して、私は降車。加速で僅かに遅れたが、すぐにパックにドッキング。
ヒロム君、コッシー、私の順で1列に並び、林間のコーナーセクションを進む。シングルスピードバイクの、加減速の少ないスムーズなライン取りが気持ちいい。
ただし、タイヤに無理をさせないように意識しておく。使い慣れたCGCXを履いているが、今日は15cのナローリムにチューブド運用だ。限界は低く、コントロールも難しい。
シングルスピードのレース時間は30分。普段走っているC1の半分だが、短いレースはミスやトラブルひとつが致命傷になる。
コース前半の平坦エリアを3名の隊列でこなし、ホームストレートを挟んで反対側の砂丘エリアに渡る。
ここからコントロールラインまでの区間は、フィジカルとテクニックの差が露骨に現れる「勝負どころ」だ。
観戦ポイントになっていた砂の180度ターン。先頭のヒロム君は乗車クリアを試みたが、ターン中に前輪が埋まって失速。この間に、降車を選択したコッシーと私が先行する。
さらに、出口の左コーナーを斜めに横切って先頭に立とうとしたが、いちはやく乗車したコッシーに抑えられる。
順位が入れ替わり、コッシー、私、ヒロム君の順で上りをこなす。ここから砂丘の頂上まではラインが1本なので、リスクを冒して無理に抜かずステイ。
WNP最大の勝負どころである砂の下りは、最初が最も急で、徐々に勾配が緩む。
ここは初速が大事なので、荷重をリヤに寄せてペダルを回す。速度が乗った状態だとハンドルがブレず、ライントレースもしやすい。
コッシーは終盤で降車、一方私はかろうじて全乗車でクリア。途中で失速したヒロム君は長距離のランを強いられ、ギャップが開く。
先頭がコッシー、3秒遅れて私、さらに5秒遅れてヒロム君がコントロールラインを通過し、レースは2周目に突入。
3秒という差は、普段であれば踏み込み一発で埋められる。
しかし、今日はシングルスピード。直線ではペダルを回しきってしまう。加えて、先週痛めた肩が完治しておらず、ダンシングでもがけない。
この3秒差は、とても大きい。
1コーナー、2コーナーの砂を綺麗にクリアするが、それはコッシーも同じ。距離が埋まらないままシケイン、そして連続コーナー区間へ。
ここはコッシーの独壇場。コーナーをひとつ立ち上がるたびにジワジワと離される。
内心かなり焦っているが、ここで無理をしてスリップダウンしたら終わり。フィジカルで戦える場面までひたすらに耐える。
コッシー、私、ヒロム君が、それぞれ3秒差で砂丘エリアに入ったが、上りの途中で3名が合流。しかしその直後、ヒロム君がタイヤを剥がして脱落した。
ここからは一騎打ちだ。
パックで下り始めたが、コッシーのフロントタイヤが砂に刺さってストップ。ここがチャンスとばかりに、5秒ほどのリードを築いた。
4周回のレースが折り返す3周目。
テクニックに分があるコッシーだが、フィジカル勝負ではこちらが有利。
コース前半の連続コーナーエリアを抑えきれれば、砂丘エリアで決定的な差をつけられるはず。
そして狙い通り、パワーが必要な砂の下りでコッシーとの差を6秒から13秒に広げ、独走態勢でファイナルラップに入る。
往路ピット前で15秒以上の差が開いたことを確認し、後は無理せず、ペースを守ろう…と気が緩んだ矢先、シケインの2つ手前、なんてことのない左コーナーで轍を外してストップ。
素早く降車を試みるが、痛めた左腕では上体を支えきれず、その場でパタリと転んだ。すぐに立ち上がって再スタートしたものの、ここで失った数秒は大きかった。
リズムを崩し、ちょっと痛む肩も相まってペースが落ちる。転倒を見てプッシュしたコッシーが連続コーナーで追いついてきた。
そして先頭が入れ替わる。ここが踏ん張りどころだが、体力の限界も近い。
おそらくゴールスプリントにもつれこんだ場合、今のコンディションでコッシーには勝てない。
つまり、優勝するには単独で最終コーナーを抜ける必要がある。
逆算すると、先頭で砂丘エリアに入り、上りで差を広げて砂丘のピークを通過しなければならない。
復路ピット出口のコーナーで横に並び、平坦エリアから砂丘エリアに渡る砂区間で前に出る。そして、限界ペースでヒルクライム。
しかし、背後に食らいついてきていたコッシー。
ピークに至るまでの短い上り坂で、耐えきれず私が降車した脇を乗車で抜けていく。
全力でペダルを踏む下りの砂区間。最終コーナーのイン側を目指した私と、路面が硬いアウト側を狙ったコッシー。ラインが交錯する。
砂丘の麓で2人が横並びになったが、バイクの勢いが削がれる前に飛び降りてランに移行した私が先行。
この時点で、後ろを確認する余裕はなかった。
だから、バイクに飛び乗って最終コーナーを曲がったら全力でスプリント。コントロールライン直前でやっと勝利を確信し、右腕を掲げた。
レースを振り返って
全日本のタイトルを獲れたことはもちろん嬉しいけど、それと同じくらい、こういう熱いレースができたこと自体が嬉しかった。
ワンミスが致命傷になる砂のコースで、最後の最後までどちらが勝つかわからない接戦。
もしも路面コンディションが違ったら、もしもミスするタイミングが違ったら。多分また違った結果になっていたと思う。
ゴールしてすぐに、カメラに囲まれたり、表彰式に連れて行かれたり、それが終わったらメディアに取材されたり。いつもの「バイクのGoProに向かって反省会」をする暇もないくらい。
徐々に、誇れる結果をひとつ残せたということを実感し始める。
その後ひと息ついていたら、オルタナティブバイシクルズの北澤さんが。すっかり出来上がっていたが、(非公式)優勝賞品として、ずっと欲しかったサーディンを頂いた。
全日本という大舞台。雨にも関わらずたくさんの歓声やカメラの中でデッドヒートを楽しめて、本当に幸せな時間でした。またこんなレースを走りたい。
応援・撮影・サポートありがとうございました。