SHIMANO WH-R8170-C36-TL
アルテグラグレードのカーボンホイール。
キャラクター性には乏しいが、クリンチャー・チューブレスを問わず幅広いタイヤに対応する。
横風に煽られにくく、ハブの耐久性も折り紙付き。完成車付属ホイールからのグレードアップにおすすめの製品。
評価 ★★★★★
購入価格 130000円
長所 -Pros-
- 25~32cのクリンチャー・チューブレスタイヤに対応
防水性の高いハブ→今作は浸水しやすい
短所 -Cons-
- 個性に乏しく平凡な走行感
- 値上げでコストパフォーマンスが大幅に悪化
シクロクロス用にカーボンチューブレスホイールを購入
シクロクロスといえばチューブラータイヤに根強い人気があるが、私は2021-22、2022-23シーズンと、チューブレスをメインに使用している。
ところが、手持ちのホイールはMavic ALLROAD SL(と鉄下駄ホイール)のみ。コースコンディションにあわせてタイヤを選択するにはもう1セットホイールが必要なため、手頃な価格のカーボンチューブレスホイールを1セット購入することにした。
消耗品として使える価格やハブの防水性を考慮して、候補はシマノのホイール3種類
- アルテグラ WH-R8170
- 105 WH-RS710
- GRX WH-RX870
に絞られた。
この中ではWH-RS710が最安値だが、少し重く、Jベンドスポークなどスペック的にも見劣りするため、むしろコストパフォーマンスが悪いと判断して除外。
アルテグラかGRXか、という2択となった。
WH-RX870は、グラベル用コンポ GRXグレードの完組ホイールだ。
オフロードタイヤ装着を前提としたリムは内幅25mmでエアボリュームに富み、タイヤのヨレも抑制できる。
シクロクロス用途としてはベストな選択肢に思える。
しかしこのホイールはシクロクロスの公式レースで使えない。
なぜなら、内幅25mmのリムにシクロクロスタイヤを履かせるとタイヤが太り、「タイヤ幅が33mm以下」というレギュレーションに抵触してしまうからだ。
夏はグラベル、冬はCXと、年間を通して使いやすそうなホイールだったが、レースで使えなければ意味がない。
結局、アルテグラグレードのカーボンホイール WH-R8170-C36-TLを購入したのだった。
ホイールのスペック
用途に応じた3種類のリムハイト
アルテグラのカーボンホイール WH-R8170は
- WH-R8170-C36 (36mm)
- WH-R8170-C50 (50mm)
- WH-R8170-C60 (60mm)
と、3種類のリムハイトがラインナップされている。
リム断面はシマノが「D2リムプロファイル」と呼ぶ形状で、デュラエースのWH-R9270、アルテグラのWH-R8170で形状は共通。メーカーウェブサイトでは以下のように謳われている。
新設計D2リム。リム幅が広く、タイヤ接着面が深い独自のブレード形状により、これまでにないエアロダイナミック性能を実現。0~15°までのヨー角度において、他のエアロ形状リムに比べ空気抵抗の減少を達成しています。また、横剛性が強化され縦方向の追随性が高められたことにより、走行時の操縦性、快適性、さらには耐久性が向上しています。
https://bike.shimano.com/ja-JP/technologies/component/details/d2.html
グラフを見ると、先代(WH-R9100-C40)と比べて斜めから風があたった状態での空気抵抗が大幅に低減されていることが読み取れる。
同じD2リムでも、リムハイトによる空気抵抗差はヨー角が増すほど顕著になる。
ちなみに、時速48km/hで走行時、風速3.5mの横風が吹いていればヨー角が15度。
リムハイトの影響はエアロダイナミクスだけではない。ディープリムほどリム剛性が高まる上、スポークが短くなりホイールは余計に硬くなる。もちろんリムハイトに応じて重量も増していく。
したがって、走るステージだけではなく、体格やパワー、乗り方に応じてリムハイトを選択すべきだ。最もローハイトなC36は踏み出しが軽いが、体重のあるパワーライダーにとっては、ヒルクライム時に剛性不足を感じるかもしれない。逆にC60は、小柄なサイクリストは平地で踏み負ける可能性もある。
なおホイールは前後別売となっているため、フロントがC36、リヤがC50、というような組み合わせもできる。
私の場合、オンロードで使うならC50が適していたと思うが、シクロクロスという競技は凸凹のオフロードで加減速を繰り返すため、踏み出しの軽さと衝撃吸収性に期待してC36を購入した。
リム
C36/C50/C60のリムは、ハイト以外は共通の仕様で、内幅21mm・外幅28mm。
フックビードを備えるクロシェットリムを採用し、最大空気圧は7.5bar。もちろんチューブレスタイヤに対応している。
リムには最初からチューブレステープが貼り付けられている。硬い質感のテープが気泡ひとつなくぴっちり巻かれており、数回タイヤを脱着してもテープのズレや剥がれは起こらなかった。
推奨タイヤ幅は25~32c。28cを中心として上下にワンサイズ、といった想定か。
新ETRTO規格準拠のロードタイヤを履くにはちょうどよいリム幅だ。
チューブレス専用となるフックレスリムを採用したZIPPやENVEと比較するとWH-R8170のリムは保守的な造りだが、おそらくシマノとしては、大多数を占めるクリンチャータイヤユーザーが使うことも想定しているのだろう。尖った設計ではないが、25cクリンチャーから32cチューブレスまでカバーする最大公約数的な設計に思える。
ハブ
ハブは前後ともストレートスポーク仕様。ブレーキローターの台座はセンターロックとなっている。
特に軽量そうには見えないし、ものすごく回転が軽いわけでもない。
しかし、シマノハブの利点は耐久性の高さ。
鉄フリーボディはスプロケットが食い込まないし、伝統的なカップアンドコーンベアリングを保護するシールは防水性に優れ、ノーメンテでシクロクロスシーズンを乗り切れる。
追記:耐久性の高さはシマノハブの大きな魅力だったが、WH-R8170のハブは以前に比べて防水性が低く、いつもの感覚でメンテナンスを怠るとハブ内部がボロボロになってしまう。
CXレース2年間でフロントハブのベアリングボールおよびレースが損傷。ハブ交換と相成った。
スポーク
スポークは2.0-1.6-2.0のバテッドブレードスポークを採用しており、前後とも24H。
前輪は12:12の2クロス 左右タンジェント組。後輪は16:8のいわゆる2:1組でシマノが「オプトパル」と呼称するパターンだ。反フリー側はラジアル組とみなせるが、0.5クロス相当の微妙な角度がついている。
おちょこ量の少ないディスクブレーキホイールの後輪で2:1組にする必要性は疑問だし、16本+αのスポークでブレーキ力を受け止めきれるのかも不安だ。
この構造を採用しているのはデュラエース(WH-R9270)とアルテグラ(WH-R8170)だけで、GRX(WH-RX870)や105(WH-RS710)は後輪もオーソドックスな24Hタンジェント組だ。
重量
各リムハイトで、前後輪それぞれの重量は以下の通り。
ホイール | 前輪 | 後輪 | 合計 |
WH-R8170-C36 | 657g | 831g | 1488g |
WH-R8170-C50 | 698g | 872g | 1570g |
WH-R8170-C60 | 738g | 911g | 1649g |
購入したWH-R8170-C36の実測重量は
- 前輪 695g (公称657g)
- 後輪 858g (公称831g)
- 合計 1553g (公称1488g)
だった。ただし実測重量はチューブレスバルブ(9g)と最初から貼り付けてあるリムテープを含むため、これらを除くと1500gは切りそうだ。
価格
発売時の価格は前後157000円(税込)。コロナ禍や原材料価格上昇でパーツがどんどん高騰していた2021年には割安に感じられた。
しかし2023年現在は為替の影響なんかも受けて大幅に値上げされ、20万円近いプライスタグとなっている。
鈍重な低~中価格帯ディスクロードのグレードアップとして良い選択肢だったが、20万円という価格に見合うホイールかどうかと考えると…仕方ないとはいえ残念なポイントだ。
追記:値上げに値上げを重ね、2024年11月現在、ホイールセット価格は228,617円(税込)に。もはや価格面のメリットは無くなったと言える。
チューブレスタイヤの取り付けとビード上げ
シクロクロス用に買ったホイールなので、タイヤはシクロクロス用のPanaracer CGCX TLCとPanaracer Albitを履かせる。
このタイヤはビードが少し緩く、フロアポンプではリムとの隙間からエアが漏れていたが、チューブレスタンクでエアを一気に送り込むと一発でビードが上がった。
そのまま4ヶ月と少しの間シクロクロスレースで使ったが、空気圧低下も穏やかで特に不具合はなかった。
CXシーズン後は、ロードタイヤに履き替え。今回はPanaracer AGILEST TLR 32cを装着。
こちらは新ETRTO準拠のタイヤのためか、リムとの相性は抜群。ビードに石鹸水をスプレーしてフロアポンプでポンピングすると、すんなりビードが上がった。
気密も良く、シーラント無しで1日放置してもほとんど空気が減っていなかった。そのまま乗るのは流石に怖いので、バルブステムからシーラントを注入したが…
使用感
シクロクロス
Panaracer CGCX TLCを装着し、2022-23シーズンのシクロクロスレースで使用した。
オフロード走行時はタイヤインサート(発泡ポリエチレン)を併用し、空気圧1.5~1.7barで運用。
なお、タイヤインサート使用時は対応バルブを使用する必要がある。一般的なバルブの場合インサートが張り付いて空気が抜けなくなる。
シクロクロスの場合、路面は凸凹でタイヤも大きく変形するため、ホイール自体の掛かりやエアロ性能を評価するのは(私には)難しい。
ホイールは「タイヤを保持する部品」くらいに認識している。
…と断った上で、2021-22 CXシーズンから継続使用しているローハイトアルミホイール Mavic ALLROAD SLと比較する。
ALLROAD SLは、キシリウムのワイドリム版といえる重量1600gの完組ホイール。切削加工で軽量化されたリムは重量430gで、内幅22mm、フックレス形状となっている。
スペック上はWH-R8170のほうがリムが軽い(408gらしい)が、加速の感覚に差は無い。振動吸収性も同レベルに感じる。
空力については体感できないものの、堺浜や桂川のようなスピードコースでは多少は効いているのかもしれない。
個人的に評価しているポイントは、機材としての信頼性。
インサートの恩恵もあるが、低い空気圧でコーナーを攻めてもタイヤがヨレないし、ビードが浮いてエアが抜けることもない。
「タイヤを保持する部品」としての役割をしっかりと果たしている。
また、ハブの耐久性・防水性も特筆すべき点だ。雨のレースも数戦走ったが、ベアリングに浸水はなく回転は至ってスムーズ。このまま来季までノーメンテで走れそう。
ただ、マイアミの砂レース後、リム側面に設けられた小さな水抜き穴から砂が侵入し、シャラシャラ鳴るようになった。塞いでおけばよかった。
ロード
CXシーズン後はタイヤをロードタイヤのAGILEST TLR 32cに交換。シクロクロスやグラベルロードに履かせて、オンロードでテストした。
ロードタイヤで舗装路を走るとホイールの性能が掴めてくる。
剛性
ホイールの「掛かり」はあまり良いとは思えなかった。いつものロード練コースに足を運び、上り坂でアタックを掛けてみるとイマイチ反応が悪い。
体重が70kg近い私のペダリングに、ホイールが負けているように感じられる。ダンシングだけではなくシッティングでも加速が遅れるので、後輪が原因だろうか。
急加速時に反応が若干遅れるだけで、じんわり加速するシチュエーションでは不満は無い。
ただ、普段愛用しているキシリウムカーボンやレーシング1と比べると瞬発力に欠ける。
硬さに定評あるこれらのホイールと比較するのは酷かもしれないが…
剛性に不満を感じるのは、最もリムハイトが低いC36であることが原因かもしれない。
会員制自転車メディア「La route」がリムハイトによる乗り味の差について触れている。
私はシクロクロス用途のため敢えて前後C36を購入したが、体格の良い人がロード競技で使うなら、C36よりも硬いであろうC50やC60を(後輪だけでも)選択したほうが良いかもしれない。
エアロ性能
リムハイトが低いため、空気抵抗の少なさはハッキリ体感できないが、「D2リムプロファイル」の恩恵か、同程度のリムハイトのホイールに比べて横風で煽られにくいと感じた。
今回は32cのタイヤを履いているが、空力的には、リム外幅に等しい28cがベストのはず。機会があれば28cタイヤで走ってみたい。
まとめ:ディスクロード時代のスタンダード
R8100アルテグラと同時にデビューしたこのホイール。普及カーボンホイールとして非常によく出来ていると感じた。
当初は時代遅れと感じた「内幅21mm クロシェットリム」という仕様も、25cのクリンチャータイヤから32cのチューブレスタイヤまでカバーすると考えると理にかなっている。
ワイドなフックレスリムを使いたい人は、そういうホイールを作る尖ったメーカーの製品を買えば良いというスタンスだろう。
方でラインナップは手を抜かず、3種類のリムハイトを用意した。下位モデルのWH-RS710(105グレード)のように、32mm/46mmの2種類に絞るほうがコストダウンできたのに。
おかげでユーザーにとっては、体格や用途、好みに応じて選択できる幅が広がった。
極端に軽いわけでもないが、リムの空力も抜かり無いし、ハブの耐久性は折り紙付き。
「完成車付属品からグレードアップする、ちょっと良いホイール」というポジションを本気で獲りに行ったように感じられる。